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(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。  作者: 水無月 あん
番外編

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ラナから花へ 7

森野君と話をしていると、あっという間に時間がすぎる。

気が付けば、もう3時間もたっていて、びっくりしてしまった。


この間に、森野君は叔母様にメールをしてくれていた。


叔母様からは、「午後なら何時でもいいけれど、込み入ってそうだからゆっくり話が聞きたい。早めにおいで」とお返事をいただいたよう。

なので、明日、午後1時にお伺いすることになった。


遅くなったからと、森野君が家の前まで送ってくれ、家にたどり着いた時には夜の11時を過ぎていた。


こんな時間に帰ってくることなんて一度もなかったから、知らない家に入るみたい……。


明かりも消えて、静まり返った家。


時間が戻る前と同様に、お父様はまだ帰ってはいない様子。

しゃべらなくていいと思うと、なんだか、ほっとした。


疲れ切った頭で、円徳寺を離れると決めた私が、お父様にどんな顔で話をしたらいいのかわからないから。


いろいろあった、長い一日。

とにかく、今晩はゆっくりやすみたい……。



なんて思ったけれど、結局、色々考えて、考えて、考えて……全く眠れなかった。

なのに、いい考えは浮かばない。どう動けばいいのかも、よくわからない。


だから、迷ったときは「花として生きる」、それを軸にして、行動しようとだけ決意した。


朝、ルリの入院に必要なものを、病院から渡されたリストをもとに荷造りをした。

この荷物を病院へ届けたあと、私は大学へ行く。

一年前にはしなかったことだ。


というのも、時間が戻る前は、ルリの事件以降、私は大学を休み、ただただ病院にずっといた。

ラナとしてルリを優先するのは当然だと思っていたから。自分のことは考えてもいなかった。


結局、私が大学を休んで病院に来ていることを知ったクリスティーヌさんが、お母様に私に大学へ行ってほしいと進言してくれた。

それで、お母様の許可がでて、また、大学へ通い始めたけれど、ルリの事件から十日はたっていたのよね。


でも、今回は大学を休むのをやめる。

極力、病院へは行かないために。


森野君も大学へ通うことにしておいたほうが、詮索されずに自由に動けるから、絶対にいいと賛同してくれた。


「それに、今は、あの妹が目を覚ましていない。あの母親のことだ。どうせ、まわりにあたり散らかすだろう? 口を開けば、花を傷つけることしか言わなさそうだ。できるだけ、会わないようにしたほうがいい」


