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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第七章 奴隷と小悪魔
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近づく者たち3

 フォルトは相も変わらず、カーミラとテラスでダラけている。

 先日は大雨が降ったので、屋敷の中でゴロゴロとしていた。とはいえ、本日は晴天である。ラブシートのような椅子に腰かけて、彼女の体をまさぐっていた。

 そして目の前には、ギャルメイクを完成させたアーシャが座っている。

 貴族が使う化粧品をカーミラが奪ってきたので、満面の笑みを浮かべながら化粧を楽しんでいた。バサバサまつげを作るのが大変だったらしいが、まさに命を懸けたような一生懸命さで完成させたようだ。

 魔法の勉強とは雲泥の差である。


「どうよ! フォルトさんの好きなギャルになったわよ!」

「いいな。完璧じゃないか」

「ふふん。でも長くは維持できないよ?」

「何だ。そんなことか」


 アーシャの指摘はメイク落ちについてだった。入浴や洗顔もするので、すぐに化粧は流れ落ちてしまう。またメイクをしたままだと、肌にも悪い。

 そこでフォルトは、無造作に魔法を使った。



【カース・フィクセイション/固定化の呪い】



 呪術系魔法の効果によって、アーシャの顔に黒いもやがかかる。しかしながら一瞬の出来事だったので、彼女は目をパチクリさせた。

 デカ目に見えるのもギャルらしい。


「今のは何?」

「呪いだ」

「ちょっと! 何てことしてくれてんのよ!」

「あっはっはっ! 固定化の呪いだ。そのメイクは維持されるぞ」

「な、なら……。って、やる前に言いなさいよ!」

「だって好みのメイクだし……」

「ふ、ふーん。じゃあ許してあげる」


 とてもチョロいが、実のところギャルメイクは時間がかかる。

 こちらの世界の化粧品とは、簡単に入手できる代物ではない。たとえ貴族でも、多少の予備があるだけだ。

 維持されるなら万々歳である。

 肌荒れは気になったときにでも、ゴブリンやオークに移せば良い。などと思っていると、屋敷から出てきたレイナスが問いかけてきた。


「フォルト様はそのような化粧の女性が好みなのですか?」

「うん。おっさんには無縁だったけどね」

「ではアーシャ、私にもお願いしますわ」

「駄目だ!」

「え?」

「レイナスは今のままでも十分に奇麗だぞ」

「まあフォルト様! なら結構ですわ」


(レイナスにはお嬢様キャラを貫いてほしい。高笑い系も似合わないが、デキる生徒会長キャラでいてもらいたい。薄い口紅程度で十分だ)


