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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十四章 勇者召喚

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勇者召喚2

 異世界から召喚された人物は、とある部屋に押し込められる。

 過去にはフォルト・シュン・アーシャ・ノックスも、この部屋で待たされた。

 豪華な造りのうえ、高級そうなテーブルとソファーが置かれている。窓から外の風景は見られるが、残念ながら逃亡は無理そうだ。まるで防弾ガラスのような硬度で、鍵すら付いていない。

 現在その部屋には、二人の男性がたたずんでいた。


「とんだ災難に巻き込まれてしまった。いや、災難では済ませられんな。科学的にはあり得ない話だが……。言葉が通じているのは幸いだな。スキル、だったか?」


 窓から外を眺めた男性は、額が広く頭頂部まで頭皮が見えている。しかしながら完全には禿げておらず、側頭部は短く整えた白髪だ。

 特徴的なのは、長く伸ばした顎髭あごひげ。茶と白が混じり合い、左右に別れていた。またどこかの民族衣装を着用しており、祭事の途中で召喚されたか。

 ちなみに言葉が通じたのは、スキル『エウィ語』のおかげだ。異世界人は最初から所持しているそうだが、こちらの世界では共通語に該当する。


「お前は、国際指名手配の……」


 そしてもう一人は、体格の良い蓬髪ほうはつの男性である。顔の堀が深く、目の色は濃褐色。無精髭が生えており、どこかの「やさぐれ刑事」みたいだ。

 しわくちゃなジャケットもそれを物語っており、映画俳優のように見える。

 額の広い男性から距離を取って、髪をかき上げた。


「よく知っているな。どこかの組織の者か?」

「ちっ」

「やめておけ。連行されるときに、世界が違うと聞いただろう? いま私たちが争っても意味は無い。むしろ、奴らへの心証が悪くなる」


 蓬髪の男性は警戒しているが、額の広い男性がすまし顔でなだめる。

 二人とも召喚されたときは、すぐに両手を挙げて降参した。大勢の兵士に囲まれていたので当然だったが、どちらも最適の行動を選択している。

 最初の心証が良かったのだろう。

 この部屋に連行される際は、疑問にも答えてくれた。大人しくしていれば、今のところ害されることはない。


「まぁいい。えっと……」

「名前は思い出せんよ。それも聞いただろう?」

「こっちの世界に召喚するために、名前という糸を切った。だったよな?」

「概ねな。名前は、カードとやらに書かれているぞ」

「やれやれ。夢なら覚めてほしいんだがよ」


 二人とも、ポケットからカードを取り出す。

 部屋に押し込められるときに渡されたものだ。スマートフォンやタブレット端末のように指でタッチすれば、自分についての様々な情報が見られる。

 つまり、身分証になるものだ。

 妙に文化的だが、科学技術ではなく魔法技術との話だった。


「ぼやくな。私はジオルグだそうだ」

「俺はリガインだってよ」

「詳しく調査しないと分からないが、文明レベルは中世ぐらいか」

「兵士どもの装備から察すると、そんなところだろうな。でも天井のシャンデリアを見ろよ。一応は光っているが、ありゃ電気じゃねぇよな?」

「魔法技術の一つだろうが、中世以下の文明レベルだと厳しいな」


 額の広い男性がジオルグ、蓬髪の男性がリガイン。どちらも若者とは言えない年齢で、中年から壮年の域に入っていた。

 二人は部屋の中を物色しながら、こちらの世界のことを知ろうとする。

 科学技術を魔法技術で補っているようだが、文明レベルは察せられた。今後は生活で苦労しそうだと感じて、お互い溜息ためいきを吐く。


「ところでジオルグさんよ。召喚される前は、どこに居やがった?」

「状況を理解しての尋問か? 私を指名手配犯だと知っているなら、居場所ぐらいは特定していただろ?」

「いいから答えろよ」

「首都だな。あと数日もあれば占拠できたが……」

