ラナから花へ 19
春さんの要望で、またもや、コーヒーを淹れるために、キッチンにたった森野君。
その間、春さんは、私に質問をしながら、ものすごいスピードでノートに何かを書き続けている。
「花ちゃん。私の名刺以外に、花ちゃんと一緒に時間を戻ってきたものはなかったの?」
「多分、ないです。私はあまり物を買わないから、時間が戻っても、ぱっと見た感じ部屋にある物は変わっていなかったんです。だから、確実に、時間が戻る前の1年間で手に入れたものを探してみました。でも、名刺以外は、何もみつかりませんでした」
「そうかあ……。でも、なんで、私の名刺だけ時間を戻ったんだろう……? 気になるわね……」
「そういえば、この名刺に気が付いたのは、うっすらと光っているのが目に入ったからでした。本棚にある本と本の間に名刺をはさんでいたんです。そこから光がもれていました」
「光ねえ……。そういえば、時間が戻る直前、異世界のクリスティーヌさんの入った体が光につつまれて消えたんだったわよね。しかも、その同じ光でつつまれた花ちゃんもまた、時をこえて、この時間軸に戻ってきた……」
春さんは、ノートに何かを書きながら、色々考えをめぐらせているよう。
「ちなみに、名刺が見つかった、その本と本の間っていうのは、もともと、そこに置いてあったの? それとも、全然違う場所から見つかったの?」
「え……?」
「あ、ほら。名刺を保管するのには、なんか少し変わった場所だなあと思って。花ちゃんが、もともと名刺を置いていた場所とは違うところだったのかなって思ったの」
「あ、それは、もともとなんです」
「えっ? そうなの? 本と本の間って、なんだか、隠すような場所に置いていたのね……」
春さんが手をとめて、私を不思議そうに見た。
「大事な物は、いつも本と本の間にはさんでいたんです。ルリが興味をもたないのは本棚だから」
私の物を色々欲しがったルリだけれど、本にはまるで興味がなかったから、本棚だけは安全だった。
「ああ、そういうことか……。人の物を奪って、自分の物にしたところで、心が満たされるわけでもないのにね……。でも、まあ、それを繰り返していたから、今、あんな状況なわけか……。なんだか哀れね……」
「春さん、同情する必要なんてない。自業自得だ」
淹れたてのコーヒーを春さんの前に置きながら、森野君が冷たい声で言った。
「そりゃあ、そうなんだけどね……って、こら、守。怖い顔になってるわよ? ほんと、みっちゃんの敵について語るときの兄さんを思い出すわね」
そう言って、朗らかに笑った春さん。
春さんが笑うと、一気に空気が和む。やっぱり春みたいな人だな……。
しみじみと、そう思ったら、うぐいす餅が食べたくなった。
今度、春さんに会う時は、お土産に買ってこよう。
ちょうど、大学近くの和菓子屋さんで売っている時期だと思うから。
そんな楽しい未来を想像しながら、私は春の陽気のように、あたたかな心地よさをかみしめていた。
その時、着信音が鳴り始めた。
私のバッグから鳴っている。
そう気づいた瞬間、あたたかな心地よさが、一瞬にして、私の心から、かき消えていった。




