ラナから花へ 15
「そうなの、色なの! どちらの名刺も同じような薄い緑色だけれど、並べてみれば、あきらかに色が違うでしょう? 花ちゃんの持ってきた名刺のほうが色が少し濃いわよね。
……ということで、ここでふたりに見てほしい物があるのよ。といっても、私もまだ見ていないの。
数日前に郵便で届いてはいたんだけれど、急ぎじゃないから、後で見ようと思いつつ、すっかり忘れてしまってて、机の上で埋もれてたの……。じゃあ、今から開けてみるわね……」
そう言いながら、春さんは手にもっていた小包をテーブルに置き、びりびりと音をたてて、大胆に破りはじめた。
「春さん……、乱暴すぎるだろう。はさみを使えばいいのに……」
あきれたように言った森野君。
「はさみより、私の手の方が断然早いわ! はさみ入らずの私の手の威力をご覧あれ!」
「いや……、それ、自慢することか?」
「することよ! 自慢しまくりよ!」
なんて、森野君に言い返しながらも、すでに小包を開き終えた春さん。
中身を取り出し、丁寧に巻かれた緩衝材を素早くとりのぞくと、小さな箱が現れた。
そして、箱のふたをかぱっとあけた。
春さんが箱の中からとりだしたものは……えっ?
もしや、また、名刺……?
しかも、見覚えのある、薄い緑色の紙を手に持っている。
「……なるほど、やっぱりね……。ほら、ふたりとも、見てて!」
春さんは興奮気味に声をあげると、箱からとりだしたばかりの名刺を、先においた2枚の名刺の真ん中に置いた。
あっ……!
私と一緒に時を戻ってきた名刺と、今、箱からだした名刺の色が同じだ……。
森野君が3枚の名刺を見比べながら、ひとつひとつ確認するように、考えを口にし始めた。
「今、真ん中に置いた名刺は、春さんが、机で遭難していた郵便を見つけてきて、今、封筒から取り出したばかりだ。つまり、この時点ではまだ使っていなくて、これから使う予定の新しい名刺か……。
そして、今、春さんが使っている名刺とはあきらかに色味が違っている。
おおざっぱな春さんのことだから、名刺のこんな微妙な色味の変更は指示しないだろう。おそらく、以前の紙が生産終了になったから、色が変わったとかそういう理由なんだろうな……。まあ、その理由は、この際、どうでもいいけど……。
それより、今、郵便からだしたばかりの新しい名刺と、全く同じ名刺を、花が持っていたってところが重要だな。
本来なら、まだ封筒からだしてもいない、当然、誰にも配っていない名刺を花が持っているはずがない。
つまり、時間が戻る前、別の時間軸では、新しい名刺が春さんの手元に届いたのち、俺が春さんに花のことを頼み、新しい名刺を預かった。それを花に渡した。
そして、名刺は花と一緒に時空を超えて、ここにある……。そうでなければ、ここに、存在すること自体ありえない名刺だ。ということで、紛れもなく、この名刺が時間を戻ったという完璧な証拠になるよな……。
例えばだが、この先、誰かに、時間が戻ったことを名刺を証拠にして伝えないといけない状況がきたとする。相手が、俺や花の言うことを信じられない人間だった時、春さんの名刺を、花が、俺以外から先に手に入れていたという可能性を言うかもしれない。それなら、俺と春さんが知らなくても、持っていた可能性があるから証拠にはならない、なんて言いだす可能性を完全につぶせる。証拠として突きつける時、威力が増すってことか……」
森野君はそこまで言うと、意味ありげに微笑んだ。
あの、森野君……?
ちょっと、また、なんか違う雰囲気が流れ出してるよ……。
それに、そんな状況って、こないんじゃない……?




