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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十四章 勇者召喚

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勇者召喚1

 エウィ王国の王都、城塞都市ミリエ。

 王城の地下では、勇者召喚の儀が行われようとしていた。

 普段は結界が張られた部屋で、誰も立ち入れない場所である。だが現在は、武装を整えた十数人の兵士がいた。

 防具は鋼製のよろいと盾、武器は片手槍かたてやり

 捕縛網も用意されており、物々しい警戒態勢だった。


「所定の配置につけ!」

「「はっ!」」


 銀色のよろいに身を包んだ騎士が、野太い声で命令を下す。

 部屋の中央には、複雑な魔法陣が描かれている。兵士たちは足を踏み入れないように注意しながら、円を描くように並んだ。


「アーロン様! 準備が整いました!」

「よし! 暫し待て!」


 アーロンと呼ばれた四十代後半の騎士は、強面のうえ左目に眼帯を付けていた。大柄で強者の風格があり、他の兵士とは一線を画す。

 待機命令を出した後は、腕を組み微動だにしない。

 部屋の中は静寂で包まれ、ある種の緊張感に包まれた。兵士たちは、「動いたら怒鳴られる」と感じているのかもしれない

 ともあれその静寂を壊すように、部屋の扉が開いた。


「ここですか?」


 可愛らしい女性の声が、部屋の中に木霊した。

 勇者召喚の儀を執り行う聖女ミリエである。黄橙色おうとうしょくつえを持ち、部屋に入ると不安そうに周囲を見渡している。

 護衛の騎士もおり、彼女をアーロンの前にエスコートした。


「はっ! こちらが、勇者召喚の間となっております」

「あなたは?」

「王国〈ナイトマスター〉アーロンでございます」

「〈ナイトマスター〉様、ですか?」

「いやはや。陛下の命令なので仕方ありませんが、二つ名を名乗るのは恥ずかしいかぎりです。ミリエ様に置かれましては、名前だけを記憶していだだければ幸いです」

「ふふっ。お顔に似合わず、面白い御方ですね」


 アーロンは隻眼の強面なので、もっと怖い人物だと思っていたようだ。

 そうは言っても属国カルメリー王国の第二王女でもあるミリエは、エウィ王国のすべてが大嫌いだった。

 最近は表情に出さないが、内心では会話もしたくないだろう。


「アーロン殿。準備はできているようですね」

「これは教皇カトレーヌ様。お久しゅうございます」


 続けて部屋に入ってきたのは、聖神イシュリル神殿の教皇カトレーヌだ。

 人の良さそうな老女とはいえ、教皇服に身を包んだ姿には威厳がある。

 次回の教皇選に出馬する予定だが、シュナイデン枢機卿すうききょうに押されているらしい。人柄は申し分ないので、勝算が無いわけではなかった。

 そんな彼女は、聖女ミリエの教育係を務めている。


「カトレーヌ様にお尋ねしたいのですが、今回も四人なのでしょうか?」

「いいえ。聖神イシュリルの神託によれば、二人ですね」

「はて? 珍しいですな」

「疑問は当然でしょうが、聖神イシュリルの意思です。あなた方の対応に変更はありません。召喚される異世界人には悪いですが……」

「仕方ありますまい。過去には暴れる者もおりましたからな。少しでも妙な動きをすれば、我らが処理致しますぞ」


 勇者召喚の儀。

 異世界の人間を、無理やりに召喚する儀式だ。

 基本的に、その者がどういった状況に身を置いていたかの事前情報は無い。前回召喚された勇者候補のシュンは、ホスト店で働いていた。他にも十年前に勇者となったアルフレッドは、戦場に身を置いていたなど様々である。

