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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十四章 勇者召喚
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師弟1

 自由都市アルバハードと亜人の国フェリアスを分ける国境は、原生林によって線引きがされている。また人が通れる安全な場所にしか、検問所は存在しない。

 国境警備隊の索敵範囲は広いが、魔物の領域までは管理していなかった。

 そしてフォルトたちは、魔物の領域を通って幽鬼の森に戻っている。

 現在はスケルトン神輿みこしに乗って、薄暗い森を進んでいた。またこの森に棲息せいそくするアンデッドに襲われると面倒なので、ブラッドウルフの群れを召喚してある。

 ゾンビやグール程度のアンデッドと比べると、ブラッドウルフのほうが強い。


「あっはっはっ! 我が家は近いな!」


 フォルトのスケルトン神輿には、カーミラとベルナティオが乗っている。

 それに伴なってリリエラは、マリアンデールとルリシオンの神輿に移動させた。可哀想だが殺害されることはないので、屋敷に到着するまでは我慢してもらう。

 もちろん彼女は、姉妹を嫌っているわけではない。同じ場所で暮らしていても、魔族の恐ろしさを払しょくできずに怖がっていた。

 こればかりは、慣れてもらうしかないのだが……。


「きさまは喜びすぎだろ!」

「仕方ないだろう? 先に戻るとばかり思っていたのだ」

「えへへ。言ったとおりになりましたぁ!」

「そうだな。半信半疑だったが……」


 カーミラとベルナティオは有翼人のせいで、フォルトより先に帰還する予定だったのだ。しかしながら最愛の小悪魔が機転を利かせ、こうして途中合流ができた。

 自身にとってはサプライズであり、機嫌の良さは最高潮である。

 原生林の中で、調教の続きを始めたほどだ。


「御主人様。そんなに良かったですかぁ?」

「もちろんだ! なぁティオ?」

「恥ずかしいから聞くな! ところで話は変わるが……」

「改まってどうした?」

「私を手に入れて、きさまは何をしたいのだ?」

「永遠に抱く」

「い、いや。それ以外で、だ!」

「あぁ伝えていなかったか」


 こちらの世界に召喚されてからのことは話すと長いので、今は後回しだ。

 とりあえずは、フォルトたちが置かれている状況を説明した。

 現在は幽鬼の森を拠点にして、魔族姉妹の限界突破や身内のレベル上げに勤しんでいること。またシュンが率いる勇者候補チームに触発されて、おっさん親衛隊を作ったことなどを伝える。


「おっさん親衛隊か。確かにきさまは、おっさんだが……」

「ハッキリ言うな!」

「嫌いではないぞ? しかし私が入っても、な」

「問題があるのか?」

「きさまの身内には良いだろうが、実力差があり過ぎる!」


 ベルナティオの実力は、おっさん親衛隊で一番成長しているレイナスよりもはるかに上なのだ。

 彼女にとっては物足りなさ過ぎて、剣の道を踏襲するための修行にならない。だからと言って〈剣聖〉に合わせると、他の者たちがついてこられない。

 実際に今のおっさん親衛隊では、ブロキュスの迷宮に潜るのは厳しい。


「だがティオは、すでに悪魔なのだ。修行する時間は、無限にあるぞ?」

「そうだったか? 無限か。永遠に抱いてくれると言ってくれたな」

「うむ。まぁティオは俺のものだ。それだけを知ってればいい」

「ぁっ! そうだ。私はきさまのものだ。んくぅっ!」


(弱点を触ってるときは、大人しいものだ。とにかく途中合流なのだから、ティオをみんなに紹介をしないとな。こころよく受け入れてくれるだろうか?)


 身内を大切にしているフォルトは、要らぬ心配をしてしまう。

 それでも魔族姉妹が受け入れているのだから、今さら考えるだけ無駄か。皆は身内が増えることを肯定して、文句の一つも言わない。

 ともあれ〈剣聖〉を身内にしたことは、ソフィアが一番驚きそうだ。


「さてティオ。これからスキル『変化へんげ』を使うが驚くなよ?」

「また背中から触手を出すのか?」

「いや。まぁ見てろ。「『変化へんげ』!」


 屋敷が近くなったところで、フォルトは若者の姿に変わった。

 このスキルは、ベルナティオ戦の最後に――調教のときも――使ったので、効果は知っている。と言っても彼女に若者の姿は初めて見せたので、少しだけビックリさせてしまった。

