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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十四章 勇者召喚
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バグバットからの依頼2

 フォルトの視界を、白い煙が覆い隠している。また周囲からは、ピチャンピチャンと音がしていた。

 そして目を凝らすと、遠くから人影が近づいてくる。ならばと人影に背を向けて、足元にある小さな椅子に座った。

 今から起こることに期待しながら……。


「御主人様! ドーン!」


 その人影は、フォルトの背中に飛び込んできた。

 もちろん、それを避けることはしない。なぜならば、永遠に愛すべき小悪魔だったからだ。

 後ろからほおずりをしてきたので、顔の筋肉を緩ませた。


「でへ。背中に押し付けられた柔らかいものがいいな」

「えへへ。すーり、すーり」

「いいぞ。その調子だ!」


 背中に飛び込んだのはカーミラ、白い煙は湯けむりである。

 今いる場所は、いわゆる風呂だった。フォルトは食べる・寝る・身内を抱くのが基本行動だが、風呂には毎日入っている。

 ただでさえ体臭が気になるおっさんなので、清潔感を保つのは重要なのだ。たとえ魔人になったときから、加齢臭が出なくなっていたとしても……。

 裸と思われたカーミラは、体にタオルを巻きつけている。


「御主人様。タオルが邪魔なんですけどぉ」

「それでいいのだ」

「取ったら駄目ですかぁ?」

「駄目だな」


 着衣派のフォルトは徹底しているのだ。

 おっさんとしての妄想力を、全力で発揮しているところだった。脱いでも良いが脱いでは駄目。分かる人には理解できるかもしれない。

 見えそうで見えないギリギリのラインが良いのだ。

 これこそが、チラニストとしての矜持きょうじである。


「フォルト様。左腕を失礼しますわ」

「うむ。苦しゅうない」

「ふふっ。すりすり」

「じゃあ、あたしは右ぃ!」

「お、おう!」


 今日の風呂はカーミラだけでなく、レイナスとアーシャも参加だ。女性との入浴は魔の森にいた頃からで、フォルトたちの普通になっている。

 左右の腕にも柔らかい感触を受け、まるで天国にいる気分だった。


「リリエラちゃんは生きていますかねぇ」

「殺してやるな。あいつらがいるだろ?」

「えへへ。強い魔物に襲われれば死んじゃいますよぉ」

「確かにな。だがそれを怖がっていたら、何もやれないからなあ」


 リリエラはすでに、クエストを開始している。

 今頃は亜人の国フェリアスに入国して、一路ガルド王がいるドワーフ族の集落を目指しているだろう。

 かの国は魔物や魔獣が多い原生林なので、道中の危険度は高い。とはいえ、そのためのシルビアとドボだ。彼女個人の強さは一般人と変わらないが、冒険者の彼らを護衛に付けたので大丈夫とは思っている。