「ちっ。狂信者が……」


 こちらの世界に召喚される前のジオルグは、宗教が絡んだ軍事組織を束ねていたのだ。中東の一国を相手に、クーデターを引き起こしている。

 国際的に指名手配されていたが、ジオルグの殺害に動いている国もあった。


「これは異なことを。私が神を信じているとでも?」

「確か聖戦がどうとか、声明を出していただろ? 民衆をあおってクーデターなんぞ、正気を疑いたくなるぜ」

「体の良いうたい文句だな。暴動を起こすには、手足となる駒が必要なのだ。では知りたい情報は教えたし、今度はリガインのことを話せ」

「察しがついてんだろ? さすがに捕まえるつもりはねぇよ」

「FBIか」

「正解だ」


 そしてリガインは、米国のFBI捜査官である。

 ジオルグが言ったように、居場所は特定していた。捜査チームに在籍していたからと、「答え合わせ」をしたかっただけのようだ。

 争うつもりがないなら、以降の話は早かった。


「リガイン。私に協力しないか?」

「協力だあ? 国際指名手配犯が信用されると思ってんのか?」

「信用しなくても構わん。お互い利用し合う関係でいいだろう。FBI捜査官としての腕と知識を見込んでの話だ」

「はははははっ! いいだろう。どのみち最初は協力し合わねぇと、惨めに野垂れ死にそうだぜ。いい思いをさせてくれるんだろ?」

「私も野垂れ死ぬのは御免だ。地位と金は、すぐに確保してやる」

「さて、どうなることやら……。おっと、奴らが来たようだぜ」


 協力関係を築いたところで、扉がノックされた。

 そして、勇者召喚の間で出会った一組の男女が入ってくる。

 笑顔を浮かべたジオルグは、敵意が無いと理解できるように深々と一礼した。当然のようにリガインも、それに続く。


「王国〈ナイトマスター〉アーロンだ。そして、こちらが聖女ミリエ様である」

「先ほどは失礼しましたな」

「カードは確認したか?」

「はい。私はジオルグと書いてありました」

「俺はリガインだ」


 四人は対面形式で、ソファーに座る。

 以降は聖女ミリエから、詳しい説明を聞いた。

 召喚は一方通行で、元の世界へは帰れないこと。勇者候補になり得る者かどうかのの判別をして、以降の扱いを決定することなど。

 それを聞いた後は、ジオルグが先手を取った。


「勇者候補と申されても、私たちは見てのとおりですぞ? 剣ぐらいは持てますが、魔物相手に振り回すなど、とてもとても……」

「俺は戦えるが、さすがに数年で引退だろうな」

「そ、そうですか。アーロン様?」


 聖女ミリエは、おたおたしている。

 初めての勇者召喚の儀で、今までと違う者たちが召喚されたからだ。

 本来ならば、もっと若い人たちが召喚されるはずだった。聖神イシュリルが決めることだが、彼女はどうして良いかと混乱している。

 話を振られたアーロンも困り顔だ。


「お前たちのことは、我らも危惧している。聖神イシュリルの御心は、人の身では理解できぬのだ。どう扱って良いかも決めかねておる」

「そちらの都合ですな」

「分かっている!」

「聖女様の話では、元の世界には帰れないとのこと。同意なく召喚したからには、責任を取っていただけるのですかな?」

「はい。期限はありますが、城に建てられたロッジで……」

「お待ちを……」

「え?」


 ジオルグから疑問を呈したが、聖女ミリエの答えに被せて止めた。

 リガインと協力関係を築いた手前、彼らが敷いたレールに乗らないためだ。


「何も剣を握って戦うだけが、王国の利益になる使い道ではありますまい? 召喚される前の私は、とある大国の政権幹部でしてな」

「それで?」

「内政や外交であれば、今までの経験が活かせます。人の使い方は様々あれど、必ずや貴国のためになると自負しますぞ!」


 ジオルグは、得意満面の笑みを浮かべた。

 ここで自分たちの有用性を説いて、別の道を探らせる。

 人に取り入るなど朝飯前で、人をだますのも得意だった。狂信者をそそのかして、国を落とす寸前まで統率していたのだから……。


「アーロン様?」

