ムルダー王太子 8
よろしくお願いします!
仲間の神官を助けたことで、口々に神官たちから感謝されるルリ。
ぼくは、ルリから離れ、ルリに聞こえないように、大神官に、疑問をぶつけてみた。
「ルリが使った異世界の薬で、神官は助かったんだろう? それならば、薬のおかげであって、ルリが聖女とは言えないのではないか?」
ぼくの問いに、大神官の顔が変わった。
「とんでもない! 王太子様、よく考えてみてください。たとえ、異世界の薬の効果であっても、その薬を、この世界に運んでくださったのは、聖女様。しかも、不思議なことに、聖女様が現れた時、聖女様のお持ちの薬を必要としている者が、この神殿にいた。偶然で、そのようなことがありましょうか? 私は確信しました。これは、聖女様であられるという、まさにお印。聖女様は、この世界に来られて早々に、聖女様であることを自ら証明されたのです。その薬を異世界から持って来られ、その薬を、高熱で苦しむ神官に使うと決められたのは聖女様。聖女様なくして、あの神官は助かってはおりません!」
と、一気にまくしたてた大神官。
「そう言われれば…そうかもしれないが…」
勢いに飲まれ、適当に答えるぼく。
が、大神官の勢いは、まだ止まらない。
興奮状態で話しを続けた。
「それに、王太子様もご存じのとおり、この国に、異世界から聖女様が突然現れ、多くの人々を癒したのは、もう、200年以上前のこと。今では伝説と言われ、嘆かわしいことに、その真偽を疑う者までいる。ですが、私は幼少期よりずっと、いつか、聖女様が現れると信じておりました。そして、ついに現れたのです! 大勢の人々の前で、光につつまれて突如現れただけでも、すでに聖女様です! 聖女様でなくて、そのようなことがあり得ますか?!」
「いや、…確かに、…ないだろうね…」
「つまり、ルリ様は、間違いなく聖女様でいらっしゃいます!」
と、大神官が、語気を荒げて言い放った。
なんだか、わかったような、わからないような話だが、聖女を崇拝している大神官に、聖女のことをうっかり聞いてはいけないということだけは、心に刻んだ。
神殿から戻ると、クリスティーヌが、面会を求めてきた。
すぐに了承し、クリスティーヌを執務室に招き入れる。
現れたクリスティーヌを見て、少し驚いた。
というのも、やけに、心配そうな顔をしているからだ。
「クリスティーヌ、何か用?」
と、聞いてみる。
「ムルダー様は、聖女様のところに様子を見に行かれてると聞きました。聖女様はいかがお過ごしですか…?」
と、憂いを含んだ瞳で、ぼくに聞いてきた。
ああ、そうか…。
優しいクリスティーヌのことだから、ルリのことを心配しているんだね?
そう思って、ルリのことをクリスティーヌに細かく説明しはじめた。
もちろん、今日の奇跡のことも…。
「あの…ムルダー様。また、ルリ様のところに、行かれるのですか…?」
クリスティーヌの声が、少し震えている。
「うん、明日も行く」
そう言った瞬間、クリスティーヌが思いつめたような顔をした。
見たことのないクリスティーヌの表情。
もしかして、ルリのところに行ってほしくないのか…?!
ぼくは、クリスティーヌの気持ちを確認するため、言葉を重ねた。
「ルリは、ぼくが行くと喜ぶんだ」
「そうですか…」
微笑みをたたえたまま、悲しそうにつぶやいたクリスティーヌ。
やっぱり、クリスティーヌは嫉妬してる!
そう気がついたとたん、ぼくは喜びで体が震えた。
それからは、毎日、クリスティーヌにルリのことを報告するようになった。
その都度、なんとも言えない悲しそうな表情をするクリスティーヌ。
完璧なクリスティーヌが、ぼくを思って悲しむ…。
その様子が、たまらなく、うれしい。
そんなある日、たまりかねたように、クリスティーヌがぼくに言った。
「王太子様であるムルダー様が、毎日、様子を見に行かれなくてもいいのではないでしょうか…?」
「ルリはね、ぼくがいると安心するんだって。クリスティーヌと同じ年だけど、クリスティーヌと違って、かよわいから。ぼくが守ってあげないと。たった一人で知らない世界にきたんだ。心細いだろう?」
そう言って、ぼくは、ことさら笑顔を見せた。
「そうですね」
そう言って、こわばった顔で微笑んだクリスティーヌ。
その瞬間、美しい紫色の瞳に涙が光った。
そして、その涙に、ぼくは歓喜した。
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