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(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。  作者: 水無月 あん
番外編

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ラナから花へ 16

「ちょっと、守! 私が今から説明していこうと思ったのに、なんで、先に全部しゃべるのよー。まあ、でも、守の言った通りのことを私も考えたわけ。

私は守と花ちゃんのふたりだから、時間を戻ったといわれても、そのまま信じられた。でも、もしも、他の人だったら、花ちゃんが嘘をついていると考えるかもしれない。そうしたら、この名刺を見せられても、証拠にはならないかもって思ったの。守がさっき言った可能性があるからね。

でも、安心して、花ちゃん。もしも、誰かに説明しないといけない時がきたら、その名刺とセットで私も出動するから! そして、名刺の色のことをきっちり説明するわ!」


「あ……はい、ありがとうございます」


そんな状況ってこないんじゃ……と、また、内心思ったけれど、私のために、そこまで言ってくれる気持ちが嬉しい。


「それにしても、守がさっき言った、名刺の色の変更のくだりが、これまた、悔しいくらいに当たってるのよね。 そう、守は、よーく知ってるんだけど、あのね、花ちゃん……」


そう言って、春さんが私を見た。


「私って、こう見えて、筋金入りの出不精なの」


そう言えば、森野君もそう言っていた。

私はうなずいて、春さんの次の言葉を待つ。


「だから、名刺を使う機会もあんまりなくて、減らないのよ。それで、ものすごーく久しぶりに名刺を注文したら、私が使っていた薄い緑色の紙が、すでに生産終了になってたの。『似たような色はあるんですが、少し緑色が濃いんです。それでもいいですか?』って、名刺屋さんが心配そうに聞いてきたけど、それくらいの違いなんて、私にとったら全く問題なし。だって、私の希望は、『うぐいす餅』っぽい色だったら、なんでもいいんだから」


「は? うぐいす餅……? なんで、そこで和菓子なんだ?」

と、森野君が不思議そうにつぶやいた。


「多分、うぐいす餅は春を告げる和菓子だからじゃないかな。春さんにぴったりの和菓子だと思う……」


私が思ったことをそのまま口にすると、春さんが「きゃっ!」と喜んだ声をあげた。


「そうなのよ、花ちゃん! わかってくれるのね! そう、私、うぐいす餅を食べると、春がきたな、私の季節だなーって思えるから、大好きなのよね!」


すると、森野君が笑いながら言った。


「なんだ、春さん。あんこがあれほど特別だって言ってたのに、他の和菓子の色にして、自分の名刺をあんこ色にはしないんだ?」


え……? あんこ色……? 


なんだか、不思議な響きだね……と、戸惑っていると、春さんが森野君に向かって不敵な笑みを浮かべた。


「フフフ……、考えが甘いわね、守! あんこを愛する私が、あんこをないがしろにするとでも思った!? 

あのね。うぐいす餅の中身には、しっかりあんこが入っているの。つまり、外側は、うぐいす粉というきな粉をまぶしているから、緑色の『春』をまとっているけれど、その中身はあんこ。つまり、魂はあんこなのよ! まさに、理想よね! 私の名刺にぴったりの色のチョイスでしょう? 

うぐいす餅の内なるあんこの存在に気づけないなんて、さては、守! まだ、うぐいす餅を食べたことがないんでしょう!? わかった。今度、沢山買ってきて、ごちそうするわね」


「いや、それはいい……。それより、魂があんこって、なんだ? それが理想って、おかしいだろう……。そもそも、人間じゃないし。春さんが何を言ってるのか、全然、わからないんだけど……。花はどう思う?」


森野君が真顔で、私に聞いてきた。


その途端、もう、がまんができなくなって、私は声をあげて笑い出した。


結局、笑いが止まらなくて、涙がでるほど、笑ってしまった私。


「ごめんなさい……。ふたりの会話があまりに楽しくて……。こんなに笑ったことって、今までなかったんですが……」


「いっぱい笑えたのなら、良かったわ、花ちゃん!」


優しい眼差しでそう言いながら、春さんがティッシュを差し出してくれた。

森野君も隣で、うなずいている。


春さんと森野君、ふたりの前では、自分でも驚くほど、いろんな感情がふきだしてしまう。


そのたびに、体も心も軽くなっていくような気がした。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



その後、私は、改めて、ルリの事件後のこと、そう、時間が戻る前の1年間のことを春さんに話し始めた。


ルリの体に入ったクリスティーヌさんのこと、お父様のこと、お母様のこと、リュウのこと、遠野さんのこと、そして、異世界と思われる人の声のことや、あの不思議な剣のこと……。


春さんに、できるだけ詳しく、私が体験したことを伝えたい。

そう思えば思うほど、どんどん話が複雑になってくる。


もともと話すことが得意ではない私。


言葉を探して戸惑ったり、なんて言っていいかわからなくなって、焦ったり、話が前後して、混乱してしまったり、ちっとも上手に話せない……。


すると、すでに、私の話を知っている森野君が、私が戸惑っていると一緒に言葉を探してくれたり、私が焦っていると、優しく落ち着かせてくれたり、話す内容が前後してしまい、私が混乱してしまったら、頭の整理ができるように、手助けしてくれたり……と、まるで、私と一緒に話してくれているかのように常に寄り添ってくれた。


そして、春さんは、そんな私と森野君を楽しそうに見つめながらも、話を聞く時は、ほとんど口を挟まず、一言も聞き逃さないと言った集中力で、全身で私の話を聞いてくれている。


そんなふたりの気持ちが嬉しくて嬉しくて嬉しくて、たまらない……。

私は話をしながら、何度も何度も胸が熱くなった。



そして、どれだけ時間がかかったんだろう……。


やっと、時間が戻る直前に話がさしかかった。


クリスティーヌさんを元の世界に戻すため、あの剣で刺すことを決意したこと。

そして、刺したこと……。


その時のことを、私の色々な思いとともに、一生懸命、話していると、春さんが涙を流し始めた。

それでも、春さんは、私から、一瞬たりとも心をそらすことなく、一心に話を聞いてくれている。


その姿に励まされ、残りあと少し、時間が戻ったその瞬間までの話を続けた。


クリスティーヌさんを刺した後に、光が舞い始め、クリスティーヌさんの体が消えていったこと。

そして、その光の粒が私の体をも取り囲み、自分の体も透けていきはじめたこと。


その時、あの不思議な声で(ありがとう! これで、歪んだ時は消えた。次は君の番だ。私から君に最大の加護を。自由に生きるんだ、ハナ……)と、聞こえてきたこと。


そして、意識がとだえ、次に気がついた時は病院で、ルリの事件が起きた日に戻っていたことまでを話し終えた。



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