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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十四章 勇者召喚
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ベルナティオ日記1

 体が熱い。

 芯から燃え盛る猛き炎によって、この身が焼き焦がれている。

 そのような感情など、齢二十七になるまで持ち合わせていなかった。剣の道を極めるためだけに生き、男を知ることはなかった。


「まったく……。私は初めてだったのだぞ」

「ぐぅぐぅ」


 ベルナティオの隣には、幸せそうに寝ている若い男性がいる。

 自身のすべては、このフォルトという人物によって奪われた。調教という名目の責めを受け、生涯で一度も経験したことがない快楽を味合わされた。

 スキル『変化へんげ』で若者の姿になっているが、本来は中年の男性だ。


「まったく……。私の人生を狂わせおって……」

「ぐぅぐぅ」


 わずか七歳で剣を取り、今の今まで負け知らず。

 大人の男性が相手でも、簡単にたたきのめしたものだ。当時は神童ともてはやされたが、それに甘んじることはなかった。

 剣の道は、奥が深く面白い。

 そう思い始めてからは、さらに剣術の腕は上達していった。修行をすれば強くなっていると実感があり、他のことには目が向かなかった。


「まったく……。無敗の私に土を付けおって……」

「ぐぅぐぅ」


 フォルトは戦闘経験が少ないのか、戦い方がお粗末だった。

 魔物を大量に召喚されたが、一体一体はさほど強くはなかった。また当人も隙だらけだったので、十中八九勝てると踏んでいたのだ。

 事実、首をねる寸前まで迫っている。


(しかし、こいつが魔人だったとはな。すべての種族の敵対者で、天災級の災害を引き起こす種族。私の剣は届かず、か)


