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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十四章 勇者召喚
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バグバットの提案1

 身内が増えたとしても、フォルトの生活は変わらない。

 幽鬼の森に帰還したことで、いつもの自堕落な生活を送っている。日本で最もポピュラーな三大欲求――睡眠欲・食欲・性欲――を満喫していた。

 ちなみにこれは、別の欲求を組み合わせた説もあるとか。

 ともあれ本日は、健康診断の日だ。

 自身の寝室には、女医さんスタイルのシェラがいる。


「最近の俺は無理をしていると思う。健康診断は必須だな」


 フォルトはベッドの端に座り、上着のボタンを外して前を開いていた。

 そしてシェラは、聴診器型ネックレスで心音を聴いている。もちろん玩具のような代物なので、実際に聴けるわけではない。


「異常はありません」

「おかしいな。どうも下腹部で張っている場所があるのだが……」


 体の一部を指したフォルトは、ベッドから立ち上がって強調する。

 傍から見れば変態行為だが、実際に張っているので仕方がない。健康診断なのだから、体の異常は申告するべきだ。

 そう思っていると、シェラはほほを赤く染めて顔を背けた。


「そこは……。いつも異常です!」

「やはり異常だったか。では、触診をしたほうが良いだろうな」


 短いながらも、的確な診断である。

 シェラの恥じらいに撃沈したので、フォルトは先に進もうとした。しかしながら胃袋から催促の音が出て、変態行為に水を差される。


「日々の健康は、毎日の食事からです」

「ちぇ。そうらしい」

「魔人様の健康診断は終わりにしますわ」

「えー!」

「お・わ・り・で・す!」


 このような健康診断ごっこで、シェラと遊ぶのが楽しい。

 彼女もノリノリのときがあり、出会った頃よりもフォルト色に染まっている。聴診器型ネックレスを首に掛け直した後、両手を前に出してきた。

 これは、健康診断に対するご褒美を要求している。


(大人っぽいシェラがお姫様抱っこか。まぁあいつの入れ知恵だが……)


