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密談

通された客間で待っていると、『私』がやって来た。公爵令嬢メイヴィス・マライア・セルザムだ。

黒髪ストレートにダークブルーの瞳。長兄に似て、ツンと澄ました感じのする冷たい顔立ちだ。


毎日鏡で見てきた顔だが、こうして他人の目で見るととんでもなく気恥ずかしく、羞恥心のようなものが噴き出た。


だって、ちょっ貴女、何て顔をしているのだ。

私ではない『私』は、私を見た途端、まるで迷子がやっと母親に見つけられたような顔をした。

ほっとして今にも泣き出しそうな。


慌てて長兄へ向き直った。


「ファリステイト公、メイヴィスと2人きりで話をさせてくれませんか」


長兄は渋い顔をしたが、


「わっ、私もそうしたい」と必死な声を上げたのは、メイヴィス本人だった。


「メイ、いいのか?」と兄が問うと、こくこくと頷いた。


「では部屋の外で待っています」と兄が出て行くと、私と『私』は2人きりになった。


「……あの、」

「メイヴィスか?」


話しかけようとすると、『私』が言葉を被せてきた。


「私がメイヴィスになっているということは、君はメイヴィスだな?」


「貴方はルーファス王子です?」


「質問を質問で返さないでくれるか。私が訊いているんだ。君はメイヴィスか?」


ああ間違いない、この『私』の中身はルー王子だ。

気が小さくて、それを隠すために偉そうな態度で、自分の思い通りにならないと焦る。


「はい、いかにも私はメイヴィスです。ルーファス王子殿下」


「なら早く元に戻せっ」と泣きそうな顔で言うルー王子に目をみはった。


「戻し方が分かりません」と私は事実を述べた。


「私も訳が分からないのです。目が覚めたらこの姿になっていたので。私も望んでこうなった訳ではありませんので、困っています」


ルー王子は口をポカンと開けて絶句した。

あまりの間抜け面にこちらが恥ずかしくなる。


どうしてこの異常事態を私がどうにかできると思ったのか。姿が変わろうが、王子の思考回路は相変わらず他力本願のようだ。


「そんな……では、いったいどうしたら良いのだ……」


「そうですよね、困りましたよね。人に言っても信じてもらえないのがオチでしょうし。必死で訴えて気が触れたと思われても、それこそ困りますしね……」


「本当にそれだ。目が覚めたら、私が君に、君が私になっていたんだ、などと説明したところで誰が信じるものか」


「ですよね」


「やけに冷静だな。本当に君の仕業ではないのだな?」


私の冷静さが癪に障るようで、馬鹿王子はいらついた口調で念押しした。


「出来るか。魔法使いじゃあるまいに」


「なっ、何だその口の聞き方は」


「すみません、ついイラッとしてしまって。王子、これでも私だって混乱しているんですよ。一人では途方に暮れて、殿下に会いに来たのですから。今後のことをよく話し合って、協力してこの困難を乗り越えましょう。殿下は本意ではないでしょうが、私だって本意ではありません。でも当事者同士、協力し合うのが一番ですよね?」


微笑みかけると、私の姿をしたルーファス王子殿下はたじろいだ。

『私』は女にしては身長が高い方だが、それでも今の私よりは低いし、細っこい。普段見下げていた相手の上からの視線に、居心地の悪さを覚えたようだ。


「あ、ああ。それもそうだな」


「ではまずはお互いの日常生活に於いての注意点や、気になる所などを確認し合いましょう。困ることが多いでしょうから。今日は取り急ぎそれだけを行って、また明日以降も参りますので、今後のことを話し合いましょう。いかがですか?」


「ああ、そうしよう。今日早速、色々と困っていたのだ。あのいかつい兄たちの呼び方も分からず、使用人も名乗らない者ばかりで、部屋の配置も何もかもが分からず、自室に引きこもっていたんだ」


「ですよね、それは大変でしたよね。お任せ下さい、全て書き記して帰りますから」


私を見た瞬間ほっとして泣きそうな顔をしたのは、よほど心細かったのだろう。

本当にどうしようもない王子だ。

やれやれとペンを取り、そういえば昔こうして2人で額を突き合わせて勉強をしたこともあったな、と思い出した。


今では随分背が高くなった王子だが、あの頃は私よりも小さくて、目も今よりくりくりしていて、金髪のくるくるも強くて、弱虫だが素直で可愛かった。


どうしてこうなってしまったのか。



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