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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第七章 奴隷と小悪魔
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魔人と冒険者1

 冒険者のシルビアやドボとの会話は続いている。

 次はソフィアについての説明を求められたが、どうも双竜山の森に囚われていると勘違いしたようだ。

 これは本人が説明すれば良いので、フォルトに出番はない。カーミラが後ろから後頭部を刺激してくれるので、目を閉じながら堪能する。

 そして三人の会話に、耳を傾けた。


「フォルト様は御爺様おじいさま庇護ひごしました」

「レイバン男爵からもそう聞いてるね」

「ですので、私がいても不思議ではありませんよ?」

「魔族がいるだろ。さっきの女の一人は……」

「それも含めて、ですね」

「聖女様に危険は無いのかい?」

「大丈夫ですよ」


 フォルトは無言で手を前に出して、三人の会話を遮った。

 あまり根掘り葉掘りと聞かれても困る。ソフィアなら弁えていると思うが、これ以上の情報開示をするべきではない。

 最低限度で十分である。


「では、お帰りはあちらです」

「ちょっと待ってくれ!」

「話は終わったと思いますが?」

「聖女様とは久々なんだよ。積もる話もあるのさ」

「別にいいじゃねぇか。取って食うわけじゃねぇ」

「はぁ……」


 自宅に引き籠ってからのフォルトは、誰とも連絡を取っていない。また相手からも連絡がこないので、本当の友人ではなかったのだろうと思っている。

 それに十数年も、親に面倒をかけていた。だからこそ自身はいないものとして、存在を消してほしいとすら考えている。

 積もる話をしたい相手などいないのだ。

 ともあれ、シルビアとドボの気持ちも分かる。


「ならもう少しだけな」

「つれないねぇ」

「まったくだぜ」

「あの……。フォルト様?」

「どうかしましたかソフィアさん?」

「そろそろ足を触るのを止めていただければ、と……」

「あ……」


 フォルトの悪い手が、無意識に動いていたか。

 いつも隣に座るのは身内なので、常に触っている。勝手に動くのは仕方無いが、ソフィアは身内でなく客人だ。

 彼女の足から名残惜しく手を放すと、ドボが凄んできた。


「おっさんは聖女様に気があんのか?」

「癖というか何というか……」

「俺らの前でセクハラとはいい度胸じゃねぇか」

「あ、はは……」

「ドボは人のことを言えるのかい?」

「ははははっ! 違えねえ!」

「………………」


 シルビアとドボは、セクシャル・ハラスメントに厳しい米国人だ。フォルトより以前に召喚されていても、その思想は根強く残っている。

 ちなみに彼は、女性関係のトラブルが多かった。もしも召喚されずにプロのアメフト選手になっていたら、多額の賠償金を請求されていただろう。

 もちろん知る由も無い話である。。


「聖女様へのセクハラの代償で、俺らについてきてもらうぜ?」

「無理やりこじ付けないでくれ」

「でもよお。男爵と面会するだけだぜ?」

「面会する必要性を感じない。なら俺に会いたい理由は?」

「そういや聞いてないねぇな」


 そんなことで良いのかと思うが、冒険者からすると普通である。

 理由はどうあれ依頼内容は、フォルトを連れていくことだ。また依頼主は貴族なので、それ以上の話に首を突っ込んでも良いことはない。


「なぁ聖女様からも何とか言ってくれよ」

「すみません。無理ですね」

「どうしてさ」

「フォルト様と会うには、御爺様の許可が必要だからです」

「へ?」

「レイバン男爵は無断で連れ出そうとしているのですよ」

「おっさんって、そんなに重要人物なのかよ?」

「重要かどうかはさておき。双竜山の森に来てもらう条件の一つでしたね」


 グリムはこの約束を守るために、双竜山の森を立入禁止にした。フォルトと面会するなら森を通るので、必然的に許可が必要になる。

 森を出ることはないのだから……。


「それと、お二人に伝えておくことがあります」

「何だい?」

「私は聖女の務めを終えました」


 聖女については近いうちに、エウィ王国から発表されるだろう。

 異世界人の世話は、次代の聖女が担うことになるのだ。いつまでもソフィアが聖女と呼ばれると、軋轢あつれきを生むことになる。


「え? そうなのかい?」

「すでにカードからは、聖女の称号が消えています」

「そっか。事情は分からねぇが良かったじゃねぇか」

「良かった、ですか?」

「私らを召喚したことを気にしていたね?」

「えぇ」

「少しは気が楽になるってもんさ」

「誠意は十分に受け取ったぜ? だからもう気にすんな!」


 昔からソフィアは、勇者召喚の儀に対して良い感情を持っていない。

 異世界人をエウィ王国の都合で召喚して、有無を言わさずに魔物と戦わせるのだ。しかも一方通行なので、元の世界に帰せない。

 恨まれて当然の所業として、彼女は気に病んでいた。


(いいことを言うね。ソフィアさんは好きに生きていいんだよ。ってデルヴィ伯爵次第だったな。そう考えると、またムカついてきたぞ)