 日本風のシチュエーションを身内に伝授するのは、ギャルのアーシャだ。

 頼んだわけではないとはいえ、日々をマンネリ化させないための気遣いだろう。飽きることはないが、彼女には感謝している。

 その気遣いを無駄にしないためにも、シェラを抱え上げた。

 以降は床にある扉を器用に足で開けて、食堂に飛び下りる。


「今日は鍋か」

「ふふっ。魔人様の暴食タイマーも正常ですね」


 先ほどの健康診断中に、腹を刺激する匂いが漂ってこなかった。にもかかわらず腹の虫は、食事の時間を告げてくれる。

 シェラに言われるまでもなく、暴食の罪は正常に機能していた。

 魔人としては、それが健康とも言えるか。

 彼女を床に下ろし、そのまま一緒にテーブルに着いた。


「あ、そうだ。健康診断の後でと思っていたが、シェラに話があったのだ」

「何でしょうか?」

「シェラは、レベルを上げるつもりはあるのか?」

「レベル……。もしかして、堕落の種のことですか?」

「察しがいいな。魔族は長寿だから、急ぐ必要はないのだが……」

「そうですわね。ですが私は、暗黒神デュールの司祭です」


 シェラが信奉する暗黒神デュールは、天界の神々の一柱。

 さすがに、悪魔に変貌する堕落の種は食べないか。だがフォルトの身内として、どこかで意思を変えてもらわなくてはならない。

 他に永遠の寿命を得る手段もないのだから……。


「まさか、俺と永遠を生きたくないとか?」

「いいえ。司祭を辞めると、限界突破の神託が受けられなくなります」

「ああっ! それがあったな。すっかり忘れていた」

「ふふっ。マリ様とルリ様の神託を受けたのは私ですよ」


 限界突破をするためには、神々からの神託を受けなければならない。

 そしてフォルトはローゼンクロイツ家当主で、身内にも魔族がいる。

 人間の神殿勢力は頼れず、そもそも選択肢に入れていない。シェラが堕落の種を食べて暗黒神デュールに見放されると、身内は限界突破ができなくなる。

 魔族の司祭を求めていたにもかかわらず、彼女を身内にしたツケだ。


「どうにかならないのかな?」

「その都度、人間の司祭をさらったら駄目ですかぁ?」

「おっ! 聞いていたのかカーミラ」

「えへへ」


 料理の配膳をしていたカーミラも、フォルトの隣に座った。

 テーブルを見渡すと、ソフィアやベルナティオもいる。シェラとの会話を黙って聞いていたが、今の意見に反対の人物がいた。


「止めたほうが良いと思います」

「なぜだソフィア?」

「神殿勢力を敵に回すと、国家を相手にするよりも面倒ですよ?」

「ふむ。なら却下」

「さすがは御主人様です! 決断が早いでーす!」

「面倒事は嫌だからな。それに宗教はなあ」


 実際に神が存在する世界において、宗教の恐ろしさは想像したくもない。

 下手に刺激すると、聖戦と称して襲ってくるだろう。信者を死も恐れぬ戦士に変えて、どこまでも追いすがってくるのだ。

 狂信者の大軍など、アンデッドの群れにも等しい。

 もちろん司祭を攫うぐらいで、聖戦が発動されるとは思っていない。とはいえ、こちらの世界の性質を考えると断言できない。

 特に魔族は人間の敵であり、今まで見逃されていたのが不思議なぐらいだ。

 そう考えていると、ベルナティオが道を示した。


「きさま。エルフ族の司祭ならどうだ? 人間とは違う神を信仰してるぞ」

「ほう。だが、天界の神々には違いないのではないか?」

「いや。確か違うはずだ」

「ふむふむ。もっと詳しく!」

「知らん! 私は剣士だぞ!」

「ですよね」


 亜人の国フェリアスで修業していたおかげか、ベルナティオは亜人が信仰する宗教について知っていた。

 それでも概要だけで、フォルトの期待には沿えていない。


「難しい話をしてるわねえ」

「止めときなさい貴方。寝ちゃうわよ?」


 最後に料理を運んできたのは、マリアンデールとルリシオンだ。

 食事の準備が終わったので、先に鍋料理を楽しむ。とはいえ今のうちに方向性は定めておきたいからと、皆にも意見を募った。


「話の続きだが、シェラだけ悪魔になれないのは不公平だ。何か案はないか?」

「方法ならあると思うわよ? だって異世界だしぃ」

「アーシャが言ってもなあ」

「ちょっ! 確かにそうだけどさあ」

「冗談だ。神や魔法が存在する世界だしな。だが今は、具体的な案が欲しい」

「具体的な案は無いわよ? でもさ。あったら最初から悩んでないっしょ!」

「まぁなあ」

「ティオさんが言ったように、エルフ族から当たってみれば?」

「エルフの里にも行く予定だしなあ。まぁ他にもあればと……」


 ブロキュスの迷宮では、エルフ族のセレスと約束をした。

 そろそろ、回答もくるだろう。許可さえ下りれば、エルフの里に向かえる。ならば今考えるよりも、直接尋ねれば良いだけだ。

 それは理解しているが、選択肢としての意見を募っているつもりだった。

 上手に伝わらないのは、フォルトが話下手だからである。


「マスター。バグバット様なら、良案を示してもらえると思うっす!」

「珍しいなリリエラ。お前から意見を言うとは……」

「執事さんには世話になったっす!」

「なるほどな。それで思いついたわけか」

「そうっす。バグバット様は、何百年も生きてるっす!」

「吸血鬼はアンデッドだから、とっくに死んでるがな」

「突っ込まないでほしいっす!」


 普段からリリエラは、身内と距離をとっている。

 テーブルも一番端っこに座っており、あまり口を開くこともない。しかしながら今回は、声を上げてきた。


(何か心境の変化でもあったのか? レイナスたちに可愛がられているようだし、思わぬ方向に成長しているな。これは面白い)


 フォルトにとってリリエラは玩具で、身内と同列で扱っていない。

 ただし手放すのには、惜しい存在だった。クエストでも結果を出しており、今後も飽きるまでやらせるつもりだ。

 そういった存在なので、あまり委縮させるような扱いもしていない。


「普段から会話に参加しろ。俺もそのほうが楽しい」

「いいんすか?」

「駄目と言った覚えはないな。俺を楽しませるのだろう?」

「分かったっす!」


 リリエラにはクエスト以外だと、森から出ることだけを禁止した。

 それは、逃走を防ぐためではない。彼女は強者ではなく過去の境遇もあり、フォルトから離れると生きていけないからだ。

 ロスト――死亡――させたくないという思いが強い。


(確かにバグバットなら、良い案を提示してくれそうだ。でも頼り過ぎているから、ちょっと悪い気がするんだよな。うーん。まだ自堕落はしたいし……)


