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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十四章 勇者召喚

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神への信仰3

 今後の予定に道筋を付けたフォルトは、いつものようにテラスに出て、自分専用の椅子に座っている。無気力な表情で、口をだらしなく開けていた。また腰を前にずらして、ダランと足を伸ばしている。

 これが満員電車の中であれば、迷惑行為になるだろう。

 すでに昼を過ぎているが、毎日が日曜日なので気にしない。隣に座るカーミラの太ももに手を伸ばしながら、無為な時間を過ごしていた。


「足を絡めて抱き着いてくれ。カーミラ成分を補充したい」

「さっきまで気持ちいいことをしていましたよぉ」

「足りない。そして別腹」

「うりうり」

「でへでへ」


 やってることはシュンと変わらないが、こちらの空間のほうが明るい。

 フォルトは身内に対して、暴力を振るわない男である。また彼女たちから与えられている愛情や安らぎを、不器用ながらも返しているつもりだった。

 一方的に愛を求めないところも、大きな違いだ。

 ともあれカーミラからリリス的な愛情表現を受けていると、ふと思い返したように疑問が浮かんだ。


「そう言えば、魔界の神は悪魔王だったな。では悪魔とはいえ信じる神が存在するのなら、信仰系魔法を使えるのか?」

「使える悪魔はいますよぉ。使い道がアレですけどねぇ」

「アレ?」

「拷問するために、傷の治療をするのですよぉ」

「さ、さすがは悪魔。なら悪魔王への信仰心が、力の源なのか?」

「悪魔に信仰心は無いでーす! 持って生まれた力が正解ですねぇ」


 天界の神々が天使を生み出すように、悪魔は悪魔王が創造した存在だ。

 どちらも、創造主の力を与えられている。悪魔王も神々の一柱なので、一部の悪魔には治癒系の魔法を与えていた。

 魔法の系統ではなく、能力の一種と考えれば良いだろう。


「残念だ。シェラには使えないか」

「悪魔王の司祭にしたいってことですかぁ?」

「そうそう。悪魔王も神なのだから、信仰の対象かと思ったのだ」


 なぜ、疑問に浮かんだのか。

 現在フォルトの身内で、何の制限もなく信仰系魔法が使えるはシェラだけなのだ。自身の呪術系魔法でも可能なのだが、傷を移す対象が必要だった。

 そして堕落の種を取り込んだ彼女に、信仰系魔法を使わせる場合。

 悪魔に変貌することが前提なので、自然神を信仰させるのは確実性が無い。であれば、魔界の神々ならどうだろうかとひらめいたのだ。


(まぁ神々を馬鹿にしたような話ではあるが……)


