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一致条件

その後セルザム家にいる『私』にもコバーン男爵の異動の話は耳に入ったが、深読みすることのないルー王子は「ふーん、この時期に急な異動とは珍しいな」などと素直に驚いていた。


「しかもウレフレーとは、また辺鄙な。仕事で不手際でもあったんだろうか」


まさか娘のオリアーナ嬢が原因だとはつゆほども思っていない様子だ。勿論私が裏で糸を引いたことにも気付いていない。


「さあ、どうなんでしょうね。まあ良かったですね、これでサミュエル王子殿下がオリアーナ嬢に誘惑される心配はなくなりましたね」


「まあ、そうだな……」


元気のないルー王子に皮肉の1つも言いたくなった。


「お寂しいですか? オリアーナ嬢が遠くに行ってしまうのが」


いや、とルー王子は首を横に振った。


「何だか悪い夢を見ていたようだ。色んなことがありすぎて……女性不信になりそうだ」


自業自得ですよという言葉を呑み込んで、含み笑いした。


「まあ気を取り直して、旅立ちましょう。荷物はこれですね。中身を拝見しても?」


「ああ。忘れ物がないか確認してくれ。カサンドラが荷造りしてくれたが、本人にしか分からない旅の必需品という物もあるかもしれないからな」


『メイヴィス嬢』の荷物の中身を一通り確認し、追加で必要な物を足して、荷造りを完了させた。

隣で所在なさげにしているルー王子を見て、ふと気付いた。


「あれ、なんか王子痩せてません?」


「ああ、近頃あまり食欲がなくてな。あの怖い兄たちと同じ食卓について、会話にボロが出ないか胃がキリキリしながらの食事は無味だ」


「ああ……王子、そういうところナイーブですもんね」


ルー王子は基本的に小心者だ。それがバレるのが嫌で空威張りする癖があるが、ホームでありながらアウェーなセルザム家ではただただ萎縮しているのだろう。

目に見えるようだ。


「大丈夫ですよ、何度も言いますが兄たちが無口で仏頂面なのは自然なことですから。あまり気になさらずに、どんどん食べて下さい。でないと兄たちも心配しますし、私の体なんですから大事にして下さい」


「ああ、分かってる。しかし、元気がないと思われている方が会話が少なくて済むからな、楽なんだ。多く喋って、辻褄が合わないことが出てくると困る。君はその点どうしている? 情報交換をしているといっても、過去の全てを共有するのは無理だ。家族や友人に、『あのときああだった』というような昔話をされても、返答に困ることが多々あるだろう?」


確かにルー王子の言う通り、全く記憶にない過去話をされて反応に困ることはあった。

しかし、大抵は「そうだったけ」とすっとぼけて相手から情報を引き出すか、大袈裟に同調して誤魔化すかだ。

相手の反応を見て、探り探りだ。

確かに気はすごく遣う。疲れる気持ちは分かる。


「そうですね。ではやはり1つでも多く共有していきましょう。これまで聞かれて困ったことを教えて下さい。お互いの昔話をし合いましょう。幸い、これから長旅に出ることですし。馬車の中での退屈しのぎに。あ、それにお仕事の引き継ぎもできるだけ。効率的に移動時間を使いましょう」


ルー王子は情けない顔をしたまま、言葉なく頷いた。

駄目だ、本当に元気がない。

空威張りでも元気な方がマシだ。


「大丈夫です、殿下。私も同じです。不安ですし、このままずっと入れ替わっていたいとは思いません。元に戻る方法を調べるために、関連のありそうな資料を集めました。それも旅に携行しますので、一緒に考えましょう」


そう、王城内にある大きな図書館で私はひたすら調べ物をして、世界中で起きた不思議現象の事例を書き出していた。

嵐の日に行方不明になった漁船が、何百年も経ってから海上をさまよっているのが発見された話や、雷に打たれた馬車が忽然と消えたかと思うと、また雷の日に戻ってきた、というような話だ。


一見どれも関連のない話に思えるが、ある共通点が見い出せた。

元に戻るには、起点と同じ条件が必要ということだ。行方不明になった地点や、天候状況が一致したときに、元に戻っている。


「つまり、あの日私たちが入れ替わった日の朝を再現すれば良い、ということか?」


旅の途中で立ち寄った茶屋で話し合いをしていたルー王子が言った。


「ですね。ただ、過去の事例のように嵐や雷など特別に派手なことが起こったわけでもなく、私たちの場合、普通に寝て起きたらって感じでしたよね。それって入れ替わってからも毎日してるじゃないですか。再現も何も」


私の言葉にルー王子が唸った。


「確かにそうだな。だが、いつもとは違う何かがあったのかもしれない。いつもと寝方が違ったとか、寝る前に変わったことをしたとか……思い出してみよう」


ああ、思い出すまでもない。

あの日、心底後悔しながら眠りについた。

レティシア妃にあんな手紙を送るんじゃなかった、と。

私の手紙を読んだせいで、レティシア妃はショックで亡くなられてしまったんじゃないか。レティシア妃の代わりに私が死んでしまえば良かったと泣きながら眠ったのだ。


でもそんなことをルー王子には言えない。


「ルー王子は思い出せました?」


「ああ……母のことを思い出しながら寝たよ。珍しくね」


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