ムルダー王太子 5
よろしくお願いします!
今日は、ぼくの17歳の誕生日を祝うパーティーだ。
毎年のように、王宮の広間には大勢の貴族たちが集まっている。
そんななか、いつも以上に、目立っているクリスティーヌ。
というのも、ぼくが贈った華やかなブルーのドレスを着ているから。
もちろん、ぼくの瞳の色だ。
輝く銀色の髪に似合い、はっとするほど美しい。
多くの貴族の男たちが、クリスティーヌの姿に目を奪われていた。
その様子に、優越感のようなものがわいてくる。
だれもが憧れるクリスティーヌは、ぼくだけを愛している。
ぼくだけのクリスティーヌだってね。
が、ふと、国王の後方、目立たないところで控えている赤い髪の騎士が見えた。
ライアンだ…。
国王を警護するため、あたりを警戒するように見ているライアン。
だが、緑色の瞳が、一瞬だけ、クリスティーヌを捕らえた。
その瞬間、冷徹な目に熱がこもったように思えた。
ぼくの、高揚していた気持ちは一気に冷える。
かわりに、真っ黒い怒りがわいてきた。
ぼくのクリスティーヌを見るな!
ライアンだけは、ぼくのクリスティーヌを見ることを許さない!
ぼくは、ライアンの視線から遮るように、クリスティーヌの隣に立った。
その時だ。
いきなり、あたりが明るくなった。
広間の中央で、まぶしいほどの光がとびちっている。
なんだ、あの光は…?!
だれもが動けないなか、真っ赤な髪が、真っ先に、国王の前にかばうように立ったのが、目の端に入った。
それを見たのか、ぼくの護衛騎士たちも、あわてて、ぼくを守るように、そばに立つ。
すると、光の中から、一人の少女が現れた。
華奢な少女は、驚くことに髪も瞳の色も真っ黒だ。
この国では、見たことがない。
しかも、なんだ、あの服は?
変な形をした、丈の短い衣服を着ている。
その下に、投げ出された細い足。
この国で、足が見えるほど短い衣服を着る女性なんていない。
一体、この少女はどこから来たんだ?!
大勢の人たちが息をのんで、少女を観察している。
その視線に気づいた少女は、怯えたような顔で震えはじめた。
目があった。
涙でうるんだ漆黒の瞳が、すがるようにぼくを見つめてくる。
まるで、ぼくだけが味方のように。
その瞬間、なんともいえない喜びがわきあがってきた。
なんだ、この気持ちは…?
「これは、異世界からの聖女様ですな」
と、近くで大神官の声がした。
まわりが、一気にざわつきだす。
が、ぼくにとったらどうでもいい。
それより、少女から目が離せない。
少女のほうも、ぼくを必死に見つめてくる。
と、少女の漆黒の瞳から、涙がこぼれおちた。
頼りなくて、愛らしいな…。
クリスティーヌは、どれだけ辛くても泣かない。
出会ったばかりの幼い頃は、王太子妃教育が辛くて泣いていたけれど、すぐに泣かなくなった。
クリスティーヌは強い。
それに比べて、この少女は、なんて、かよわいんだ。
ぼくがいないと死んでしまう…。
そう思ったとたん、自然と、口の端があがった。
ああ、ぼくが、この子を守らないといけないな…。
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