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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十四章 勇者召喚
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神への信仰1

 幽鬼の森にあるフォルトの屋敷は、外観が幽霊屋敷だ。屋根が腐って足が抜けないように、ブラウニーを使った補修工事は終わらせてある。

 フォルトは昔から、部屋の模様替えといった変化に興味が無かった。「家も住めれば良い」と考えているので、外観を立派にするつもりはない。双竜山の森の屋敷も旧校舎のような外観なので、「風情がある」と気にしなくなった。

 住めば都なのだ。

 ともあれ現在は屋根で寝転びながら、カーミラの膝枕を堪能している。


(さてと。俺の記憶は曖昧だから、ここで一度確認しておこう。だったな)


 覚えることが苦手なフォルトは、カーミラをメモ帳代わりにしている。

 当初の予定であれば、おっさん親衛隊のレベル上げや姉妹の限界突破を進めるつもりだった。とはいえ新たに発生した事案もあり、予定が前後する。

 ここらで整理しておこうと、彼女から提案されたのだ。

 決して、自分からではない。


「マリとルリの限界突破はどうしますかぁ?」

「先に片付ける」


 まずは、マリアンデールとルリシオンの限界突破。

 ミノタウロスとは別に、マンティコアを討伐しないといけない。幽鬼の森の北に広がる平原地帯にいるらしいので、一番最初に終わらせるほうが良い。

 発見できなくても場所は近く、すぐに戻ってこれる。


「分かりましたぁ! じゃあエルフの里は、その後ですねぇ」


 そして予定外の第一としては、エルフの里である。エルフについてはフォルトの正義であり、予定外でも喜ばしい出来事だ。

 里に入る許可がもらえたので、すぐにでも向かいたいが……。


「エルフの里には、誰と行くかな」

「マリとルリでいいんじゃないですかぁ?」

「順番だと、次はおっさん親衛隊なのだ」

「でもでも。人間よりは、魔族のほうがいいですよぉ」

「確かエルフ族は、人間を嫌っているのだったな」

「そうでーす!」

「迫害やら偏見だったか」

「人間は、自分たち以外の種族を認めませんからねぇ」


 人間という生物は、自分たちと見た目が違うだけで差別をする。

 もちろん個人単位であれば、例外はいる。しかしながら、圧倒的多数の人間は嫌悪するのだ。

 同じ人間でも人種が違うだけで、差別をするのだから……。

 そしてあちらの世界であれば、人間は生物の頂点に君臨している。

 こちらの世界では違うが、それでも思想は同様。人間こそが生物の頂点だと思い込んでおり、そうあるべきと考えているのだ。

 実に愚かで、救いようがない種族である。


「あ、そうだ! シェラを連れていくか!」

「引っ越しを除けば、今まで一回も森の外に出ていませんねぇ」

「そうだそうだ。そうしよう。森の外でリフレッシュさせないとな!」

「もう出発しますかぁ?」

「いや。確か、シュンたちが戻ってくるだろ」

「仲間の限界突破でしたよねぇ」

「うむ。アルディスと言ったか」


 第二としては、勇者候補チームの再来だ。

 シュンが率いる勇者候補チームには、アルディスという女性空手家がいる。彼女が受けた限界突破の対象は、幽鬼の森にいるアンデッドのファントムだった。

 それを討伐するために彼らは、再びフォルトの屋敷に訪れる。ならば今回は、屋敷に残っていないと駄目だろう。また双竜山の森に訪れたときと同じで、レイナスやソフィアに対応してもらいたい。

 そうなると、おっさん親衛隊のレベル上げも後回しになる。


(まぁ俺がいなくても、みんなが寝取られることはないのだが……)


 おっさんの被害妄想は、先日ソフィアにたしなめられた。

 身内がフォルトから離れない理由は様々とはいえ、愛情を一心に受けている身としては納得するしかない。

 それでもシュンは実力行使に出て、レイナスに模擬戦を挑んだのだ。

 模擬戦自体は良いのだが、力を使おうと決めたことが問題だった。屋敷にも無断で侵入したと聞いたので、タガが外れていないかを危惧している。


「若者のモラル、か」


 フォルトが召喚される前の日本では、若者のモラルが問題になっていた。

 他人や社会に迷惑をかける行為を悪びれもせずに行う者。またそれを自慢げに動画で発信して、墓穴を掘る者が続出していた。

 承認欲求を満たすために、一線を越えてしまうのだ。


「他で暴走するぶんには構わないが……」


 そうは言っても、モラルに関しては何も言えない。

 こちらの世界は環境が違い過ぎて、日本での常識や倫理観は通用しない。フォルトも堕ちた魔人となり、非倫理的な行動をしている。

 シュンにモラルを指摘したところで、説得力がないのだ。

 ただし一線を超えられて、身内に危害が及ぶなら話は別だった。あまりにも酷い場合は、制裁も視野に入れなければならないか。とはいえ勇者候補チームの背後にはデルヴィ侯爵がいるので、あまり大事にはしたくない。