 身内はそれぞれで、個性があるのだ。

 元貴族令嬢のレイナスは、家柄と美貌に秀でた女性である。剣術や魔法にも優れており、魔法学園の生徒会長として、他生徒の上に立つ人物だった。

 すでにキャラ付けができているので、ギャルになったらイメージが崩れる。


「カーミラちゃんはどうですかねぇ?」

「カーミラも今のままだな」

「はあい!」

「と言うか。全員そのままだ!」

「分かりましたぁ!」


 アーシャ以外は、弄る要素が無いほど完璧である。

 彼女も素顔は可愛いが、やはり最初のイメージが残っていた。だからこそ、ギャル街道をまっしぐらに進んでもらうつもりなのだ。

 そのために必要なものはフォルト、もといカーミラが用意する。

 自分の趣味のために……。


「他に必要なものってあるの?」

「やっぱり服っしょ! これ一着じゃねぇ」


 自分の服を伸ばしたアーシャは、肩を落としながら首を振った。

 フォルトからすると、とても「エロかわ」な服である。まさにギャル感が満載で、アバターから考えても変える必要は無かった。


「お気に入りなのだろ?」

「でもギャルはオシャレをしないと駄目!」

「金がかかるわけだ」

「何か言った?」

「いいえ、何でも……。だがレイナスの手芸にも限界はあるしなぁ」

「そりゃあ、専門の服飾師には敵わないっしょ!」

「頭に入れておく。いま考えている遊びの延長で、な」

「なになに?」

「内緒」


 フォルトの考えている遊びのために、現在はニャンシーが不在である。彼女の隠密能力を使って、色々と調査をしている最中だった。

 ともあれテラスで和んでいると、今度はソフィアが近づいてきた。


「あらアーシャさん、その化粧は?」


 こちらの世界だと、ギャルメイクの女性はいないだろう。物珍しそうに、アーシャの顔を見ている。

 ソフィアは聖女を剥奪はくだつされたが、別に落ち込んでいなかった。


「ソフィアさんにもメイクしよっか?」

「え?」

「駄目だと言ってるだろ」

「ちぇ。似合うと思うけどなあ」

「化粧ならシェラさんにしてやるといいよ」

「いいの?」

「ギャルじゃないぞ? 若い女医さんだぞ?」

「分かったわ。フォルトさんの好みにしてあげるね!」

「理解が早くて助かるな」

「ふっふーん。フォルトさんの女だからね!」

「従者だ!」


 そう言いながらも、すでにアーシャを従者とは思っていない。レイナスと同様に、フォルトの大切な身内の一人である。

 つい最近までは、彼女たちをゲームに使う玩具として見ていた。しかしながら今では、守るべき対象に変わった。

 ゲームに飽きたわけではない。成長が面白そうな人間がいたら、再びゲームキャラクターとして拉致するかもしれない。


(コントローラーやキーボードで操作できれば、まだ続けられたけどな。それと連動して動けば面白いんだけど、大声はちょっと……)


 ゲームキャラクターとして人間を操作するには、フォルトが大声で指示を出さなければならない。ルリシオンとの模擬戦では、ハンデになっていると思ったものだ

 それを解消できれば良いのだが、今は何も思い浮かばない。


「んじゃフォルトさん、シェラさんの所に行ってくるね!」


 化粧品を持ったアーシャが、屋敷の中に入っていった。

 これから似顔絵を描きながら、シェラに似合ったメイクを考えるだろう。彼女が色っぽくなる姿が想像できて、とても楽しみである。

 そんなことを考えていると、ソフィアが笑顔で会話を始めた。


「アーシャさんは楽しそうですね」

「彼女はファッションが好きですからね」

「そのようですね」

「ソフィアさんは、何かやりたいことは無いのですか?」

「私ですか? そうですね。料……」

「駄目でーす!」

「ソフィア様、ご自重をお願いしますわ」

「え?」


(もしかしてソフィアさんは、料理ができない子というやつか? 俺は腹に入れば何でもいいけど、カーミラが止めたということは……)


 魔人の胃袋は頑丈なので、余程のことがないかぎりは食べられる。しかしながらこのパターンは、絶対に味が問題なのだろう。

 ちなみにソフィアが料理を作ったときは、ニャンシーが止めたらしい。調理場から漂ってきた匂いで、鼻がひん曲がる寸前だったとの話だ。

 そのときの惨状はフォルトが寝ている間に、ブラウニーが片付けた。


「ははっ。気を落とさずに!」

「ぐすっ」


 ソフィアが目に涙を浮かべたところで、ドライアドが現れる。

 この精霊には森の管理者として、双竜山の森の監視や畑の運用を任せていた。何か問題があると早期に報告してくるあたり、とても優秀である。


「旦那様、森に侵入者です」

「またグリム家の者か?」

「いえ。武装した人間が二名です」

「え?」

「護衛の兵士とは毛色が違うようです」

「どのように違うのかな?」

「動きやすそうなよろいを着ています」


(レイバン男爵のパシリなら、ドライアドも分かっている。なら、初めて侵入してきた奴らかな? 軽装備なのが気になるが……)


 護衛の兵とは、グリム家の者たちが連れてくる兵士だ。

 双竜山の森には入らずに、彼らが戻るまで待機していた。フォルトとの約束を守っている証でもある。

 レイバン男爵からの使いは、ドライアドが森から追い返している。諦めたのかどうかは分からないが、ここ最近は訪れていない。

 そしてフォルトが考え込んでいると、ソフィアが予想を聞かせてくれた。


「冒険者かもしれませんね」

「冒険者?」

「グリム領の人間であれば、双竜山の森が立入禁止だと知っています」

「ふむふむ」

「おそらくは、他の領内で雇われたのだと思われます」

「ふーん。ならドライアド、とりあえず追い返してくれ」

「畏まりました」


 ソフィアの予想が当たってるかはさておき、グリム家の人間以外だと困る。特に現在は、彼女を庇護ひごしているのだ。

 たとえシュンたちであっても、おいそれと森に入れられない。

 彼女の居場所がデルヴィ伯爵に伝わると、面倒な話になる。とフォルトが思考を巡らせたところで、レイナスが口を開く。


「冒険者ですと、双竜山から入ってくるかもしれませんわね」

「あぁそうだな」

「レベルによっては蹴散らされてしまいますわよ?」

「東側だと……。バグベアとコボルト、だったか?」

「はい。ゴブリンぐらいの強さですわ」

「確か一般兵に負けるよな?」

「そうですわね」

「西側ならオーガがいるけどなあ」


 実際のところゴブリンは弱く、推奨討伐レベルは十だ。

 もちろん群れで行動する場合は、レベル以上の強さになる。とはいえ相手は冒険者なので、一般兵より強いかもしれない。

 討伐される可能性は大いにあった。


「まぁ山から侵入しても、ドライアドが森の入口に戻すけど……」

「亜人と戦われると困りますわね」

「とりあえず、冒険者を発見したら逃げるように言っといてくれ」

「はいっ!」


 東側の双竜山に棲息せいそくするバグベアとコボルトは、レイナスに降伏してきたのだ。顔を見知っているので、彼女の命令には従う。

 当面はこれで良しとして、フォルトは今後を考える。


(オーガを分散させる? でも、数が減ると侵入者を殺せなくなる。何日か前だか、オーガを倒して西側の山を越えた奴らがいたらしいしなあ)


