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【メイヴィス視点】紹介




「お久しぶりです、ルーファス王子殿下。ご結婚式以来ですね」


仕事の小休憩に、執務室に挨拶に来たのは伯爵令息のディルク卿だ。


貴族学院の級友で、かつてのルー王子の取り巻き隊長だったが、卒業後は伯爵領で父親の仕事を手伝っている。

ルー王子に取り入り、側近として残るつもりが、当てが外れた結果だ。


この男がルー王子のそばにいると為にならないと私が判断し、コネ就職させなかったのだ。


そのことを逆恨みされても仕方ないが、賢くて要領のいい男なので、悪い空気は出さず、飄々とにこやかに接してくる。


相変わらず食えない男だ。


「そうだな。その節は世話になった。元気そうで何より。領地での仕事ぶりも耳に届いているよ。さすが君だな」


「とんでもないことでございます。私など殿下の足元にも及びません。寝食も惜しまれる勤勉ぶりで、新しい発想力と頼れるリーダーシップ。殿下の素晴らしさはあらゆる場所で耳にいたします」


褒め殺されて苦笑した。


「ありがとう」


「その上とても格好良いのですから、殿下のファンが大勢いるのも納得です。実は私の友人にも熱烈な殿下のファンがおりまして、一言でいいから殿下と話したいと煩いのです。今日一緒に来ていて、外で待たせているのですが、5分だけでもお目通りいただけないでしょうか」


思いがけない申し出に少し動揺した。


「私の顔を立てると思って、どうかお願いします。学院時代の殿下と一番の親友であったと言ってしまったので、嘘つきだと思われてしまいます。それとも私が身の程知らずに、勘違いしていたのでしょうか。殿下と親しかったと」


寂しげな微笑を浮かべるのは、確かにかつてのルー王子の親友だ。

思惑はどうあれ、良い思い出も存在したのだろう。


「いや、君は確かに一番親しい友人だったよ。5分で良いなら今から会おう。お安い御用だ」


ジェリーに予定の変更を告げ、外に出た。


「ルーファス王子殿下の熱烈なファン」はディルク卿の妻リーサの従姉でグレータといい、近くの茶屋でリーサと共に待っていた。

伯爵令息夫妻は領地で暮らしているが、グレータは王都に住んでいるそうだ。


ディルク卿から女性を紹介される、とくれば嫌でも思い出すのはオリアーナのことだ。

まさか、またろくでもない女を紹介して、ルー王子を誘惑させる魂胆だろうかと訝しんだ。


しかしあの時に釘を刺して以来『メイヴィス公爵令嬢』との信頼関係をしっかりとアピールし続け、結婚披露パーティーでもおしどり夫婦ぶりを見せつけたはずだ。

付け入る隙は見せていない。


気を引き締めて茶屋へ向かい、リーサの従姉グレータと話した。

グレータは私たちの5歳年上で、海洋生物の研究職に就いているという変わった経歴の持ち主だった。

幼い頃からの婚約者を海で亡くし、喪に服している間に婚期を逃し、好きな仕事をしているそうだ。


ディルク卿からの紹介ということで身構えていたが、拍子抜けするくらい良い女性だった。

気さくで話しやすく、口調はさっぱりとしているが笑顔が柔らかい。


ルー王子の姿になってからというもの、女性から密やかに粘着質な視線を送られることがしばしばあり、辟易してしまうが、グレータから向けられる好意はねちっこくなくて軽やかだ。


海洋生物の研究職という仕事も興味深く、話題も豊富だ。

5分だけの挨拶のつもりが、話が弾んでしまった。良かったら研究所に見学に来てくださいと言われ、社交辞令混じりの約束をした。


「年上の女も良いものでしょう」


別れ際、女性2人を先に馬車に乗せたディルク卿が私に耳打ちした。


「お噂によると、奥様と夜のご生活は上手く行っておられないとか。メイヴィス様は週末は必ず公爵家へ帰られるそうですね。ご新婚時からずっとそれでは殿下もお寂しいでしょう。グレータは愛人でも本望だと申しています」


「まさかの」が的中した。呆れると同時に、思ったよりも腹が立った。


「懲りないな、君も」


声に苛立ちが滲んだ。


「あいにく私は妻一筋でね。他の女性とどうこうという気は起きない」


「そうですか。でも時が経って気がお変わりになることもあるかもしれません。そのときはどうか他の女ではなく、グレータのことを思い出してください。彼女は良い女性です。私の親戚ですし、身元も確かです」


懲りない旧友の顔を見つめ返した。

ルー王子の気が変わることがあると踏んでいる、自信を持った顔つきを。


胸がざわつく。



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