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初めまして

子育てモノになります。

現実で感じたことを忘れないために、ただ、エッセイを書くだけじゃつまらないと思い書いてみました。

「どうして騎士様は、騎士団に所属するようになったのですか?」


 馬車の中。

 目の前に座る令嬢――ポル・カルルは俺に笑いかけた。解れたドレスにかれてもいない顎先まで伸びたオレンジの髪。

 二十歳になるにしては子供のような表情と仕草。

 その姿は貴族には見えなかった。


(やっぱり、噂は本当だったんだな。ポル・カルルは不要な娘とされていたんだ)


 護衛を任されたのが二日前。

 その短い期間でポル・カルルが一族の中でどういう扱いを受けていたのか直ぐに調べは付いた。

 ポル・カルルには優秀な姉がおり、それはもう大変可愛がられているらしい。知性、運動、魔法。全てが誇れる姉がいれば一族は安泰。

 だが、カルル家の父母は心配性だった。

 もし、姉に何かあったら、大変だ。

 妹を作りましょう。

 スペアとして、身代わりとして、なるべく年が離れていない方がいい。


 それが、ポル・カルルがこの世に生を受けた理由だった。

 二日間、調べただけで俺も知ることが出来たんだ。

 本人だってそれ知っているはずだろう。

 今、俺達が向かっている辺境へ嫁ぐこと。その意味を――。


「どうしました、騎士様?」


 彼女はあくまでも穏やかに、のんびりと俺の顔を覗き込む。

 馬車の屋根に響く雨音がやけに――五月蠅く感じた。

 俺は意識から雨音を払うように目を閉じる。

 余計なことは考えるな。

 いつも通りに過ごせばいい。

 俺はにっこりと笑い答えた。


「……ごめんなさい! いやー。俺、一人で誰かの護衛を任されたの初めてだったんで。緊張しちゃってました。なんて言ったか、もう一度聞いてもいいですか?」


 彼女の穏やかで明るい笑みにも負けない笑顔。

 誰かと過ごすときに一番大事なのは笑顔だ。それが、孤児だった俺が騎士団に所属して数年で得た経験だった。


「騎士様が、騎士団に所属した理由ですよ。魔物と戦ったり大変じゃないですか?」


 両手を合わせて頬に付ける。

 おっとりとした動作が良く似合う。


「まあ、そうですね。でも、騎士団格好いいじゃないですか。俺、ある人に憧れて騎士団に入ること決めたんですよ」


「なんて素敵な理由なのでしょう。そんな方に護衛して貰えるなんて光栄ですわ」


「……ありがとうございます」


 今回、辺境伯に嫁がされるのが、あなたでなく姉だったら、騎士団総出で護衛になっていたでしょう。

 俺はそんな意地悪を思い付いたが何とか堪えた。

 そもそも、姉が嫁がされる訳がない。


(ポル・カルルの雰囲気は苦手だ。ガラにもなく感情がブレちまう)