 フォルトはソフィアを庇護した時点で、身内に近い感情を持っている。

 そのためか、彼女を害することは許さない。とはいえ、デルヴィ伯爵は行動に移していない。といった理由で憤怒は抑えられているが、悪感情はくすぶっている。

 そして……。


「シルビアとドボだったな? 気に入った」

「いきなりどうしたよ?」

「ついては行かないけど、俺に雇われないか?」

「何だって?」

「俺の遊びのために、ちょっと情報が欲しくてな」

「へぇ。でもレイバン男爵を裏切るのは無理だよ」

「そんなことをすりゃ、今後は仕事が受けられなくなるぜ」


 依頼人を裏切らないことが、冒険者の不文律ふぶんりつである。

 それをやると冒険者ギルドの信用を落とすので、ほとんどの場合は除名される。もちろんそういったうわさはすぐに広まって、普通の仕事にも就けなくなる。

 行きつく先は裏組織かスラム街か。


「どうせ依頼は失敗だろ? 俺は森を出ないからな」

「ちっ」

「そこで、だ。レイバン男爵の依頼料も上乗せしよう」

「はい?」

「やってもらいたいのは情報収集だ」

「レイバン男爵のかい?」

「違うけど、関連性があれば……」


 シルビアとドボは考え込んでいる。

 どのみちレイバン男爵からの依頼は果たせないので、依頼料の支払いは望めないはずだ。彼らの話を聞いたかぎりでは、経費分の赤字で終わる。

 フォルトからの依頼を受けて、帳尻を合わせるかもしれない。


「なら駄目だね」

「ほう」

「あんたからの依頼を受けるなら、レイバン男爵の情報は無しだよ」

情報漏洩じょうほうろうえいってことか?」

「そうさ。例えば、屋敷の見取り図を寄越せってのは無理だよ」

「へぇ」

「警備体制とかも無理だぜ。依頼を受けるときに見ちまったからよ」


 シルビアとドボは分かっているようだ。

 働いていた会社を辞めたとしても、内部の情報を売り渡してはならない。もちろん雇用契約などで決められているが、それ自体が義理を欠くことだ。

 機密情報は同業他社に喜ばれるので、行為がバレなければ良いと考える愚か者はいる。だが情報を受け取った側は、その人物に最低の評価を付けるだろう。

 情報の対価で雇用されたとしても、単純作業や閑職に回される。もしくは約束を反故にされ、入社させてもらえない。

 冒険者の不文律と同様だ。


「それでいいよ。本命はレイバン男爵じゃないしな」

「依頼料は?」

「カーミラ、白い貨幣を持ってきてくれ」

「持ってまーす!」


 フォルトは後頭部を刺激していたカーミラから、白金貨を一枚を受け取った。

 それを見たソフィアが、怪訝けげんな表情で問いかけてくる。


「フォルト様、その白金貨は?」

「カーミラが帝国の町から奪ってきた」

「またっ!」

「大丈夫ですよお。悪い顔をした貴族からでーす!」


 カーミラが適当なうそを吐く。

 悪い顔の定義は人それぞれであり、また奪って良いわけでもない。と言ってもフォルトは、魔の森に暮らし始めた頃から容認している。

 双竜山の森に移動しても、それが変わることはない。


「もぅ」

「えへへ」

「この嬢ちゃんは盗賊かい?」

「失礼な。こんなに可愛い盗賊がいるか?」

「きゃー! 御主人様! ちゅ!」


 カーミラの柔らかい唇が、フォルトのほほに触れた。

 それと同時に、シルビアとドボは顔を引きつらせる。得体の知れない者が、更に得体が知れなくなったと言いたげだ。

 森の住人の関係性が読めないのだろう。


「この森は王国領だね。帝国から盗んでるなら別に構わないと思うよ」

「盗む、ではない。奪う、です」