 本来は、信仰する神を変更することは難しい。

 今まで拠り所にしていたのだから当然だ。自分という存在の否定であり、神に対しても不敬である。

 ただしフォルトは無神論者なので、どうしても軽く扱ってしまう。


「悪魔王は信仰心じゃなくて、別のものを欲しがっているのですよぉ」

「どういうことだ?」

「えっとですねぇ」


 まず天界の神々は、人々の信仰心を欲している。

 そして魔界の悪魔王は、人々の憎悪や憎しみという負の感情を欲しているのだ。何らかの力にするのだろうが、それぞれの求めるものは合致していない。


「ふむふむ。なら信者になっても、信仰系魔法は使えないのか?」

「えへへ。魔法を与えられても、すぐに使えなくなりますよぉ」


 悪魔王を信じる者は、悪魔王に泣く。

 信仰するのは勝手だが、基本的には報われないのだ。仮に信仰系魔法が使えるようになったとしても、いざというときに取り上げられる。

 そして人々というものは、負の感情に囚われやすい。欲しているものを簡単に確保できるので、わざわざ信者を集める必要が無い。


「さすがは魔界の神。えげつないな」

「ですので、シェラに信仰させるのはお勧めできませーん!」

「悪魔がそれを言ってもいいのか?」

「カーミラちゃんの御主人様は、悪魔王じゃありませんよぉ。ちゅ!」

「でへ。しょうがないな。やはり、エルフ族に期待か」


 色々と代替案を考えていたが、自然神に期待するしかないようだ。

 そう考えると同時に、ブロキュスの迷宮で知り合ったセレスを思い出した。彼女はエルフ族で、森司祭と呼ばれるドルイドでもある。

 自然神を信仰しているのは間違いなさそうだ。

 彼女が限界突破の神託を受けられるなら、シェラは堕落の種を食べられるか。


「では、いつ食べさせるかだな」

「確かシェラは、レベル二十五でしたよねぇ?」

「そうだな」

「魔族ですし、ゆっくりと考えればいいと思いまーす!」


「フォルトぉ。オヤツよお」


 ここで屋敷から、マリアンデールとルリシオンが出てきた。

 フォルトから頼まなくてもテラスにいれば、オヤツや飲み物が用意される。人気の場所で、誰かしらがいるからだ。

 姉妹はシェラの同様に魔族なので、ついでに尋ねてみる。


「シェラについて話していたのだが……」

「堕落の種ね。シェラは魔族だし、レベルを上げてからでもいいわよ」

「まずは、自然神のことを聞かないとねえ」

「ははっ。カーミラからも、同じことを言われた」


 難しく考えたところで、結論は同じである。エルフの里に行かなければ、この先を考えても意味は無い。

 ともあれ折角なので、フォルトは別の話に変えた。


「ところで、マリとルリのレベルはいくつなのだ?」

「デリカシーは相変わらずなのね」

「前にも言ったけど、乙女の秘密よお」

「ははっ。自分たちの戦力を知っておきたくてな」

「そうねえ。カーミラよりは低くて、ティオよりは高いわあ」

「ティオも聞いていなかったな。だが、レベル五十よりも上か」

「貴方。レベルを気にしすぎると、痛いしっぺ返しを受けるわよ」


 自己の能力を隠すのは、魔族でなくても当然の行動である。

 ただし魔族の場合は、「数値化されたレベル」を絶対視していないのだ。情報の隠匿というよりも、戒めの意味合いが強い。

 その点に関しては、フォルトも理解していた。

 レベル上昇の検証を行っており、その副産物として行き着いた答えだ。しかも天界の神々を信用していないので、レベルという概念にも懐疑的だった。間違った数値ではないだろうが、魔族と同様に絶対視はしていない。

 レベルに関しては、あくまでも目安だと結論付けていた。


「それで、貴方のレベルは?」

「そ、そ、それは……。マリはデリカシーがないなあ」

「ふふっ」


 身内に隠し事をしないフォルトでも、レベルに関しては伝えていない。

 さすがに高すぎるので、どのようなリアクションをされるか不安なのだ。風聞だけの魔人という種族ならまだしも、レベルは数値化されているので具体的だった。魔王スカーレットとは二倍以上のレベル差があり、身内は恐怖を感じるだろう。