 自分を殺せ。

 笑顔を育てろ。

 俺は彼女の護衛についてから何度目になるか分からない自戒を唱える。それでも、まだ頭の隅に残るしこり。俺は馬車の窓を明けて頭を外に出す。

 五月蠅い雨が俺に打ち付け頭を冷やす。


「どうしました?」


「いえ……。そろそろ【ジグザ山】に突入する頃だと思いまして。この辺りは魔物も多いので、警戒しないと――」


 俺が窓を閉じると同時に、


 ガン、ガガガ。


 馬車の動きが止まった。何事かと俺は外に出ると、馬車を引いていた馬も人もどこかに姿を消していた。


「おい、どういうことだよ!」


【ジグザ山】は岩肌が突起する生命のない山だ。

 俺達が置いて行かれたのは、山の中腹に沿うようにして岩が削られた細い道。馬車一台が通れるだけの狭さだった。

 そんな場所で放置するなんて何を考えているのか。俺は姿を消した相手に叫ぶが、雨音が馬の駆ける音と俺の声を掻き消す。


「……魔物に襲われたのか、もしくは最初からこれが狙いだったのか」


 とにかく、ここで待っていてもキリがない。俺は馬車へ戻りポル・カルルに状況を告げた。貴族の娘は自分がどんな立場に置かれているのか分からないのか、


「まあ、それは大変ね」


 と、相も変わらずのんびりと笑う。

 駄目だ、限界だ。

 命が危ないことを分かってるのか。

 思わず、怒りで叫ぼうとした俺に――、


「あなただけでも逃げてくださいね」


 彼女はそう言った。


「へ?」


「最初から、両親は私を嫁がせる気なんてなかったんです。辺境伯との婚約も嘘なんですよ。ここで私を殺すための嘘」


 全てが偽り。

 それを知りながらも何故、ポル・カルルはこの馬車に乗り、死を待っているのか。


「これが初めて両親に求められたことですから。最後くらいは叶えて上げたいんです」


「あなたは、両親が死ねと言えば死ぬんですか?」


「はい」


 即答する彼女に俺は「理解できねぇ」と呟いていた。いや、本当は呟く気はなかった。でも、声に出てしまったようだ。

 騎士に相応しくない俺の言葉にも、ポルは笑うだけだ。


 それらが俺は気に入らなかった。親の言う通りに従い死を受け入れ笑うポルも、娘を殺そうとするカルル家も。


「俺は護衛です。魔物からポル様を守って親の元へ連れて帰ることを誓います」


 強引にポルの手を掴んで馬車から降ろす。俺達が暮らしていた街までは歩いて何日かは掛るだろうが、絶対に辿り着いて見せる。

 雨は容赦なく俺達に降り注ぐ。先ほどよりも大きくなった雨粒は、娘を殺そうとする悪意のようだ。


「なっ……」


 だが、薄暗くなった景色の中、自然現象では有り得ぬ光景が俺の行く末を邪魔した。

 狭い岩道を塞ぐようにして、巨大な水の壁が作られていた。


「これは――魔法?」


 魔物も魔法を扱う種族はいるが、この【ジグザ山】での目撃情報は聞いたことがない。となれば、人間の仕業だ。

 やはり、誰かがポルを殺そうとしている。


「どうやら、帰らせてはくれないみたいだな。取り敢えず、先に行きましょう」


 踵を返して馬車に戻ろうとした時――、


 カラン。


 頭上から小さな小岩が転がってきた。雨に削られ落ちてきたのかと一瞬考えたが、俺は直ぐに考えを改めた。

 誰かがポルを殺そうとしている。

 ならば、全てを攻撃とみなすべきだ。


 俺の予想通り頭上から巨大な岩石が転がる。人間二人くらいなら容易につぶせるであろう大きさ。俺は腰に携えた剣を手に取り頭上へ振るう。


「舐めるなよ。岩ぐらいで俺が死ぬか!!」


 岩をサイコロ状へ切り裂く。

 岩よりも固い魔物の皮膚を何度も切り裂いてきたのだ。

 これくらい容易い。


「凄いです! 騎士様は皆、そんなことを出来るんですか?」


「まあ。大体は。さ、早く戻りましょう」


 純粋に驚かれると、やはり、自分のリズムが狂う。

 裏表のない笑顔に戸惑う。

 再び、カランと小石が落ちた。


「無駄だって分かっただろうに」


 だが、まだ頭上に刺客がいるなら倒してもいいかもしれない。落ちてくる落石に意識を向けると――足元が崩れた。細い道全てが落石となって落ちていく。


「しまった!」


 頭上に意識を向けすぎた。

 後悔しても遅い。

 足場の無くなった場で剣を振るうが焼け石に水。俺は遥か眼下に落ちていく。


「……ポル様!」


 こうなったら、ポル・カルルだけでも!

 俺は一緒に落下しているポルを空中で引き寄せ抱きしめる。雨に濡れた小さな体は、冷え切っているのか芯まで冷たい。


「……巻き込んでごめんなさい」


 腕の中でポルが謝る。

 死を覚悟したのだろう。

 少女は初めて泣いていた。彼女の涙が雨に流されると同時に――、


「ガハっ!!」


 俺は地面に打ち付けられた。

 あまりの衝撃に痛みを通り越して痺れとなる。それになんか全身が熱い。これだけ暖かければポルの暖になるかもしれない。

 ぎゅっと令嬢を抱きしめるが、力が入ったのかも分からない。

 腕の中で眠る彼女を見て――俺もまた意識を失った。

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