ラナから花へ 17
「花ちゃん、ありがとう! 私に話を聞かせてくれて……。なんだか、胸がいっぱいになっちゃって……。ありきたりの言葉しかでてこないんだけれど、大変だったわね……。本当に、よく頑張った! すごいわ、花ちゃん!」
話し終えた私に、そう声をかけてくれた春さん。
「春さん、私のほうこそ、ありがとうございます……。会ったばかりなのに、私の長い話をしっかりと聞いてくださって、まるごと受け止めてくださって……。本当に本当に……嬉しかったです!」
と、心をこめてお礼を言った。
「はああああ~、なんていい子なの、花ちゃんは! ねえ、守!」
「知ってる」
森野君が間髪入れずに答えた。
「花ちゃん。なにがあっても、絶対に、私は花ちゃんの味方だからね!」
「俺もだ」
と、森野君。
「それと、これから、私は花ちゃんを甘やかす! 甘やかしたい!」
「俺もだ」
と、合いの手のように答える森野君。
ふたりの大きな優しさに、感謝の気持ちがどんどんあふれだしてくるけれど、うまく言葉にできない。
結局、心の奥から、とびだしてきた言葉は、ごくごくシンプルな言葉だった。
「本当に、本当に……ありがとうございます……。私は、ふたりに出会えて、とても幸せです……」
「俺もだ、花」
破顔した森野君。その笑顔がまぶしくて、ドキッとする。
「もちろん、私もよ! 花ちゃんに出会えてよかったわ!」
と、春さんの明るい声が響いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、また、春さんは仕事部屋に行き、今度はすぐに戻ってきた。
手にはノートを持っている。
「私はね、ノートに書きながら、いろいろ考える癖があるの。それで、さっき聞いた花ちゃんの話も、ノートに書きとめつつ、頭の中を整理したいんだけれど、今、聞かせてもらった話をノートに書いてもいいかな……? あ、もちろん、このノートを絶対に誰にも見せないことを誓うわ。万が一、このノートがだれかに見られたとしても、花ちゃんとはわからないように、名前も書かない。なんなら、私が考案した暗号を使ってもいい。……でも、やっぱり、花ちゃんが気になるというのなら紙に書くのはやめる。どうかしら……?」
と、春さんが真剣な顔で確認してきた。
私からすれば、自由にしてもらってもいいことなのに、丁寧に、私の気持ちを確認してくれる春さん。
そういうところが森野君に似ているなって思ったら、思わず、笑みがこぼれた。
「お気遣いいただいて、ありがとうございます。春さんなら、何を書いてくださっても大丈夫です」
私が答えたすぐ後に、森野君が言った。
「春さん、暗号って……いらないだろう? 春さんって、よく、ノートへ何かを書いているから、気になってのぞいたことがあったんだけど、文字が、すでに暗号みたいだった」
「はあ……!? そこまで、読めない字じゃないわよ!? 忘れないうちに、アイデアとか、気になったことを書きとめるから、かなり走り書きはしているけどね」
と、不満げに反論する春さん。
「いや、走り書きだとか、殴り書きだとかっていうレベルをはるかに超えて、未知の文字だった。正直、まるで読めなかったし。だから、春さん以外は解読できないノートだって、俺が保証する。誰かに読まれる心配はないからな、花」
森野君は私に向かって、優しい口調で言った。
と思ったら、今度は、春さんに向き直った。
そして、がらっと口調をかえて、真顔で言った。
「あ、でも、春さん。花のことを小説のネタにするのはナシだから」
「わかってるわ……。それより、今の守、こわかったわよ……。花ちゃんに対する態度と、私への態度のすごい変わりようにびっくりしたんだけど……。普段は、まるっと隠している腹黒さが駄々洩れていたわね。そういうところ、兄さんにそっくりだわ……」
「兄さん……?」




