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国王陛下

大人しく帰って行ったオリアーナを見送り、傍らのジェリーに言った。


「というわけでジェリー、早急に国王陛下にお目通り願いたい。メイヴィス嬢とセルザム家への謝罪の件で。段取りを頼む」


さっきまで寝起きかと思うような覇気のない顔をしていたジェリーが、急にしゃきっと背筋を伸ばし「はい、ただいま」と答えると、すぐに動き出した。


急がなくてはならない理由があった。

いつまでこの身でいるのか、分からないからだ。

ルー王子でいる間に、私への謝罪とセルザム家の名誉挽回をやり遂げなくては。

それさえやっておけば、いつ元の姿に戻ってもいい。というか、それを済ませて早く元の姿に戻りたい。


私はともかく、ルー王子がちゃんと『私』をこなせているのかが気になって仕方ない。

使用人の名前や部屋の配置が分からないだけであれほど弱っていたのだ。

強面の兄たちのことも苦手なようだし、心配だ。ボロが出ていないといいけれど。


こちらはオリアーナに塩対応はしてしまったが、「友人として常識的に」言うべきことを言ったまでだし、なにも絶縁を言い渡したわけではない。

王子が元の姿に戻ったら、好きなようにフォローして、また元のようにイチャイチャすればいい。


ただ私がルー王子でいる間は、それは生理的に無理だから、ベタベタするのはやめてほしいというだけのこと。

別にヤキモチを焼いているわけでも、王子と復縁したい気持ちもない。


こんな王子、こちらから願い下げだ。

と鏡の中を睨みつけていると、ジェリーが呼びに来た。


国王陛下と面と向かって話をするのは、さすがに緊張した。

しかし息子の特権を駆使し、言いたいことを言った。元婚約者への誤解を謝罪し、公爵家の名誉を挽回したいのだと。


じっと耳を傾けていた国王陛下は「思ったより早かったな」と仰った。


「きっと後悔するだろうと思っていた。君が反省し、自発的に謝罪を申し出たときに限り、それを受け入れても良いと。先のファリステイト公が示した条件の1つだ」


えっと驚いた。


「条件とは何の条件です? いつ、そのようなお話を……」


先のファリステイト公とは、領地で隠居している父のことだ。


「君がやらかしたあの卒業記念パーティーでの一件、ファリステイト公に陳謝して、何とか条件つきで留保してもらったのだぞ」


「留保とは?」


「ご令嬢との婚約をだ」


「メイヴィスとの婚約は先月破棄して……」


「ない。どれだけ手続きを踏もうが、最終の承諾をするのは私だ。私は承諾していない。君に面目を潰された先方は当然カンカンだったが、何とか手を打って留保してもらった」


まるで知らない話だった。国王陛下と父との間で交渉事があったなんて。兄たちは知っていたのだろうか。


「そ、それならどうして次兄は……セルザム家の次男は職を更迭されたのです?」


「それもまあ色々あってね。彼が連れていた部下の1人が城の門扉を壊したのは事実だから、相応の処分は必要だった。謹慎と減給は言い渡したが、更迭はしていない。君たちの世代は、事実確認をせずになんでも噂を鵜呑みにしすぎる」


穏やかながら、射るように私を見る国王陛下の視線にドキリとした。


「まあいい。君が自らの気づきで反省し、メイヴィス嬢に心からの謝罪をしたいと言うなら、あちらも受け入れてくれる。早速、謝罪の場を手配しよう」


国王陛下の言葉に深く頭を下げた。

しかし言っておかねばならない言葉があった。


「ありがとうございます。しかし、謝罪をすれば元通りに許される、という甘い考えはございません。もしメイヴィス嬢が私との婚約などもう懲り懲りだと言うならば、致し方ないと思っております。素晴らしい彼女には、もっと相応しい相手がいるかもしれませんし……」


私と私の家の名誉は取り戻したいが、王子との婚約は破棄してくれて結構だ。

しかし、王子に婚約破棄されたいわくつきの令嬢となってしまうと、次の縁談に困るのは困る。


「その際は、どうか良い縁談を彼女に。せめてもの罪滅ぼしです」


私の言葉に、国王陛下は感心したように頷いた。


「ああ、それは勿論。君がそこまで彼女を思いやれるようになったとは、成長したな。だがまだ諦めるのは早い。心を入れ替えて、彼女の信頼を取り戻すよう努力しなさい。それが君の為になる。良いね?」


穏やかながらも圧の強い国王陛下に、はいと殊勝に頷くほかなかった。


さらに陛下は仰った。

メイヴィス嬢への謝罪が受容されようか拒絶されようが、2人で行ってほしい場所があると。


「2人で隣国へ行き、亡き王妃の墓前で報告してほしい。君たちが婚約を破棄して別々の道を歩むこと、もしくは継続して、2人で力を合わせて国を盛り立てていくこと。どちらかをね」


王妃に対しての責任を、きちんと2人で果たせということだ。

レティシア妃と文通していた長い日々や、妃に託された想いを思い出すと、気が重い。

私は結局、レティシア妃と交わした約束を果たせなかったのだ。


「そう露骨に嫌な顔をするな。新たな一歩を踏み出すための報告と思えば、晴れやかだろう。それにレティシアも嬉しいはずだ、君たちに会えるのが。もう随分会っていないだろう」


確かにそうだ。

レティシア妃と王子は長らく顔を合わせていない。

妃を恨んでいる王子が拒絶していたからだ。

生前に和解できなかったのが悔やまれるが、せめて王子にお墓参りくらいしてもらいたい。


レティシア妃の急逝はまだ公に発表されておらず、葬儀もあちらの王室内でひっそりと済ませたそうだ。生前の妃のご意向で。

国王陛下も使者のやり取りをしただけで、まだ弔問に訪れていないそうだ。

なので代わりに王太子とその婚約者を遣わす、ということらしい。


よし、必ずルー王子を連れてレティシア妃のお墓を参る。

王子がどれだけ嫌がっても、これは国王陛下のご命令だ。


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