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(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。  作者: 水無月 あん
番外編

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ラナから花へ 14

「じゃあ、花が話す前に、まずは俺からひとこと言わせてもらう。その名刺を春さんから預かって、花に渡したのは俺だからな。といっても、今の俺じゃなくて、未来の俺……。いや、違うな……。別の時空……というか、とにかく、花が時間を戻る前の世界の俺なんだけど。

まず、そこでは俺は留学した。今の俺からしても、それは、近い未来としてあり得る。というか、実際、もうすぐ留学する予定だってこと、春さんも知ってるだろう?

さっき、春さんに花が話したなかにもあったように、一緒に留学をするよう、俺がすすめていた。あのクソ母親とクソ妹から離れたほうがいいと思ったから。

花もその気になってくれたところで、クソ妹の事件が起きた。時間が巻き戻る前の花は、クソ妹の事件の翌日に、俺に電話をかけてきて、留学を断った。つまり、時間が戻る前の時間軸なら、まさに今日ってことになるよな……。

といっても、その時とは、花の行動もまわりの行動もかわってきているから、比べることはできないんだが。とにかく、その時の俺は、花の断りをすんなり受け入れて、その後、自分だけ留学したんだ……。

それを聞いた時は、その別の時空の自分にめちゃくちゃ腹が立った。なんで、花をそのままにして、自分だけ、のんきに留学したんだってな……。

でも、何かあったときに逃げられるように、春さんに話を通していたことだけはましだったけど、俺のつめが甘いのは間違いない。

だって、花の性格だと切羽詰まっても、絶対に迷惑をかけたくないからって、なかなか連絡しなさそうだし。

春さんの名刺を『お守り』だなんて、かっこつけて渡してる場合じゃないだろう、俺って……。その時の俺を叱りつけてやりたい。名刺を渡すより、もっと、踏み込んだ行動がとれたはずなのに……。

例えば、留学前に、無理やりにでも春さんにあわせて、頼んでおくことだってできたはずなんだ。というか、そもそも、俺は留学に行ってる場合じゃなかった! 

と、まあ、そんな感じで、時間が戻る前の俺の行動へ、今の俺の怒りがうずまいている名刺なんだ、それは……。だから、俺の気持ちをぶちまけておきたくなって……。意味、わかった、春さん?」


「はあ……? いやいや、なに、その説明!? そんなんで、わかるわけないわよね!? というか、守の変な説明で、余計に頭の中がこんがらがってきたんだけど!? ほんと、思考が全く追いつかない……。こんな時は脳に栄養が必要だわ……。そう、やっぱり、あんこよね!……早く補給せねば……」


そう言いながら、お皿からあんぱんをとって、かぶりついた春さん。

すごい勢いで食べながら、片手で持ったままの名刺に鋭い視線を向けている。


が、はたと動きが止まり「あーっ!」と、叫んだ。


「どうした、春さん?」

と、森野君が聞く。


「この名刺……。そうだ……!? ちょっと、仕事部屋にいってくる! ふたりとも、待ってて!」


春さんは残りのパンを口に詰め込んだあと、席をたち、猛スピードでダイニングキッチンから飛び出していった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「仕事部屋ってすぐそこなのに、遅いな、春さん……。花、疲れてない?」

と、気遣うように聞いてきた森野君。


「うん、全然、大丈夫。というか、ふたりにいっぱい聞いてもらって、楽になった感じ」


「なら、良かった。でも、これから、花は時間が戻る前の話が残ってるし、無理はするな……。あ、そうだ。俺、コーヒーのおかわりを淹れてくる。コーヒーを淹れるの、俺、ちょっと得意なんだ」


「ありがとう。コーヒー、好きだから、嬉しい」


私がそう答えると、笑みを深めた森野君。


「ずっと気が張ってただろう。ゆっくりしてて、花」


そう言って、森野君はキッチンにたった。

勝手しったる様子で、手際よく、お湯をわかしたり、ペーパーフィルターをセットしたりしている。


キッチンで森野君が動く音を聞いていると、だんだん、忙しかった頭の中が静かになってくる。

気がついたら、ぼんやりしていた私。


時間が戻る前から、いろんなことがありすぎて、色々考えて、考えて、考えてばかりだったから……。

思考がとまり、ぼんやりできたことが、すごく心地いい。



そして、コーヒーのいい香りがしてきた。

ふと、思った。今、私、すごい幸せだなって……。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



森野君が淹れてくれた美味しいコーヒーを飲みながら、まったりしていると、春さんが戻ってきた。


「ごめん、ごめん! 遅くなって! ちょっと、仕事がたてこんでたから、机の上がいっぱいで……。そこから、目当ての郵便物を探していたら、遅くなったんだよね……」


「仕事関係なく、春さんの机の上がいっぱいじゃない時って、ないんじゃない?」


森野君が少し笑いながら言った。


「失礼ね! あるわよ……。年に……数回くらいはね。それより、ふたりとも、これを見て!」


そう言って、テーブルに春さんは名刺をだしてきた。


「これは、さっき渡された名刺じゃなくて、今、私が使っている名刺なの。……どう思う?」


「森野 春」という名前と電話番号だけが書かれた、うす緑色の名刺。

私と一緒に時を戻ってきた春さんの名刺と全く同じに見える。


「どうって……、どうみても同じだろ?」


私が思ったことと同じことを答えた森野君。


「なら、こうしたら、どう?」


そう言うと、春さんは、もう一枚の名刺を隣に並べた。


「こっちが、花ちゃんと一緒に時を戻ってきた名刺。並べてみたら、わかるでしょう? 違いが……」


「「あ、色!」」


私と森野君の声が重なった。


そう、ふたつの名刺を並べると、色が違う。

どちらもうすい緑色だけれど、その濃さが異なっていた。



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