「まったく……。狸寝入たぬきねいりをするな!」

「ティ、ティオは無敗だぞ。ぐはっ! そ、そこを重点的によろしく!」

「ちっ。負けは負けだ。他に何がある?」


 ベルナティオは現在、フォルトの寝室にいる。

 過去を振り返りながら、ベッドの上で体を寄せていた。

 彼は体を刺激すると起きるが、途中から目覚めていたのは知っている。我慢していると察して、弱点を強く刺激したところだ。

 多くの女性を身内にしているとはいえ、初心者の自分でも手玉に取れる。

 それでも主導権を握られると、こちらに勝ち目は無い。

 ともあれ……。


「自分でいうのも何だが、魔人は反則だと思うぞ。おひょ!」

「変な声をあげるな! しかし、魔人は反則か?」

「当然だ。どうせ、ティオのなまくら刀じゃ斬れないぞ? おぉぉぉ」

「そのわりには、大層な魔法で避けたではないか」

「ティオを無傷で手に入れるために、俺も必死だったのだ。うはっ!」


 女であることを捨てたベルナティオは、修行に明け暮れる日々を送っていた。

 これは、一般的な女性とは程遠い生き方だ。また剣士として体を鍛えているので、女性らしい魅力的な体ではないと自覚していた。


「私のどこがいいのやら。男を満足させられる女ではないぞ?」

「すべて、だ。ティオのすべてに満足している」

「男は大きいほうが良いのではないか?」

「胸のことか? 俺は貧乳派だからな。十分に魅力的だ」

「変わった奴だな。後悔しても知らんぞ」

「後悔はしない。永遠に俺のものだ。うっ!」


 それでも、フォルトは違った。

 ベルナティオが魅力的な女性として映っており、その扱いも同様だ。出会った頃は危険視していたが、今は彼の言葉が信じられる。 

 自分は悪魔になり、この魔人と永遠を生きるのだから……。


「臆面も無くよく言える。満足したか?」

「余計にたかぶってしまった。さて続きといこう」

「待たせおって……」

「魔人の体力は無尽蔵。壊れるなよ?」

「誰に言っている? あのときは三日も耐えたのだぞ! 早く犯せ!」


 体の火照りは収まる気配が無い。

 調教によって刻まれた快楽という刻印。最初は当然のように抵抗したが、フォルトたちの前では無意味だった。

 彼の体を刺激し続けたのは、その気にさせるためだ。

 そして期待に満ちていると、寝室の扉が開かれた。


「待ってください御主人様! カーミラちゃんも混ざりまーす!」

「お前もか!」

「だって御主人様は、カーミラちゃんにメロメロなんですよぉ」

「そのとおりだが、ティオも同じように愛してやるぞ」


 フォルトからは、カーミラとの関係を教えてもらった。

 それにしても、負の面をさらけ出す者は珍しい。ある意味では開き直っていると言えるが、隠し事をしない真摯な一面が見られる。


(こいつは約束を守っている。私の体を貪ってくれる。他のことを考えるのは、体の火照りが収まってからで良いか)


 ベルナティオから見たフォルトは、男性ではなくオスだった。

 色欲という大罪に忠実で、野生の獣のようにメスを求める。

 女を捨てたとはいえ、メスの本能を呼び起されてしまう。〈剣聖〉という人間の高みにいたとしても、このオスの群れで安心を得たいと思える。


(ちっ。これが女の幸せ、か。レイナスの奴め)


 そしてフォルトは、理性の無いオスでもなかった。

 最大限の愛情が注がれているのを感じられるのだ。決して独りよがりにならず、ベルナティオを慈しんでいる。

 調教中も同様だったが、身内になったことで一段と理解できた。

 レイナスから言葉として聞くことで、それを意識できるようになった。


「ぐぅぐぅ」


 無我夢中だったが、長い情事の時間も終わりを迎える。

 以降のフォルトは、いつものように惰眠を貪っていた。

 食事の時間まで寝るとは、カーミラからの情報だ。情事の余韻に浸った後で、体の火照りも収まっている。

 とりあえずベルナティオは、乱れた衣服を直した。


「ティオちゃんは慣れたかなぁ?」

「ふんっ! 面白い魔人だ」

「えへへ。最高の御主人様だよぉ!」

「そうだな。最高だ」


 悪魔化については、実のところベルナティオにも分かっていない。

 リリスのカーミラは、魔人のシモベとの話だった。しかしながら普段は、悪魔らしい行動を取っていない。

 物資の調達で、盗賊まがいなことをしているだけと言う。悪事には違いないとはいえ、悪魔ともあろう者が率先して行う案件ではないだろう。


「堕落の種で悪魔になった私だが、結局は何をすればいいのだ?」

「御主人様を満足させるだけだよぉ。他に何かありますかぁ?」

「私には思いつかん。とはいえ、それが最優先事項なのは間違いないな」

「ティオちゃんは分かってるねぇ」

「ちっ。お前らに堕とされたのだ。仕方あるまい」

「好きなだけ御主人様に甘えて、好きなだけ剣の道に生きればいいよぉ」

「永遠の寿命、か」

「最高でしょ?」

「あぁ最高だ」


 ベルナティオは堕落の種によって、ニーズヘッグ種の悪魔になった。

 竜の悪魔だそうだが、人間だったときの力まで抑えている。最初に悪魔化したときは、気分が高揚したものだ。

 人間の限界を、はるかに超えていた。


「悪魔の力を解放したら拙いのか?」

「えへへ。御主人様次第ですねぇ」

「こいつのか?」

「御主人様の望みをかなえることが、カーミラちゃんたちの務めでーす!」

「なるほどな。今は人間の私を望んでいる、というのだな?」

「そうでーす!」

「ならば、こいつの望みである弟子を鍛えるとしよう」

「えへへ。それでいいと思いまーす!」


 確かに悪魔は、魂と引き換えに願いを叶えるとも言われている。

 フォルトは魂の代わりに、永劫えいごうの時間を共に生きると約束してくれた。であるならば、彼の望みを叶えなければならないだろう。

 そしてベルナティオは寝室を出て、レイナスを探しに行くのだった。

 