 新たに聖女となったミリエは、初めての儀式の臨む。


「儀式についてはカトレーヌ様に習いましたが……。緊張しますね」

「ミリエは聖女の称号を授かった者として、異世界との道をつなぐだけですよ。召喚自体は聖神イシュリルが執り行うので、失敗することはありません」

「はい」

「教皇様と聖女様は、私の後ろに描かれた召喚陣までお進みください」


 部屋の中央に描かれた魔法陣に、異世界から召喚した者たちが現れる。

 もう一つの魔法陣は、教皇と聖女が使用する。神の代弁者たる教皇が、聖神イシュリルに勇者召喚の儀を執り行うことを伝えるためだ。

 そして聖女の称号を通じ、異世界人を召喚する手順になっていた。

 まずは教皇カトレーヌが、床に両膝を立てながら祈りをささげる。続けて聖女ミリエが、天井に向かって杖を掲げた。


「勇者召喚の儀が開始された! 槍を構えっ!」

「「はっ」」


 命令を受けた兵士たちの緊張感が増した。

 召喚された異世界人は、状況を飲み込めずに混乱する者も少なくないからだ。

 特に、「ジュウ」なる異世界の武器を所持する者は危険だった。鉛の弾を飛ばす武器で、鉄製の鎧だと貫通する威力があった。

 こちらの制止も聞かずに暴れる者は、即時の捕縛・殺害も視野に入れている。

 ちなみにフォルトは就寝中の召喚で、扱いは非常に楽だった。


「来るぞ!」

「「はっ!」」

「『勇者召喚ゆうしゃしょうかん』!」


 聖女ミリエの声が部屋に響くと、中央の魔法陣が光り輝く。

 その光は増幅していき、凝視すると目が潰れそうだ。アーロンや兵士たちは手で目を隠しながら、指の隙間から魔法陣を眺める。

 やがて、光が集束して消えていく。

 そして魔法陣の上には、二人の人間が立っているのだった。



◇◇◇◇◇



 エウィ王国で、勇者召喚の儀が執り行われている頃。

 真剣な表情のフォルトは、アーシャの部屋に籠っていた。

 現在は、ベルナティオの専用服を考えているところだ。彼女の後ろから羊皮紙を眺めつつ、ラフ案に対して修正を指示している。

 目の保養となる身内の服には妥協したくないのだ。

 ただし身内と二人でいると、どうしても視線はイヤらしくなってしまう。スキルで若者の姿になっていようとも、中身は引き籠りのおっさんである。


「アーシャは日焼けしやすいよな」

「ガングロにはしないけどねぇ。これぐらいが好みっしょ?」

「最高だな」

「あたしが着てる服もいいっしょ?」

「マジで最高だな」

「きゃはっ!」


 笑顔を浮かべたアーシャは、リリエラがクエストで入手した服を着ていた。

 ガルド王がエルフ族に卸すつもりだった服で、シンプルでも露出多寡である。ギャルの小麦肌が実にエロく感じられて、フォルトの下心を揺さぶった。

 ちなみに彼女は、普段から着用するつもりはないそうだ。やはりファッション性が皆無なので、ギャルの心には響かない。


「ねぇフォルトさん」

「どうした?」

「捕まえる魔物って、フロッグマンだけなん?」

「特に決めていないな。別に仕事ではないし……」


 魔物・魔獣の捕獲は、デルヴィ侯爵から依頼である。だがフォルトは、「無職こそ我が人生」と決めていた。

 自分たちが何らかの行動を起こしたときに、たまたま捕獲するだけなのだ。主要な目的ではないので、「催促されてからでも良いかな」とさえ考えている。

 それでも捕獲を了承した手前、渋々でもやるつもりではあった。

 本当に、本当に渋々だ。


「またシュンたちが来るでしょ? 何回も来られるよりはさぁ。たくさん捕まえて渡しちゃえばいいじゃん!」

「なるほどな。重い腰を上げて、今のうちに捕獲しておけと……」

「ついでにさ。日程を決めちゃえば?」

「うーん。スケジュールに縛られたくないな。だが、その意見はもっともだ。まぁ頻繁だと嫌だが、アーシャのために頑張ってみるか」

「マジ? やった!」


 もちろんフォルトも、スケジュール管理の重要性は理解していた。

 今まで行ってこなかったのは、自堕落生活に不要だからだ。しかしながら、そうも言っていられないか。

 来訪の予定日を決めておけば、前回のような不在時の問題事は避けられる。


(まぁ何だ。スケジュールを組むような予定を入れなければ良いのだ。まぁ今回は仕方ないとはいえ、シュンたちが来訪しないようにするのが一番だな)


