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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十四章 勇者召喚
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師弟3

 幽鬼の森に帰還したフォルトは、寝室で三日も眠っている。

 たまに眠りが浅くなって、ベッドの上で左右に動くときがあった。しかしながら薄目を開けたところで、すぐに眠気が押し寄せてくる。

 ただし、それには理由があった。


「そろそろ~。目を覚ましそうです~」


 フォルトの近くで枕を抱いている幼女、大罪の悪魔ベルフェゴウルの存在だ。

 怠惰を冠に持つ彼女は、対象を深い眠りへと誘う。また意識を朦朧もうろうとさせたり、無気力状態にする能力を有していた。

 カーミラから使用禁止と言われていたが、精神的な疲れを癒せる。

 スッキリと爽やかな目覚めを体験できるのだ。


「ふぁぁぁあああ!」

「フォルト様が、お目覚めになりましたわ」

「きさまという奴は……。私の相手をするのではなかったのか?」


 フォルトは大の字で寝ていたが、意識が鮮明になってくる。

 そして語りかけてくる声は、レイナスとベルナティオだった。

 二人は四つんいの体勢で身を乗り出しながら、艶めかしい顔を向けている。だからこそ目を開けず、二度寝に入ろうとくだらないことを画策した。


「むにゃむにゃ」

「何だレイナス。まだ起きないではないか?」

「ふふっ。こうすると起きますわよ師匠。ちゅ」

「むっ! なるほどな。ちゅ」


 そう。起きるのを遅らせると、こうやってご褒美がもらえる。

 すでにベルフェゴウルのおかげで、目覚めはスッキリだった。両頬りょうほほに口付けを受けたフォルトは、目を見開いて二人の頭をでる。 

 ともあれレイナスは、ベルナティオを師匠と呼んでいた。

 これは自身が寝る前、二人に提案したことだ。〈剣聖〉を師匠と仰ぎ、剣の腕を上達させろと伝えてあった。


「美女の口付けで起きられるとは最高だな! でへでへ」

「なら~。私は~。寝ますね~」

「う、うむ。世話になったな」

「すぅすぅ」


 大罪の悪魔は、最長で三日しか稼働できない。

 本日が三日目なので、ベルフェゴウルを消さないでおく。時間が来れば勝手に消えるとはいえ、彼女にも睡眠という褒美を与える。


「だが、さすがに腹が減ったな」


 三日も眠り続ければ、色欲よりも暴食の欲求が強い。

 上体を起こしたフォルトが腹をたたくと、胃袋が悲鳴を上げた。


「残念ですわ師匠。暴食を満足させるほうが先ですわ」

「ちっ。私を犯すよりも飯とはな。きさま……」

「悪いな。腹が減っては戦はできぬ」

「確かにアレは、戦いと言える。では、飯の用意を聞いてこよう」

「いいえ。師匠はそのままで……。弟子の私が行きますわ!」

「そっ、そうか。任せる」

「はいっ!」


 フォルトに体を預けたベルナティオは、分かりやすい笑みを浮かべている。

 そしてレイナスは、名残惜しそうに食堂へと向かった。向かうと言っても寝室の床には、直通扉と梯子はしごが設置されている。

 彼女の飛び降りる姿を確認して、フォルトは悪い手を動かす。


「んくっ! きさま。飯が先ではないのか?」

「いや。ティオも筋肉が付いていないと思ってな」


 鍛えられた肉体を持つベルナティオだが、無骨な筋肉ではない。無駄な脂肪が一切なくしなやかに引き締まっていて、掌に心地よい張りがあった。

 ちなみにレイナスの場合は、「フォルトが喜ぶ体型の維持」に努めていた。

 もちろん〈剣聖〉の肉体には、何の不満も無い。むしろフォルトには好ましく、就寝の前に何度も堪能していた。


「あまり筋肉を付けても、私の剣術には邪魔なだけだぞ」

「レイナスはどうだ?」

「奴は魔法も使うのだろ? ならば、純粋な剣士とは言えないな。今までの調整を続ければいいだろう」