◇◇◇◇◇



 ベルナティオは聖なる泉の畔で、レイナスに座禅を組ませている。剣術も教えなければならないが、まずは集中力を鍛えることが先だ。

 これをやらないと、剣術の指導がおぼつかないのだ。またこの弟子は、フォルトをけなされるとキレるらしい。

 そんなことでは、剣士として失格である。


「レイナス」

「………………」


 スキル『一意専心いちいせんしん』。

 これを修得すれば一つのことに集中して、雑念や迷いを持たなくなる。〈剣聖〉としてのベルナティオは、これこそが剣の道の第一歩だと考えていた。

 人間が簡単に死ぬ世界において冷静な判断が下せなければ、しかばねをさらすだけなのだから……。


「お前は確か、ここが弱かったな」


 ベルナティオは真面目な顔で、レイナスの絶対領域に指をわせた。続けて足の付け根に移動させていくと、彼女はブルっと震えて声を上げる。

 フォルトの真似をしただけだが、効果は抜群だった。


「んあっ!」

「駄目だ駄目だ! やり直し!」

「師匠は卑怯ひきょうですわ!」

「何をいう。『一意専心いちいせんしん』とはひたすらに……」

「それは聞き飽きましたわ」

「むっ! ならば卑怯という言葉は出ないはずだな?」

「くっ! 師匠は意地悪ですわ」


 弟子のレイナスは同類だと思っている。

 ベルナティオと同じく、フォルトから調教を受けた身なのだ。寝室では一緒に彼の相手もするので、弱点などは知り過ぎるほど知っている。


(まだ剣の道もなかばだというのに、人にものを教えることになるとはな。まぁあいつが満足するならいいか。褒美もあるしな)


「師匠。顔が赤いですわよ?」

「分かっている。察しろ!」

「ふふっ。私たちは幸せですわね」

「レイナスが言っていた女の幸せか。確かに悪くはないな」

「後で……」

「話をはぐらかすな! 続きをしろ!」

「はっ、はい!」


 フォルトとの情事を想像したベルナティオは、レイナスを威圧した。すると彼女は慌てて、修行の続きを始める。

 以降も弱点を責めながら、修行に没頭させた。

 普段はもっと真面目なのだが、これも全部フォルトのせいである。


(まったく……。私に余計な知識を教えおって……)