「同じことだよ」

「とにかく、白金貨一枚でどうだ?」

「いいのかよ!」

「俺には必要無いけど、二人には必要だよな?」

「当たり前だぜ! 十万ドルだぞ!」


(さすがはアメリカ人。ドル換算だったか。俺が召喚された当時だと、一ドルは百十円だったけどなあ)


 森での生活で、金銭は無価値である。

 それでもカーミラには、各貨幣を一枚ずつ持たせている。もしも奪うのが難しいようなら、その金銭で買ってもらうためだ。

 そうは言っても、今までに一回も使わなかったらしい。

 スキル『人形マリオネット』、恐るべし。


「おっさんは何者だい?」

「同じ異世界人で日本人だよ」

「そうかい」

「依頼を受けてくれるかな?」

「内容を言ってみな。聞いてから考えるよ」

「デルヴィ伯爵を調査してもらいたい。裏の人間関係を頼む」

「ちっ。裏かい。危険な仕事だよ?」


 シルビアが言ったように、これは危険な仕事だ。

 表の情報ならいくらでも仕入れられるが、裏となると話は別だった。探ってるのが知られれば、彼女たちは消されるだろう。

 デルヴィ伯爵はエウィ王国の有力貴族で、悪い噂しか聞かない人物だ。


「何なら必要経費も払う」

「どういうこった?」

「危険なら、他の奴を使えばいいって話だな」

「なるほどね」


 シルビアとドボは冒険者なのだから、密偵のような仕事は難しいはずだ。ならば二人が、それをやれる人間を雇えば良いのだ。

 ともあれフォルトは、この依頼に別に意味を込めていた。


「私たちに外の窓口をやれってことだね?」

「察しがいいな。胸が大きいだけはある」

「胸は関係無いよ。でも私を抱きたくなったのかい?」

「それは無い。まぁ依頼を受けてくれたら助かる」

「俺らは冒険者だぜ? 確かに何でも屋とも言われるけどよぉ」

「密偵を雇ってる間に冒険すればいいだろう」

「簡単に言ってくれるぜ」

「断るなら……」


 口角を上げたフォルトは、テーブルに乗せた白金貨に手を伸ばす。

 二人が依頼を断るのならば、もう話すことはない。無理にやってもらわなくても構わないからだ。単純な思いつきで、今後の遊びに使えるかと考えただけだ。

 そして、白金貨に指が触れる寸前……。


「待ちな! 依頼は受けるけど、白金貨をもう一枚だね」

「用意しておく。この白金貨は経費ということでどうだ?」

「決まりだな」


 フォルトは冷ややかな視線を向ける。

 昔から金銭に無頓着であり、それを追い求める人を嫌っていた。金持ちに対する嫉妬心ではなく、人として大切なものを捨てていると考えていたからだ。

 それでも金銭は、社会で生きるために必要だと知っている。

 視線の先はシルビアやドボではなく、人を狂わせる白金貨だった。


「今日はゆっくりしていくといい」

「そうさせてもらうよ」

「ありがてぇ」

「ではソフィアさん、二人の相手をお願いします」

「分かりました。それと……」

「はい?」

「お尻に手が……」

「あ……」


(しまった。また悪い手が勝手に……。しかし、あのエッッッッグいパンツのおかげで生尻感触だったな。いや、実にすばらしい!)


 あきれ顔のシルビアとドボからも、冷ややかな視線が飛んできた。

 どうもこの癖は、一生をかけても治りそうにない。フォルトは居た堪れなくなったので、急いで席を立つ。

 にも角にも、侵入者との対話は終わりだ。

 そしてカーミラと一緒に、屋敷の中に逃げるのだった。

Copyright©2021-特攻君

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