 筋肉量については、人に合わせる必要がない。扱う武器や戦い方によって、各人が調整するものだ。

 そしてレイナスの筋肉は、独学のわりに理想な量らしい。また聖剣ロゼも、ミスリル製の長剣である。鉄の剣よりはずっと軽く、現状の筋肉量で十分だった。

 おそらく彼女は筋肉を増やせと言われても、絶対に拒否するだろうが……。


「よし! 俺たちも食堂に行くぞ」

「レイナスを待つまでもないようだな。料理の匂いが漂ってきた」


 開けっ放しにされた食堂への直通扉から、小腹を刺激する匂いが漂ってきた。

 フォルトはベッドから下りて、ベルナティオと手をつなぐ。続けて梯子を使わず、二人で食堂に飛び降りる。

 着地して周囲を見渡すと、マリアンデールとルリシオンが調理場から現れた。


「食事に関しては、本当にタイミングがいいわねえ」

「まったくよ! 配膳した料理を食べてる間に、追加で作るだけだわ」

「ルリが、だろ?」

「そうよ! 料理を作ってるルリちゃんは可愛いんだから!」

「そっ、そうか。他のみんなは?」

「カーミラちゃんとレイナスちゃんは借りてるわあ」

「調理場か」

「他のは……。来たわよ」


 マリアンデールに釣られて食堂の入口を向くと、アーシャ・ソフィア・シェラ・リリエラの四人が入ってきた。

 料理の匂いが漂っていたので、これもタイミングがバッチリだ。

 とりあえずフォルトは手招きして、アーシャを近くに呼んだ。


「フォルトさんは寝過ぎだと思うなぁ」

「待たせて済まないなアーシャ」

「別にいいんだけどさ。ティオさんの服をデザインするのよね?」

「うむ。もしかして、先に描いていたか?」

「当然っしょ! まだ途中だけどね!」


 さすがは、絵描きが趣味のアーシャだ。

 フォルトの好みは把握しており、すでにデザイン画に着手していた。

 そうは言っても細かい部分はまだのようで、ラフの状態である。ソフィアやシェラの服も同様の手順であり、後で彼女を労いながら完成を目指す。

 労いの方法は決まっているので、自然と頬が緩んだ。


「私の服を作ると言っていたな」

「エロ……。格好いい服をプレゼントしてやる」

「ほう。動きやすそうなので頼むぞ?」

「きっと動きやすいと思うよぉ。だって……」

「アーシャには肉だ!」

「むぐっ! もぐもぐ」


 真っ赤になる顔が見られなくなるので、アバターのネタバレは厳禁だ。

 若者の姿をしたフォルトはすばやく動き、アーシャの口に肉を放り込む。

 ついでに暴食が悲鳴を上げているので、そのまま食事を開始する。ベルフェゴウルで熟睡するのは良いのだが、起きたときは無性に腹が減ってしまう。

 欠点と言えば欠点だ。

 以降はカーミラを隣に座らせて、他の身内とも会話しながら、ドンドンと料理を平らげていく。

 内容は主に、フォルトが就寝している間に行っていたことだ。幽鬼の森に引き籠っているので、話題などはそんなものだった。

 ブロキュスの迷宮での土産話は、ベルナティオの歓迎会で終わっている。


「そうだティオ」

「どうした?」

「筋肉については聞いたが、レイナスの剣の腕はどうだった?」

「筋はいいぞ。しかし、私が弟子を取るとは……」

「まさか嫌だったのか?」

「私はまだ修行中の身で、人に剣術を教える立場ではない」


 フォルトが指示したレイナスとの師弟関係について、ベルナティオは断ろうとしていたようだ。だが歓迎会の後はすぐに寝てしまって、彼女は伝え損ねたらしい。

 そして断りの口実は、あまりにもお決まりのパターンだった。


「なら断るのか? すでにレイナスは、ティオを師匠と呼んでいたぞ」

「いや。上手に教えられるか不安でな。言い訳として先に、私の立場を伝えておきたかったのだ。レイナスの修行よりも、自分の修行を優先するぞ?」

「構わない。どちらにも強くなってほしいからな」


 〈剣聖〉が合格点を与えられるぐらいまでは、レイナスを育成してほしい。

 自己流で強くなる者はいるだろう。しかしながらベルナティオは、経験豊富な純粋な剣士。フォルトでは何も教えられないので、彼女が先生役に適任なのだ。


