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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十四章 勇者召喚
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神への信仰2

 シュンの前にいるのは、聖神イシュリル神殿の司祭である。

 デルヴィ侯爵よりも若そうだが、中年と壮年の境目あたりが妥当か。ひげは生えておらず、髪も短く整えてある。

 以前に出会ったモルホルト司祭よりも、服装が豪華かもしれない。


(ふぅ。俺の苦手なタイプだぜ)


 日本にいた頃のシュンは、社長といった企業のトップとも打ち解けていた。

 ただしそれは、キャバクラで遊ぶような中小企業の経営者たちだ。アフターでキャバ嬢の財布になり、ホスト店に来店しては値段の高い酒を注文する。来店したときはすでに酔っているので、とても扱いやすい。

 そして目の前の司祭は、酒と女に溺れないタイプだ。

 司祭なのだから当然かもしれないが、こういった人物に冗談は通じない。話題にできるネタも無く、フレンドリーな関係は望めない。

 それを肯定するかのように、司祭は笑顔を浮かべていない。また真面目な表情で、椅子に座るよう指示が出された。

 当拒む理由がないので、素直に従がう。

 

「先に名乗っておきましょう。聖神イシュリル神殿枢機卿(すうききょう)のシュナイデンです」

「枢機……。え? 枢機卿猊下(げいか)ですか!」

「おや。驚かせてしまいましたか」

「い、いえ!」


 シュナイデン枢機卿。

 聖神イシュリル神殿のナンバーツーで、教皇の次に偉い人物だ。うわさでは次回の教皇選で、教皇になると言われていた。

 はっきり言うと、雲の上の存在である。

 エウィ王国の貴族でも、頭が上がらない人物なのだ。デルヴィ侯爵と同様に、シュンなど吹けば消し飛ぶ塵芥ちりあくた

 ラキシスは、司祭の下に連れてきたはずだが……。


「あぁ司祭との面会でしたね。申しわけないが用事を頼んだところだったので、私が代わりに対応します」

「そう、ですか」

「どうやら、緊張しているようですね」

「そ、それはもう……」

「緊張するなとは言いませんが、楽にしてくれて結構です」

「ありがとうございます」


(いきなり枢機卿は勘弁してもらいてぇが……。これはチャンスだぜ! 侯爵様と同様に、俺の後ろ盾になってもらいてぇ。まずは、心証を良くしねぇとな)


 デルヴィ侯爵に続いて、偉い人との対面である。

 そしてシュンは俗物で、自覚もしていた。

 金銭や女性、世間の名声を第一にしている。異世界に召喚されてからは、そのての人脈が欲しかった。だからこそ機を逸さないよう、慎重に対応をする。


「シュン殿は、信仰系魔法を習得したいそうですね」

「はい。自分の成長に限界を感じまして……」

「ほう。それで、神殿を頼ったのですね?」

「仰るとおりです」

「ふむ」

「………………」


 デルヴィ侯爵を前にしたときと同様に、敬語を使うのは当然だった。

 タメ口をきく奴は愚か者だが、ふと仲間のギッシュを思い浮かべてしまう。というのも、シュナイデン枢機卿が考え込んで間が空いたからだ。

 もちろん口を挟むほど、シュンは馬鹿ではない。


「まずシュン殿のことは、デルヴィ侯爵様から聞き及んでいます」

「そうなのですか?」

「そして失礼を承知で申しあげますが、シュン殿は少し不純ですね」

「そっ、そんなことは……」


 ラキシスの件を言っているのだろう。

 彼女とヤリ部屋を用意したのは、デルヴィ侯爵と神殿だ。

 これにはさすがに、恥ずかしさが込み上がる。まさか、この場で辱められるとは思っていなかった。


「結論から申しますと、シュン殿は信仰系魔法を習得できるでしょう」

「本当ですか?」

「私がうそをお伝えするとでも?」

「い、いえ! 申しわけありませんでした!」


 シュンは反射的に椅子から立ち上がり、頭を下げて謝罪した。

 相手は、聖神イシュリル神殿の枢機卿なのだ。もちろん嘘については建前だと理解しているとはいえ、それを指摘しては不敬になる。

 神に仕える者は、人を欺かないとされていた。

 ともあれ謝罪は受け入れてもらえたので、椅子に座り直した。


「では、お話の続きをします。どこまで聞き及んでいるかは存じませんが、神の奇跡は信仰心の強さによります」

「そうなのですね」

「私が見たところ、シュン殿は神を信じておりませんね?」

「あ、いえ。実際に存在するとは聞いていますが……」

「証拠が無ければ信じられない、と?」

「済みません」

「至極当然の話です。責めているわけではありません」

「………………」


 この件でもシュンは恥ずかしくなったが、ホストスマイルは崩さない。

 それにしてもシュナイデン枢機卿は、隠し事を暴いてどうしたいのか。「責めているわけではない」と言われても、単純に馬鹿にされているとしか思えなかった。しかしそれが違うことは、次の言葉で察せられた。


