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王妃の想い

マザコンのルー王子がレティシア妃を恨んでいるには理由がある。


第二子出産のために隣国へ里帰りしたレティシア妃に引っ付いて行くくらい、元々王子は妃のことが大好きだった。


しかし第二子を死産し、心身ともに衰弱状態となった妃は、まとわりついてくる王子に構う余裕がなく、祖母や他の者に王子の相手を任せた。

それでも王子は母のことを心配し、隣国へ留まり続けた。元気になった妃と一緒に国へ戻りたいと思っていたのだ。


しかし王妃は一向に良くならず、王子の帰国は延びた。

王子だけでも先に帰国せよと国王からの命令も再三に渡り、仕方なく帰国を決めたが、内戦が始まった。

そして帰国はさらに延び、3年が経過した。そうなると、ますます帰りたくなかった。


隣国でののんびりとした暮らしにすっかり馴染んでいたし、レティシア妃と離れがたい気持ちも依然として強かった。


そんな王子を叱咤し、突き放すようにして国へ送り出したのだと、いつかの手紙でレティシア妃が告白していた。


王子の将来を思い、心を鬼にして冷徹な態度で突き放したのだと。


『ルーにしっかりしてほしくてね。いつまでも私のそばにいてはダメになるから。いっそきらわれてしまえばいいと思ったの。でも後かいしているの。ルーをひどくきずつけてしまったから』


その手紙を読んで、ルー王子もレティシア妃も可哀想だと思った。

ルー王子も可哀想だが、愛息を突き放すしかなかったレティシア妃の母心も理解できた。


ルー王子もきっと大人になれば分かるはずだ、というようなことを、妃への返事に書いた。


だけど王子は根深く王妃のことを恨んでいる。

帰国してから隣国を訪ねたのは、私たちの婚約報告での一度きりだ。


そのときも妃に対して不遜な態度だった。

仕方なく、嫌々、いかにも義理で来ているだけだという態度で、会話も必要最低限。

あまりの雰囲気の悪さに、何とか和まそうと奮闘した私のことをレティシア妃はとても気に入ってくださり、それから文通が始まったというわけだ。


あれから6年か……。王子はまだ大人になっていない。

王子が私のことを疎ましがり、一緒に遊んだり勉強したりすることがなくなってからは、レティシア妃に書く手紙の内容にも困った。

私も王子も成長し、お互いに興味を持つ事柄が変わったことや、それぞれに友人も増えて、多方向への付き合いが広がった、というポジティブな言葉に変換して、報告した。


妃はそれに対し、


「ルーもそういうお年頃よねぇ。メイといて冷やかされるのが恥ずかしくて、素っ気ない態度を取ったりすることがあるかもしれないけど、そういうお年頃だと思って、どうか生温かく見守ってください。付き合いの長いメイに甘えてるのかもね」


などと相変わらず、私と王子の両方をフォローする言葉を返した。

その王妃がもうこの世にいないなんて……。


レティシア妃が最期まで望んでいたことが、私と王子の婚姻が無事成立し、2人でこの国を盛り立てて行くことなのだと思うと、胸が痛い。


長年の期待を裏切ってしまった。

冷静に考えると、それはレティシア妃からの期待だけではないのだ。


私を王子の婚約者にと望んだのは、レティシア妃と国王陛下で、それに応じた父も当然私に期待していただろう。

2人の兄も常々、私のことを「誇らしい」と口にしていた。


なのにみんなの期待を裏切ってしまったのだ。


王子と復縁したほうがいいのだろうか?

という選択肢がふと胸に浮かんだ。

いや無理、ないわと秒で否定してしまっていたが、改めて冷静に考えると、可能性は無くはない。


何しろ王子は、婚約を破棄したいと強く望んだわけではなく、取り巻きたちの煽りに乗せられて、ノリで実行してしまったようなもの。


私がオリアーナ嬢に謝れば済んだと、何度も馬鹿の一つ覚えのように繰り返していた。

なら私がその条件を飲めば、復縁は容易そうだ。

身体が入れ替わったせいで、根気よく話をせざるを得ない状況であるし、お互いの立場を慮る必要もある。


ええ~でもな〜、正直ムカつくんだよな~。


“そういうお年頃だと思って、どうか生温かく見守ってください”


レティシア妃、天国から見届けてくれていますか?



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