表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十四章 勇者召喚
189/192

師弟2

 〈剣聖〉ベルナティオが、フォルトの新たな身内として加わった。

 旅の目的でなかった彼女の入手は、留守番の身内――レイナス・アーシャ・ソフィア・シェラ――には「寝耳に水」である。

 それでも快く受け入れてくれたので、ホッと一安心していた。だがそれも束の間、とんでもない話を耳にしたのだ。

 なんとシュンの率いる勇者候補チームが、フォルトの不在中に訪れたらしい。

 現在は詳しく尋ねるために、留守番の四人とテラスにいる。

 だが、その前に……。


「ティオ。もう少し押し付けるように頼む」


 幸せそうな顔のフォルトは、ベルナティオを後に立たせていた。

 そしてシェラが行っていたように、自身の後頭部を刺激させている。とはいえ着用している道着が厚く、双丘の柔らかさを楽しめていない。

 やはり彼女の専用服は、何を置いても製作しなければならないだろう。


「きさま……。私を何だと思っているのだ!」

「シェラを羨ましそうに見ていただろ?」

「ちっ。目ざとい奴だ。まぁ力加減の調整ぐらいはしてやろう」

「むほっ! それでいい」


 シュンたちのことは気になるが、フォルトは新たな身内を堪能する。目の前の四人にあきれられても、こればかりは譲れない。

 それにベルナティオは、身内になったばかりだ。

 普段はお目に掛かれないものにも視線が向かっていた。


「きさま。テーブルの上の料理は何だ?」

「おやつのことか? ルリ特製のフライドポテトだな」

「ルリだと? 〈爆炎の薔薇ばら姫〉は料理を作れるのか!」

「イメージと合わないのは分かるが、我が家の料理長だぞ」


 ルリシオンは過去の戦争において、ソル帝国軍を蹂躙じゅうりんした魔族姉妹の片割れ。

 その勇魔戦争を経験したベルナティオだと、彼女の趣味は想像もできないか。だが意外な一面は、誰にでもあるものだ。

 フォルトはおやつに手を伸ばして、数本のフライドポテトを取った。


「食ってみろ。あーん」

「きさまに食べさせてもらうなど! あーん」

「どうだ? 旨いだろう」

「もぐもぐ。うーん。確かに旨い」

「メニューも豊富だから飽きることもないのだ」


 料理の味は、人を虜にできる。

 ベルナティオの満足そうな顔は、それを物語っていた。


「奴の評価を改めないといかんな。それよりも、他に話があるのではないか?」

「おっと! そうだった」


 カーミラを隣に座らせ、ベルナティオで遊ぶ。フォルトとしては実に楽しいが、そろそろシュンたちをことを尋ねる。

 そして勇者候補と言えば、元聖女ソフィアとは切り離せない。


「ソフィア。シュンたちは泊まったのか?」

「はい。寝泊りできる場所を用意して、食料を提供しました」

「泊まった、のか……」

「仕方なくですよ? しかも、倉庫で寝泊りしていただきました」

「シュンに夜這よばいなどされなかったか?」

「バグバット様の執事もいらしたので、フォルト様の懸念には及びません!」

「あ……。そうなのか」


 自分が関知しないところで男女が会っていると、良からぬ想像をしてしまう。しかしながらそれは、身内を信用していないのと同義である。

 この手の話で別れるカップルも多いと聞く。心配と詮索を一緒にすると、男女の関係は破局に向かうだろう。

 ソフィアを怒らせたかと思ったが、ここでレイナスが口を挟む。


「安心してくださいフォルト様。私がたたきのめしておきましたわ!」

「は?」

「あはっ! レイナス先輩、強すぎぃ」

「あの者の傷も浅く、見事な戦いでしたわね」

「な、何の話だ? もっと詳しく!」


 なぜレイナスが、シュンを叩きのめすのか。

 フォルトがいない間に、彼女が行動を起こすだけの出来事でもあったのか。嫉妬どころの話ではなくなって、かなり混乱した。

 片手で額をつかんで、首を左右に振ってしまう。


