新たなるスタート
眩い光が晴れ、目覚めるとそこは何かの教会の様な所にいた。
あたりを見渡すと赤、黄、青色など様々な色をした美しいステンドグラスが壁の至る所に設置されている。
あれは天使をモデルにしたステンドグラスだろうか。それにしては少し大きく描かれすぎな気もするな……他の人達が目立たなく写ってしまうじゃないか。
まぁ、人の作った作品に文句を言うつもりではないが。
…あれ?ルチアさんは?どこ行った?
鳴宮は周りを見渡すが人がいる気配を全く感じられない。あるのは、こんなに設置して座る人いるのか?と考えてしまう程の長椅子しか無い。
だが、何となくここが何処かかは何となく分かる。
ルチアさんが変な呪文を唱えて、そこから記憶が殆ど無いと言うことは恐らく転移したのだろう。
ベルーラ国の青龍地方という所に。
う〜む、でも困ったな。肝心のルチアさんがいない事には無闇にここから動けないからな。
………散策でもするか。ここら辺を。
教会なんて滅多に来る事なんて無いんだし、少しくらい見て回ってもいいだろう。
鳴宮は周りを見渡しながら、教会内を見て回る事にした。
少し広い印象のある教会だが、なんとも言えない静けさが鳴宮の心を落ち着かせる。
それにしても、天使?のような銅像やオブジェクトが異様に多いな。
そんなに天使を祀っているのだろうか。
俺は宗教なんて全く触れたことが無かったから知らないだけか。
あっ、待てよ。そういやルチアさんが呪文を唱えている時に天神がどうのこうのみたいなこと言ってたなぁ。
もしかしてこれ全部が天神なのか?
天使と天神なんて、名前似すぎて俺には差があんまり分からないな。
まぁ、人が信仰している宗教にとやかく言うつもりは全くもって無いんだがな。
「あっ、もう目覚めていたのですね」
教会の扉の向こうから聞きいたことがある声が聞こえてきた。白銀のドレスに身を包み、太ももまで露出しているその姿は、誰がどこから見ようと美しいと答えるほどの美貌の持ち主。
その持ち主とは、ルチア・スタンリッジである。
「鳴宮様。聞きたいことは山ほどあると思うのですが、とりあえず私について来てくれませんか?青龍様がお呼びです」
青龍様って、あの時ルチアさんが言ってた凄い人のことだろうか。名前からしてなんか凄そうだな。
ていうか、なんでルチアさんは俺の名前を知ってるんだ。俺からは、、、名乗っていない。
少し怖いな。
思えばなんでこんなに俺は危機感が無いんだ。普通、私は今いる世界とは別の世界から来た。私がいた世界について来て下さい。なんて言われたら怖いどころか、逆に頭に変なものが詰まっているのかと心配になるレベルだぞ。
それなのに俺は何も疑うことなくまんまとついて行き、今がある。もしルチアさんが悪人で俺のことを騙そうとしていたら……
「さぁ、少し癖のある方ですが、鳴宮様なら大丈夫です。心配は要りません!最悪私がフォロー致しますので」
ま、いっか!可愛いし。
それにあんな能力見せられたんだ。どうせ今戦闘になっても勝てるはずないし。
「はい!ただ今向かいます」
扉の側で、にこやかな笑みを浮かべるルチアの方へ小走りで向かう。
近くに行けば行くほどその美しさに改めて感激する。まさに天使のようだ。
「ふぅ。って、うおおお!すげぇぇぇ!」
山の上にあった教会の扉から見た外の世界はあまりにも綺麗で美しい景色であった。
それもそのはず、向こうの世界で言う所のイタリアの街並みのようなレンガで作られた家が各地に建てられていた。
所々、緑があり、川や池もある。それに加え、川に掛けられた小さな橋や川に浮かぶボート。
真ん中には、これまたレンガづくりを基調とした立派な城が建っている。城の横に2つの塔があり、中庭も広すぎる。恐らくだがあそこに青龍様?がいらっしゃるのだろう。
「ふふ。気に入ってもらって嬉しい限りです」
鳴宮の純粋な感想に対して、口に手を当てて嬉しそうに笑うルチア。
何度も言うが、やはり可愛い。
その後ルチアに導かれ青龍様のいるところへ2人で山道を下って行く。
緑が生い茂っているところに人が歩ける道があるということは、この道を普段よく通っているということがよく分かる。
「そういえば1つだけ聞きたいことがあるのですが…なんで俺の名前を知っていたのですか?」
横を歩いているルチアの顔を伺いながら、質問をする。最初は聞くつもりは無かったのだが、やはり気になったので質問することにしてみた。
「青龍様に先程言われたのです。名前を言うのを忘れていたから、教える。と」
「我々がこっちに来てからってことですか?」
「はい。鳴宮様が起きる前に」
なぜこっちに来てからなのだろうか。
単純におっちょこちょいなのか、何か意図があってなのか。ていうかなぜ知ってるんだ。
やはり聞かない方が良かっただろうか。
いや、聞かなかったら聞かなかったでそれはムズムズするだけか。
「そうだったのですね。すみませんなんか疑っちゃって」
「いえいえ、私の方こそなんの説明も無く、申し訳ございません」
鳴宮とルチアの会話はこれ以降あまり会話が続かなく、沈黙する時間があった。