 ただし眷属けんぞくのニャンシーよりは弱いので、いささかの不安はあった。


「フロッグマンなら平気っしょ!」

「おっさん親衛隊ならな。あいつらだと……」

「互角だと思われますわ」

「レイナスもそう思うか」

「はい。ですが、街道ならそれほど強い魔物は現れませんわ」

「そうか。まぁ商人たちが往来しているしな」

「仮にも冒険者ですわ。仕事で慣れていると思いますわよ」


 会話しながらも三人の美少女は、体を使って洗ってくれる。

 世の男性からすると、羨ましい光景だろう。しかしながら鼻血を出す初心うぶな日本人の若者は、とっくの昔に絶滅しているはずだ。

 多分……。

 そしてリリエラの話題が出たことで、とある件を思い出した。


「そう言えば限界突破の件を、バグバットに尋ねるのだったな」

「御主人様。カーミラちゃんが聞いてきますよぉ?」

「うーん。いや。やはり俺が行ったほうがいいな」

「珍しいですねぇ」

「バグバットは大家さんだしな。それに……」


 グリム家からは双竜山の森を融通してもらって、バグバットからは幽鬼の森。

 前者なら多少は借りを返しているが、後者はまだ何も返せていない。顔ぐらいは見せておかないと、さすがに悪い気がする。


「御主人様は律義でーす!」

「ふふん! 俺のアイデンティティだからな!」

「なら、今日は出かけますかぁ?」

「うーん。他にも何かあれば、な」

「いつもの御主人様ですねぇ」

「重すぎてな。腰が……」


 まだまだ、幽鬼の森から出たくない。

 フォルトの腰は、何万トンもの重さに感じられるのだ。

 この重い腰を上げるには、限界突破の件を尋ねるだけでは足りない。ついでに済ませられる用事でもなければ、森という閉ざされた空間から出る気力が湧かない。

 自由都市アルバハードまで半日足らずにもかかわらず、だ。


「寝室じゃ軽いくせに!」

「何か言ったかアーシャ?」

「いーえ! でもさ。あたしの限界突破もそろそろだよ?」

「今は二十八だったか?」

「二十九になりましたぁ。あたしだと、何を倒すんだろうね!」

「戦士系だと、高い確率でワイバーンと聞いた記憶があるな」


 身内のレイナスもそうだが勇者候補チームのシュンとギッシュは、ワイバーンを討伐して限界突破作業を終えた。

 そしてフォルトは、アーシャを支援職――踊り子――として育成しているつもりなのだ。となると、先の三人とは違うかもしれない。

 幽鬼の森の近くに棲息せいそくしていないと、また遠出をすることになるか。

 これには思わず、眉をひそめる。


「確かアルディスさんだっけ? ファントムを討伐するって言ってたよ」

「シュンのところの空手家か。ファントムねぇ」

「幽霊だって、幽霊! あたしは勘弁!」

「それはフラグだろ?」

「あ……。今のは無しぃ。とにかく、次はあたしね!」

「ちょっ!」


 フォルトの右腕を洗い終わったアーシャが、いきなり膝の上に座ってきた。

 次は、自分を洗えと言ってるのだろう。積極的な彼女のせいで赤面してしまうが、これは望むところである。

 もちろん悪い手を開放しながら、ギャルの体を隅々まで堪能する。またカーミラやレイナスも続けて洗うのだから、鼻息も荒くなっていく。

 以降は三人の美少女と湯船に浸かり、極楽気分を味わうのだった。



◇◇◇◇◇



 シュンが率いる勇者候補チームは、エウィ王国の商業都市ハンに向かって馬車を走らせている。幽鬼の森から戻っているのだが、途中で経由したアルバハードでは、仲間の一人アルディスを置いてきた。

 彼女はバグバットの執事に紹介された格闘家の下で、「気」を修得するために修行を開始しているだろう。


「ア、アルディスは平気かなぁ?」

「あの執事の紹介だし大丈夫だろ。俺らも侯爵様の依頼を終わらせて、アルバハードに戻らないとな」

「そっ、そうよね。迎えに行かないと……。んっ」


 シュンの隣では、エレーヌが馬車の御者をしている。

 他の仲間は荷台にいるので、恋人の太ももを触っていた。だが思考は別のことに向けており、その感触を楽しんでいるのではない。


(レベルはほとんど同じはずなのに、あんなにも差があったとは……)


 そう。模擬戦を行ったレイナスについて考えていた。

 シュンから挑んだのだが、圧倒的な差で敗北したのだ。フォルトを侮辱してからの彼女に、まったくついていけなかった。

 もちろん、その理由は分かっている。


「………………。氷属性魔法か。俺は魔法が使えねぇからな」


 剣の技量にも差はあったが、比重としては魔法の有無が勝敗を決していた。

 騎士として訓練を積んだシュンは、魔法についてはまったく知識が無い。氷属性魔法を組み込んだレイナスの剣技に、力量の差を思い知らされたのだ。

 もしも命の奪い合いだったなら、確実に殺されていただろう。


「レ、レイナスさんですか?」

「だな。レイナスちゃんは、引き出しが多すぎるぜ!」

「色んな攻撃をしてたね。魔法も凄かったよ」

「独学で何とかなるものなのか?」

「魔法を覚えたいの? なら、誰かに教えを乞うのが一番だと思うよ」

「そっか。エレーヌじゃ駄目か?」

「ぁっ。いま触られると危ないので……」

「誰も見てねぇしよ。いいだろ?」


 恋人の一人アルディスを自由都市アルバハードに置いてきたので、女性はエレーヌしかいない。

 このようなときのために、シュンは二股をしているのだ。 

 そしてフォルトの屋敷にいた美少女たちのせいで、色欲がたかぶっている。

 とっくに別れたとはいえ復縁したいギャルのアーシャは、露出が激しかった。貴族然としたレイナスも、気品と容姿を併せ持つ一級品である。またチラリと目にしただけだが、大人びた魔族の女性もいたようだ。

 本命のソフィアも変わらない美しさで、目の保養には十分すぎた。


(くそ! おっさんめ。ぜってぇ寝取ってやっからな!)


「えっと……。優しく、ね? 話を戻すけど、私では駄目だと思うわ」

「そうなのか?」

「教えられる魔法も少ないし、人に教えたこともないよ」

「やっぱ難しいもんなのか?」

「魔法学園を卒業したノックスさんなら……」

「なるほどな。ノックスか。どうすっかな」


 シュンは考える。

 魔法を習得したいが、剣技をおろそかにしては駄目だろう。

 基本的には騎士として前衛に立ち、剣と盾で戦うことが求められている。自身が得意なのも、剣による物理攻撃だ。しかもレイナスの氷属性魔法は、焼き付け刃でどうなるものではなさそうだった。

 有利となる土属性魔法を習得しても、戦闘で通用するとは思えない。


「それでも、基礎は習っておくべきか」

「シュンは騎士だし、防御魔法はどう?」

「防御魔法か。そういや……」


(確かあのクソ魔族と戦ったときに、火属性を軽減する魔法を受けたな。もしかしてあれのおかげで、俺とアーシャは死ななかったのか? なら……)