「貴様。愚かにも、国家運営に携わりたいと申すか?」

「滅相もありません。ですが、私たちが召喚された意味はあるのでしょう? せっかくの経験と知識を無駄にしては、聖神イシュリルの御心に反するのでは?」

「ふむ。ならばリガインは、何をやっていたのだ?」

「敵国の官僚さ。こいつとは、外交の場でやりあったことがある。俺が言っても保証にならねぇだろうが、厄介な奴だったぜ」

「ほう。敵国同士だったのか。珍しいこともあるものだな。しかしながら、我らの一存では決められん」


 リガインが話を合わせ、ジオルグの援護に回った。

 アーロンの回答は妥当だが、話を聞いてもらえたことが重要だ。おそらくは国王に相談するのだろうが、選択肢の一つを与えられた。

 もう一押しして、国王をその気にさせられたら勝ちである。


「私たちは、監視下に置かれるのでしょうな。どうせ監視下に置くなら、損にならない程度に使ってみればよろしいでしょう」

「ううむ」

「見てのとおり、私たちを押さえ込むのは簡単ですぞ。籠の中の鳥とはよく言ったもの。生かすも殺すも自由ですな」

「貴様は口が達者なようだな。とにかく、決定は後日とする。暫くは聖女様が仰ったように、ロッジで生活してもらう。大人しく待っていろ」

「承知しました」

「では、世話役の神官を紹介します」


 その後は、フォルトたちと同じだ。

 ジェシカのような世話役の女神官が紹介されて、ロッジに連れていかれる。ジオルグとリガインが、そこでも文明レベルの低さを嘆いたのは言うまでもない。

 ともあれ、二人は協力関係を結んだのだ。

 待機時間はロッジの周辺で情報収集を行い、今後に備えるのだった。



◇◇◇◇◇



 フォルトは重い腰を上げて、北の平原に向かおうとしていた。

 まずは予定どおりに、マリアンデールとルリシオンの限界突破を終わらせる。

 他にも、デルヴィ侯爵に送る魔物・魔獣の捕獲もする。なので、自身の力を見たいと言ったアーシャを同行させるつもりだ。と言っても準備をしている最中で、現在は屋敷の屋根に上って彼女たちを待っていた。

 ソフィアに膝枕をさせて、グリムとの定期連絡で得た外部情報を聞いている。もちろんカーミラもおり、腰の上にまたがっていた。

 何とも卑猥ひわいである。


「勇者召喚ねぇ」

「私の後任として、新たに聖女が選ばれました。聖神イシュリルから、神託があったのでしょう」

「また俺がいた世界から、不幸な奴らが召喚されたと?」

「もっ、申しわけ……」

「ソフィアは悪くない。今の俺は幸せだから、結果としては良かったと思う。人間を辞めてしまったが、こうやって自堕落に生きられる」

「まあ!」


 元聖女のソフィアは、異世界人に対して自責の念を抱いている。いくら自分が召喚した異世界人から責められずとも、良心の呵責かしゃくに苛まれて生きていくだろう。

 称号は剥奪はくだつされたが、彼女こそ聖女であるとフォルトは思っていた。

 異世界人に謝るべきは、そんな彼女に勇者召喚の儀を行うように命じた国王。

 そして、神託を下した聖神イシュリルである。


「まぁ何だ。神様に文句は届かないしなあ。俺は国王に嫌味を言ったが、また召喚したのなら意味がなかったようだ」

「えへへ。取り止めるわけがないでーす!」

「知ってる。ふんっ! ふんっ!」

「あんっ! あんっ!」


 フォルトの言葉を受けて、国王が心変わりをするとは到底思えない。もちろん分かっているので、カーミラの話を肯定するように腰を上下させる。

 とても喜んでいるが、腰に跨っているだけだ。


「で、どんな奴らだったのだ?」

「中年から壮年の方々ですね。一人は、フォルト様よりも年齢が上です」

「あれ? 若者が召喚されるのではなかったのか?」

「はい。ですが、フォルト様は違いましたし……」

「俺が選ばれた理由は、魔人が関係してそうだけどな」

「前の御主人様に選ばれた感じですしねぇ」


 カーミラが言ったように、暴食の魔人ポロの儀式と勇者召喚の儀式に、何らかの関係があったのだろうと推察される。異世界との道を繋いだところに、ポロの儀式の何かが紛れ込んだのかもしれない。

