つちのこうやのラブコメ (それぞれ別々にお読みいただけます)
文化祭の後夜祭で学年一のイケメンにステージの上で告白された大人しめの美少女が恥ずかしくなって体育倉庫に逃げてきたけど、そこには後夜祭のノリに耐えられずに一人でゲームしてた僕がいた
盛り上がる後夜祭の様子は窓から見える。
しかしここは一人。
ゲームをしながら体育マットの上で寝転べる。
そんな天才的な場所、体育倉庫を活用してるのは全校生徒で僕一人である。
まあつまり、僕はぼっちで後夜祭で浮いてるので逃げてきただけなんだけど。
あれだよね。
テストで勉強してないぜアピールしつつ、実際はめちゃくちゃ勉強ちゃんとやってたみたいなのと似ててさ。
後夜祭とはだるいわー、とか言って僕と意気投合してた人に限って、普通に女子と踊る気満々だったりするからな。
まじでこのやってないフリするやつ、校則で禁止しよう。
うん。
で、まあでも僕は今ゲームが楽しいし、眠くもなってきたので寝てもいいしって感じで快適なので、まあ特に問題はない。
ふとステージの上を見れば、告白大会が開催されていた。
成功率は、80パーセントくらいと言われている、後夜祭ステージの上での告白。
みんな80パーセントってすごくね? とか言ってるけど、全くすごくない。
ステージの上で告白できるやつなんて、勝算があるってだけなのだ。
模試でA判定ばっかりのやつって、八割方受かってるらしいぞってのと同じだ。
なんもすごくないよなそうだよな。
ほら、今もちょうど、学年一のイケメンと言われてる人が、告白しようとしてるところだぞ。
呼び出したのは……あ、これは少し意外。
おとなしめの、でも美少女な、夕原さんだった。
夕原さんがステージに上がってくる。
そして、盛り上げ役の人が、夕原さんにマイクを添えて……
「…………ご、ごめんなさいっ」
めっちゃ恥ずかしそうにしてステージを降りちゃった。
あー、わかるわ、そもそも好きとか以前にステージに登るのが恥ずかしいよな。
ほんとそれ。
ステージの上で普通に呼吸してんの、呼吸のシステム多分普通の人間と違うでしょ。
でもあれか、これも失敗扱いなのかな、いや普通に後でOKして成功ケースになるかな。
わかんないけど、がんばれー。
僕はゲームに戻る。
と、その時、体育倉庫の扉が開いた。
うわやべ先生か?
と思ったら、夕原さんだった。
あ、ここに逃げてきちゃったか……。
「うわわっ、ええええ」
そして僕のスマホの画面の明かりにびっくりする。
僕は体育倉庫の電灯を一つだけつけた。
「ごめん。あのー、クラスメイトの、玉田です」
「ああー、なんだ、ゆ、ゆうれいかと思った」
「ごめんなさい」
「ううん大丈夫です」
「……」
「……」
いややばいぞ。夕原さんが一人で落ち着きたいところなのに、僕がいる。邪魔すぎな。
「あっ、そのゲームやってる人初めて見た……!」
「え?」
「私やってるよ。フレンドなろうよ」
「まじで? 僕もやってる人初めて見た」
「ね、面白いのにねー」
「そうだよな」
よかった。共通点があったおかげでなんとか耐えてる。
「……フレンドなれた」
「なれたね。ありがとう」
「ところで、玉田くんは、どうしてここにいるの?」
「あー、それはね、なんか後夜祭の雰囲気が合わなくてここでゲームしてた……」
「わかる……!」
「わかるの?」
「うん。私もあんまりわいわいとした感じ好きじゃないもん」
「そっか。しかもさっき窓からステージ見てたけど、告白されてたもんね」
「そう。どうやって断ろうかな……」
真剣に考え込み始めながら、僕と同じマットに座る夕原さん。
「え、断るの?」
「うん。好きっていう感じじゃないから」
「そうなの? でもめっちゃかっこよくない?」
「かっこいいけど。なんか合わなさそう。それこそゲームとかやらなさそうだし」
「たしかにね」
「あー、でもクラスにこんなところで一人でゲームやってる人とかいて、少し安心しちゃった。なんかみんなああいうノリが好きだと思ってたから」
「僕も安心した」
窓の外を見てみれば、また別の人が別の人に告白していた。
そんな中、誰も明かりがついていることすら気づかない体育倉庫で、ただゲームをしているっていうそのことを、なんか少しだけかもしれないけど、ポジティブに考えてくれる人がいて、嬉しかった。
☆ ○ ☆
それから一年後の文化祭。
また今年も、後夜祭がやってきた。
今年も後夜祭からは、逃げているわけだけど、去年とは場所が違って、今年は屋上である。
ステージを遠くに見下ろす感じとなっていて、ステージだけじゃなくて、星々にもちゃんと注目できるくらいの高さだった。
そして今年は、最初から一人ではない。
隣には夕原明希がいた。
「今年も告白大会始まってるねー」
「だな」
僕と明希は、そこそこは仲良くなっていた。
ゲームしたりするのもいいし、最近は関係なく少し出かけたりするようにもなった。
とても趣味が合って一緒だと楽しい女の子で、それに加えて、穏やかに可愛かった。
「ねえ、告白ってみんなが見てるところでも恥ずかしいけどさ、誰も見てなくても、恥ずかしいよね」
「……そうなのかもな」
僕はうなずいて、そして明希を見た。
暗くて、ステージの光は、ちょっとしか届かない。
けれども、明希の眼差しは、届いた。
「……私はね、好きなの。あなたが」
「……うん」
恥ずかしいのに言ってくれてしまった。
そして言われても恥ずかしい。
けど、誰も見てないから、逃げたいとは思わなかった。
いや違う。
誰も見てないからではなくて、明希のことが好きだから、絶対にここにいたくて、そして早く返したかった。
「僕も好き」
「よ、よかった……。じゃあ……付き合えるの?」
「うん、付き合おう」
誰も見てない中、後夜祭の雰囲気とは別の雰囲気を、明希と僕は楽しんでいた。
そして、それでもいいと初めて思わせてくれた女の子のことを、僕はずっとこれからも好きでいるに決まってると思った。
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