「レイナスならば弟子にしても良いと思えるな。み込みが早い」

「魔法学園では天才と言われていたらしいぞ」

「フォルト様。恥ずかしいですわ!」

「ほう。鍛え甲斐がいがありそうだ」

「ついでにアーシャも鍛えてやってくれ」

「嫌よ!」


 冗談を言ったつもりだったが、アーシャの拒否反応が凄かった。

 きっとフォルトが寝ている間に、師弟の修行を見ていたのだろう。


「冗談だ冗談。アーシャには無理だろ?」

「あたしの称号は「舞姫」だからね! 剣はレイナス先輩に任せるわ!」

「そうだったな。あぁならアーシャの武器が欲しいな」

「武器?」


 アーシャの育成方針は、称号から取って踊り子と考えていた。

 そしてフォルトが考える踊り子とは、陣形の中衛に位置するサポート職だ。彼女はスキル『奉納の舞(ほうのうのまい)』が使えるので、踊りながら扱える武器が必要だろう。

 今は鉄の剣を装備しており、敵が近づかないと意味をなさない。

 新たな身内となったベルナティオが、おっさん親衛隊に加入するのだ。ならばと、皆の武装を整えたくなってきた。


「武具と言えばドワーフ族。ちょうど行ってきたばかりだな」

「きさま。武具を買う金を持っているのか?」

「俺の生活に金なんぞ要らん! 後でカーミラに奪ってきてもらおう」

「フォルト様。誇れる話ではないですよ?」


 ここで、ソフィアが声を上げた。

 確かに褒められる内容ではないので、フォルトは神妙な顔つきに変わる。続けて乾いた笑みを浮かべながら、「まぁまぁ」と彼女をなだめた。

 このやり取りも日常であり、実に心地良い。


「奪うだと? きさまという奴は……」

「もうティオちゃんは悪魔ですよぉ」

「あぁ……。悪魔は悪事を働く者だったな」

「えへへ。実行するのはカーミラちゃんでーす!」

「もぅ! カーミラさん!」


 ベルナティオの発言には、カーミラが相手をしていた。

 内容を聞いたソフィアの頬が、プクッと膨れるところが可愛い。だが悪魔に善を説いたところで、何が変わるわけでもない。

 元聖女は性格的に、損な役回りをしているとフォルトは感じてしまう。

 それでも離れず愛してくれるので、心の中で拝んでおく。


「ははっ。そう言えばティオは、悪魔の力を見せていないのか?」

「きさまが隠せと言っただろ!」

「だったか? あぁそうだった。おっさん親衛隊に入れるからだな」


 人間に近しい種族でチームを構成しないと反則なのだ。ベルナティオには悪魔の力を使わせずに、人間の状態で加入してもらう。

 それを思い出したフォルトは、頭をかきながら食事の続きをする。


「フォルトぉ。料理の追加よお」

「私たちも頂くわ。ところで貴方、何を話していたのかしら?」


 追加の料理が運ばれてきたところで、全員が食卓に着いた。

 ここからは、愛すべき身内との団らんを楽しむ時間だ。難しい話は無しにして、身内の誰もが笑顔になれる食卓を囲む。

 そして腹が膨れたところで、カーミラを連れて風呂に向かうのだった。



◇◇◇◇◇



 フォルトの屋敷の近くに湧き出ている聖なる泉。

 そこでは、師弟関係を結んだベルナティオとレイナスが修行をしていた。二人は手のひらを上に向け、結手けっしゅと呼ばれる組み方をして、足の上に乗せている。

 いわゆる結跏趺坐けっかふざの状態で、地面に座っていた。同時にあごを引いて姿勢を正し、呼吸を整えていた。

 日本では、座禅と呼ばれる修行法だ。


「………………」


 その二人の後ろには、フォルトもいる。

 師弟の修行を拝見しようと、カーミラと一緒に来たところだ。


「ふむふむ。座禅か」

「御主人様は物知りですねぇ」

「あっちの世界の知識だな。日本のお寺とかで、坊さんがやっていた」

「御主人様もやったんですかぁ?」

「俺はやっていないがな!」

「ですよねぇ」


(えっと確か……。自分を見つめ直すときにも、座禅は有効だったか? 俺が自分を見つめ直したら……。駄目男、クズ、エロオヤジ。見つめ直すかっ!)


