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春眠暁を覚えず ー手始めー  作者: 順慶碧琉
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春眠暁を覚えず ー現実からデジタルツインへー

これは、夢なのか現実なのか?メタバースは未来を語る。

「こらぁ、ケンジ!オンライン授業だからって堂々と寝るな!」コンピューターサイエンスを教える鳴雷教授の雷が爆発した。教授の大声と、クラスメートの爆笑が遮音型のヘッドホン内で響き「ふぇぇ!」と情けない声を出しながら起きた、よだれ姿のケンジが画面に映し出され、再度爆笑。

ケンジが在籍する国際科学総合大学は特定のキャンパスを持たず、自分そっくりのアバターで対面授業をうけるオンラインがメインで、モノづくりや実験については世界に何か所もあるラボにアクセスし、そこでロボットを遠隔操作し行う形式をとっている最先端の国際大学でもある。

世界中から優秀な学生が集まっており、有名校から態々転校してきたり、本校とここの両校に席を置く強者もいたりする。そんな大学に特待生として入学したケンジは居眠り常習犯として有名であった。

「ケンジ、この問題は解けるのか?」とよく教授たちにいじられるのだが、ほとんどの場合答えてしまう、なんとも不思議な学生であった。

授業が終わると、eSportsに興じる学生が多い中、ケンジはメタバースラボに入り浸るのが常であった。そこで必ずと言っていいほどよく合うのが、ティナ。南米出身の彼女は今年のミスキャンパス最右翼と言われており、キャンパスアイドル的存在なのだが、なぜかメタバースラボに入り浸っている。

ケンジが、ラボに現れると「あ~、きたきた!ケンジー、今日も授業中寝てたんだってぇ?昨日のマルチトリップの影響かなぁ?」と笑いながら話しかけてきた。「おはよう、ティナ。単なる寝不足でしょ。」とそっけなく答えると、実験室にあるVRセットを装着し始めた。「ちょっとまってよ、おいてかないでよ。」とティナも慌てて装着すると、ケンジとの同期チャネルをセット。ブンという電子音がしたかと思うと、二人のアバターはラボから消えた。


「ケンジ、ここはどこ?」

「ティナ、ついてきたの?ま、いいけどさ。ここは、ISS-II。といってもデジタルツインの方。高度400キロを飛び回ってる本物と全く同じつくりなってるから、スイッチ類に触るなよ。」と言いながら、無重力空間を苦も無くケンジは進んでいく。ティナは慣れない無重力空間で、空に浮かんだカエルのようにジタバタするだけで、一向に前に進めず。「ケンジ、助けてぇ!」を繰り返していた。すると、此れにつかまれという声とともにケーブルが伸びてきた。それにつかまるとティナの体はスルスルと船内を移動し、ケンジの方に向かって進むことが出来た。しかし、ケ止まらずにそのまま飛んでいこうとするので、ケンジはティナの足首を捕まえ、「世話を焼かせるな」と捨て台詞を吐いたものの、ティナを引き寄せ見せてくれたのは眼下に広がる青い地球の姿だった。

「わぁ、奇麗。あ、ヨーロッパが見える。パリやロンドンが朝を迎えるところね。」ティナがしばらく地球の姿に見とれていると、キーボードで何かを入力していたケンジが行くぞといい、モジュールの奥へと移動し始めた。ティナが慌てて後をついていこうとした時、ゴン!という鈍いショックがあった後、バチバチと物が当たる気配がした。すると、船内の明かりが赤くなり、警報が鳴りだしたのだった。「なに、なに、なに~。なにが起こってるのぉ?」とティナは半分パニックに陥っていたが、ケンジが戻ってきて、「問題ない、デブリの雲の中に突入しただけだ、ISSはデブリで穴だらけになったけど、こいつは外装がソフトセラミックの2重装甲になってるから、少々のことでは問題は起きない。せいぜいパネルが吹っ飛ぶぐらいのことだ。さ、次行くぞ。」というと、隣のモジュールまでティナを引っ張っていくと、そこに設置されていたHMDを装着し、なにやらパネルをたたきながら、ティナにもHMDを装着するよう促した。入力が完了したのかLEDが一斉にグリーンに変わり、ケンジとティナはISS-IIから消えた。


次にケンジに連れてこられた場所には軽い重力のある場所で、ティナは腹から床に落ち、思わず「うげぇ!」とその容姿からは想像できない声を上げてしまった。「何よ!重力があるところに行くぐらい先に教えてくれたっていいじゃない!」と抗議したが、聞かれなかったと言われてしまい、気まずい沈黙となってしまった。ケンジは以前にも来たことあるのか、ライトオン、サーフェースイメージオンというとドーム状の部屋が明るくなり、窓の形をしたところに真っ暗な夜空とグレーの砂漠が映し出された。

それを見たティナは「も、もしかして、ここは月?」とつぶやくと、窓に駆け寄ろうとして軽く床をけったつもりだったが大ジャンプしてそのまま窓に激突し床に落下。「いったぁ~い」とぶつけた頭をさすりながら、窓に手をやったのだが、窓だと思っていたところは壁の一部であった。ケンジが笑いながら、スーパーマイクロLEDが埋め込んであり、地表の映像を映し出しているだけだと説明してくれた。ケンジがイメージ・ボラボラというと、タヒチのボラボラ島が映し出され、白い砂浜の向こうに海に突き出したコテージが見える。打ち寄せる波の音がどこからともなく聞こえてきて、海の香りもしているような気がしてきた。ティナがこの景色に見とれていると、ケンジがこの月基地について説明してくれた。当初は、月面に建築したが、宇宙線や隕石の問題をなかなか解決できなかった。しかし、クレバスの奥に広がる空間が見つかり、ここであればこれらの問題が解決されるだけでなく、温度管理もしやすいことが判り、こんな辺鄙なところに建設されたということをケンジは教えてくれた。また、この施設は外部環境があまりにも荒涼としているので、ヒーリング目的で作られたということも何かの作業をしながら教えてくれた。

試しに、ティナがイメージ・マチュピチュというと、目の前にアルパカが現れ後ずさりしたつもりが後ろにジャンプしてしまったため、思いっきりしりもちをついてしまったが、どこからともなくマチュピチュの草の香りとそよ風が感じられた。ティナは故郷のペルーを思い出すと、ちょっとホームシックでじわっと涙が浮かんできた

作業が終わったらしいケンジが振り返ると、ティナがしりもちをついた状態で泣いていることに気づき、「どこか変なところをぶつけた?」となんともデリカシーのない質問をしながら、手を差し出したところ、「バカ!」と言いながら強く引っ張ったので、ケンジはティナの上に倒れこんでしまった。月の重力を全く理解していないティナであった。

ケンジは立ち上がると、「さ、次行くよ」というと、ちょっと武骨い感じの眼鏡をティナに手渡し、自分もかけると、スイッチボードの上に光るグリーンのボタンを押しながら、「次は1Gだから気を付けて」と教えてくれたのだった。


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