 いま行っているのは、レイナスの集中力を高める訓練。子供だった頃のベルナティオも、道場の剣術師範から指導を受けていた。

 通常は肩を叩かれたり、刀を突き付けられるなどの行為で集中力を乱される。

 何にせよ、邪魔ができれば良いのだ。フォルト流の――エッチな――攻撃も有りかもしれない。


「今日はこれまでだ!」

「ありがとうございました!」


 まだ始めたばかりなので、三時間ほどが経過している。

 本来なら、修行の前に行う準備運動のようなものだ。独学の矯正に時間は掛かるだろうが、彼女ならば問題無く修得するだろう。


「では、緊張した精神と肉体を休ませるとしよう」


 メリハリは重要である。

 ベルナティオとレイナスは、布で汗を拭いて暫しの休憩に入った。

 そしてテラスに向かうと、アーシャとソフィアがいる。ニャンシーから魔法の課題を出されており、頭を悩ませながら勉強をしていた。


「あら。修行は終わりですか?」

「休憩だ。ところで、ソフィアに尋ねたいことがあるのだが……」

「構いませんよ」

「お前は、勇者の従者をしていたそうだな」

「はい。十歳のときでしたが……」

「そうか。勇者とは、一度手合わせをしたかった」


 勇魔戦争時のベルナティオと勇者チームは、別々の場所で戦っていた。なので面識はなく、名声だけが流れてきていた。

 やはり剣の道を歩む者としては、彼らの強さを肌で感じたかった。


「アルフレッドは戦いたくないと言っていましたよ。ですがプロシネンは、ティオさんに興味を持っていましたね」

「確か勇者チームの戦士で、〈蒼獅子あおじし〉と呼ばれていた奴だったな」

「はい。寡黙な人ですが強くなることに貪欲でしたね」

「面白い。出会ったら、お相手を願うとしよう」


 残念ながらベルナティオの周囲に、人間の強者はいなかった。

 またそれ以前に戦争なのだから、魔族を相手にしないといけなかったのだ。とはいえ平和な時代が訪れたからこそ、強者との戦いを望むのは剣士の性。

 フォルトに届かなかった剣は、過去の勇者たちを相手に通用するのか。

 すでに勇者アルフレッドはこの世にいないが、〈蒼獅子〉プロシネンであれば相手にとって不足は無い。

 そんなことを考えていると、アーシャがソフィアを揶揄からかった。


「ソフィアさんはさぁ。どっちを応援するん?」

「アーシャさん。それは意地悪な質問ですね」

「きゃはっ! 冗談だよぉ」

「プロシネンの応援でもしてやれ。私が勝ってしまうからな」

「すっごい自信だねティオさん!」

「あいつが無敗の〈剣聖〉を望んでいるのだ」

「フォルトさんに何か言われたん?」

「魔人は反則だと慰められた。だから、あいつ以外には負けられん」

「あたしはさあ。フォルトさんが戦ったところって見たことがないんだあ」


 常に怠惰の大罪が全開のフォルトは、ベルナティオ戦ですら召喚した魔物に戦わせている。攻撃魔法すら使わず、基本的には逃げの姿勢だった。

 ほとんどの身内は、彼の戦闘を目撃していない。にもかかわらず身内として守られているのは、彼が魔人だからこそだ。

 それでも、実際の強さを目にしないと不安になるのも分かる。


「安心しろ。あいつに勝てる奴はいない」

「やっぱりそうなんだ!」

「アーシャも、私と戦ってみれば理解できるだろう」

「うぇ。勘弁して……。あたしはねぇ。みんなの後ろで支援するの!」

「おっさん親衛隊だったな。共に戦うときはよろしく頼む」

「任せて!」


(あいつの身内は面白い奴ばかりだな。それと〈狂乱の女王〉や〈爆炎の薔薇ばら姫〉の他にも、魔族がもう一人いる。従者のような者もいるな。不思議な奴だ)


 フォルトと出会ってから、ベルナティオの人生が変わった。

 詳しく聞けていないが、他の身内も全員がそうに違いない。と思ったところで、自然と可笑しさが込み上げてくる。


「ははっ、ははははははっ!」

「どうしたのティオさん?」

「いや。もっとあいつのことを知りたい、とな」

「なになに? ティオさんは女子会がしたいの? 似合わなーい!」

「女子会? 私はただ、お前たちがあいつから離れない理由を知りたいのだ」

「やっぱ女子会じゃーん! じゃあお茶の準備をしよ?」


 待ってましたと言わんばかりに、アーシャが仕切り始めた。

 フォルトのことが聞けるなら、別に何でも良いか。

 ともあれ彼は、決して人から褒められるような者ではない。逆に非倫理的な悪の存在で、人物を知れば嫌悪される男だ。

 それに身内はアーシャやリリエラは別としても、そうそうたる面々。

 マリアンデールやルリシオンは言うに及ばず、シェラも魔族である。

 そしてソフィアは、元聖女で勇者の従者。レイナスは廃嫡されたとはいえ、エウィ王国のローイン公爵家令嬢である。

 常識的に考えてもあり得ない組み合わせだ。


(アーシャではないが、実際に目にするとな)


 ベルナティオはフォルトによって、身も心も堕とされた。悪魔化も果たし、もう彼の傍でしか生きられない精神状態だ。だが近いのはレイナスだけで、他の身内は調教など受けていないとの話だった。

 彼女らが幸せそうなのは、自身が気付けていない魅力があるからだろう。ならば後はアーシャに任せて、女子会とやらが始まるのを待つのだった。

Copyright©2021-特攻君

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