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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第七章 奴隷と小悪魔
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奴隷と小悪魔3

 寝室のベッドで横になっているフォルトとレイナスは、背中を向けて服装の乱れを直しているカーミラに視線を向けた。

 夜の情事を終えたばかりだが、これから彼女はやることがある。


「御主人様、行ってきまーす!」


 振り返ってウインクしたカーミラは、その場で消えて魔界に向かった。デルヴィ伯爵領で、最後の仕上げをしてくるそうだ。

 それについては任せているが、フォルトは別件で頭を悩ませていた。

 二つほど問題があり、その一つをレイナスに尋ねる。


「レイナスはレベルが上がっていないよな?」

「そうですわね。三十を越えると、訓練だけではどうしても……」

「やはり実戦が必要か」


 双竜山の周辺には、レイナスが狩れる魔物はいない。

 亜人の降伏を受け入れたので、こちらから攻撃できないのだ。しかも彼女とはレベル差があって、自動狩りで倒しても意味が無い。

 適している相手は、ダマス荒野に棲息せいそくする石化三兄弟だ。

 ただし討伐すると、ソル帝国が鬱陶うっとうしい。魔物が防波堤になっているので、やはり数を減らすわけにはいかない。

 実に悩ましい。


(だからと言って、西のビッグホーン地帯では無理だな)


 マリアンデールが言うには、ビッグホーンの推奨討伐レベルは八十らしい。

 そしてソフィアからは、レベル五十以上の勇者チームが討伐したと聞いている。だがレベル三十のレイナスでは、アーシャと組んでも討伐など不可能。

 同じ地域に棲息する魔物や魔獣も、生存競争ができるぐらいは強いのだ。

 そう考えると……。


「やり込み用の領地だな」

「え?」

「何でもない。まぁ暫くは訓練を続けてね」

「はいっ!」


 こちらの件については、今のところ打開策が無い。

 状況を確認しただけで良しとして、もう一つの悩みを口にした。


「三国会議ねぇ」

「フォルト様は行かれるのですか? ピタ」


 擬音のとおり密着してきたレイナスの頭を、フォルトは軽くでる。

 彼女の服装は乱れたままで、足を絡めているところが官能的だ。情事の続きを始めたいところだが、まずは彼女からの質問に答える。


「考え中」

「まだ時間はありますわよね?」

「うん」


(でもなあ。そろそろ決めないと拙い。あれから一カ月ほど経っても、俺の答えは出ていない。何かにつけて先送りしていた結果だが……)


 グリムが持ち込んできた三国会議の件。

 新たな聖女が決定していないので、元聖女のソフィアが参加するのだ。彼女からは護衛してほしいと言われた。

 怠惰で引き籠りのフォルトには、とても荷が重い依頼である。


「さっさと聖女を決めてくれればいいのにな」

「まだですの?」

「うん。まったく以って使えない神様だ」

「ふふっ。ですが空を飛んでいきますわよね?」

「移動自体は問題無いが……」


 魔人フォルトは、スキル『変化へんげ』で飛行が可能である。

 移動手段はあるので、わざわざ王侯貴族と三国会議に向かわなくても良い。問題にしているのは、ソフィアの庇護ひごについてだった。

 彼女を危険から守る約束を破りたくないのだ。

 冒険者アイナを魔の森で制裁した理由は、約束を破ったからである。

 自身の信条としても、同じことはやりたくない。となると三国会議の会場に向かうために、双竜山の森から出る必要がある。

 実に、実に悩ましい。


「三国会議なら、エルフ族に会えるかもしれませんわね」

「なにっ!」

「フォルト様?」

「エルフ! 会いたいな。そうかエルフがいるのだったな!」


(これは盲点だった。三大大国の一つは亜人の国じゃないか! ならちょっと森から出てもいいかもしれないな。一人ぐらい欲しいぞ!)


 エルフ族という言葉を聞いて、強欲のバランスが怠惰を超える。

 フォルトの中で、エルフは特別だった。ゲームのキャラクターとして、常に選んでいた種族である。

 こうなれば、後一押しで腰が軽くなりそうだ。


「よしレイナス! 続きだ!」

「きゃ!」


 エルフ族の存在に気付かせてくれたレイナスに感謝である。フォルトは魔法学園の制服の中に悪い手を入れて、荒々しく抱き寄せた。

 そして彼女が考える女性の幸せを、存分に味合わせるのだった。



◇◇◇◇◇



 薄暗い鉄格子の中には、鎖でつながれた女性が座っていた。

 汚れて所々破けた服を着ており、酸っぱい臭いを発している。与えられる食事が少ないのか、体は痩せこけていた。鼻が潰れた状態で、何カ所も傷が刻まれている。また女性の首には、複雑な紋様が描かれていた。

