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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第七章 奴隷と小悪魔
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魔人と冒険者3

 フォルトが住まう屋敷の周囲には、食料を生産する様々な施設が存在した。

 その一つが野菜を栽培する畑で、管理は森の精霊ドライアドが担っている。また作業は、トレントという樹木の魔物が行っていた。

 人間がやるような工程を経ずに、特殊能力や魔法を使うところが特徴的だ。大地に過剰な栄養を与えて、作物の成長を早めるなどは朝飯前だった。

 さすがに一日では収穫できないが、数日ほどで新鮮な野菜が入手できる。


「ふぁぁあ!」


 そして現在は、シェラが農作業中だった。運動の一環らしいが、トレントたちに混じって野菜を収穫している。

 その光景を眺めているフォルトは、地べたに寝転んでいた。


「魔人様、そんなに見られると恥ずかしいですわ」

「気にしないで」


 フォルトの趣味であるアバター観賞として、シェラに白衣をプレゼントした。女医さんの格好をした彼女が、農作業をしている姿はえる。

 身内ではないので手を出さないが、脳内でイメージするのは自由だ。


(女医さんは頭が良くてプライドが高い。住む世界が違うとか思っていたけど、仕事とプライベートの顔は如実に違うんだよなあ)


 若い頃であれば、フォルトにも友人はいた。

 その人物に、女医の恋人を紹介されたときの印象が頭に残っている。まるで医者と感じさせないイメージで、当時は衝撃を受けたものだ。

 自宅に引き籠った後は、友人やその恋人と会うことはなかった。しかしながら印象は拭えず、今に至っている。


「シェラさんって恋人はいるの?」

「いえ。いませんわ」

「へぇ。今までにも?」

「えぇ。ずっと神殿に入っていましたので……」

「そうなんだ」


 女性の司祭や神官は、信仰する神に身をささげているらしい。夫は神々と思っている者も少なくないとの話だ。

 それについてフォルトは、不遜にも勿体もったい無いと思った。

 シェラは見た目良し・性格良し・スタイル良しの三拍子である。


(ということは……。俺は神様からジェシカを寝取った極悪人だな)


 記憶からほとんど消えていた女性神官を思い出して、フォルトは苦笑いを浮かべてしまう。あのときは初めての暴走だったが、彼女を寝取ったことになるだろう。

 もちろん天罰が下るなら、全力で抵抗するつもりだ。


「何か?」

「シェラさんを寝取ったら神様は怒るかなと、ね」

「私を抱きたいのですか?」

「否定はしないよ」

「私は別に神の所有物ではありませんわ」

「所有物かあ」


(シェラさんは味なことを言うなぁ。暗黒神に仕えている司祭だけど、神に身を捧げているわけではないのか。さてさて、神様はどう考えているのやら……)


 こちらの世界には、実際に神々が存在する。

 神託として神の声が届くうえ、信仰系魔法の源になる存在だ。と言っても地上に顕現して、その姿を見せたことはない。

 そこでフォルトは、シェラに質問を投げかけた。


「神様はどんな姿なのでしょうね?」

「え?」

「俺の予想だと、ひげモジャで翼が十枚あって……」

「ふふっ。想像したこともなかったですわ」

「気になりませんか?」

「肖像画や石像などがありますので、それで十分かと思いますわ」


 信者にとって、神の姿形は意味を持たない。

 どのような姿であれ間違いなく神は存在して、信者を導くとされていた。また肖像画や石像で神を表現するのは、シンボルとしての意味合いが強い。

 たとえ違ったとしても、神の存在を近くに感じられることが重要だった。


「私からも良いでしょうか?」

「何ですか?」

「魔人様は魔神を目指さないのですか?」


 久々に魔神の話を聞いた気がする。

 フォルトとしては、成り行きで魔神になるなら構わない程度の認識だ。もちろん怠惰なので、わざわざ動いて目指すことはしない。


「目指すと言ってもなあ」

「面倒ですか?」

「ははっ。分かっていますね!」


 フォルトの行動理論など、付き合いの短いシェラでも理解していたようだ。

 双竜山の森に生活の場を移してからは、駄目男ぶりに磨きがかかっている。しかも今まで以上に、自堕落生活を満喫していた。

 魔神というよりは、引き籠りの神様かもしれない。


「俺はカルマ値が足りないらしいですよ」

「そうかもしれませんわね」

「何か知ってるのですか?」

「いえ。今の魔人様は中立と思ったまでですわ」


(中立か。合っているのかな? 率先して悪事をしてるわけでもないし、誰かに褒められるようなことはしていない。好きなようにやってるだけだな)