 改めて扱いが難しい奴らだと、フォルトは思った。


「御主人様?」

「あぁ済まないな。そうなると、エルフの里は?」

「残念ながら後回しですねぇ。往復する間に、奴らが来ると思いますよぉ」

「やれやれ。確認しておいて良かったな」

「えへへ。じゃあ、ご褒美が欲しいでーす!」


 とりあえず、今後の予定は決まった。

 まずは姉妹の限界突破を終わらせて、次に勇者候補チームの対応をする。エルフの里は最後になってしまったが、後顧の憂いなくじっくりと堪能できるか。

 以降は、おっさん親衛隊のレベル上げに専念できるだろう。

 そんな道筋を立てた後は、カーミラといちゃつくのだった。



◇◇◇◇◇



 シュンが率いる勇者候補一行は、拠点となった商業都市ハンに帰還した。バルボ子爵にフロッグマンを引き渡して、暫くぶりの休養を取っている。

 そして時間に余裕ができたところで、ラキシスと会うために、聖神イシュリル神殿に訪れていた。

 そして自分のために用意されている部屋で、彼女を抱いている。

 ちなみにシュンは「脱がす派」で、「着衣派」のフォルトとは正反対だ。


「ふぅ。気持ち良かったぜ」

「あ、あの……」

「どうしたラキシス?」

「シュン様はお忙しいと聞き及んでいましたが、お仕事は大丈夫なのですか?」

「今は休養中だ。もう暫くは、ハンにいるぜ」

「………………。他にも何か、私に尋ねたいことがあるとか」

「そうそう。信仰系魔法についてきたい」


 ノックスから話を聞いたシュンは、信仰系魔法を習得するつもりだった。

 レイナスと再戦するためだが、術式魔法を勉強する気が起きなかったのだ。信仰系魔法は信仰の強さによるらしいので、勉学よりは楽だと思えた。

 先にラキシスを抱いていた理由は、ここが「ヤリ部屋」だからである。彼女が神殿に到着してからは、頻繁に使っていた。

 もちろん足しげく通っていることは、仲間に知られていない。


「私ではわかりかねます。司祭様に尋ねてみませんと……」

「神官なのに?」

「シュン様は、神の審判を受けている身です」

「神の審判?」

「私を抱いた数だけ、罪を背負っているのですよ?」


 最初にラキシスを襲ったときは、神罰が下ると言われた。もちろんシュンは口車で煙に巻いたが、その流れで彼女は審判の立会人になったのだ。

 当時は、恋人になることを受け入れるための方便だと思っていた。しかしながら今の言葉から察すると、彼女は本気で立会人をしているのだろう。


「そ、そ、そうだな!」

「そのような人物を、聖神イシュリルが受け入れるかどうかは……」

「もしかして、俺のことを嫌ってるのか?」

「嫌ってはいませんわ。ですが私は、聖神イシュリルの神官です」

「………………」

「快楽に溺れるわけには参りませんわ」

「気持ち良くなかった?」

「いいえ」

「………………」


 どうやらシュンは、宗教を甘く考えていたようだ。ラキシスは手管に負けたのではなく、神の試練として抱かれている。

 それでも、自身の経験則だと……。


(まぁそれでも構わねぇけどな。女なんて抱いちまえば一緒だぜ。俺がラキシスを愛することはないから、その体だけを堪能させてくれりゃいい)