 魔族のルリシオンと戦った記憶がよみがえった。

 彼女とは、魔の森――フォルトの自宅に広がっていた庭――で遭遇している。当時は恋人だったアーシャと一緒に戦いを挑んだが、接敵前に炎の壁を突っ切った。

 そのときに同行していた神官から、火属性軽減の防御魔法を受けている。

 目立った外傷は無く、炎の熱量も抑えられていたか。


「ノックス!」

「どうかしたのシュン?」


 魔法に関しては、エレーヌよりもノックスのほうが詳しい。

 彼女が言ったように、魔法学園を卒業している魔法使いだ。ならばと相談に乗ってもらおうと、後ろを向いて話しかけた。

 同時に柔らかい太ももからは手を離して、仲間にバレないよう努めている。


「ノックスから防御魔法を習いてぇんだが?」

「防御魔法? あぁレイナスさんとの模擬戦ね」

「察しがいいな」

「なら僕から習うよりは、神官さんのほうがいいかもね。信仰系魔法のほうが、防御に特化してるよ」

「そうなのか?」

「詳しく話すと……」


 魔法学園では、術式魔法を教えている。

 そしてノックスが使える防御系の術式魔法だと、物理攻撃を軽減できる程度だ。属性魔法には対応していないので、シュンの期待には応えられない。

 しかも信仰系魔法なら初級でも、術式魔法だと中級に属している。

 なぜかと言うと、術式魔法は模倣を基礎としているからだ。また神の奇跡を再現しているためか、軽減率が低く習得難易度も高い。


「と、いうわけさ」

「よく知ってるな」

「まあね。何だかんだで、魔法学園を卒業したからね。でも信仰系魔法なら、神殿に入信することになるんじゃない?」

「そうなのか?」

「神様に奇跡を願うわけだしね。信仰心が重要と聞いたことがあるよ」

「なるほどなあ。ちなみになんだが、俺は入信できるのか?」

「さぁ? バルボ子爵に相談してみるといいかもね」

「そうするか」


 現在のシュンは、デルヴィ侯爵の旗下に入っている。

 そして、侯爵の側近であるバルボ子爵の世話になっていた。拠点も商業都市ハンに移したので、城塞都市ミリエにいる騎士ザインには相談できない。

 ここまで会話したところで、ギッシュから声が上がる。


「なんだあ? ホストは神を信じてんのか?」

「こっちの世界じゃ、実際にいるって聞いたぞ」


 ギッシュは強くなることに貪欲だ。

 シュンが強くなろうとしているので、興味が湧いたのだろう。


「かぁ! 神頼みなんて、男として情けねぇぜ!」

「うるせえ!」

「だが、金髪の女に負けちまったしな。しょうがねぇか」

「このっ!」

「おっと」


 揶揄からかわれたシュンは、ギッシュの胸倉をつかもうとした。

 避けられはしたが、軽い冗談だと理解している。しかしながら図星なので、負け惜しみぐらいしか出てこなかった。


「ちっ。使えるものは、何でも使うんだよ」

「まぁホストはよ。それでいいんじゃねぇか?」

「お? 珍しいな」

「俺から見ても、ちゃんとリーダーをやってんよ」

「明日は雨か? いや。やりでも振りそうだな」

「けっ! チームの生存率を上げんのが、リーダーの役割だろうが! オメエが防御魔法を習得できりゃ、俺らの生存率も上がるってもんよ!」


 神に奇跡を祈って生き残れるなら、いくらでも祈れば良い。チームのリーダーとして、それは間違っていない。

 ただし、本当に生き残れるかは別の話だ。

 ノックスとの会話で、シュンは防御魔法を習得したいと言った。だからこそ現実的な話として、ギッシュは力を求めたことを褒めたつもりか。

 「年下のくせに生意気な奴だ」と、小さな声でつぶやいた。


(まぁチームじゃなく、俺だけのためなんだけどよ)


 基本的にシュンは、自分だけが大好きである。

 他人のために何かをしようと思ったことは、物心がついてからはただの一度も無いのだ。何かをするときは、必ず自らの欲望が先あった。

 今回の場合はレイナスと再戦したときに勝利して、フォルトから寝取りたいという欲望からの話なのだ。

 そのような人物を……。


「神様が受け入れるかどうかは知らないけどな」

「もういいかな?」

「休みたいところを悪いがよ。ハンに到着するまでは、色々と聞かせろよ」

「しょうがないなぁ。僕は従者だしね」

「そう言うな。仲間だろ?」


 ノックスを復帰させて正解だった。

 従者枠にせよ、シュンの足りない部分を補ってくれる。

 単純に魔法の知識だけを考えれば、エレーヌよりも上である。ならばと使える駒として、今後も頼らせてもらおうと思うのだった。

Copyright©2021-特攻君

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