「フォルト様。詳しく話すと長くなりますが……」


 それでも構わないとして、ソフィアから詳しい話を聞いた。また内容を聞きおとさないように、口を閉じて悪い手だけを動かす。

 カーミラの甘い声も耳に入ったが、フォルトが思うところは一つだけだった。


「レイナスとシュンの模擬戦を見られなかったとは……。残念だ」


 レイナスを拉致した経緯は言わずもがな。

 その集大成とも言うべき初の対人戦が、フォルトのいないときに行われたのだ。残念だと思うのは当然で、ガックリと肩を落としてしまう。

 ともあれ魔人でも、過去には戻れない。

 彼女の雄姿を見られなかった代わりに、模擬戦の様子を尋ねた。


「残念ですが、私は覚えていないのですわよ?」

「え?」

「戦いの途中で意識が飛んでいたようなのですわ」

「どういうことだ?」

「フォルト様をけなされて、頭に血が上ったことは覚えていますわね」

「ふ、ふーん」


 どうやらシュンが、フォルトの悪口を口走ったようだ。

 腹に据えかねる内容らしく、普段は冷静な彼女がキレてしまった。だが観戦した身内の言葉から、二人の実力差ははっきりしている。

 これにはうれしい反面、危惧することがあった。


「精神面の訓練を疎かにしているようだな。いや。そもそも独学だったか? 感情に振り回されているようだと、いずれ殺されるぞ」


 さすがは、〈剣聖〉というべきか。ベルナティオが代弁してくれた。

 彼女はフォルトとの戦闘中、感情をコントロールしていた。怒っていても剣技は鈍らず、召喚したリビングアーマーの群れを斬り倒している。

 紙一重の差で勝利できたが、あれが剣士というものだ。


「だが、その状況でよく勝てたな」

「意識があるときでも、大した強さではなかったですわね」

「レベルは同じぐらいだよな?」

「はい。ですが、場数の違いはあると思いますわ」


 レイナスとシュンのレベル差は無い。

 そして場数については、彼女のほうが多いはずだ。自動狩りで魔物や魔獣を倒しまくっており、戦闘経験は豊富である。

 もしかしたら戦闘経験は、レベルに反映されないのかもしれない。と言ってもレベルについては手探りの状態なので、フォルトは思考は止めた。

 それよりも……。


「なるほど。ならアーシャ」

「なにぃ?」

「意識が飛んでからのレイナスの動きはどうだった?」

「切れ味が抜群って言えばいいのかな?」

「どういう意味だ?」

「洗練された動きっていうの? シュッ! バッ! シュッ! みたいな?」

「あぁ……。何となく分かった」


 身ぶり手ぶりで教えてくれるが、アーシャが伝えてくれた内容は理解した。まるで機械のように、レイナスが動いたのだろう。

 それについては、フォルトに心当たりがあった。


「聖剣ロゼの仕業か?」

「ロゼ。どうなのかしら?」


 成長型知能を持つ聖剣ロゼだ。

 魔人には慣れないようで、バイブレーターのように震えていた。

 そして、聖剣ロゼと会話できるのはレイナスだけである。フォルトには声が聞き取れないので、フライドポテトを食べながら待つ。


「もぐもぐ。どうだった?」

「私の体を動かしていたのは、やはりロゼのようですわ」

「へぇ。それは興味深いな」

「普段から体の動きを調整してくれていましたわね」

「ほほう。やはり凄い聖剣だったのだな」


 成長型知能を持っている時点で、フォルトは凄いとは思っていた。

 話を聞くかぎりでは、オートで戦闘もやれるようだ。レイナスが気絶したときや野外で就寝中のときは使える。

 こちらの世界だと、規格外の聖剣だった。


「いいね。気に入った」

「ロゼが、ですか?」

「うむ。絶対に手放すなよレイナス」

「分かりましたわ! フォルト様からのプレゼントですからね!」

「………………」


(そういう芝居もしたなあ。しょっちゅう捨てようとしていた気はするが……。まぁいいか。ならロゼに認められれば、もっと凄いことができるようになるのか?)


