表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/37

取り巻き隊長

あれから少し考えて、オリアーナの父親を異動できるか国王陛下に掛け合うことにした。


オリアーナの言動を問題視していたものの、結局はそれに騙される男たちが悪い、と私は思っていた。

騙す方が悪いが、騙される方も馬鹿だと。


しかしサミュ王子の言う通り、オリアーナを排斥してしまうのが、学院の秩序を守るため最も良いような気がする。


そしてそれは表立っては「父親の仕事の都合」とした方がスマートだろう。

彼女が婚約者のある男性から好かれてしまうこと自体を罰するのは難しい。


オリアーナは狙った相手の気を引くのが上手いが、あからさまに誘うことはない。

あくまでも向こうから思わず手を差し伸べてくれるのを待っている。

本人はあくまでも控えめに、「そんな私なんか」と自己否定しまくるため、可哀想な少女に見える。彼女を悪く言う方が悪者にされる。


でもそうか、サミュ王子殿下の仰るようにオリアーナの父親を都から出してしまえばいいのか。あくまでも人事上の都合として。

汚くてスマートなやり方だ。


「メイヴィス」にそんな権限はないし、裏から手を回すにしても、オリアーナへの嫉妬からだと思われかねない。だから何もできなかった。

しかしルー王子なら、人事の権限はなくても父親に頼むことはできる。言いにくいことだけれど。

学院で色恋沙汰を頻発させているオリアーナを追い出してほしいなんて。最も大きな婚約破棄騒動を起こした張本人が、恥を忍んで言うしかない。


私の話を聞いた国王陛下は、


「君も大人になったな」と感慨深げに仰った。


「コバーン男爵をすぐに人事異動させよう」


二つ返事で快諾してくれたので驚き、目を丸くした。


「そんなに驚くことはない。君が考えに考えて申し出たのだと分かるからね。異論はないよ」


それからの展開は早かった。

わずか数日でコバーン男爵へ異動命令が下され、再来週には引っ越すらしい。

今度の転勤にはオリアーナはついて行かず、母親と兄弟のいる地元に帰るらしいと、ジェリーから聞いた。


すでに学院を卒業している私とルー王子には顔を合わせる機会がないまま、オリアーナは都を去る。

その頃の私とルー王子は隣国へ旅立っている。


スマートに事なきを得そうだと安堵していると、私に助けを求めに来た者がいた。


ルー王子の友人で、取り巻き隊の中で最も力のある伯爵令息、ディルク卿だ。

貴族学院に在籍中の弟君経由で、オリアーナから泣きつかれたようだ。


父親のコバーン男爵が急に異動となった。左遷だ。

オリアーナとしてはせっかく慣れた貴族学院に通い続けたい。学院の皆と別れるのが辛い。

だから何とかして、オリアーナだけでも都に残る手助けをしてあげてくれないか、という相談だった。


「こんな事を言うのはあれですが、メイヴィス嬢が裏から手を回したのではないでしょうか。セルザム家の発言力は大きいですし。ルーファス殿下もその辺のしがらみで仕方なく婚約破棄を撤回されたのでしょうが、あの一家はそういう汚い手を使いますよ」


実家を侮辱されて怒りが湧いたが、「メイヴィス嬢が裏から手を回した」というのは図星だ。

私は汚い手を使ってでもスマートにオリアーナを排斥すると決めたのだ。


「メイヴィスではない、私だ」


「え?」


「オリアーナは現在も貴族学院で色々と問題を招いているようだ。人から聞いただけではなく、先日お忍びで学院を訪問して、この目で確認もした」


「それは、その…彼女がよく色恋沙汰に巻き込まれている件を仰っているのですか? 殿下もご存知でしょう、それは彼女のせいではありません。あまりに頼りなくて泣き虫なために、つい親切にしてあげたくなる男が多いだけですよ」


真剣に馬鹿を言うディルク卿をまじまじと見た。

黒髪に翡翠色の瞳、凛々しい顔立ち。なんならルー王子より高貴に見える。

学業の成績も良いし、スポーツも万能だ。しかしそれをひけらかす素振りはなく、なるべく脇役に徹しようと心がけている節がある。


言葉巧みにルー王子を褒めて気持ち良くさせ、自分の方が優秀なのに王子をすぐ頼って、自尊心を満足させることに長けている。

改めて分かるのは、取り巻き隊長は決して馬鹿ではないということだ。


「そうだったな。転入生のオリアーナ嬢を気にかけてあげてほしいと、私に紹介したのは君だったもんな。それもつい芽生えた親切心か。それとも……私とメイヴィス嬢が不仲になれば良いと思った?」


ディルク卿の瞳に驚きが走った。


「なぜ私がそんなことを? 私は、常々メイヴィス嬢へのご不満を持たれていたご様子の殿下のお気持ちに寄り添ったまでです」


心外そうなディルク卿の表情を見て、失笑した。


「そうだな、君のせいにしては悪い。悪いのは私だ。反省している。私とメイヴィス嬢は、好きや嫌いではない、切っても切れない結びつきがある。そのことを心底理解したよ。君も分かってくれ。私にはセルザム家の後ろ盾が必要だ。でないと、サミュエル王子を擁立しようと画策している勢力を勢いづかせてしまう」


絶句しているディルク卿に微笑んだ。


「ね、忠告したよ?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