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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第六章 聖女剥奪
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勇者候補と魔剣士3

 ギッシュの限界突破が終わった頃。

 フォルトは実験をやるために、屋敷の庭に出ていた。レイナス以外は基本的に暇なので、それを面白そうに見ている。

 そして、召喚魔法を使った。



【サモン・クレイゴーレム/召喚・土巨像】



 フォルトは土巨像を二体召喚して、遠くに並べる。

 全長は三メートル近くある。ゴーレムは、素材で強度が変わる。今回のクレイゴーレムは土で作られているので、大した耐久力は無い。

 それでも、実験で使うなら十分である。


「ルリ」

「なあに?」

「いつもの爆発する魔法を、片方に撃ち込んでくれ」

「いいわよお」


 何の実験か聞いていないルリシオンだが、フォルトから言われたとおりに魔法を発動する。初級の火属性魔法の火弾を、着弾と同時に爆発させる中級の魔法だ。



【ポップ・ファイア・ボルト/弾ける火弾】



 ルリシオンが放った火弾は、片方の土巨像に当たって爆発した。

 周囲には轟音ごうおんと共に、土煙が舞い上がる。


「これでいいのお?」

「どうなった?」

「腕を吹き飛ばしたわあ」


 土巨像の周囲に立ち込めた煙が消えて、フォルトも確認できるようになった。

 確かにクレイゴーレムの腕が砕けて、破片が地面に散乱していた。お手軽ゴーレムなので、こんなものだろう。


「アーシャ、アーシャ」

「なに?」

「踊ってほしい」

「わたしが踊るの?」

「ほら、スキルの『奉納の舞(ほうのうのまい)』ってやつ」

「なるぅ。ルリ様に使えばいいの?」

「そそっ」

「じゃあ、いくねえ!」


 アーシャもフォルトから言われたとおり、その場で華麗に踊りだす。

 どこかで見たことがあるようなダンスだった。しかしながら音楽など流れていないので、とてもシュールである。


「あら……。これは?」

「アーシャのスキルだ。同じゴーレムに、さっきのお願い!」

「はあい」



【ポップ・ファイア・ボルト/弾ける火弾】



 フォルトから言われるがまま、ルリシオンは同じ魔法を発動した。すると、彼女から飛び出した火弾が大きくなっている。続けて着弾と同時に爆発した。

 先程と違うのは、轟音の大きさと周囲に舞った土煙の範囲だ。土巨象が視認できないほど舞い上がっている。

 そして煙が晴れてくると、ゴーレムの上半身が粉砕されているのを確認した。


「あら、凄いわねえ」

「威力はどうだ?」

「五割ほどアップじゃないかしらあ」


 アーシャのスキル『奉納の舞(ほうのうのまい)』は、味方の魔力を上げる。

 この実験で、ルリシオンの魔法威力を五割程度上昇したと理解した。


「ふーん。最初に覚えたスキルだし、そんなもんか」

「ちょっと! まだ踊るの?」

「うん」

「フォルトさんの目線が、あたしの足にくぎ付けなんですけど!」

「気にしないで。次は踊りながら、魔法でルリの魔力を上げてね」

「はいはい」



【マジック・ブースト/魔力増加】



(さて。日本のゲームでは、上昇効果の高い魔法を適用するものが多かった。こっちの世界ではどうなるのかな? それにしても、アーシャの生足はいいな!)


 フォルトは、こちらの世界で使われる強化魔法の仕様を調べているのだ。

 今度はルリシオンに、二体目の土巨像に火弾を撃たせた。すると、火弾の着弾と同時に爆発して、土巨像の上半身だけが吹っ飛んでいる。

 これで、同じ効果の魔法は重複しないと分かった。


「アーシャ、もういいぞ」

「はあい。威力は変わらなかったね」

「ロマンは追い求められなかったか」

「何それ?」

「強化魔法を重ねがけして、威力が十倍とかになったら面白くない?」

「怖いわっ!」


 強化魔法が重複しないなら、アーシャの戦い方が変わる。

 今の彼女ならサポートとして踊って、攻撃魔法を撃つのが主軸になるか。さすがに踊りながら、近接戦闘は無理だろう。


「聞いてくれれば教えてあげたわよお?」

「あっはっはっ! 爆発するものが見たかっただけだ」

「でもアーシャのようなスキルで、魔力を上げたのは初めてねえ」

「いい経験になったな」

「そういうことにしておくわあ」


 周囲に集まっている身内もあきれていた。

 ルリシオンに聞かなくても、いつも傍にいるカーミラも知っているのだ。しかもアカシックレコードを使えば、その程度の情報は引き出せる。


(まぁこれも遊びだ。最初から知っていたら面白くないしなあ。アカシックレコードを頼るのは、本当にどうしようもないときか)


