表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第六章 聖女剥奪
79/196

聖女剥奪2

 エウィ王国宮廷魔術師グリムの屋敷。

 本日はソフィアを含め、家族全員が集まって食事をしていた。お互い忙しい身だが月に一度は、こういった場を設けている。


「ソフィアは変わりありませんか?」

「はい。母様」

「聖女として、異世界人の相手は大変だと思うが……」

「父様も心配してくれて、ありがとうございます」

「ほっほっ。ワシの名代もできるのじゃ。子供扱いはいかんぞ」

「父上はソフィアに重責が過ぎますぞ!」

「ソネン、お主も分かっておろう?」

「そうですが……」

「まぁフィオレもじゃ」

「はい。義父様」


 ソネンとフィオレは、ソフィアの両親である。

 二人とも、四十歳を越えている。父親は年相応の面体だが、母親は若奥様と言われても、誰もが納得するはずだ。

 そしてどちらもグリムの弟子であり、優秀な魔法使いである。近い将来は、エウィ王国の宮廷魔術師になるだろう。


「聖女の称号があるばかりに……」

「仕方あるまい。それに勇者の従者じゃったからのう」

「ふん! アルフレッドめ。ソフィアを連れ出しおって!」

「父様、アルフレッド様は悪くないのですよ?」


 勇者アルフレッドがソフィアを従者にしたとき、両親の二人は反対した。

 まだ十歳の子供で、戦場に送り出すなど考えられるものではない。しかしながら当時は、魔王軍に劣勢を強いられていた。

 彼女の頭脳は、子供ながら卓抜していたのは周知の事実だった。ならば、人間の最高戦力の共をさせ、魔王スカーレットを打倒するべく助力をさせる。

 苦悩の末、その結論に至った経緯があった。


「可愛い盛りの時間を勇者にくれてやったと思うとな」

「ふふっ。あなたも相変わらずよね」

「フィオレもそうじゃないか。当時は俺より取り乱していたぞ!」

「それは可愛いソフィアの身を案じて、ですね」

「二人とも子煩悩が過ぎるのう」

「父上こそ……」

「もう止めてください!」


 ソフィアが顔を真っ赤に染めて、両親と祖父に抗議する。

 三人が三人とも、彼女を愛しているのだ。家族の愛情を一身に受けて育てられたと理解しているが、さすがに面と向かって言われると恥ずかしい。

 もしもフォルトが聞いたら、蕁麻疹じんましんが出そうな内容だ。

 ともあれここで、グリムが真面目な話に入った。


「ソフィアよ」

「はい。御爺様おじいさま

「聖神イシュリル神殿より神託を受けたと報告があった」

「どのような?」

「言いづらいのう」

「え?」


 グリムは額に眉を寄せ、そのまま目を閉じた。だがソフィアは聖女として、聖神イシュリルの神託を聞く必要がある。

 勇者召喚の儀を執り行うのかもしれない。


「聖女の役目は終わりじゃ」

「え?」

「称号を剥奪はくだつするそうじゃ。まったく意味が分からぬ」

「父上、それは本当の話なのですか?」

「お主らにうそをついてどうする。家族じゃぞ」

「しかし御爺様、まだ「聖女」の称号はありますけど?」


 ソフィアはカードを取り出して、称号の欄で確認した。するとまだ「聖女」と書かれており、称号は剥奪されていないようだ。