 悪事と言っても、カーミラのやることを容認しているだけだ。

 憤怒に身を任せて人を殺害したことがあっても、それを自発的とは言い難い。人間の倫理観からすれば悪事となるが、フォルト自身はピンときていなかった。

 種族が魔人に変わった影響かもしれない。


「悪に寄っているとは思いますわ」

「ですよね」


 フォルトの欲しいものは、カーミラが他人から奪っている。

 対象となった人からすれば、確実に悪と思うはずだ。だがそれとは反するように、シェラやソフィアを庇護ひごしている。

 これらのことを総合して、中立から悪寄りと思われたのだろう。

 的を射た見解だが、自身はあまり深く考えたことはない。魔人の力をセーフティとして、今を好きに生きているだけだった。

 そこまで考えたところで、新たに収穫された野菜を眺める。


「ほら魔人様。大きなホワモルが採れましたよ」

「ははっ。旨そうですね」


 ホワモルとは、日本で大根と呼ばれる根菜だ。

 こちらの世界の住人は、葉っぱだけを食べる。根の部分は土に埋まっているので、不浄な毒野菜として捨てられるのだ。


「浄化をしないといけませんわ」

「しなくても食べられるのに……」

「そうでしたわ! 魔人様は博識ですね」

「あっちの世界の知識ですよ」

「異世界人でしたわね。それにしても不思議な御方ですわ」

「俺が、ですか?」

「えぇ。では、私を抱いてください」

「はい?」


 シェラが恋人の話を戻した。

 フォルトは適当に流したのだが、彼女にとっては本命の話だったらしい。


「俺の身内になると?」

「はい。ローゼンクロイツ家の姉妹共々お願いしますわ」

「マリとルリに気を遣っていますか?」

「否定はしませんわ。お二人は恩人なのです」

「恩人かあ」


(抱くことで身内になるわけでもないけどなあ。ただの儀式みたいなものだ。庇護した時点で身内と思っているし、これは自分への戒めなのだ)