 何だかんだでバグバットには、色々と世話になっている。

 これ以上頼るのははばかりたいが、身内のためなら仕方ないか。だが腰は重く、幽鬼の森から出ることも渋る。

 そして何も決められないまま、時間だけが過ぎていくのだった。



◇◇◇◇◇



 シェラの件を後回しにしたフォルトは、自堕落生活を続けていた。

 仕事をしていないので、毎日が日曜日である。社会から隔絶された幽鬼の森に、自分と身内たちの楽園を築いたようなものだ。 

 現在はテラスで、のんびりと日光浴を楽しんでいる。

 そこに、命令を出していた眷属けんぞくのニャンシーが戻ってきた。しかしながら一人ではなく、三人の男女が一緒だった。

 そのうちの一人は、大罪の悪魔サタンである。


「ふん!」

「ご苦労だったな」

「ふん! 余には容易なことだ」

「消えるか?」

「ふん! 時間が限界になるまではいてやろう」

「そうか。なら、適当に過ごしてくれ」

「ふん!」


 サタンについては、幽鬼の森のアンデッドを遠ざけるために顕現させていた。

 フォルトは彼女を労った後、他の二人に向き直る。随分と久しぶりで、双竜山の森以来の再会だった。


「それにしても、よく来てくれたな」

「オメエよぉ。引っ越したのか?」

「こんな森にねぇ。相変わらず物好きな奴だよ」


 ニャンシーへの命令は、異世界人の冒険者シルビアとドボを連れてくること。

 森の外で動ける人間として、何度も仕事を依頼している。彼らに依頼したい案件ができたので、わざわざ呼び寄せたのだ。

 もちろん、シェラの件ではない。


「一時的にな。また戻るかもしれん」

「私たちをアルバハードまで呼び出して、何をさせるつもりだい?」

「護衛だな」

「オメエの護衛か?」

「違うな。リリエラの護衛だ」

「誰だそりゃ?」

「後で紹介する。護衛の相場っていくらなのだ?」

「内容を聞いてからだよ。ピンキリだからね」


 シルビアとドボへの依頼は、クエストに出すリリエラの護衛だ。今後はニャンシーを連絡係に使うので、彼女の身の安全を図りたかった。

 素性は言えないが、まずは色々と質問された。


「護衛対象はどんな奴だい? 魔物と戦えたりするのか?」

「戦いは無理だな。一般人に毛が生えた程度の女性だ」

「そいつの位置付けは? オメエの中で重要な奴なのか?」

「ロス……。んんっ! 死なせたくはないな」

「なるほどねぇ。死んでも守れってことか」

「なるべくな」

「濁すねぇ。なら、要人護衛でどうだい? 護衛依頼では最も高いけど、そいつに付きっきりで護衛してやるよ」

「普通の護衛依頼と何が違うのだ?」

「知らないのかい? なら教えておくよ」


 冒険者ギルドの護衛依頼で一般的なのは街道護衛だ。

 商人からの依頼が多く、他の町まで移動する際の護衛がそれに当たる。町中では護衛せず、往復の場合は出発まで自由時間になる。

 誰かに狙われていないかぎりは、町中での護衛は必要ないのだ。

 そして要人護衛は、町中もセットで護衛する。

 二十四時間体制の護衛で拘束時間が長く、依頼料も高額だった。依頼者は貴族や大商人がほどんどで、一般人は利用しない。

 リリエラの護衛であれば、前者で十分だが……。


「要人警護でいい」

「提示した私が言えた義理じゃないけど、マジかい? 高いよ?」

「構わん。金は用意しておく」

「やっぱオメエは金払いがいいぜ! しっかり護衛してやるから安心しな!」


 依頼料については、カーミラに頼んでおけば良い。

 いつものように、ソル帝国の貴族から奪ってきてくれる。


「それで、結局はいくらなのだ?」

「目的地と日程を教えてもらえるかい?」

「あぁ。悪いが……」


 今回のリリエラに課すクエストは、はっきり言って日数が読めない。

 本来は一カ月以内に戻るのだが、今回は確実に目標を達成させるつもりだった。内容的に彼女だけの問題でもなく、相手次第では長くなる可能性が高い。

 目的地は、ガルド王がいるドワーフ族の集落だ。

 そういったことを伝えると、シルビアとドボが相談を始めた。


「亜人の国かよ。ギルドの依頼で行ったことはあるが……」

「場所は問題無いよ。ドワーフ族の集落なら街道は伸びてるからね」

「出国の書類を書き直さねぇとな」


 エウィ王国の国法では、原則として異世界人の出国はできない。

 ただし厳格な審査を受ければ、短期間なら出国できる。審査項目は多く、その中には出国先と日数もあった。

 提出した内容が虚偽、または許可条件を逸脱した場合は処分の対象だ。

 つまり、暗殺者が送られてくる。


(まぁ俺は好き勝手……。でもないか。とりあえずグリムのじいさんのおかげで、暗殺者は送られてこないな。まぁ別の苦労はあったのだが……)


 他の異世界人の境遇には同情できなかった。

 フォルトは身の丈に合っていない人たちの相手をしているので、色々と嫌な思いをしている。特殊な異世界人として危険視されており、すでに処分対象でもあった。

 暗殺者など返り討ちにできる力はあるが、平穏な生活は邪魔されたくない。

 苦労は、それぞれということだ。

 そんなことを考えていると、シルビアとドボは相談を終えた。


「拘束時間が一カ月前後であれば、大金貨五枚以上は覚悟しな。それと前金で、大金貨一枚を頂くよ」

「必要経費か?」

「そうだね。出国のときに金銭を預けているから、今は手持ちが少ないのさ。依頼料は、護衛が終わってから請求するよ」

「決まりだな。なら……」


 以降はシルビアとドボに、リリエラを紹介する。

 彼らは出国の再審査を受けるので、一泊してエウィ王国に戻った。リリエラに課すクエストは、その後となる。

 その間に依頼料と前金を用意するよう、カーミラに伝えておく。

 にも角にも、これでニャンシーが連絡係で使える。フォルトが不在でも、身内と連絡を取り合えるようになった。

 そして数日後にリリエラを見送って、今後の予定を考えるのだった。

Copyright©2021-特攻君

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