 これには、首を傾げてしまう。


「後日に消えるとの話じゃ。次の聖女を決めておるのじゃろうな」

「聖神イシュリルがですか?」

「おそらくは、な。人間では神の思考を理解できぬよ」

「聖女の仕事は?」

「剥奪の件と共に、もうやらなくて良いそうじゃ」

「なるほど」

「聖女の重責から解放される良い話では?」


 この件に関しては、ソネンが大歓迎である。

 聖女は異世界人召喚の他に、その面倒を見ることも役目。仕事に就かなくても良いのならば、何の気兼ねも無く次の聖女に任せれば済む話なのだ。

 そうなると、名代の仕事だけに専念できる。今までが忙し過ぎたのだ。空いた時間は、趣味や遊びに使えるだろう。

 真面目なソフィアなら、魔法の勉強に充てるかもしれないが……。


「あなたは分かっていないですね」

「フィオレ?」

「剥奪の理由が分からないのは困った話ですわ」

「どうしてだ?」

「如何様にも考えられますわ。ソフィアが異教徒になったとか?」

「そんなことがあるものか!」

「例えばの話ですが、嘘を捏造ねつぞうするは可能ですわ」

「うーん」

「そういった話が得意な貴族はいらっしゃいますわね」

「デルヴィ伯爵か」


 この機会にグリムの地位を脅かしたい貴族などは、吐いて捨てるほどいる。またその中で、一番厄介なのがデルヴィ伯爵だった。

 逆に味方となる貴族もいるとはいえ、残念ながら人数は少ないだろう。


「ワシは宮廷魔術師じゃからのう。貴族との関係は薄いが……」

「ですが義父様は、陛下の側近中の側近ですわ」

「やれやれじゃな」

「ソフィアに危険が及ぶのですか?」

「ソネンはデルヴィ伯爵のうわさを知っておろう?」

「ぐっ! あの野郎……」

「そう神経をとがらせるでない。あくまでも噂じゃ」

「と言っても、私利私欲に走っているのは周知の事実ですわね」

「うむ」


 デルヴィ伯爵の黒い噂は絶えない。しかしながら証拠が無いので、王族からは何も言えないのだ。伯爵として地位も高く、おいそれと罰することは難しい。

 もしもソフィアが、神殿から異教徒認定を受けたとしよう。

 その場合は、異端審問会を経て処分されるのが通例だった。ならばとその前に神殿から買い取って、道具として使う人物なのだ。

 また彼女は若くて美しく、元聖女という肩書を持つ女性である。抱きたいと思っている男性は多く、そういった者たちに犯させ・はらませ・また犯させる。

 味を占めさせた後に手駒にして、権力の増大を図る可能性は非常に高い。過去にも処分を免れた女性が、伯爵の領地で行方不明になる事案が発生していた。


「あの外道に、ソフィアをやるわけにはいかん!」

「ソネンよ。異教徒認定というのは最悪の例えじゃ」

「ですが何かをしてくるのでしょう?」

「かもしれぬのう。軽い嫌がらせ程度なら良いのじゃがな」


 グリムに対しての嫌み程度なら、鬱陶うっとうしく感じるだけで済む。

 そして、利権の一部を奪われることも構わない。貴族ではないので、金銭に執着していない。だがしかし、ソフィアを手駒にさせるわけにはいかない。

 もしも行動を起こされた場合は、現在の地位を放棄して牙をくつもりだった。とはいえ内乱に発展してしまうので、逆に「そこまでするか?」との疑念は浮かぶ。だからこそ、最悪の例えだった。