「今は神を信じておらずとも、これから信じることができます。つまり間違いを知ったときは意固地にならず、素直に正せば良いのです」

「そうですね」

「よろしい。では、これを受け取りなさい」


 ここで初めて笑顔を浮かべたシュナイデン枢機卿は、机の引き出しから、銀色の何かを取り出している。

 そして、シュンに渡してきた。


「これは?」

「聖印です。信者の証ですね」

「頂けるのですか? ありがとうございます」


 シュンが知る聖印は、キリスト教の十字架である。

 そしてシュナイデン枢機卿が渡してきたものは、何の変哲もない銀のメダルだ。同色のチェーンが付いていて、首から垂らせるように作られている。

 思い返すと、ラキシスも身に付けていたような気がした。


「それでは神の存在を信じていただくために、証拠を提示するとしましょう。シュン殿には、実際に神の声を聴いていただきます」

「え?」

「聖印を首に垂らし、そのまま祈りなさい」

「わ、分かりました」


 神の声という言葉には首を傾げたが、シュンは言われたとおりにする。

 目の前のシュナイデン枢機卿は両手を組み、目を閉じて祈りをささげていた。おそらくは同じようにすれば良いと考え、枢機卿の所作を真似する。

 どちらも身じろぎすらしないので、部屋の中が静寂に包まれた。

 ともあれ、祈りを続けていると……。


(シュン)