 これは、呪術系魔法によって刻まれたものだ。一般的には奴隷紋と呼ばれ、命令を強制させる効果があった。逆らえば体じゅうに激痛が走るのだ。

 命令できる人物は、紋様師と呼ばれる魔法使いが設定できる。

 奴隷売買では必須の職業だ。

 そして誰かに買われるまで、この女性の主人は奴隷商人になっていた。


「………………」


 周囲には誰もいないが、何の前触れもなく鉄格子の扉が開く。しかしながら女性は座った状態で、ただ床を眺めていた。

 気付いていないのか、はたまた動けないのか。

 そして黒い影が、鉄格子の前に現れた。


「貴女は誰?」

「名も無き奴隷です」


 黒い影の問いに対して、女性は反射的に答えた。にもかかわらず、顔を上げるでもなく驚いている素振りもない。

 まるで抜け殻のようだ。


「貴女はカルメリー王国第一王女ミリア」

「いいえ。名も無き奴隷です」

「貴女はデルヴィ伯爵夫人ミリア」

「いいえ。名も無き奴隷です」

「幸せな家族のところに戻りたくないの?」

「はい。私は主人に奉仕する奴隷です」


 問いに答えた女性は、奴隷商人に売られたミリアである。

 そう確信した黒い影は、ゆっくりと鉄格子に入って彼女に近づく。すると光に照らされて、影の形が鮮明になった。

 人間の姿だが頭部には角・背中には翼と尻尾まで生えている。

 黒い影の正体は、大鎌を携えたリリスのカーミラだった。


「ちゅ」

「………………」


 カーミラはミリアの顎を上げて、カサカサと乾いた唇を奪う。

 それでも反応が無いので、下半身に指をわせた。


「ねぇ。貴女はどこが感じる?」

「ぁっ……」

「見っけ」

「ぅぁ!」


 ミリアを責め立てると、体は正直なのか反応した。

 これに気分を良くしたカーミラは、行為をエスカレートさせる。弱点を見つけた後は重点的に弄って、彼女を絶頂させた。

 フォルトが見ていたら、目を血走らせて興奮するだろう。


「はぁはぁ」

「生まれ変わりたくはない?」

「はぁはぁ」

「貴女を助けてあげようか?」

「……けて」

「聞こえないよ?」

「助け、て……」

「貴女は誰?」

「私は名も…………。え?」


 憔悴しょうすいしきったミリアは、ここで初めてカーミラの姿を認識したようだ。

 虚ろだった目が見開かれ、口を開けてほうけている。


「じゃーん! カーミラちゃんでーす!」


 カーミラはポーズを決めている。右手で横ピースをして左手を腰に当てながら、前屈みの状態でミリアにアピールした。

 そして最後に、ウインクで締める。


「だっ誰っ?」

「だからカーミラちゃんでーす!」

「え? 何で? 誰なの?」

「ちゅ」


 問いには答えたはずだが、正気に戻ったばかりなので混乱しているようだ。

 騒がれても困るカーミラは、再びミリアの唇を奪って言葉を封じた。絶頂したばかりなので、体がビクンビクンと痙攣けいれんしている。

 このまま堕としたくなるが、フォルトに怒られそうなので控えた。


「悪魔のカーミラちゃんだよぉ」

「あく、ま?」

「貴女の絶望の感情を受け取って、魔界から来ちゃいましたぁ!」

「ひぃ!」


 驚いたミリアは、床に座ったまま後ずさろうとした。とはいえすでに、牢屋ろうやの隅っこでうな垂れていたのだ。

 カーミラから離れられず、これ以上は後ろに下がれない。


「助けてほしいって言ったよねぇ?」

「い、い、言いました!」


 そうは言っても、まだミリアはガタガタと震えている。

 実際に頭部から角が生えて、翼や尻尾が見えるのだ。人間の常識から考えると、悪魔は恐怖の対象である。

 失神しないだけマシかもしれない。


「怖がらなくてもいいよぉ。殺すわけじゃないからねぇ」

「はっはい!」


 カーミラは優しい声と仕草を交えて、ミリアを落ち着かせる。目的は連れ帰ることなので、ここで死んでもらっては困るのだ。

 とりあえずは話を進めるために、彼女から少し離れた。


「誰かに買われたら、一生奴隷ですねぇ」

「そっそれは……」

「だから助けてあげますよぉ」

「え?」

「でも条件があるんだよねぇ」

「条件、ですか?」

「カーミラちゃんの御主人様に仕えてもらうよぉ」

「仕える……。奴隷ではなくて、ですか?」

「貴女次第かなぁ。どうする?」


 絶望状態のミリアにとって、これ以上の条件は無いだろう。一生懸命に考え込んでいるが、答えなど一つしかないのだ。

 口角を上げたカーミラは、彼女を追い込むように言葉を続ける。


「ちなみにすぐそこまで、貴女を買う男が来てるよぉ」

「えっ!」

「今は眠らせてあるけどねぇ。起きたら買われちゃいまーす!」

「いやっ!」

「カーミラちゃんの御主人様なら、暴力を振るわないし優しいですよぉ」

「でも……」

「それにですねぇ。貴女の醜い姿を元に戻せますよぉ」

「ええっ!」