 昔からフォルトは、調査や実験をするのが好きなほうだった。

 またこちらの世界であれば、本当に魔法が存在するのだ。やはり、年甲斐としがいもなくワクワクしてしまう。

 それでも怠惰なので、たまにしかやらないが……。


「しかし収穫はあったぞ!」

「え?」

「アーシャがとってもシュールってことだ!」

「ちょっと! 考えないようにしてたんだから言わないでよ!」


 本人も気にしていたらしい。

 これは、バックミュージックが欲しいところだ。普通に考えれば戦闘中に音楽などを流せば、近くの魔物を呼び寄せるだけだろう。

 それでもフォルトは、アニメの戦闘シーンを脳裏に浮かべるのだった。



◇◇◇◇◇



 限界突破作業中の勇者候補チーム一行は、シュンのワイバーン討伐も終わって帰路に着くところだ。

 ギッシュの戦い方が派手すぎて、シュンの戦闘はとても地味だった。とはいえそれが、本来の戦い方というものだ。


「ふう。疲れたぜ」

「終始安定してたね!」


 シュンが戻ってくるのを、アルディスが迎える。

 彼の戦い方は、ワイバーンと交差しながら戦う戦術だった。空中から襲ってくる魔獣を、すれ違いざまに剣で斬っていた。

 それを繰り返し行うことで、ダメージを蓄積させたのだ。とにかく翼を狙って斬りつけ、地面に下りたところを一気にたたく。

 この魔獣は地面に落としてしまえば、大した敵ではないのだ。しかしながら時間を擁する戦術なので、体力は削られたようだ。

 魔獣にも逃げられる可能性はあったが、何とか討伐していた。


「(見るべきものは無かったわ。使っていたスキルも普通だったわね)」

「(普通ね普通。ザ・普通)」


 レイナスと聖剣ロゼの感想は、そんなものだった。

 ギッシュの戦い方が、反面教師になっただけだ。


「では帰りましょうか」

「はい」


 ソフィアの宣言で、一行は山を下る。

 シュンとギッシュが倒したワイバーンの素材は、うろこや牙・爪に価値がある。と言ってもさすがに、今は持って帰れない。

 これらを持ち帰るには、魔獣を解体する作業班が必要だった。一応は連れてきているらしいが森の外に待機させており、帰るときに指示する予定だそうだ。


「レイナス様、あと一泊だけお願いしますね」

「えぇ」


 今から下山すれば、夜までにはフォルトの屋敷に到着するだろう。

 何事も無ければ走って戻りたいが、勇者候補チームの歩みが遅い。だが、彼らを置いていくのは非礼というものだ。

 レイナスは伯爵令嬢だったので、礼儀を忘れてはならない。


「か、帰りに魔物とか出ないですか?」

「来るときは平気だったぜ」

「大丈夫ですわ。魔物がいないルートですのよ」


 おどおどしたエレーヌは、周囲を警戒していた。

 もちろんレイナスは、魔物がいる登山ルートは避けている。しかも大蜘蛛(ぐも)や大蛇などの魔物は、亜人たちの食料である。もうとっくに狩られているので、ルート上には存在しない。

 そういった説明をしていると、シュンが声をかけてきた。


「なぁレイナス。風呂とかは借りられねぇか?」

「あ、それ。ボクも思った!」

「おっさんの家にはあるよね? レイナス先輩、悪いけど借りられないかな?」


 ノックスから先輩と言われて、レイナスはキョトンとした。

 確かに魔法学園では先輩だが、彼のほうが年上である。アーシャに言われるのは慣れたが、さすがに戸惑ってしまう。


「申しわけないのですが、先輩はやめてもらえるかしら?」

「え? いいけど」

「学園を思い出してしまいますわ」

「そう言えば、学園に戻って卒業しないんですか?」

「えぇ。今は退学になっているはずですわ」


 フォルトの身内になったレイナスは、今さら魔法学園に戻るつもりは無い。

 魔法の先生には、ニャンシーがいる。またローイン家からは廃嫡されたので、学費が納められていないだろう。


「それでレイナス、風呂は?」

「あ、ごめんなさい。屋敷に戻ったら、フォルト様に聞いてみますわ」

「助かるぜ」


(と言われましても、ね。お風呂は私たちの愛の巣だわ。寝室と何ら変わらないのだけれど……。きゃ!)