 未だに聖剣ロゼは、レイナスを認めていない。

 現時点での所有者として、仮免許を与えただけである。


「どれぐらいで認められるのだ?」

「レベル四十あたりと言っていましたわね」

「人間でいうところの英雄級か。堕落の種が芽吹くときだな!」

「ふふん! 私は芽吹いているぞ!」


 堕落の種と聞いて、ベルナティオが得意気だ。

 彼女はニーズヘッグ種の悪魔に変貌しており、すでに人間ではない。姿を変えられるから、人間の状態でいるだけだ。

 調教とは別に、これも〈剣聖〉が堕ちた理由の一つだろうと思う。

 人間の姿を維持することはもちろん、悪魔の力まで使えるのだ。人が忌避する存在になったところで、気にする者はそう多くない。

 まさに種の名称どおり、堕落の始まりである。


「えへへ。ティオちゃんは、人間には勿体もったい無いでーす!」

「そうだな」

「神々の先兵になられたら、後々面倒ですよぉ」

「何それ。神々の先兵?」」

「天使のことですねぇ。悪魔は、天使と敵対してまーす!」

「うーん。確かに悪魔が存在するなら、天使も存在するか」


 シュンの話から脱線したが、天使と悪魔については興味深い。

 魔界の神である悪魔王の先兵は、カーミラのような悪魔である。逆に天界に住まう神々の先兵は、当然のように天使だった。

 そして堕落の種のようなアイテムは、天界側にも存在する。

 フォルトと出会わなければ、ベルナティオが天使に変貌したかもしれない。


「待てよ? ティオで芽吹いたのなら、マリとルリは?」

「もう悪魔になれますよぉ」

「しないのか?」

「今はまだ、と言っていましたねぇ」

「まぁ魔族は長寿だしな。タイミングは、本人たちに任せるとしよう」

「はあい!」


 以前にグリムから、「魔物の軍団でも作るのか?」と言われた。

 魔の森にいたゴブリン・オーク・オーガを利用しているからだが、このままでは身内だけで悪魔の軍団になりそうだ。

 そんなことを考えていると、ソフィアが話を戻してくれた。


「フォルト様。続きをお話しても?」

「あ……。済まん。脱線した。シュンたちの話に戻ろう」

「はい。模擬戦については以上ですが、彼らは再び訪れます」

「えええぇぇぇ」


 ソフィアの話を受けて、フォルトは嫌そうな顔になる。

 勇者候補チームの全員は同郷の日本人だが、あまり良い感情は持っていない。特にシュンについては思うところが多すぎて、仲良くなるつもりはないのだ。

 ただし彼らが訪れる目的は、闘技場で使う魔物・魔獣を引き取るため。デルヴィ侯爵はどうでも良いが約束を破りたくないので、嫌でも受け入れるしかないか。


「ソフィア。他の担当者に、チェンジはできそうか?」

「無理だと思いますよ」

「なぜだ?」

「シュン様とギッシュ様は、限界突破を終わらせた異世界人です」


 ソフィアの話だと魔物や魔獣の運搬は、強者でなければ難しいそうだ。

 通常は冒険者ギルドに依頼を出すが、シュンの率いる勇者候補チームも登録していた。またエウィ王国に所属する異世界人で、レベル三十の限界突破を終えている。

 信頼性の観点からも、彼らが適任だろう。

 デルヴィ侯爵が何の意味もなく、担当者を選んだわけではない。交代させるには、相応の理由が必要なのだ。「あいつが嫌い」だけでは通らない。

 社会人経験のあるフォルトは、「ですよね」と納得してしまう。


「それと、もう一つ。アルディス様の限界突破があります」

「アルディス? あぁ確か、空手家だったか。限界突破?」

「はい。対象の魔物はファントムで、幽鬼の森にいるらしいですよ」

「へぇ。シュンたちが、双竜山の森に来たときみたいだな」

「ふふっ。そうですね。対応は同じで良いと思います」

「なら、アルディスにパンツを……」

「駄目です!」


 目尻がいやらしく下がったフォルトは、ソフィアに怒られてしまった。

 シュンとギッシュの限界突破で、双竜山の森に訪れたときの話だ。引率を担当した彼女には、プレゼントしたエッッッッグいパンツを履いてきてもらった。

 同じ対応ならばアルディスにも、と思ったのだが……。


「冗談だ冗談。とりあえず、シュンたちの話は終わりだな?」

「はい。留守中の問題点としては、フォルト様との連絡方法です」

「だな。アーシャにも言われたし、どうしようか?」

「ニャンシー先生が適任なのですが……」

「リリエラに付いてるからなあ」

「彼女は、またクエストに?」

「出すよ。まぁ話は終わりにしようか」


 話が長くなると眠くなるので、ここで報告を区切る。

 もう屋敷に帰還したのだから、フォルトには時間がたっぷりとある。連絡方法については、また今度で良いだろう。

 その屋敷からも、料理の匂いが漂ってきた。

 帰還後はすぐ調理場に入ったルリシオンが、マリアンデールに邪魔されながら、夕飯の支度を続けている。

 そして今日の主役は、新たに身内となった〈剣聖〉ベルナティオだ。シュンたちのことは頭の中から放り出して、久々の自堕落モードに入るのだった。

Copyright©2021-特攻君

感想・評価・ブックマークを付けてくださっている読者様、本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