 今は何も思い浮かばないので、この問題は棚上げするしかない。頭の良いソフィアに振って、何か対策を考えてもらう。

 とりあえずアーシャの提案は、魔物・魔獣の大量捕縛だ。


「何を捕獲するかな」

「フロッグマンしか知らないけど?」

「後で詳しい身内にくか。まぁ今は、デザインを完成させよう」

「後の後ね。フォルトさんがデザインだけで済ますわけないっしょ!」

「当然だな。でへでへ」

「ちょっとだけよぉ。あんたも好きねぇ」

「ぶっ! 言い方、言い方!」


 アーシャは昭和の匂いをただよわせ、フォルトを喜ばせてくれる。

 あのときに助けて良かったと、改めて思った。


「あ、そうそう。ティオさんにも言ったけどさぁ」

「どうした?」

「フォルトさん自身の戦闘を、実際に見てないんだよねぇ。召喚する魔物が凄いのは知ってるんだけど、あたしには見せられないものなん?」

「別に構わないが……。見たいのか?」

「て、手加減はしてね? とんでもないって聞いたからさ!」

「なら、魔物や魔獣を捕獲するときに見せるとするか」

「やった!」


 アーシャは常々、「あたしを守ってね」と言っている。

 戦闘面での実力を知ることで、強い男性に守られている安心感を得たいのだろう。何だかんだで彼女も、それを強く意識するほどの経験をしていた。

 依然として腰は重いが、残された日数は少ないか。

 ともあれデザイン画が完成するまで、彼女と額を突き合わせる。終わった後は当然のように交わって、至福の時間を共に過ごした。

 以降はニャンシーにデザイン画を渡し、リリエラに届けさせる。

 そしてひと段落付いたと、一人でテラスに向かう。

 屋敷を出た後は、そこで寛いでいたソフィアに声を掛けられた。


「あらフォルト様。服のデザインは完成しましたか?」

「うむ。デザイン画がリリエラに届けば……。でへ」

「お、お茶を入れますね」

「ありがとう。おっと、俺の隣が空いてるなあ」

「ふふっ」


 フォルトは自分専用椅子に座り、ソフィアを招く。

 ティーカップにお茶を注いだ彼女はほほを赤らめながら、隣に腰を下ろした。すると女性の香りが鼻孔をくすぐり、無意識に大きく吸い込む。

 それからお茶を飲み、彼女が着用しているビキニビスチェを弄った。


「そうそう。ソフィアに尋ねたいことがある」

「何でしょうか?」

「アーシャと話しているうちに、マリとルリの限界突破のついでに魔物や魔獣を捕獲できないかと思ってな。北に広がる平原地帯には、どんな奴らがいるのだ?」

「有名な魔獣は、ライノスキングです。と言っても大型魔獣なので町がつぶれてしまいますし、闘技場でも扱えないでしょうね」

「ソフィアは冗談も真面目だなあ」

「あ、あら」


 いっそのことライノスキング送れば、デルヴィ侯爵やシュンを踏み潰してくれるかもしれない。などとフォルトは考えたが、それを口にするのは避けた。

 ソフィアは善人なので、同じ冗談でも確実に止められる。

 とりあえず知りたいのは、他の捕獲対象についてだ。


「で、闘技場で扱えそうなのは?」

「確か、キラーエイプやトロールがいますね」

「トロールは巨人だよな?」

「はい。知能はオーガ程度で、片言でも会話はできます」

「ほほう。なら、キラーエイプは?」

「中型の猿ですね。知能は獣並みです。他には……」


 幽鬼の森の北に広がる平原には、中型に分類される魔獣が多い。群れであれば大型も捕食しており、人間には別世界に感じる領域だ。

 フォルトの知る場所だと、ビッグホーンが棲息せいそくする領域が近いか。

 中型でも人間よりは大きいので、もしも立ち入るなら相応の覚悟が必要だろう。推奨討伐レベルも三十を越え、高ランクの冒険者でも二の足を踏む。

 魔物なら、どこにでも現れる昆虫系がいる。

 こういった話を聞くと、ソフィアのことが魔物大辞典に思えてきた。

 魔王を討伐するために、様々な冒険をしただろう。


「推奨討伐レベルが三十越えであれば、もしかして狩場になるのか?」

「おっさん親衛隊だと危険ですね」

「あ……。駄目か」

「ティオさんがいても、自動狩りだと難しいです」

「なるほど。なら……」


 自動狩りとは、バッサバッサと魔物を倒して数をこなす方法だ。

 レベルが低かった頃のレイナスも、格上のオーガと戦わせなかった。

 蘇生そせい魔法など存在しないので、命の危険は極力避けなければならない。北の平原地帯は同格以上の相手になるので、もう少しレベルを上げてからでないと厳しい。


(まぁアーシャを連れていっても、マリとルリがいるし平気か。人間がいないなら、力を抑えなくてもいいしな)


 他人からも見られないのなら、フォルトは気兼ねなく魔人の力が使える。戦闘経験は未熟だが、ゴリ押しで何とでもなるだろう。

 そう思って話を終わらせた後は、ソフィアの肩を抱き寄せた。


「でへ。ソフィア」

「はい?」

「色々と教えてもらった礼をしたいのだが……」

「ぁっ! で、では私の部屋に行きましょうか」


 先程までアーシャの相手をしていたが、フォルトにはソフィア成分も必要だ。

 彼女も望んでいるようで、すぐに席を立つ。続けて二人で手を取り合い、屋敷の中に向かうのだった。

Copyright©2021-特攻君

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