 身内は全員、フォルトと風呂に入っている。寝室まで待ちきれずに始めるときもあるので、それを思い出したレイナスはほほを赤く染めてしまった。

 妄想癖が付いてしまったかもしれない。


「どうした? また顔が赤いぜ」

「い、いえ。何でもありませんわ」

「も、もしかしてですが……。おじさんと一緒に入ってますか?」

「もちろんですわ」

「「ええっ!」」

「え?」


 シュンは苦々しい表情をしたが、女性陣の二人とノックスは驚いている。ギッシュは興味が無いようだ。

 ソフィアに至っては、レイナスと同様に頬を赤らめている。

 フォルトとの生活では、至極当然になっている行為だった。しかしながら、年頃の淑女にはあるまじき行為である。

 平民はもちろん貴族であっても、男女が混浴などあり得ない。

 一部の下衆な貴族を除いてだが……。


「どんな生活をしてるのよ!」

「は、犯罪だわ。犯罪……」

「でも、こっちの世界に警察はいないし……」

「お、王国が取り締まってるんじゃ?」

「聖女様! 捕まえないんですか?」

「あ……。フォルト様は御爺様おじいさま庇護下ひごかに入っています」


 勇者候補チームからすると、フォルトはどう考えても犯罪者だった。

 周囲の女性は、全員が若い。レイナスとアーシャに至っては十八歳である。面体だけで判断すれば、魔族の姉妹もアウトだろう。実年齢は違うがマリアンデールは中学生ぐらいで、ルリシオンも高校生に見える。


「いいじゃねぇか。おっさんはおっさん。俺らは俺らだ」

「そっそうよね。シュンの言ったとおりだわ!」

「ちっ。何シャバいこと言ってんだ!」

「ギッシュ君にはちょっと早かったかな?」

「空手家、殺すぞ!」

「そこまでにしとけ!」


 どうにも喧嘩けんかっ早いのが、ギッシュの欠点のようだ。

 これもまた、勇者候補チームの特徴だろう。シュンがリーダーとして、上手にまとめているようだ。

 フォルトからは「チームを作るかも」と言われていたので、レイナスはそれとなく分析していた。収穫らしい収穫は無いが……。

 そんなことを考えていると、「ザ・普通」が話題を変えた。


「おっさんのことよりも、レイナスの剣は凄いな!」

「え?」

「ずっと気になっていたが、素材はミスリルだろ?」

「そうですわね」

「切れ味が良さそうだな。俺もそういう剣が欲しいぜ」


(聖剣だとは言えないわ。ソフィア様も黙っているわね)


 聖剣は魔剣と同様に、こちらの世界では最上級の武器である。

 そんな剣を持っているのが知られると、痛い腹を探られてしまう。使っていれば知られるだろうが、双竜山の森に引き籠っているので、早々に知られることはない。

 そして、わざわざレイナスから伝える必要もない。


「シュンは勇者候補だし、王国から支給されても良さそうだね」

「勇者候補はホストだけじゃねえぞ!」

「あ……。僕以外は全員か」


 勇者候補チームの中で、ノックスだけは従者枠である。だが従者枠であっても、仲間という位置づけだった。しかも、エレーヌが脱落しそうだ。

 そうなれば、同じ従者枠となる。


「とにかくお風呂の件は、フォルト様に聞いてみますわ」


 話は脱線したが、彼らの希望は食事と風呂だ。

 食事に関しては焼肉騒動の主犯対策として、フォルトからは「肉を与えるように」と言われている。後は風呂だが、これに関しては分からない。

 愛しの主人の性格であれば、提供ぐらいはするかもしれない。しかしながらレイナスにとっては、後回しの案件だった。

 屋敷に戻ったら、一緒に入るのだから……。

 そんな破廉恥なことを考えながら、一行を連れて下山を急ぐのだった。

Copyright©2021-特攻君

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