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頼み


王城を訪ねてきたルー王子の「大事な話」を聞き、何だそんなことかと思った。


先日貴族学院を訪ねた際に、オリアーナの裏の顔を知り、彼女が次のターゲットとしてサミュエル王子殿下を狙っていることを聞いたらしい。

ルー王子が駄目なら次は弟王子とは、なんともオリアーナらしい。


「で?」


「で? あれだ、サミュに注意喚起を」


そっち?


「なるほど。サミュエル王子殿下なら大丈夫かと存じますが、ご心配ならされてもいいかもしれませんね」


「では頼む」


「え?」


「私から伝えたいところだが、今は君が『私』でサミュの兄だ。兄の婚約者がわざわざ忠告するのもおかしいだろう? またオリアーナへの嫌がらせだの嫉妬だのと受け取られても不本意だ」


確かに。だがそれをどの口で、と思ってしまうのは狭量だろうか。

誰がどの口で言っているのか。


「ですね。ですが、サミュエル王子殿下とあまり話す機会がないんですよね……」


気軽に雑談する関係の兄弟ではない。


「同じ城に住んでいるんだから、話そうと思えば話せるだろう。あっ、だが必要のない会話はしなくていい。あまりサミュに近づいてほしくないな」


ルー王子の歯切れが悪い。


「何かあるんですか?」


「君は私の婚約者だからだ。それ以外に何がある?」


一瞬何を言われているのか分からなかった。

私はルー王子の婚約者だから、他の男と親しくするな、と?

そんなことわざわざ言わなくても。しかも弟王子相手に? 


「分かりました。それより殿下、私も大事な話があるんです」


最近やり直しを始めた政務見習いについて話した。

教育係のジェリーのやる気がないと聞いていたが、そのジェリーのやる気を失わせたのはルー王子で、ちゃんとやる気を出してほしいという旨を、なるべく聞こえを良くして伝えた。

ルー王子は耳の痛い話から逃避癖がある。

でもそれじゃあやっぱり駄目なのだ。


「身体が元に戻ってもすぐ補えるよう、私が学んだこと、経験したことは全て殿下に引き継ぎいたしますね。それでですね、日記というか日々の記録をそれぞれ付けた方がいいとも思うんですね。入れ替わっている間の身に起きたことの情報交換を、会ったときに口頭で伝えるだけでは限度があって、伝え漏れもあると思いますし」


用意していた手帳を二冊出し、一冊をルー王子に渡した。

ルー王子はどこか上の空だ。


「王子……? 聞いてます?」


「なあ……君はどうしてそんなに冷静なんだ? 私は不安でたまらないのに」


「え?」


「このまま元に戻れなかったらどうしようと、考えれば考えるほど怖くなるのに。君は随分前向きだな。『王子』を満喫しているようにさえ見える。そうだな、君は性格も男らしいし、私より優秀だし、私より向いているんだろうな。そのまま『私』でいるのも悪くないと思っているのなら、不安にならなくて済むな」


言うに事欠いて何を。

随分こじらせているとは思っていたが、驚きだ。


「嫌ですよ、ルー王子のままなんて。このくるくるの髪は毎朝整えるのが大変ですし、朝の生理現象にもげんなりですし、周りの甘やかし、というか諦めには辛いものがあります。これでよく王子はやって来られましたね」


つい本音がそのまま出てしまった。

目を丸くしたルー王子が、情けない顔で笑った。


「ルー王子……久しぶりに呼んでくれたな」


「あっ、すみませ…」

「いや、いい。またそう呼んでくれないか。昔みたいに。私もメイと呼んでいいかな?」


どういう風の吹き回しだろう?

分かるのは、とにかく今のルー王子は本当に情緒不安定っぽいということだ。

花の精霊に祈りを捧げる期間は終わったというのに、それとは関係なく不安が高まっているようだ。


「いいですよ」


ふうと息を吐いて答えると、


「色々悪かった」とルー王子がしょぼんとして言った。


「色々とは?」


「色々、全部だ。許してくれ」


謝っている割には偉そうだ。黙って見つめると、気まずそうに目を泳がされた。

要はそういうところよ。


「ここまで謝っても許せないのか?」


そこまで言うほど謝られてはいないが、打算して手打ちすることにした。


ここでどうあれ、先日『ルーファス王子殿下』から正式な謝罪を受けた『メイヴィス嬢』はそれを受け入れている。

その事実があって、私たちは婚約関係を継続中だ。

他の人には話せない特殊な事情があって、私たちは私たち以外のパートナーを選べない身だ。


「許すも何も、私たちは一心同体のようなものですからね。協力しあって行きましょう」


ここで「許す」と言ってあげないのは、意地悪だ。

意地悪だったのに、ルー王子は嬉しそうに笑って、ありがとうとお礼を言った。

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