が、なぜか鳴宮は気まずいと思うことはなかった。
恐らくだがその理由はルチアの言葉遣いや態度とか最大限気を配っているからだと思う。
それと話しかけやすい雰囲気も醸し出しいてるからか。
いずれにせよ、2人きりでいる時間は鳴宮にとっては最高な時間だった。
「で、でけぇ」
数十分後、2人は城の門の前まで歩いてきた。
ビルの9階くらいの高さであろう城は見る人全てを凌駕するであろうほどの迫力がある。
灰色のレンガを主としたつくりであり天井部分は青色で塗装したレンガを使用している。
窓も各地に設置されており、見えるだけでも数十個ある。そして当然一切の汚れが無い。
周りには庭が広がっており、噴水や木々が生い茂っている。
さらに城の両側には城と同じ高さを誇る塔が建てられている。
これもまた灰色を主としてすべての建物が統一されており、シンプルなつくりとなっている。
「青龍様のお部屋は1番上の階にあります。少々広くなってますので、急ぎ足で参りましょう」
そう言うと、門を開け庭の真ん中を歩いて行く。
鳴宮もルチアの後を追い、城へと向かう。
歩いただけで分かる、芝生の感触。
恐らく良い物を使っているのだろう。艶やかさ、歩きやすさ共に抜群である。
扉の前まで行くと自動的に開いた。
周りを見渡すが誰もいない。
お城に自動ドアという、随分と特殊な作りになっているなとツッコミたくなったが、言わないでおく。
トラブルなってしまう可能性があるからだ。
扉の先の目の前には2階まで続く大きな階段があった。
そこから先は螺旋階段になっている。
赤い絨毯が敷いており、上には豪華なシャンデリアが設置されている。
大きいがゆえに室内全体がとても明るい。
手すりは木材で出来ており、途中お洒落な曲がり方をしている。
「ここの階段を上がり続ければ部屋へと繋がっております」
わざわざ説明してくれるルチアさん。
こういう所には初めて来るので実にありがたい。
そう思いながらルチアさんに連れられ階段を一段、また一段と上がって行く。
階段を上がることおよそ3分。ついに、青龍様の部屋らしき扉の前までのぼり詰めた。
青龍様との初のご対面。
少し緊張するな…
名前からしてカッコいいので恐らくダンディなお方だろうか。
はたまた、イケメン高身長だろうか。
いや、こんな大きな城に住む方だ。きっと、自尊心が高く、他人を見下す強面な男性だろう。
礼儀作法は全くもって無知な訳ではないが、少し心配だな。
などと考えていると、ルチアは鳴宮のことなど気にする事なく、扉を勝手に3回ノックした。
「ちょちょちょちょ、まだ心の準備ってやつが……
手土産とか持ってきてないし、そもそもどうやって挨拶したら良いかなんて……」
「安心して下さい。大丈夫ですよ。青龍様はそんな事気にするお方ではありませんから…………では」
「えっ、ちょ」
ルチアの右手がドアノブに触れ、大きな扉を開けた。キュイーン、と扉を開ける時に鳴る音が響きわたる。
「おう、ようやく来たか!遅かったな!まあ良い。こちらへ来い!歓迎するぞ!」
聞こえてきたのは小学生くらいの幼く可愛い女の子の声だった。
それに背丈もあまり大きくないようだ。
とりあえず良かった。
歓迎しているそうだし、強面で人を見下している系男子ではなくて……
「とりあえずわしの目の前の席に座れい!面接を始めるぞい」
鳴宮とルチアは言われたとおり青龍様の目の前の赤い高級そうな布がかけられた椅子に座る。
青龍様の椅子に机。その目の前にある2つの椅子。
壁には本棚がびっしりと並んでいるせいか、お城が大きかったせいか、部屋が少し狭く感じる。
……それとなんかさっき聞き捨てならない台詞を言っていような気がしたが……面接?なんのことだ。
聞き間違いなら良いのだが……
「まずはわしの自己紹介か。わしの名前はセリウス・グランデ。まあ、皆からは青龍と呼ばれおるぞい。呼び方はどっちでも良い」
子供服に身をまとっている青龍様はえっへん!と言わんばかりのポージングを椅子の上でしている。
ちなみに髪は青くひざのあたりまで伸びている。
だから青龍様って呼ばれているのか?いや、それなら青龍様の龍って何?てなるか……
小学生くらいの背丈しかないから龍とは1番程遠い存在だしな。
「ルチアもいま一度自己紹介をしてやれい」
「承知いたしました。私の名はルチア・スタンリッジ。ルチアとお呼び下さい。訳あって青龍様に仕えさせて頂いております」
言い終わると同時に両手でドレスの足元を持ち一礼しているルチア。
美しい……
「さて。次はお主だぞ」
「あ、えっと、鳴宮です。鳴宮真司と言います。呼びかたはどちらでも構いません。正直もう一つの世界に転移したというくらいしか理解してません。……終わりです」
しまった。ルチアさんに見惚れすぎて言い出しをミスってしまったのと、考えてたこと全部忘れてしまった。やべ。
「だめだ!ダメダメダメダメ駄目!」
鳴宮の自己紹介が終わるや否やまるで子供みたいに椅子の上で手足をジタバタ動かし始めた。
そ、そんなに俺の自己紹介が悪かったか?