「体じゅうに傷があるねぇ。子供もはらんじゃったかなぁ?」

「………………」

「誰の子供ですかぁ?」

「っ!」


 ここまで会話したところで、カーミラが前屈みになった。

 そして無表情になり、ミリアに顔を近づけて告げる。


「御主人様なら貴女に希望をくれる。貴女は新しい人生をやり直せる。神様は貴女を救ってくれない。でも御主人様なら、今の状況から救ってくれる」

「あ……」

「御主人様は悪魔すら使役する御方。御主人様は貴女をご所望よ。私と契約を結び、御主人様に救ってもらいなさい。身も心も、すべてをささげなさい」

「あ……」

「決めたかなぁ?」


 無表情だったカーミラは笑顔に変わり、ミリアに問いかける。

 先ほどまでの話は無かったように振る舞う。しかしながらあの言葉は、彼女の脳裏に残っているだろう。

 拉致したときのレイナスにも、同様にささやいたことがある。


「契約?」

「悪魔との契約は知ってるよねぇ? 簡単ですよぉ」

「悪魔……。契約……」

「ここから連れ出したら、御主人様と遊んでもらいまーす!」


 「遊ぶ」という言葉に、ミリエの表情が曇る。

 カーミラが首を傾げると、彼女はその理由を口にした。


「また私は犯されるのですか?」

自惚うぬぼれちゃ駄目だよぉ。今の貴女にそんな価値はあるのかなぁ?」

「………………」

「選択肢は無いと思うんだけどねぇ」

「………………」

「ほらっ! そろそろ眠らせた客が起きそうでーす!」

「わっ分かりました!」


 奴隷として買われると、奴隷としての一生しか送れない。今この瞬間に選択しなければ、ミリアの人生は終了である。

 彼女は恐る恐るでも、手を伸ばしてきた。

 しかしカーミラはその手を取らず、最後の確認をする。


「悪魔との契約を破るとねぇ。ドッカーン! だよぉ?」

「っ!」

「どうしますかぁ?」

「遊びはいつまでですか?」

「御主人様が飽きるまででーす!」

「そっそれは……」

「貴女が結果を出せば、契約を解除してくれるかもねぇ」

「お願いします!」


 疑問や不安はあるだろうが、ミリアに選択肢は無い。

 伸ばされた手が下がらないことを確認したカーミラは、彼女の手を握る。すると左胸に、小さな魔法陣が浮かび上がった。

 アーシャと契約を結んだときと同様だ。


「『契約けいやく』完了でーす! じゃあ建物から出ますよぉ」

「もっもう出られるのですか?」

「簡単簡単。こんな鎖なんてスパッとねぇ」

「ひっ!」


 カーミラは大鎌を振り上げて、ミリアの首に繋がった鎖を斬る。

 レベル百五十の悪魔なら、この程度のことは造作もないことだ。後は連れ出すだけだが、仕上げとして魔法を使った。



【スリープ/睡眠】



「あ……」

「貴女にも眠ってもらうねぇ」

「すぅすぅ」

「おやすみ。次に目覚めたら御主人様と会えまーす!」


 邪悪な笑みを浮かべたカーミラは、ミリアに最後の言葉を投げかけた。深い眠りの後は、双竜山の森で起きることになる。

 ともあれ背伸びをして、自分の影に向かって話しかけた。


「ニャンシーちゃん! いいよぉ」

「終わったかの?」


 カーミラの影から、ニャンシーが飛び出してくる。

 目的は達成したので、さっさと撤収するのだ。


「うん。ドッペルちゃんを連れて先に戻ってねぇ」

「カーミラはどうするのじゃ?」

「ギュイーンと上がってブイーンって落ちまーす!」

「だから眠らせたのじゃな?」

「悲鳴とかうるさそうだしねぇ」

「そうじゃな」


 カーミラの言葉の意味するところは、空を飛んで落ちることだ。

 この方法なら、短時間で帰れる。しかしながら物凄い推進力なので、ミリアが起きているとショック死の危険があった。

 手間暇をかけたからには、彼女を生きた状態で届けたい。


「あっ! ニャンシーちゃん!」

「何じゃ?」

「そこで寝てる客も連れていってねぇ」

「人間が魔界に入ると、長く生きられぬぞ?」

「どうせ死ぬから構わないですよぉ。なるべく生かしといねぇ」

「ならばわらわの魔力で包むかのう。じゃが……」


 人間が魔界に入ると、数日で死に至る。

 瘴気しょうきと呼ばれる空気のせいだが、魔力でガードすることは可能だ。とはいえ、ニャンシーの魔力では足りなさすぎる。

 常に魔力が減っていくので、途中で枯渇するだろう。


「大丈夫でーす!」

「到着して生きていれば良いのじゃな? であれば可能じゃ」

「後始末もよろしくねぇ」


 カーミラはミリアを抱えて、鉄格子の中から出た。

 そして、奴隷商人の拠点を後にする。

 すでに夜なので、周囲は真っ暗だった。当然のように、人間の気配は無い。ならばと空を見上げ、翼をパタパタと動かしながら飛び立つのだった。

Copyright©2021-特攻君

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