 昭和時代の日本男児的思考である。

 情事をすることによって、傷物にしたと考える時代だ。情事の結果――妊娠――ではなく、肉体関係に至ったことに対する責任を持つという思考。

 マリアンデールとルリシオンは安心が欲しいと言った。

 それは、フォルトも同様である。彼女たちが、自身の精神安定剤になっていた。だからこそ情事まで進んで、何があっても守るという決意を責任としたのだ。

 レイナスは特殊だったが、今は責任を取って身内にしている。


「駄目ですか?」

「ならシェラさんがしてください」

「え?」

「俺を押し倒して犯してみてください」

「ええっ!」

「どうしました?」

「わ、わ、分かりましたわ! えいっ!」

「おっと……」


 地べたに寝転んでいたフォルトは、後の行為をシェラに任せる。少し意地悪だったかなと思ったが、これは新鮮な状況だった。

 この情事の果てに、彼女が信奉する暗黒神デュールが何と言うか。

 それを想像しながら、悪い手を開放するのだった。



◇◇◇◇◇



 シェラを身内にしたフォルトは、テラスの椅子に腰かけていた。

 そして隣に座っているマリアンデールから、彼女の話を切り出される。とはいえ、気まずいことは何もない。


「貴方、シェラを抱いたらしいわね」

「いや。襲われたと言ったほうが正解だ」

「やらせたんでしょ! まったく……」

「駄目だったか?」

「いいわよ。シェラも悩んでいたみたいだしね」

「へぇ。そうなのか」


 現在カーミラは、ソル帝国の町に出張中だ。

 そのためフォルトの隣は、マリアンデールが占拠している。しかしながら体型がアレなので、密着度は低い。

 それが気に入らないのか、上から目線で催促してきた。


「貴方、もっと抱き寄せなさい!」

「でへ」

「とにかく、シェラは私たちに気を遣い過ぎなのよ」

「うぅ……」


 この場にはシェラもいる。

 恩人の姉妹が認めた男性と関係を持つのは、身の程知らずと思っていたのか。思い悩んでいたようだが、本人たちからすれば要らぬ忖度そんたくだったようだ。

 それとなく後押し――ほぼ命令――されて、彼女は一歩を踏み出した。


「身分に遠慮した感じか」

「そうなのよ。でもシェラに遠慮されたくないわ」

「ははっ。マリやルリならそう言うだろうな」

「ほらシェラ、もっと押し付けて挟んでやりなさい」

「はい!」


 マリアンデールに促されたシェラは、テラスの椅子に座っていない。

 フォルトの後ろにいて、カーミラがやっていること真似しているのだ。


「でへ。気持ちいい」


 シェラは、身内の中では一番の巨乳である。

 一番といっても、他が小さいだけなのだが……。


「マリの家は伯爵とか?」

「魔族に爵位は無いわよ」

「そうなんだ」

「魔族は力がすべてと教えたわよね? 強い家が上位になるわ」

「え?」

「分からないかしら? 上位の家に喧嘩けんかを売っていいのよ」

「はい?」

「殴り合いに限らず、謀略や知略でもいいわ。当主を倒せば立場が逆転ね」

「な、なるほど?」


 まさに弱肉強食の世界で、魔族は下剋上げこくじょうを認めていた。

 これについて魔族は、かなり徹底している。命令を聞きたくなければ、力で倒せと言っているのだ。

 この勝負で敗北した家は、文句を言わずに命令に従うしかない。


「ローゼンクロイツ家に命令できるのは魔王だけだったわ」

「魔王……。そう言えば名前を知らなかったな」

「嫉妬の魔人スカーレットが魔王よ」

「なっ! 魔人が魔王?」

「だから、人間に倒されたのが信じられなかったのよね」

「魔王って魔族がなるものじゃないのか?」

「力がすべて。それは種族に関係なく適用されるのよ」

「壮絶だな」


 嫉妬の魔人スカーレット。

 嫉妬を増長させる強欲や色欲を持たない魔人で、皆が思うほど嫉妬深くない。しかしながら強さは桁外れで、魔族の王として君臨していた。


「ソフィアに顛末てんまつを聞いて納得したわ。もういいけどね」

「ははっ」


 魔王は神魔剣を封印するために、自らを犠牲にして冥界に堕ちた。

 その場にいたソフィアの話なのだから間違いは無い。だが、人間の勇者が魔王に勝利したというプロパガンダが浸透している。

 今更事実を伝えたところで、誰も信じない内容だった。


「それよりもシェラ。魔王の娘は生きているのかしら?」

「ティナ様ですか? 私には分からないですわ」

「魔王の娘? 魔人に子供は作れないんじゃ……」

「養子よ。魔王が自ら選んでいたわ」

「へぇ」

「さすがに魔族狩りは返り討ちにしてるでしょ」

「ふーん。強いのか」

「甘ちゃんだったけどね」


 魔王の娘ティナは、極度のマザコンだったらしい。

 いつもスカーレットにベッタリで、他の魔族とは交流が少なかった。しかも嫉妬の魔人の娘として、ほとんど表に出されていない。

 それでも魔王が選んだ娘であり、強さは折り紙付きだった。


(魔王の娘ねぇ。ヒットしたゲームの続編みたいな奴だな。まぁ生きていても会いたくはない。身内にした彼女たちは返さないぞ!)


 フォルトとて、七つの大罪を持っている。

 身内となった魔族の三人は、絶対に渡すことはない。


「フォルトぉ、オヤツよお!」

「ああんルリちゃん! 待ってたわ」

「はい。お姉ちゃんに、あーん」

「あーん」

「フォルトにも、あーん」

「あーん」


 オヤツを持ったルリシオンが、意気揚々と屋敷から出てきた。

 本日のオヤツはキュウリスティックだ。

 簡単なオヤツだが、実は彼女のこだわりが詰め込まれている。調味料を厳選して、長時間漬けてある逸品なのだ。

 食感もすばらしく、ポリポリと音を立てながら食べられる。


「シェラはどうだったのお?」

「責め上手」

「ちょっと魔人様!」

「あ……。失礼」


 シェラが慌てて、後頭部に胸を挟んでくる。

 これではフォルトを喜ばせるだけだが、口止めにはなる。だがここで止めると想像が膨らむので、余計に傷口を広げるかもしれない。

 とりあえず彼女には、骨抜きにされていた。


「レイナスは?」

「アーシャと一緒に部屋に籠っているわよお」

「あれ? 部屋から出ていないのか」

「服を一生懸命に作ってたわあ」

「無理をしてなければいいが……」

「楽しそうにやっていたわよお。さっき差し入れをしといたわあ」

「助かる。しかし、これは止まらないな」

「ポリポリ感がいいわね。さすがはルリちゃんだわ!」


 ルリシオン自慢のオヤツは、あっという間に減っていく。

 身内を侍らせいるフォルトは、ほほの筋肉が緩みまくりだった。


「カーミラちゃんは、いつ帰ってくるのお?」

「もうすぐじゃないかな」


 ソル帝国の町に出張中のカーミラは、目的を達成するまで戻ってこない。

 それでもフォルトは、彼女が近寄ってきている気配を感じていた。眷属けんぞくよりも強いシモベのきずなで結ばれてるので、この勘は当たっているだろう。

 そして、もう一つの気配を察知していた。


「ソフィアさん! そんな所にいないでテラスに来ればいいですよ」

「っ!」


 屋敷の入口から顔を出しているソフィアは、なぜか顔を赤らめている。

 とりあえずフォルトとしては、彼女にジッと見られていると恥ずかしい。ならばと手を振って呼ぶと、襟を正しながらテラスに歩いてきた。


「シェ、シェラさんは何をして……」

「え?」

「フォルト様の頭を……」

「こ、これは何と申しましょうか」

「もしかして……」

「ひ、一足お先ですわ!」

「っ!」


 どうやらソフィアはフォルトではなく、仲の良いシェラを見ていたらしい。破廉恥な光景に映ったようで、外に出られずに固まっていたのだ。

 そして答えを聞いた彼女は、一目散に屋敷の中に走り去っていく。

 フォルトはオヤツをポリポリ食べながら、その後ろ姿を見送るのだった。

Copyright©2021-特攻君

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