「なっ!」

「どうかしましたか?」

「い、いえ。女性の声が……」

「良い兆候です。続けなさい」

「はい」


 シュンを呼ぶ声が、頭の中に響いたのだ。

 このような体験は初めてだった。脳に直接語りかけられた感じなので、さすがに驚いてしまう。

 今まで意識していなかったが、心臓の鼓動が速くなっていた。

 以降も祈りを続けていると、シュナイデン枢機卿が終わりを告げる。


「祈りはもう十分です」

「はい!」


 そして、シュンは立ち上がる。

 次に姿勢を正して、右手を胸のあたりにドンと付けた。騎士の敬礼だが、それをしなくてはならないのだ。

 同時にシュナイデン枢機卿に視線を向けると、満足そうな表情だった。


「神の存在を確認できたようですね」

「はい。枢機卿猊下と侯爵様にお仕えするよう言われました」

「そこまで鮮明に啓示を……。他にもありますか?」

「力を付けるために、修行を続けるように指示を受けました」


 シュンは祈りを続けている間、神からの命令を受けた。

 履行する必要はないとも伝えられたが、神の存在証明が啓示という形で確認できたのだ。二人の権力者を後ろ盾にできるのだから、感謝の気持ちで一杯だった。

 この期に及んで、命令を無視するわけがない。


「そうですね。私も同じ啓示を受けました」

「神の声と仰せでしたが、聖神イシュリル様の声なのですか?」

「神に敬称は不要です。逆に不敬となります」

「失礼しました!」

「シュン殿は異世界人ですので、これから学べば良いのです」

「はい!」


 実際のところシュンに聴こえた神の言葉は、鮮明ではなく断片的だった。

 それでも拾い集めてつなぎ合わせれば、意味は通ったのだ。まるで言葉のパズルのようだったが、神の存在は信じられた。

 シュナイデン枢機卿からは機嫌良く、椅子に座り直すよう言われる。


「これで、神は信じられますね?」

「直接の声が届けば、誰でも信じましょう」

「今後は信仰心の強さが、シュン殿を導くでしょう」

「ありがとうございます」

「では、身分証となるカードを確認してください」


 シュンは懐から、カードを取り出す。

 それを操作して称号の欄を確認すると変化があった。

 「聖なる騎士」だったのが、「神聖騎士」になっている。同時に信仰系魔法も習得しており、何個かの魔法を使えるようになっていた。


「神聖騎士に変わりました」

「ほう。神に仕える騎士ですね」


 俗に言われるテンペラ―で、日本では寺院侍史と呼ばれている。国家ではなく、神殿に仕える騎士を指す。

 似たような騎士に、パラディンが存在する。対応する称号は「聖騎士」で、国家に仕える騎士として分類されていた。

 ただし現在のシュンは、国家に仕えている。


「俺は異世界人なので、国に仕えているのですが?」

「聖神イシュリルがお決めになることです」

「え?」

「今までは王国騎士団に所属ですが、神殿の神聖騎士団に異動となります」

「手続きとかは?」

「私がやっておきましょう。そのほうが、手続きを早く済ませられます。また枢機卿の権限で、配属をデルヴィ侯爵様の旗下にします」

「聖神イシュリルの御心のままに……」


 これでシュンは、聖神イシュリル神殿の神聖騎士団に所属した。

 いや。デルヴィ侯爵とシュナイデン枢機卿か。

 書類上の異動は本日を以って完了とし、神聖騎士団の名簿に載る。だが団員との顔合わせなどはせず、侯爵の下に派遣される。

 事実上、侯爵旗下の騎士となるのだ。書類が王国騎士団に届けば、騎士ザインからの呼び出しもなくなる。


「他に確認したいことはありますか?」

「枢機卿猊下と侯爵様の命令が被った場合は?」

「その点は安心してください。先に私から侯爵様に話を通しますので、命令が被ることはありません」

「俺の仲間はどうなりますか?」

「シュン殿の下に配属です。神聖騎士団は、国家の騎士団よりも上位なのです。今までどおり、勇者候補チームとして活動しなさい」

「なるほど。えっと……」

「まだありますか?」

「ラキシスは……」

「好きにしなさい。シュン殿に差し上げます」

「え?」


 シュンは「これが神殿か」と、思わず首を傾げる。

 神殿勢力には、厳格なイメージを持っていたのだ。シュナイデン枢機卿の言葉は、女性を欲望のはけ口にしても構わないという意味に聞こえた。とてもではないが神殿が認める話ではなく、枢機卿ともあろう者からの言葉とは思えない。


に落ちませんか?」

「正直に言えば……」

「今頃は彼女にも、聖神イシュリルの声が届いています。神が許可を出したので、それで良いのです」

「本当に良いのですか?」

「我ら信徒は、神の声を実行するだけです。それが信仰なのですよ」


 神の声。

 解釈によっては、如何様にも使えるだろう。

 例えば自分の嫌いな人物を、異教徒と認定して殺害することもできるのだ。神の名の下に、何でもやれてしまう。


「そういうことですか」

「シュン殿は物分かりがよろしいですね。しかし……」

「はい。絶対に聖神イシュリルの名をけがすことはしません」


 そう。何でもやれるからと、何でもやってはいけない。

 あまりにも教義からかけ離れる内容だと、人々の信仰心が薄れてしまう。短絡的な使用は聖神イシュリルの名を穢し、それこそ神罰が下るだろう。

 今のシュンでは許容範囲が分からないので、自発的な使用は難しい。


「よろしい! 本日はすばらしい日だ!」

「はい。俺もそう思います」

「ではシュン殿が必要になれば、改めて伝えます。もう退室して良いですよ」

「畏まりました」


 シュナイデン枢機卿の表情は、満面の笑みに変わった。

 シュンも気持ちは同じだが、ホストスマイルは崩さない。初対面のときよりも距離が縮まっているとはいえ、ほんの数ミリ程度なのだ。

 その距離は今後も縮まらないと確信しているので、大笑いはできない。

 以降は司祭の部屋を出て、ヤリ部屋に戻る。


「シュン様。お待ちしておりましたわ」

「聖神イシュリルの声が届いたようだな」

「はい。私はシュン様の……」

「時間はねぇから……。後は分かるな?」

「はい。ご奉仕をさせていただきます」


 シュンはホストスマイルを崩して、下衆な笑みを浮かべた。

 これで、ラキシスは玩具になった。今後は好きに扱って良いので、神殿から連れ出すことも可能だ。

 神様からの贈り物なのだから……。


「続けながら聞け。ラキシスには、俺らのチームに入ってもらうぞ」

「………………」

「俺たちの関係は、仲間にバレないようにしろ」

「………………」

「俺を愛せ」

「………………」


 シュンは奉仕をさせながら、ラキシスに命令をする。

 そして十数分後に、二人で神殿を後にした。

 夕焼けが見られる時間になっており、仲間と合流しないといけない。とはいえその前に、彼女に伝えるべき話があった。


「もう一つ言っておくことがあるぜ」

「何でしょうか?」

「俺は、アルディスとエレーヌを食っている。どちらかとやるときは、片方の相手をしておけ。バレるとチームが崩壊するからよ」

「………………。はい」


 ラキシスは聖神イシュリルの言葉を受けて、シュンの命令に逆らわない。

 これは彼女の信仰心であり、宗教の恐ろしさを感じてしまう。

 とりあえず旅に出るときは、女性に困らなくなった。フォルトへの嫉妬も、少しは収まろうというものだ。

 そして「三股になったな」と、晴れやかな気分に包まれるのだった。

Copyright©2021-特攻君

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