 このあたりは考えても答えは出ないので、フォルトは話の続きを進める。


「何にせよおっさんなら、勇者候補になれないだろう。まぁ俺ほど落ちぶれていなければ、働き口もあるか。だが、城から放り出されるのは確定だな」

「いいえ。ローイン公爵の下で働くそうです」

「え? 凄い称号やスキルでも持っていたか?」

「内政や外交が得意のようで、試しにやらせるようですね」

「おっさんでもエリートだったか。同情しそうになったがやめだ」


 内政や外交が得意ということは、国家機関に所属していた者たちだ。

 きっと世渡り上手なので、こちらの世界でも生きていけるだろう。どのみち手を差し伸べるつもりはなく、フォルトが同情しても関わることはない。

 逆に「不幸になってしまえ!」とさえ思う。


「もしかしたら御主人様のような強者を召喚するために、神々が試行錯誤しているかもしれませんねぇ」

「おいおいカーミラ。俺は偶然の産物だろ?」

「単なる予想ですよぉ。無駄に力を使って、ご苦労さんでーす!」

「神様を馬鹿にするとは、さすがは悪魔。俺も見習うとしよう」


 口角を上げたフォルトは、空に向かってピースをした。

 ソフィアと生活する中で、聖女の役割については聞いている。実際に召喚を行うのは聖神イシュリルなのだから、自身のことは知られているはずだ。

 「神々の敵対者」という称号を持つので、皮肉を込めた行動である。


「えへへ。ずっと見てるわけがないじゃないですかぁ」

「そ、そうだな! でも真面目な話、監視や追跡はされているのか?」

「一人を気にするほど、神々は暇じゃないと思いまーす!」

「確かにな。神と言っても、万能ではないだろう。ソフィアはどう思う?」

「私も同感ですね。万能であれば、すでに何かをされているでしょう」


 日本にいた頃のフォルトは、宗教について思うところがあった。

 もしも本当に神が存在するなら、とっくに人類を救っているはずだ。また神が望む世界になっていたとしたら、わざわざ崇める必要性を感じない。神の不作為を、「神学的な言い訳」で正当化したとしても同じことだ。

 ましてや神が実在するこの世界であれば、余計にそう考えてしまう。

 魔物が跳梁跋扈ちょうりょうばっこする世界で、人間は最弱に位置する種族なのだから……。


「さてと、そろそろ準備も終わるかな?」

「姉妹の限界突破と、魔物の捕獲ですよね?」

「うむ。アーシャも俺の力を見たいらしいので連れていく」

「でしたら……」


 言うまでもなく、カーミラも一緒だ。

 それを聞いたソフィアが、自分も行きたいと言った。


「ソフィアも見たいのか?」

「フォルト様の力を見ておけば、色々と助言できますので……」

「そ、そうだな! 俺は、こっちの世界の常識を知らないしな!」

「では行きましょうか。皆さんの準備が終わったようです」


 ソフィアの助言。

 それは苦言とも言うが、フォルトが悪目立ちした後の対処も考えてくれる。まだまだこちらの世界の常識を知らないので、とても有難いものだった。

 彼女がいなければ、魔王ルートを進んでいたかもしれない。などとゲーム脳で過去を振り返りながら、彼女を抱えてカーミラと共に屋根から飛び下りる。

 それから同行者たちと合流して、北の平原に向かうのだった。

Copyright©2021-特攻君

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