 ともあれ、ここまで聞いたソフィアが口を開く。


「これは聖神イシュリルの試練ですか?」

「かもしれぬな。人間を試しておるのかのう」

「まずは名代を返上して、領地に引き籠りましょう」

「そうじゃな。身の安全が第一じゃ」


 即座に身の振り方を考えるソフィアに、グリムと両親は優しい目を向ける。

 本当に頭の良い子だと……。


「本当に孫娘を、かの者にやらねばならぬかのう」

「何と仰いました?」

「いや。そのうえで様子見、と言ったまでじゃ」

「はい。父様と母様には苦労をかけますが……」

「構わぬよ。そもそも我らだけでもやれるのだ」

「そうよソフィア。私たちを甘く見ないことね」

「ふふっ。ありがとうございます」


 ソフィアは危機管理として、最悪を想定して然るべきと考えている。

 聖女の仕事をしなくても構わないのなら、とりあえずは身の安全を図ったほうが良い。至極当然の話なので、家族の意見は一致している。

 以降は大事な話も終わって、一家団らんで食事を続けた。

 それにしてもこの場面のときは、フォルトの気持ちが分かってしまう。他人を遠ざけて、誰にも邪魔されたくないという気持ちが……。



◇◇◇◇◇



 談話室に入室したフォルトは、中にいる二人の女性に近づく。

 それにしてもなぜ、この部屋を作ったか謎だった。談話などをする場合は、いつも食堂やテラスを使っている。

 要らない部屋だが、すべての設計をブラウニーに任せていたせいか。

 ともあれカーミラが椅子に座って、楽しそうに鼻歌を歌っていた。


「ふんふんふーん」

「どうしたカーミラ?」

「御主人様、アーシャの指先を見てくださーい!」

「うん?」


 カーミラの対面には、アーシャが座っている。彼女は両手の指を見せて、ニコニコと笑みを浮べていた。

 彼女の爪を見ると、見事なまでのネイルアートが描かれていた。

 双竜山の森に生えている草や花を使ったようだが、鮮やかな色合いで、様々な模様が描かれている。


「おお! 凄いな!」

「えへへ。頑張っちゃいましたよぉ」

「マジでヤバいんだけど。ちょー可愛いっしょ?」

「アーシャもうれしそうだな」

「もっちろん! ファッションで遊べるなんて久々だわ!」


 こちらの世界で、ファッションを期待してはいけない。

 そういったものを気にするのは、貴族夫人や令嬢など身分の高い女性だ。アーシャも召喚された頃は、手持ちに化粧品すら無かった。

 彼女の場合は、すっぴんでも可愛いのが幸いか。


「ヘアスタイルを整えるぐらいだったしな」

「こうなるとさ。ウィッグとか欲しいわ」

「なら適当な人間から引っこ抜いて……」

「やめて!」

「ははっ。冗談だ」

「でもさ。実際の材料って、人毛と人工毛なんだよね」


 さすがはギャルというべきか、こういった雑学はよく知っている。

 人毛とは、人間の髪の毛だ。あちらの世界の海外では、髪の売買がされている。値段は高くなるので、主に医療用で使われることが多い。

 アーシャのようなギャルが使うのは、化学繊維で作られた人工毛である。形状記憶が施されてスタイルが崩れにくく、価格もお手頃だそうだ。

 あくまでも、日本での話である。


「よく知ってるな」

「ふふーん」

「でも、化学繊維なんて無いからな」

「そうなのよねぇ。フォルトさんの力で何とかして!」

「何ともなりません」

「ちぇ」


 中世以下の技術水準で、化学繊維などを作ることは不可能。しかしながら、人毛のほうならむしり取れるだろう。

 フォルトは頭の中のメモ帳に、「人間を殺す場合は髪に注意」と書き込んだ。


「旦那様、南から森に侵入者です」

「え?」


 頭の中のメモ帳に書き終わったところで、ドライアドが現れる。

 目を見開いたフォルトは、その破廉恥な格好に目を奪われてしまった。しかも、せっかく記憶したメモをクシャクシャにして捨ててしまう。

 髪の毛のことなど、もう奇麗さっぱり忘れてしまった。


「グリムの爺さんかソフィアさん?」

「いえ。まったく見覚えの無い人間です」

「ならいつものように迷わせて、森から放り出しといてくれ」

「畏まりました。ですが、これで五回目です」

「そうだったな。何だろ?」


 シュン率いる勇者候補チームが、帰還の途に就いて以降。

 数日おきに、見知らぬ人間が双竜山の森に侵入していた。関係性は分からないが、グリムとの約束通りに森から追い出している。


「御主人様、カーミラちゃんが聞いてきますよぉ?」

「あぁ『人形マリオネット』があったな」

「はい!」

「グリムの爺さんやソフィアさんに聞くと、二度手間になるか」

「そうでーす!」

「なら背後関係から、その他諸々を聞いといてくれ」

「はあい!」


(カーミラなら上手に聞き出すだろう。確かグリムの爺さんは、俺のことは知られているとか言っていたような? まさか面倒事なのか?)


 相変わらず他人任せのフォルトは、カーミラを見送った。

 ドライアドも消えたので、侵入者から情報を聞き出したら、そのまま追い帰してくれるだろう。


「フォルトさんはどうすんの?」

「カーミラの情報次第だな。グリム家が裏切ったとは思えないし……」

「ソフィアさんは信用できるっしょ!」

「そうだな。エッッッッグいパンツも履いてたし……」

「あれを渡したんだ」

「帰りにセットのブラも、な」


 アーシャがデザインした下着なので、どんなに破廉恥かは知っている。日本にいた頃の友達が着けていた下着を思い出して描いたそうだ。

 すばらしい交友関係である。


「アーシャって、音楽は得意?」

「作詞とか作曲って話?」

「うむ」

「無理っ! 知ってる音楽を鼻歌で奏でる程度だよ」

「そっか」

「なんで?」

「ルーチェに面白いものを作らせているのだ」

「なになに?」

「内緒」


 なぜゆえに、魔法使いが不老不死を願うのか。

 それは、魔法の研究を続けたいという欲求があるからだ。

 例に漏れず、デモンズリッチのルーチェも研究が大好きである。彼女の研究は魔道具なので、今は依頼した品を作っているだろう。


「よし! その自慢の爪を、みんなに見せに行くか」

「うん!」


 アーシャは詳しく聞いてこない。

 満面の笑みを浮べて、フォルトの腕に絡みついてきた。体を擦りつけるあたりは、カーミラと同じである。女性の心地良い柔らかさと甘い香りに撃沈しそうだ。

 そして、皆がいるであろうテラスに向かうのだった。

Copyright©2021-特攻君

感想・評価・ブックマークを付けてくださっている読者様、本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