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「――というわけで、来週謝罪の場を設けますので、よろしくお願いいたします」


そう告げると、メイヴィス嬢は複雑な表情をした。


「殿下も仰ってましたもんね? 婚約破棄は殿下のご意志ではなく、周りが勝手に騒いで事が大きくなってしまっただけだ、と。公爵家の名誉を大きく傷つけることは想定外だったんですよね?」


「ああ、そうだ。私はただ、君がオリアーナに謝ってさえくれればと……君が謝れば済んだ話だ。どうして私が謝罪を?」


駄目だ、やっぱり根本的に話が噛み合わない。


「私はオリアーナ嬢に対して、謝罪すべきようなことをしておりません。執拗ないじめ? そんなものは存在しませんでした。彼女の被害妄想です」


「なら、あのときそう言えば良かったではないか!」


「聞く耳をお持ちでしたか? 何を言っても、言い訳は見苦しいぞと一蹴されたのではないですか? 殿下がオリアーナ嬢の肩ばかり持つことは、周知の事実ですよ」


「なっ、勝手に決めつけるな」


「勝手な決めつけをされたのは殿下です。彼女が転入早々に学院内で浮いてしまったのは、本人の自業自得です。それを他の者のせいにして」


「ほら見ろ、やっぱり君はオリアーナを嫌っているではないか」


「ええ、嫌いです。でもそれを表に出したことはございません。彼女のマナー違反を見かねてやんわり注意をしたことはありますが、効果がないので、それ以降はなるべく関わり合いを避けていました。それが公衆の面前で罵倒されるほどの罪でしょうか?」


ルー王子は一瞬言葉に詰まったが、絞り出すように反論した。


「弱い者に優しくする、それが公爵令嬢たる君や上位貴族の役目だ。田舎者で勉強ができないからといって、毛嫌いして無視をする。それはいじめではないのか?」


やはり話が噛み合わない。


そもそもオリアーナが女生徒に総スカンを食らったのは「田舎者で勉強ができない」からではない。

親の仕事の都合で王都へ出てくる田舎貴族の令息令嬢はたまにいるが、みな上手く立ち回って溶け込んでいる。

私たち側にも受け入れ体制及び耐性はあるのだ。


「オリアーナ嬢は学業は苦手かもしれませんが、殿下が思うほど弱くはありませんよ」


「何を根拠に……君は知らないだろうが、彼女は私の前では心を開いて、普段こらえている涙を見せるんだぞ」


あー、それ早速昨日見たやつ。

けどあれ、子爵令息や伯爵令息相手にも、やってるの見たことあるけどね。

ここぞというときに流せる、便利な涙だ。


と思ったが、言いたいことを言い続けても、話は平行線だ。オリアーナのことを悪く言えば言うほど、馬鹿王子が頑なになるのは知れている。


「第一、私が君として『私』から謝罪を受けると、オリアーナが嘘つきになってしまうではないか。いじめなどなく思い過ごしだった、などと認めたら、オリアーナの立場が悪くなる」


ほら、こう来た。

ふうと深呼吸して、大人の対応を心がける。


「では、こうしましょう。私も、弱い立場である彼女にもっと親身に優しく接するべきであったのに、配慮不足だった、申し訳ないと、殿下が『私』として一言述べてください。その上で、ルーファス王子殿下からの謝罪を受けてください。それで丸く収まるでしょう」


ルー王子は思案顔をした。もうひと押しだ。


「それでもなお彼女の学院生活がご心配なら、一度様子を見に学院へ行かれては。卒業生が学院に来ることは珍しくありませんし。殿下のお姿ではなく、私の姿でなら女生徒にも話しかけやすいでしょう。殿下がオリアーナ嬢を庇うと他の女生徒に嫉妬されるかもしれませんが、私ならまた反応も違うでしょうし」


なるほど、と王子が顔つきを明るくした。


「それは良い考えだな。私が君の姿でオリアーナに優しく接すれば、君の悪評も払拭できるわけだし」


「え、ええ。でもあまり突飛な行動はなさりませんように……不審がられても困りますし」


「言われなくても分かってる」


一抹の不安は残るが、とにかく王子が『私』として正式な謝罪を受け入れることとなり、我が家の名誉挽回はできそうだ。


それは今の王子にとっても大事なことのはず。

何しろ現在のセルザム家の令嬢は、王子なのだ。

婚約破棄騒動以来ピリピリしている兄たちの機嫌が少しでも良くなれば、王子の肩身の狭さも少しはマシになるだろう。


「なあ、それにしても私たちはいつ元通りに戻れるのだ?」


王子が尋ねた。


「分かりません……が、目の前の事が落ち着いたら学術書を調べたり、仮説を立てて検証するなり、いたしましょう」


「そうだな……目の前のこととは、その謝罪のことか?」


「はい。それとレティシア妃のお墓参りです。ルーファス王子殿下とその婚約者、メイヴィス嬢、2人で隣国を弔問せよ、との国王陛下からのご命令です。近々正式に使者を通じて、文書が届くと思いますが」


王子の顔つきが曇った。


「婚約者……私たちはもうそうではないが……ああ、君に謝罪をするということは、婚約破棄も撤回するということか?」


「いえ、それはなさらなくて結構です。私たちの婚約破棄の届けは受理されていない状態ですが、私たち2人がそのまま受理されることを望めば、国王陛下に承諾いただけるでしょう」


「婚約破棄が受理されていない? そんなこと知らなかったぞ」


「ええ、私もつい昨日知りました。国王陛下が私の父に掛け合って、条件付きで留保しているそうです」


「条件?」


「いくつかあるようですが、教えていただけませんでした」


本当は1つ聞いて知っているが、『王子自らの気付きで反省して謝罪すること』ということを教えてしまえば、自らの気付きにはならない。


それに実際、王子はちっとも反省していないし。

『私』への謝罪は、私が押し切って強引に行い、王子は押し切られて渋々受ける形だ。


「婚約破棄するならするで、レティシア妃の墓前で2人揃って報告してほしいそうです」


そう言うと、王子は渋い顔をして「まあ、そうだな。墓参りくらいは……」と頷いた。


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