 双竜山の西側は、魔の森に棲息していた亜人でまとめてある。

 その中ではオーガが一番強く、一般兵では太刀打ちできない。しかしながらそれらを倒して、山越えをされたらしい。

 何体か犠牲になって、数を減らしていた。

 それを思い出したフォルトは、面倒臭そうな表情をカーミラに向けた。


「周辺がザワついてきたな」

「鬱陶しいですよねぇ」

「オーガ以上の魔物っているのか?」

「いますけどぉ。近くでは見かけませんねぇ」

「どっかで捕獲して配置するか?」

「一体なら配置しても意味がありませーん!」

「だよなあ。群れで欲しいが……」

「でもでも。御主人様は森から出ませんよねぇ?」

「そのとおりだ!」


 せっかく屋敷も完成して、フォルトは自堕落生活を満喫中である。

 亜人や魔物の捕獲など、わざわざ森を出てまでやるわけがない。身内の誰かを派遣するのも嫌だった。

 彼女たちは、毎日の癒やしなのだから……。

 そして魔物を召喚するには、維持コストが必要である。毎日の魔力消費量が多いデモンズリッチについては、ルーチェを眷属けんぞくにして減らした。

 この程度でのことで、またコストを増やすのも馬鹿らしい。


御爺様おじいさまに伝えて、巡回の兵士を配置してもらいましょうか?」

「いいのかな?」

「大丈夫だと思いますよ。領内の巡回は仕事ですからね」

「ふーん」


 この件については、ソフィアを庇護しているので通るだろう。

 現在の彼女は、領地の屋敷に引き籠っているという話になっていた。


「しかし……。冒険者か」

「何か?」

「面白そうだな、と思ってね」


 日本にいた頃の小説やアニメでは、よく登場した職業の一つである。

 こちらの世界に召喚された後の就職先にもなっていた。依頼を請け負ってくれる者たちなので、双竜山の森から出ないフォルトには便利かもしれない。

 そこで、ソフィアに尋ねる。


「ソフィアさんには、冒険者に知り合いとかいるの?」

「今までに召喚された異世界人とは面識がありますね」

「そうだった。先輩たちがいたか」

「先代の聖女様方ですね」


 フォルトやシュンたちが、こちらの世界に初めて召喚されたわけではない。今までも何名かが、あちらの世界から召喚されていた。

 最も有名なのは、勇魔戦争で魔王を倒した勇者アルフレッドである。

 一度の召喚は四人が基本らしいので、それなりの人数がいるはずだ。


「アルフレッドって人は日本人じゃないですよね?」

「確か……。アメ公とか?」

「え?」

「シュン様から教えてもらいました」

「米国人と覚えたほうがいいですよ」

「そっそうですか」


 シュンの入れ知恵のようだが、どうにも口が悪い。

 ソフィアは人間の醜さの少ない、いわば善人である。といった人物に対して、他国の人間を侮蔑するときに使う言葉を教えてはいけない。

 そう。彼女には、今のままでいてもらいたい。


「他には?」

「ジョングオ、だったかしら?」

「どこだっけ?」

「口癖で「アイヤー」とか言っていました。分かりますか?」

「中国人か」


(確かインド人は、自分たちのことをバーラトって呼ぶんだっけ? 他に言われても分からないから、もういいや)


 自国の呼び方は、その国によって違う。

 フォルトにとって興味深かった時期もあったが、すべてを覚えるのは無理だった。知ったところで、あまり使い道は無い。


「ふあぁぁああ」


 フォルトは眠くなって、口を大きく開けた。興味が低い会話を続けると、脳が休憩を欲するようだ。

 その情けない顔を見たソフィアに、まぶしい微笑みを向けられた。


「大きな欠伸ですね」

「ははっ。寝ます」

「まだお昼を過ぎたばかりですよ?」

「自堕落なので……」

「そうでした」

「ソフィアさんも一緒に寝ます?」

「っ!」

「ソフィアさん?」

「け、け、け、結構です!」


 フォルトの言葉に、ソフィアは両手で顔を隠した。

 いつもの何気無い一言なので、彼女の行動がよく分からない。とはいえ眠いからと立ち上がって、カーミラと一緒に寝室へと向かう。

 そしてベッドにダイブすると、彼女も続いてきた。当然のように受け止めてから横に置いて、そのまま深い眠りに入るのだった。

Copyright©2021-特攻君

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