 自らを振り返ると、物凄く自虐的な気分になる。だからこそフォルトは、自分を見つめ直すのを止める。

 身内のれ下着姿のような煩悩なら、何度も見つめ直したい。


「あ……。夏は……」

「そろそろじゃないですかぁ?」


 フォルトは何かを思いついたかのように、軽く手を叩く。

 目の前の師弟は、その音を聞いても微動だにしない。ならばと二人の間に座り、悪い手を解放しておく。

 こちらの世界には、夏という定義がない。しかしながら数週間ほど、暑い日が続くときがある。またそれは、一年の間に数回は訪れるのだ。


「でへでへ。よしよし」

「御主人様はまた、えっちぃことを考えていますねぇ」

「仕方がないだろう。俺は、色欲という大罪を持つ魔人なのだ!」

「逆だと思いまーす! 御主人様だからこそ、色欲を持つんですよぉ」

「そうかもしれないな。昔からエッチだった」

「えへへ。じゃあ、リリエラちゃんの出番でーす!」

「さすがはカーミラだ。何でもお見通しだな!」


 リリエラに与えるクエストが決定したところで、カーミラの膝枕を堪能する。

 それでも、両隣の二人は微動だにしない。


「凄い集中力だな。まさか寝てるということは……」

「きさま。邪魔をするために来たのか?」

「起きていたのか。これは、剣術の修行になるのか?」


 ベルナティオが言ったとおり、修行の邪魔をするために来たのだ。

 フォルトは時おり、アーシャやソフィアが行っている魔法の勉強も邪魔している。寿命が無限にある魔人にとっての暇潰しだった。


「精神を鍛える修行法としては、地味ながらも効果は高いな。スキル『一意専心いちいせんしん』を修得するためにも、毎日行うことが重要だぞ。ぁっ……」

「一意専心? 聞いたことがある言葉だな」

「しゅ、集中力を上げるスキルだ。身に付くかはレイナス次、第……。んくっ!」


 フォルトの悪い手には反応しており、ベルナティオは集中できていないのではないだろうかと思う。

 それを指摘すると怒り出しそうなので、話題を変えておく。


「剣のほうはどうだ?」

「筋がいいと言っただろ。自己流だから、矯正は必要だがな」

「ほう。調教みたいなものか?」

「………………」

「冗談だ。か、刀を握るな!」


 さすがにさやからは抜いていないが、冗談の通じない女性だ。

 ともあれレイナスからは、甘い声が漏れてこない。


「レイナス?」

「止めておけ。ちょうど、集中力が高まっているときだ」

「俺にはとんと分からない話だな」

「剣の道を歩む者しか理解できんよ」

「レイナスは魔法剣士だからな? 剣士だけでは駄目だぞ?」

「私が教えられるのは、剣術のみだ。魔法なら、あの猫の領分だろう」

「ニャンシーか。あっ! そうだ。ニャンシー!」


 ベルナティオの言葉で思い出して、フォルトは眷属けんぞくの名前を叫んだ。リリエラが帰っているので、ニャンシーも近くにいるのだ。

 そして暫く待っていると、自身の影から飛び出してきた。


「何じゃ主よ?」

「ニャンシーにやってもらいたいことがあってなあ」

「リリエラの護衛は良いのかの?」

「屋敷にいる間はしないくていいぞ。それよりも……。ゴニョゴニョ」


 フォルトは意味もなく小声になって、ニャンシーに耳打ちをする。

 カーミラも耳を寄せているので、会話の内容は筒抜けだ。


「なるほどぉ。そんな奴らもいましたねぇ」

「だろう? せっかくだから使わないとな」

「いる場所は、人間の都市じゃったな。すぐにでも向えば良いか?」

「うむ。行ってくれ」

わらわに任せておくのじゃ!」


 フォルトからの命令を受け、ニャンシーは魔界に向かった。

 幽鬼の森からだとかなり距離はあるが、すぐに奴らが必要でもない。彼女が戻ってくるまでは、適当に自堕落生活を続けていれば良いだろう。


「きさま。あの猫に何を吹き込んだのだ?」

「内緒だ。まぁ修行は中断して、テラスに行くぞ!」

「「きゃ!」」


 中腰になったフォルトは、ベルナティオとレイナスの脇に手を入れる。

 そしておっさんらしく「どっこいしょ」と口走り、柔らかいものを触りながら立ち上がらせる。

 どちらもいきなりで驚いたようだが、そのまま体を預けてきた。

 ただし今は、この場で情事を始めるつもりはない。深く交わる行為は夜の楽しみとして、まずはテラスに向かうのだった。

Copyright©2021-特攻君

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