苦々しい口調で言い切った森野君。


あ、確かに……。

一年前、お母様の状態は森野君のいう通りだったわ。


ルリが目をさまさなかった一週間、お母様は、私だけでなく、お父様にもきつい物言いばかりをしていた。

常にルリに寄り添い、まわりを威嚇するように攻撃的だったお母様。


あの時、お母様に言われた言葉は、今もはっきりと思い出せる。


「なんで、あなたじゃなくて、ルリなのよ!? 私の娘はルリだけなのに!」


そう、叫んだ声が耳に残っている……。


お父様は「お母さんは、今は正常じゃない」と、あわてたように言ったけれど、あれは間違いなくお母様の本心だった。


ラナとしてがんばってきたけれど、お母様に娘と認めてもらえていなかったんだと、深く傷ついたあの日。

でも、今は思い出しても、不思議なほど心は痛まない。


私の心がラナから離れたからなのか、自分であって自分に起きたことじゃないように、俯瞰して考えられる。


でも、お母様を目の前にして、直に言葉を投げつけられると、また、傷ついてしまうかもしれない……。

森野君の言う通り、できるだけ、会わないようにしよう。


と、そこへお父様が起きてきた。


「お父様、おはようございます。朝食は?」

と、声をかけた。


「いや、いい。ぬけられない仕事があってな。今からすぐに会社に向かう。ラナ、悪いが、ルリの入院の荷物を病院へ届けておいて欲しい」


疲れ切った様子で、そう言ったお父様。


「はい、わかりました。……あの、お父様。じゃあ、これだけでも飲んでいって。さっき、コンビニで買ってきたから」


そう言って、栄養ドリンクを差し出した。


今朝、ルリの荷物をしていて、足りないものを補充するため、コンビニに買い物に行った私。

ふと、お父様の顔を思い出して、カゴに入れてしまった。


お父様が驚いた顔で私を見た。


まあ、驚くのも当然か……。

一年前の私なら、こんなことは絶対にしない。というか、実際しなかった。


小さい頃から、お父様とふたりだけで話す機会もほぼなかった私……。

お母様越しに見るお父様は遠い存在だったから。


でも、時間が戻る前の一年間で、私のお父様への印象は変わった。

当たり前だけれど、お母様とはまるで違う人だとわかった。


クリスティーヌさんと私におみやげを買ってきてくれた時のやさしい顔。

そして、時が戻る直前、私を思って、「ラナをこれ以上犠牲にするな!」そう言って、お母様に怒ってくれたこと。


いいことばかりが思い出されて、懐かしい気持ちでお父様を見てしまう。


そんなことを考えている私の顔を、じっと見ていたお父様。

目頭をおさえて、つぶやいた。


「ありがとう、ラナ……。それと……すまない、ラナ……」


「お父様……?」


「ラナ、本当にすまない。いや、今まで、すまなかった。不甲斐ない父親で……。今更だが、ラナにはつらい思いをさせてしまったな……」


苦しそうに、声をしぼりだすお父様。


「体が弱かったルリを散々甘やかし、どんどんわがままになっていくルリの面倒をみさせた。そして、ルリのことしか考えていない母親が、ラナにつらくあたっていたことも知っている。……私はね、もともと、今の会社の一社員だったんだ。が、妻の父である、前社長に仕事ぶりを認められて、婿養子に入った。だから、妻には強くでられなくてね。言い訳にもならないが、ラナをかばうことすらできず、逃げた。本当に申し訳なかった……」


既視感のある言葉。

そう、時間が戻る前、お父様が私に謝った時とまるっきり同じ言葉だ……。


でも、口調が以前よりずっと重い。もっと苦しそうで、後悔の念がにじみでている感じ……。

それに、この言葉を言われた場面が違う。


この謝罪の言葉を聞いたのは、確か……、リュウがうちを訪ねてきている時だったと思う。


その時は、すでに、ルリが……というか、中身はクリスティーヌさんだけど、目覚めた後だから、時間も早まっている。


「ラナ……。仕事が終わったら、できるだけ早く、私が病院に行く。だから、ラナはルリの荷物を病院に預けたら、すぐに帰りなさい。ルリに付き添わなくていい。大学にも普段どおり通いなさい。それと……お母さんのことだが、昨日はショックを受けて倒れたから、一日、大事をとって入院させてもらった。体はもう大丈夫だが、ルリのことで動揺して荒れていてな……。顔を見れば、ラナにもきついことを言うかもしれない……。ああ、そうだ。お母さんには、病院近くのホテルをとることにしよう。お母さんもルリから離れたくないようなことを言ってたしな。落ち着くまで、できるだけ、ラナとは会わせないようにする。ルリの荷物も明日からは、できるだけ私が届ける。……ラナ。今まで、何もしてやれなくて悪かった」


時間が戻る前にはなかった、お父様の言葉。


つまり、私が違うことをしたら、お父様の言動もまるで変わってきたってことよね……。

私次第でこれからを変えられる、改めてそう思った。


  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


病院の受付で、入院の荷物を届けにきたことを伝えると、ルリの病室のあるフロアまで行くように言われた。


一瞬、お母様に会うんじゃないかと躊躇したけれど、お父様が言うのには、お父様が迎えに行くまで、お母様には病室で休ませてもらうよう頼んであると言っていた。病棟も違うらしいし、会うことはないからと。


フロアまであがり、ナースステーションで用件を伝えると、ルリの病室はすぐそばだった。

戸が開いた状態の病室。

眠ったままのルリのそばに、手をにぎって付き添うお母様がいて、ドキンとした。


幸い、ルリだけを一心に見つめている様子のお母様は私に気づいていない。

このまま帰ろうと思ったその時、ルリに語りかけるお母様の声が聞こえてきた。


「なんで、私のルリがこんな目に合うの? なんで、ルリを守るためにもらってきたあの子じゃなくて、ルリがこんな目にあうのよ! 私の娘はルリだけなのに……!」


その言葉に、一気に全身が冷えていく。

お母様のその気持ちはわかっていたはずなのに、冷たい水を浴びたよう……。


(私は花。だから、もう、大丈夫)


そう思ったけれど、やっぱり、直接聞くと衝撃があるよね……。


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