 それが原因で逃げ出されたら、再び絶望を味わってしまう。彼女たちなら大丈夫と思っていても、小心者の性格は変わらない。

 適当にごまかした後は、別の話題を振る。


「あ、そうだ! マリとルリにきたいことがある」

「何をかしら?」

「いいわよお」

「どうやって、レベルを上げたのだ?」


 マリアンデールとルリシオンでも、最初から強かったわけではない。

 やはり多くの魔物・魔獣を討伐して、レベルを上げたはずだ。高レベル帯の狩場を知っておくことで、おっさん親衛隊のレベル上げに利用したいところだった。

 フロッグマンの討伐だけでは、レベルの上昇は見込めない。


「そんなの決まってるじゃなあい。帝国軍の兵士どもよお」

「え?」

「いい狩り場だったわね」

「あ……。もしかして人間を殺しても、レベルは上がるのか?」

「当然よ。ティオも魔族を討伐してレベルを上げたのでしょ?」


「魔族だけではないがな」


 日課の鍛錬を終えたのか、ベルナティオとレイナスが戻ってきた。

 二人とも体が上気しており、タオルで汗を拭いている。フォルトの後ろに立った後は、二つの柔らかいものを押し付けて、後頭部を刺激してくれた。

 真面目な話をしていたので、良い気分転換になった。

 そして人数が増えたからと、ルリシオンが席を立つ。


「レイナスちゃんと夕飯の仕込みをしてくるわあ」

「ルリちゃん! 私も!」

「お姉ちゃんは残っていいわよお。後で話の続きを教えてねえ」


 テーブルの定員は三名なので、ルリシオンとレイナスが抜ける。

 そして空いた席には、ベルナティオが座った。ならばとフォルトはオヤツとして置いてあったキュウリスティックを、彼女の口元に運ぶ。


「お疲れティオ。あーん」

「ちっ。あーん」

「なぜ舌打ちする?」

「癖だ。気にするな」


 フォルトにとって、ベルナティオの返しは新鮮だった。

 ブロキュスの迷宮でも、彼女に話しかけると舌打ちされていたか。当時は本気で嫌そうだったが、今はうれしさの裏返しである。

 とりあえず一息入れて、オヤツを食べながら会話の続きに戻った。


「ポリポリ。ティオは魔族を討伐して、レベルを上げたのか?」

「そうだな。魔族は数えきれんほど斬ったぞ」

「………………。それを聞いて、マリは怒らないのか?」

「弱い魔族が悪いのよ」


 相変わらず、弱肉強食思想が徹底している。

 人間でも、ベルナティオは強かった。そして、斬殺された魔族が弱かった。ただそれだけのことで、マリアンデールが彼女を憎むことはない。

 もちろん、妹のルリシオンも同様だ。


「まぁ人間をいっぱい殺せば、レベルが上がるということだな」

「でもでも。御主人様は技術発展のために、人間を殺さないんですよねぇ?」

「確かに人間は減らしたくないが、戦争なら相手国の兵士だけで済みそうだ」

「貴方はどこかの国に肩入れをするつもりなのかしら?」

「俺は一応グリム家の客将だが……。うーん」


 何やら物騒な会話になったが、フォルトにとっては貴重な情報だった。

 もしも戦争が勃発した場合は、身内のレベル上げに使える。しかしながら恩義があるのはグリム家だけで、エウィ王国自体は嫌いだった。

 身内のためとはいえ、簡単には決められないか。


「私とルリちゃんは、人間を蹂躙じゅうりんできるからいいけどね。でも、戦争なんて起きるのかしら?」

「起きないなら起こさせるのも手だろうな」

「えへへ。面倒臭がり屋の御主人様じゃ無理でーす! それに、ソフィアから怒られますよぉ」

「あ……。そうだった。身内が嫌がることはやりたくない!」

「やれやれ。結局きさまは何がしたいのだ?」

「決まっているだろう。果報は寝て待て、だ!」


 戦争の気配があれば、グリムから何か言ってくるだろう。

 いずれにせよ、フォルト自身は何かをやるつもりがない。戦争にしても身内の付き添いで参陣して、命の危険があれば介入するだけだった。

 実際に戦う彼女たちに決めさせたほうが良いかもしれない。

 そんなことを考えていると、マリアンデールから催促された。


「ところで貴方。そろそろマンティコアの討伐に行きたいのだけれど?」

「あ、済まん。もう数日だけ待ってくれ。アーシャが最後の追い込みをかけている。それが完成したら出発しよう」

「ティオの服だったわね」

「うむ。デザインを、リリエラに届けないといけないからな」

「貴方が余計なことをしなければ終わっているはずよね?」

「うぐっ!」

「御主人様は、シェラに下半身を診てもらったほうがいいとおもいまーす!」

「まったく、きさまという奴は……」

「あ、はは……」


 ベルナティオ専用の服は、アーシャと額を突き合わせてデザインしている。

 フォルトが妥協しないので、ボツ案を量産していた。またムラムラするたびに彼女と情事に入るからか、デザインの進行が遅れている。


(これは拙い。みんなから弄られる前に逃げよう!)


 予定というほどの話ではないが、作業が遅れている理由は自覚していた。さすがにテラスで和んでいる場合でないと、そそくさと立ち上がる。

 以降のフォルトは足早に、アーシャの部屋に向かうのだった。

Copyright©2021-特攻君

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