なんか変な事でも言ったっけ?
「こっちの世界だとそんな名前じゃ駄目じゃ」
あ、そう言うことですか…
確かに、ルチアやセリウスといったカタカナで書きそうな名前がはびこる世界で鳴宮なんて名前じゃ変に思われるもんな
けど一言言わせておくれ。
そんなに駄目か?俺の名前は…
「う〜む、そうだな……それじゃあ、今からお主の名は…………イザベル。イザベルと名乗れい」
イザベルか………ちょっと女の子っぽい名前だが、悪くは無い。むしろカッコいいくらいだ。
「イザベルですか。分かりました。ちなみに何故イザベルなんですか?」
「ん?何となくに決まっているだろ」
何を言っているんだ?と言わんばかりの顔でこちらを見てくる。
母親が一生懸命考えてつけてくれた名前を何となくで変えるのは少し思うところがあるが…まぁいい。
こっちの世界だと鳴宮は不自然そうだしな。
「青龍様。そろそろ本題へ参りましょう」
ルチアがチラチラ時計を確認しながら言った。
「ん?あぁそうだな。あまり時間も無いしな」
「単刀直入に言うぞ。イザベルよ」
この部屋に緊張が走る。
イザベルはゴクリと唾を飲み込み青龍様の言う事に耳を傾ける。
「ここで働いて欲しい」
……………え?今なんて言った?聞き間違いか?
ここで働いて欲しいって言ったよな?言ったよな。
「えっっっと、と言うと?」
「仕事内容は、わしの代わりに色んな敵と戦って欲しいのだ」
「戦う?俺がですか?」
「うむ」
「む、無理てすよ。この俺ですよ。格闘技経験もないですし、ルチアさんみたいに魔法みたいなのも使えないのですよ。お断りさせて頂きます。しかも痛いの嫌いだし……」
昔一度だけ喧嘩をしたことがあった鳴宮は強く反対した。
だって痛かったもん。普通に。
「ほう。わしはお主の命の恩人だというのに…その恩人の頼み聞き入れてくれんのか」
命の恩人?さて、なんの事だろうか。
別に死にかけた事なんてないしな。
もしかして人違いとかじゃないだろうか。
「おっと、さてはピンときておらんな」
「お主が自ら死のうとしておったじゃないか。そこをわしらが助けた。立派な人助けじゃないか」
あ…………そうだった。俺、自殺しようとしてたんだ。
だからルチアさんに誘われた時、危機感もあんまり感じなかったのか………
でもなんで忘れてたんだろう…
「青龍様。嘘はいけませんよ。私達はイザベルこと鳴宮様が向こうの世界で産まれた時からずっそスカウトするタイミングを見計らってたじゃないですか。話を盛りすぎですよ」
ルチアはそう言いながら手でやれやれまたか、と言わんばかりのジェスチャーをしている。
そんなに話を盛るのが癖なのか、青龍様は…
「う、うるさい!良いじゃろ別に!ちょっとくらい盛ったって。ルチアは細かい事気にしすぎなのだ!」
だが実際、俺の命を救ってくれたと言う事実は変わらない。ルチアさんがあそこで声をかけてくれなかったら今頃………
そう考えたらやはり青龍様も命の恩人なのか。
たとえタイミングを見計らっていても。
「て、て言う事だ。イザベルよ。どうする?わしとしてはお主は喉から手が出るほど欲しい逸材だ。あのために………そのためなら無理やりでも……………
いや、何でもない」
無理やりという単語が出て少しビビったのか一時の沈黙の時間生まれた。
横で聞いているルチアの顔が少しずつ曇ってゆく。
青龍ことセリウスもまた、顔から笑みが消えてゆく。
そんな不穏な雰囲気の中、鳴宮ことイザベルはセリウスの問いに対する答えを答えた。
「ここで働かせて下さい!」
そう答えた後、イザベルはふと、こう思った。
あれ?この台詞どっかの映画で聞いたことがあるような…と、
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