ラナから花へ 11
二人を見つめていると、私の疑問を察した春さんが説明してくれた。
「みっちゃんっていうのは、守の母親よ。私にとったら兄のお嫁さんになるんだけれど、もともと私の幼馴染で自慢の親友なの。
一見、すっとした美人で、おしとやかに見えるけれど、中身は全然違っていてね……。心の芯が熱くて、なんというか、パワフルな人なのよね。そのみっちゃんなんだけど、小さい頃から、守のことで、ずっと心配していることがあるの」
「森野君を心配……? なんでも出来て、こんなにしっかりしているのにですか?」
私から見たら完璧に見える森野君。
あまりに意外な感じがして、思わず、私は聞き返した。
「だからかな」
「え?」
「花ちゃんの言うように守はしっかりしてる。というか、小さい頃から、しっかりしすぎているぐらいだったわ。なんでもできて、わがままも言わない。会社のパーティーなんかでは、外面もいいから、いつだって、みんなに褒められている子どもだった」
「ちょっと、春さん。外面って……」
森野君が不満げに口を挟んだ。
「でも、そうでしょ? 表面的には笑っていても、心はいつだって冷静で、観察するようにまわりを見ていたもの。だから、みっちゃんがすごく心配していたのよね。守がちっとも楽しそうじゃないって……。なんでもできるけれど、何に対しても情熱を感じないってね。
あげくのはてには、もしかして、私が、あの子の分の情熱運まで使ってるんじゃないかしらって言いだして……。私にしたら、情熱運ってなに? 金運とか恋愛運とかみたいに、情熱運って、あるの? って感じなんだけど、みっちゃんは、自分の情熱運とやらを守にわけようと真剣に考えてたわね……。
でも、そんなことをしなくても、ちゃーんと情熱ってでてくるものなのね……フフフ。
花ちゃんのことで必死になって、喜怒哀楽をだしまくる守を見たら、みっちゃん、ものすごく喜ぶと思うのよねえ。ああ、見せてあげたいなあ……! ねえ、守。やっぱり、みっちゃんにも花ちゃんを紹介しない!?」
「だから、春さん、それはまだダメだって……。面倒なことになりそうな予感しかしない……。それに、母さんはパワフルというより、暴風みたいな感じだろう? 俺が淡々として見えたのは、母さんが先に突っ走るから、傍で見ていたら、余計に冷静になっただけだし……」
え、お母様が暴風って……?
びっくりした顔をした私に、春さんがあわてて言った。
「あ、花ちゃん。怖がらなくても、大丈夫だよ! みっちゃんは、全然怖くないのよ。それどころか、ものすごくいい人なの! ただ、正義感が強すぎて、心に火がともると、ちょっと、暴走することがあるだけで……。たぶん、花ちゃんのことを知ったら……、うん、そうね……黙ってはいられないと思う。なにより、守の大事なお友達だしね。みっちゃんにとったら、大事な人の大事な人は自分の大事な人、みたいに思う人だから。ただ、そうなると、みっちゃんが花ちゃんを思って、何をしでかすのか予想がつかないのよね……」
「なにより、俺が心配なのは、花がうざったく思えるほど、構いたおそうとするかもしれないってことだ。絶対、花に迷惑をかけそうだから、知られたくない……」
森野君が渋い顔で言うと、春さんが大きくうなずいた。
「確かに、それは、おおいにあり得るわね……。みっちゃんのことだから、花ちゃんを知れば、庇護欲全開になりそうよね。気持ちが先走って、暴走しがちだし……。でも、隠していても、いずれバレるだろうけど……。あのね、花ちゃん……。一応、忠告しておくと、みっちゃんに知られたら、気をしっかりもってなさいね。
ぼーっとしていると、みっちゃんの勢いにのまれて、気が付いたら、『あれ、私は、なんで、ウエディングドレスを着ているんだろう?』みたいな感じになるかもしれないからね?」
そう言って、春さんが意味ありげに笑った。
え? なんで、いきなり、ウエディングドレス……?
それって、どんな状況なの……?
「あ……、そう言えば、私、森野君のお母様に、以前、会ったというか、お見かけしたことがありました……」
と、突然、思い出した私。
「え? それは、いつ?」
春さんが好奇心いっぱいといった感じで、聞いてきた。
「高校生の時です。家族で参加した、お父様の会社関係のパーティーで、森野君のご家族に、お会いしたことがあったんです……」
あの時は、森野君の容姿を見て、一目で気に入ってしまったルリが、失礼なほど、すりよっていくものだから、気が気じゃなかったのよね……。
だから、森野君のお母様をしっかり見たわけではないんだけれど、確か、すらりとして、きれいな方だったような気がする。
ただ、うっすらとした記憶をいくら掘り起こしても、とても、暴風とか暴走とかといった言葉が、結びつくような感じの方だとは思えないのよね……。
「ああ、あのパーティーの時か……! あの時、初めて、クソ妹を見たけど、想像を超えて最悪だったよな……」
顔をしかめて、嫌そうに言った森野君。
「へええ……。一体、何があったの?」
春さんが興味深そうに聞いてきた。




