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気づき

ルー王子が帰ってすぐに、ジェリー経由でサミュ王子の予定を聞き出した。

気乗りしないことを後回しにするとますます億劫になるのは目に見えている。


学院から帰宅後のおやつタイムを狙い、さり気なさを装ってサミュ王子に接近した。


幸い、話題の取っかかりはある。

先日学院で具合の悪くなったルー王子を介抱してくれたのはサミュ王子だ。


「やあ、サミュ。今日メイヴィスが来ていてね。改めて先日の礼を言っていたよ。サミュにもよろしくと」


中庭に面したサンルームで紅茶を飲んでいた手を止め、サミュ王子が顔を上げた。

さらりと頬に落ちた髪が西日を受けて、暗い金色に見えた。長いまつ毛とルー王子よりも細い瞳、やはり半分血は違っても兄弟なのだなと感じる。


「いえ、大したことはしていません。わざわざありがとうございます」と静かな声で返ってきた。

この一言で会話を終わらせるつもりだと分かったが、本題は別にある。慌てて付け加えた。


「で、あのときのことを聞いたんだが、ああメイヴィスからではなくて、他の者からちらっと。例のオリアーナ嬢が君を好いていると。彼女には気を付けた方がいい」


余計なお世話だけど。

サミュ王子の冷めた瞳の奥が少しだけ熱を帯びたのが見て取れた。


「彼女の想い人はルーファス殿下では?」


「あーそれはあれだ、私はメイヴィスと復縁しただろう? だから私のことは諦めて、第2王子である君に狙いを変えたということだ。つまりそういう女だということだ。だから気を付けた方がいい」


どの口で、と?

サミュ王子の冷めた目でじっと見られることに耐えがたく、もうやめてと思えたが始めたのは自分だ。


「ご忠告ありがとうございます。しかし注意する方向が違うのではないですか。私は、オリアーナ嬢を罰するべきだと思っています。ルーファス殿下とメイヴィス嬢を仲違いさせ、今も周囲の貴族令息に色目を使って、問題を引き起こしているのでしょう? 学院の秩序を乱す問題生徒ではないですか。国王陛下に進言して、彼女の父親を左遷してはいかがでしょう。私がルーファス殿下のお立場なら迷わずそうします」


物静かゆえ、気弱だと思いこんでいたサミュ王子殿下の強気な発言に驚いた。


「そこまで?」と思わず素で訊いてしまった。


「はい。私個人の考えですが。出過ぎたことを申してすみません」


サミュ王子殿下がおざなりに頭を下げた。

戸惑った。


「いや、悪いのはこちらだ。不快にさせて悪かった。君はしっかりしているから、私の忠告など不要だな」


それは素直な感想だった。

やんわりと注意しようとしたら、ピシャリと言い返されてしまったのだ。兄として立つ瀬がない。

サミュ王子を甘く見ていた私の不覚だ。

よろよろとした足取りでその場を去った。


その後、ジェリーの指導の下仕事を終えて1人の時間になると、サミュ王子の言葉を反芻した。


オリアーナを罰する。

その発想はなかった。


オリアーナは確かに性格に難がある。ルー王子や友人の貴族令息たちには可愛い顔を見せて取り入って、女生徒から総スカンを食らっている。それをまた、いじめられていると報告し、女生徒たちのほうを悪者に仕立てる。

悪者の親玉に仕立て上げられたのは、他でもない私だ。


オリアーナの言動を糾弾し、罰すれば良かった?

父親を左遷して父娘ともども王都から追い出せば、学院の秩序が保たれる……うーん。

確かにそうかもしれないが、そこまでする発想は浮かばなかった。

冷淡だと評される私だが、サミュ王子から見ると甘いのだろうか。


しかしルー王子はもっと甘い。

オリアーナを罰するどころか、彼女の立場を危惧し、私に謝罪はするが私にも謝ってほしいとのたまったのだから。


しかしその後オリアーナの裏の顔を知り、ショックを受けていた。

それでもオリアーナを罰するという発想は王子にも浮かばなかった。サミュ王子に注意喚起してくれ、と私に頼んだだけだ。


だけど王子、逆に注意されてしまいましたよ。

弟君は心配ないようです、とてもしっかりされています。

あれなら大丈夫だ。オリアーナの分かりやすい誘惑にも全く引っかからないだろう。


ルー王子もそうだったら良かったのにと、残念な気持ちになる。


ルー王子は良くも悪くも純粋なのだ。

ウジウジとしてこじらせている割には、目に見えるものをそのまま信じてしまう。

人の言葉を素直に額面通り受け取ってしまう。


うん、つまりちょっとお馬鹿ということだ。

純粋馬鹿、だけどこじらせていて、表面的には素直ではない。

根っから悪い子ではないんだけどなあ、と親バカのように思ってしまう。

レティシア妃の呪いといったら言葉は悪いが、つまりはそういうことなのだろう。


レティシア妃に代わって私がルー王子を何とかしなくては、と妙な義務感で小さな胸をいっぱいにしていた日々を思い出す。

もはや好きとか嫌いの次元を超えて、憎らしくて愛らしい気持ち。これを人は「情」と呼ぶのだろうか。


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