私の知らない彼女
探し回って、やっとオリアーナの姿を見つけることができた。
やはりいじめにあっているせいだろうか。
誰も来ないような、日当たりの悪い校舎の裏に彼女はいた。
しかし1人ではなかった。
後ろ向きに立つオリアーナの正面には、同級生と思わしき女子生徒が1人向かい合っている。
ただならぬ雰囲気に思わず身をひそめ、校舎の陰からそっと覗いた。
もしこれがいじめなら、現行犯だ。
決定的な証拠を押さえるために耳を澄ませた。
オリアーナと向かい合った女生徒が何か捲し立てているが、聴き取りづらい。
それを遮るようにしてオリアーナが言った。
「だからぁ、そんなこと言われても」
珍しくオリアーナの語調も荒かった。
「しょうがないじゃない。オリアーナが可愛いから好きになるのはオリアーナのせいじゃないの。あなたがもう少し可愛かったら良かったのにね、お気の毒さま」
えっと耳を疑った。
声と後ろ姿は似ているが、これは別人だ。
オリアーナの友人だろうか。
「こっちだって困るの。ちょっと甘えただけで気があるなんて思いこまれちゃ迷惑なの。あんなソバカス縮れ赤毛、恥ずかしくって一緒に歩けやしないわ。オリアーナは第2王子殿下命なんだから邪魔しないでほしいわ。そう言っといてくれる? まあオリアーナがそんな酷いことを言うなんて信じないでしょうけど。あんたのヒガミって思われるでしょうねぇ。ブスって可哀想ね」
おいおいおい、いくら友達を庇うためといえ、言い方が酷すぎるだろ。
この言い合いは止めた方が良さそうだと、校舎の陰から出た。
「ちょっと、あなたたち!」
ばっとこちらを振り返ったのは――……
オリアーナ!?
いやいやいや、本人な訳がない。双子だったか?と脳みそが混乱を極める。
面食らっている私を見て、相手も驚いた顔をした。が、すぐにぱっと表情を明るくした。
「わぁ、メイヴィス様。どうかされたんですかぁ? こんなところでお会いできるなんてびっくりです」
え?
「先日はどうもありがとうございましたぁ。ルーファス王子殿下にもゆっくりお話しできなかったけどお会いできて嬉しかったですって、よろしくお伝えくださいね」
ニッコニコの笑顔で話しかけてくるのは紛れなくオリアーナだ。
上目遣いで可愛らしくて、可愛い声で。いつもと変わらない。
えっ、え? さっきのは聞き間違いか?
と思いたかったが、オリアーナ越しに見えるもう一人の後輩の顔面蒼白を目にして、やはり間違いではないと確信した。
ブスと罵られた彼女は確かにオリアーナに比べて地味な顔立ちで、泣きそうな顔でこちらを見ている。
「何だか揉めているようだけれど……」
「いえ、全然。大丈夫ですし、例えそうでもメイヴィス様には関係ありませんから。この人の婚約者が私を好きになったそうなんですが、そんなの私のせいじゃないですよねぇ。婚約者の気持ちをしっかり繋ぎとめておかないのが悪いんじゃないでしょうか。ねえメイヴィス様。あっ、メイヴィス様なら彼女に的確なアドバイスをして差し上げられますかね。先輩として。余計な忠告するの大好きですもんね?」
誰だこれは。私の知っているオリアーナではない。誰だ。
こんな歪んだ笑顔で、早口で長文を喋れるオリアーナを私は知らない。
人を毒することなど微塵もできないか弱い少女だと思っていたのに。まるで毒アリの針のように、言葉の1つ1つにチクチクと毒を塗り込めている。
唖然としてしまったが、メイヴィスとしての体裁を保つことが優先だ。
私の知っている婚約者は、いかなるときでも冷静で格好良いのだから。
「ええ、そうね。ぜひ彼女にアドバイスをしたいわ。貴女はもう教室へ戻ったらどうかしら、休憩時間ももう終わるわ」
口角をくっと上げて微笑み、有無を言わさぬ調子でそう告げると、オリアーナもニコッと微笑み返した。
その瞬間、急にくらっと目眩がした。その場にしゃがみ込んでしまった。