 今の状況で、十分に楽しめる。

 シュンはホストとしての性分で、女性を愛さない。自身の肉体的欲求、また精神的欲求に利用する存在だと思っている。

 アルディスも然りエレーヌも然り、だ。


「まぁ何だ。悪いが、司祭に尋ねてもらえるか?」

「はい。少々お待ちください」

「いや。その前に……」

「はい?」

「もう一回やらせろ!」

「きゃ!」


 シュンは愛されていないと理解すると、ラキシスを道具のように抱く。

 彼女は神の試練と思い込んでいるので、抵抗はしてこない。本当に、都合の良い女性を手に入れたようなものだ。

 ただしイケメンの自分が、女性に愛されないのは我慢できない。


「ラキシスを抱いた数だけ、罪を背負っているだと? 違うぜ! お前が抱かれた数だけ、俺を愛することになるんだ!」

「やめっ! 激しっ!」

「この激しさが、俺からの愛の証だぜ!」


 これこそがシュンの本性で、そもそも女性を組み従える性格だった。

 俗に言われるドメスティック()バイオレンス()だ。今は激しさを増すだけで済ませているが、いずれは暴力に変わっていく。

 皮肉にもラキシスの信仰が、シュンをモンスター化させていた。


「はぁはぁ」

「満足だぜ。ラキシスは司祭の所に行って、さっきの件を尋ねてこいよ」

「はい。お待ちを……」


 服を着たラキシスが、ヤリ部屋から出ていった。

 神殿内に用意するとは畏れ入るが、それを可能にしたのはデルヴィ侯爵の権力。

 そこまでシュンに魅力を感じていると思うと、承認欲求が満たされる。いや。満たされ過ぎて、風船のように膨らんでしまう。

 今まで以上に、侯爵から期待されたくなった。


(それにしても侯爵様は、俺に何を期待しているのやら……。まぁ他の奴なら尻込みするだろうが、俺は望むところだぜ! 上手に立ち回ってやるよ)


 先ほどラキシスは、「快楽に溺れるわけにはいかない」と言った。

 シュンは彼女の言葉から、「権力に溺れたい」と考える。異世界でも人生を謳歌おうかするには、権力を使う側に身を置くことが肝心だからだ。

 権力さえあれば、女などは思いどおりにできる。

 しかし……。


「おっさんめ! 俺を差し置いて……」


 権力を持ったとしても、フォルトの周囲にいる女性たちはどうだろうか。

 そう疑問に思ったシュンは、またもや嫉妬する。しかもその感情が徐々に増幅されて、再び殺意を覚えてくる。


(やっぱり、おっさんを殺すか? いや。あの魔族どもがいるから無理か。なら、一人になったときに……。くそっ! 後回しだ!)


 レイナスに敗北したシュンでは、魔族の姉妹には勝てない。

 フォルトの殺害に動くと、逆にこちらが殺されてしまう。また一人になるよう誘導しても、洗脳されてしまうか。

 洗脳など、シュンの勘違いなのだが……。


(ちっ。ギッシュじゃねぇが、俺も強くならねぇとな。そのためには、神の力を借りるしかねぇぜ! 頼むから、俺を受け入れてくれよ?)


 日本人が信仰する宗教は、仏教と神道。だがそれすらも儀礼なようなもので、本気で信仰しているのは少数だった。

 当然のようにシュンも、無神論者である。まるで宝くじの当選を願うように、聖神イシュリルに祈る。

 以降は暫く待機していると、ラキシスが戻ってきた。


「お待たせして申しわけございません」

「どうだった?」

「私の説明不足だと思いますが、司祭様は詳しい話を伺いたいと仰せです。シュン様を案内するように言われましたわ」

「あまり長居もできねぇけどよ」

「それなら大丈夫です。すぐにお連れするように、と……」

「マジか!」


 神殿勢力の中で、司祭の地位は高い。

 中級騎士待遇の異世界人では、直接尋ねるのは無理だと思っていた。だからこそ、神殿関係者のラキシスに頼んだのだ。

 それが、時間を作ってまで会ってくれる。

 彼女の回答に、シュンはグッと拳を握って喜んだ。


「では、ご案内しますわ」

「よろしくな。あ、話が終わったら戻るからよ。ラキシスも戻れよ?」

「………………。はい」


 あまり遅くなると仲間に勘繰られるが、もう一度ぐらいは抱けるか。

 そう考えたシュンは、下衆な笑みを浮かべた。

 ちなみに「ヤリ部屋」には、防音の魔法が施されているそうだ。神殿内にいる他の神官たちに、彼女のあえぎ声は聞こえていない。

 ともあれ司祭の部屋に向かっていると、意匠の凝った扉の前で止まった。


「こちらの部屋になります。入室の許可を頂いてきますわ」

「おぅ!」


 扉を開けたラキシスが、司祭の部屋に入った。

 シュンにとって司祭と言えば、モルホルトという中年男性だ。ラキシスを引き取るために接触してきたが、偉そうだったのを覚えている。

 地位の高い人物を前にすると緊張するのは、あのときと一緒だった。と言っても、デルヴィ侯爵を前にしたときよりはマシか。

 そんなことを考えていると、入室の許可が下りた。


「君がシュン殿か? 入りたまえ。ラキシスは部屋から出るように」

「はい。ではシュン様、私はこれで失礼しますわ」

「シュン殿は、こちらに来なさい」


 目の前の司祭は威厳もあり、お堅そうな人物だった。

 室内の雰囲気と併せて緊張度は増すが、まずはホストスマイルを浮かべる。続けて爽やかな好青年を演じながら、部屋の中央に向かうのだった。

Copyright©2021-特攻君

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