公爵令嬢の本気
「だから、君に選ぶ権利がある。君が選んだ方が次期国王だ。君がサミュがいいなら、サミュに王位を譲る」
メイもやはり知らなかった様子だ。
驚いた顔をしたあと、ふんふんなるほどと頷いた。
「ということは、私がサミュエル王子殿下を選ぶと、ルー王子がサミュエル王子殿下と結婚するんですね?」
えっ。
「だって今の『私』はルー王子ですよ。ルー王子が弟殿下と結婚して、夫婦の営みをするってことですよね」
サミュとイチャイチャする絵が目に浮かんだ。
「では頑張って、サミュ王子とのお子を産んでくださいね」
口角をくっと上げて笑うメイに慌てた。
「いやっ、無理だ。それは無理だ、無理に決まってるだろ」
「あら、その無理を仰ったのはルー王子ですよ? どうしてできないことを提案したのですか。どちらか選べなどと仰っても、現状では選びようがありません。王子がサミュ王子と無理なら、この婚約を続けるしかありません」
ぐうの音も出ないほどの正論だった。
だが私はメイのことを思って言ったのに、正論で言い負かされるのは解せない。
できる・できないではなくて、こういうのは気持ちの問題だろ。
「では、サミュではなく私との婚約を継続したいということだな」
「王子が、ですよね」
「君も、だろ。君だって『メイヴィス嬢』と婚約破棄すれば他の女性を相手にしなくてはならないんだぞ。君だってそれは嫌だろ。同じことじゃないか」
どうだ、こちらも正論だ。
そうですねぇとメイは気の抜けた相槌を打った。
「でもその場合、私はもう王太子ではありませんよね。サミュ王子に王位を譲って、呑気な立場になるわけですから。それなら、絶対に結婚して世継ぎを作らなくては、という重圧もなくなりますし。生涯未婚でも良いかもしれませんね」
仰天した。
なんだそのぶっ飛んだ考え方は。
「良いわけないだろう!」
「そうですか? なかなかそれも良いなと思ったんですけど。それに私、オリアーナ嬢みたいな方は無理ですけど、他の女性ならもしかして好きになれるかもしれませんし。可能性は無限ですよね」
急に開眼したような、明るい表情でとんでもないことを言い出したメイに目を剥いた。
「だっ、駄目だやめてくれ、変な方向に可能性を見出すのは。頼む、お願いします、助けると思って私との婚約を継続してくれ。頼む、メイ。見捨てないでくれ」
これだけなりふり構わない言葉を紡いで、人に物を頼むのは生まれて初めてだ。
私の必死な懇願に、メイはう〜んと迷う声を出した。
「でも王子、私と結婚するということは、王位を継ぐということですよ。勉強だるいとか、耳が痛いこと言われるの嫌だとか、好き嫌いで人を評価するとか、そういうの無しですよ? ちゃんと頑張って国王陛下に相応しい器になっていただかなくては。私、婚約破棄しちゃいますよ」
そこまで饒舌に喋ったあと、メイは一呼吸置いて真剣な顔をした。
「本気です。私は、ルーファス王子殿下に国を継いでいただきたいのです。王子ご自身がそう思っていなくても、レティシア妃がもう良いと仰っても、私は良くありません。だって王子、一度も本気で向き合ったことないじゃないですか。どうせ駄目だから、どうせ駄目なのに一生懸命がんばったってって、全部逃げてばかりじゃないですか。それってすんごく弱虫で、ずるいです。一度くらい本気で頑張ってほしいです」




