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ど忘れ



「何だと、サミュエルを私の婚約者に?」


ルー王子がびっくりして言った。


いや、ルー王子の、じゃなくて『私』の、だ。

いや、でも今の『私』はルー王子なのだから、ルー王子の、でいいのか。


えっ、兄弟同士で婚約!?

と今さらながら気付いた。


私たちの入れ替わりが元に戻らない限り、そうなる。

ルー王子は女性として異性に接しなければならないし、私も同様なのだ。


私たちがあのまま婚約破棄してしまえば、それぞれ別の婚約者を充てがわれる。

そうなっても良いと望んだのは私だが、入れ替わった現状のままでは、ルー王子の相手はサミュエル王子で、私の相手はオリアーナということになる。


げげっ、それは無理。生理的に無理。

それは王子も同じだろう。

じゃあやっぱり良かったのか、とりあえずルー王子と復縁したことは。


私たちだけがお互いの事情を知っているし、お互いの将来を手のひらに握り合っているのだから、お互いの利益を尊重できる……はず。


「まあ、良かったよ」とルー王子も同意を示すように言った。


「サミュは君のことを嫌っているようだからね。私の代わりに君と婚約、なんてことにならなくてほっとしているだろう」


え?

聞き捨てならないことをサラリと言われたような。


「サミュエル王子殿下は、私のことを嫌っているんですか?」


ほとんど話したこともないのに。

ああ、けれどルー王子の取り巻き友人たちともほとんど話したことがないのに、目の敵にされていたっけ。

それは多分、ルー王子が私への愚痴を彼らに漏らしていたからだろうと想像できるけれど。


サミュエル王子殿下は兄王子と距離がある。昨日背中に感じた射るような視線には、憎しみさえこもっているように感じた。

嫌いな兄王子の婚約者だから憎い、ということかもしれない。


「ああ。これは言わずにいおうと思っていたんだが……」とルー王子が前置きをした。


「昨日、他の者の目を盗むようにしてサミュがこっそり話しかけてきたんだ」


「えっ、そうなんですか」


全く知らなかった。


「復縁に対する祝いでも述べるのかと思ったら、『私としては残念です』とだけ言って、行ってしまってな。ポカンとしてしまったよ」


私もポカンとしてしまった。

えっ、どういうこと。

私とルー王子が復縁して、サミュ王子は「残念だった」と。

私がルー王子と破談すれば、私の次の婚約者として充てがわれるのはサミュ王子だ。


そうならなくて残念だった、という意味?

と受け取れてしまうのは、自惚れが強すぎるか。


サミュ王子は国王陛下から何も聞いておられず、単に私と義理の家族になるのが嫌だったという意味かもしれない。

うん、それならルー王子の言うとおりの「残念」だ。

私「も」嫌われているのだろう。


「まあ、サミュがどう思おうが関係ない」


「まあ、そうですね。で、本題ですが……」とルー王子に隣国弔問の日程を確認し、それまではお互い無難にやり過ごすことを誓い合って、実家を後にした。


その翌日、ふと大事なことをど忘れしている気がした。

何だろう。日付を改めて確認していると、あっと思い出した。


そろそろ例のものが訪れる。

王子が「男の体には自分の意思とは関係なく、やむを得ない生理現象が起こることがある」と言っていたが、女性の体にも特有の生理現象が起こる。

月に一度のその期間は『花の精霊に祈りを捧げる期間』と称して、なるべく外出を避けるのだ。

先月の頃合いからして、そろそろだ。今日明日に来てもおかしくない。


しまった、ルー王子に知らせておかなければ。

突然始まってしまったら、ものすごくびっくりするし、どうしていいのか分からずパニックに陥るかもしれない。


「ジェリー、話の途中で悪いが急用を思い出した。セルザム家へ行ってくる」


「えっ、またですか? 言づけて済むご用事でしたら使いを出しますが」


「いや、他の者では駄目だ。私が行く」


もう言うと同時に足は向かっている。

ジェリーが慌てて付いてくる。


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