 そこで、今のうちに補足しておく。

 他人が介在せず身内だけのときに限り、若者の姿で過ごしていると。


「きさまはきさまだ。どちらでも構わん」

「ははっ。嬉しいことを言う。だが、見た目ぐらいは近いほうがいいだろ?」

「私はもう二十七歳だ。きさまの身内ほど若くはない」


 エウィ王国やソル帝国の女性は、早くて十五歳。遅くとも、二十歳を越えたあたりで結婚するのだ。二十七歳で未婚だと、婚期を逃した女性と見なされる。

 貴族社会の習わしだが、平民も同様の価値観を持つ。

 それについてベルナティオは諦めており、生涯を剣の道にささげていた。だがフォルトの身内は若々しい女性ばかりと聞いて、少し自虐が入っているようだ。


「俺からすると、二十七歳はストライクゾーン。まぁ何だ。もう癖なのだ」

「なら、何も言うまい。若々しい責めに期待しよう」


 どちらの姿でも魔人の体力で満ちており、夜の情事に差は無い。少し観点のズレたベルナティオに対して、フォルトは乾いた笑みを浮かべた。

 そして、一番重要な話を伝えておく。


「そうそう。少し先の話になるが、ティオ専用の服を考えているぞ」

「これでは駄目なのか?」

「駄目だな。俺の身内は華やかなほうがいい」

「服など動きやすければ何でも構わん。きさまが喜ぶならもらってやる」

「もちろん大喜びだ!」


 ベルナティオは、道着のような服を着用していた。

 剣士として動きやすい格好だが、さすがにそそらない。

 フォルトの譲れない趣味――アバター観賞――として、彼女にも専用の服を用意するつもりだった。屋敷に帰還したら、アーシャと部屋に籠って打ち合わせだ。

 そしてドワーフ族の集落には、露出度の高い服を作っている服飾師がいた。リリエラが発見した人物で、デザインさえ用意すれば作れるだろう。


(どんな服がいいかな? ティオはポニーテールの女剣士だしなあ。やはり、十八禁の女剣士をベースに……。それとも女騎士? いやあ。迷う迷う!)


「御主人様が、イヤらしい顔をしていまーす!」

「でへでへ」

「きさまは魔人だとカーミラから聞いたが、随分と話が違うようだな」

「それも伝えていなかったか。魔人のことは知っているのか?」


 ベルナティオが知る魔人は、一般的な話と違いは無い。

 世界に存在するすべての種族と敵対するのが魔人種。度々現れては、天災級の災害を引き起こしている。と言った内容だった。


「俺は怠惰で面倒臭がり屋なのだ。わざわざ天災など引き起こさないぞ」

「魔人になる前は人間とも聞いた。そのおかげなのか?」

「ははっ。俺が魔人になった経緯は、寝室でな」

「そ、そうだな! 楽しみだな!」


 ベルナティオの反応が新鮮だ。

 フォルトの身内に、彼女のようなタイプは存在しない。手に入れた甲斐かいがあったというもので、今後の自堕落生活が充実するだろう。

 そんなことを考えていると、幽霊屋敷のような外観が見えてきた。


「さぁティオ! 俺たちの家に到着だ!」


 目を凝らすと、屋敷の前のテラスから向かってくる人影が見える。

 愛しの身内たちが、フォルトを出迎えてくれるようだ。ならばとスケルトン神輿から下り、召喚しておいたブラッドウルフの群れを送還する。

 以降はカーミラとベルナティオの腰に手を回して、皆の前に向かうのだった。



◇◇◇◇◇



 フォルトは出迎えにきた身内たちに、ベルナティオを紹介する。

 帰還で一緒だったマリアンデールとルリシオン、そしてやリリエラには必要無いので輪の中にはいない。

 周囲にいるのは、レイナス・ソフィア・アーシャ・シェラの四人だ。

 当然のようにカーミラは、隣にいる。


「〈剣聖〉様ですか!」


 やはり、一番驚いていたのはソフィアである。

 ベルナティオは十年前の勇魔戦争で活躍しており、当時の勇者チームにも名声は届いていたらしい。とはいえ戦場が違ったので、面識は無いとの話だった。


「この色欲の権化に、私のすべてが奪われた。以後、よろしく頼む」

「ティオ。言い方が悪い」

「事実だろう? ちゅ」

「むほっ!」

「変な声を出すな! 恥ずかしいではないか!」


 ベルナティオの口付けで、フォルトの頬が緩む。

 恥ずかしいと言いながら恥ずかしがっていないあたりが、彼女の性格の表れだ。道中でも同様で、羞恥心はどこにあるのか謎だった。

 その光景を見ていたソフィアが、怪訝けげんな表情を浮かべている。


「フォルト様。本当に大丈夫なのですか?」

「何がだ?」

「ベルナティオ様の勇名は、勇者アルフレッドに勝るとも劣りません」

「確かに〈剣聖〉だし、名声は高いだろうな」

「突然フォルト様の身内になると、注目の的だと思いますが?」

「注目は困るが、俺が欲しかったのだから仕方ないな」


 〈剣聖〉の名声について、フォルトも少しは考えている。しかしながら、色欲と強欲を抑えるほどでもなかった。

 そもそも引き籠りの自分に、世間の評判など入ってこないのだ。誰にどう思われていようが、気にしなければ良い。

 困ったことになったら考えると、ソフィアの腰に手を回す。


「もぉフォルト様は……」

「まぁあれだ。よろしくやってくれ」

「はい。すでに皆さんとも、仲良くなられたご様子ですからね」


 こうしている間も、ベルナティオの紹介は進んでいる。

 アーシャとシェラは、少し緊張しているか。

 それでも前者は持ち前の明るさで、すぐに打ち解けている。また後者は司祭らしく丁寧な挨拶を交わして、姉妹がいる屋敷に向かった。

 そしてレイナスは、身内になった経緯――調教――が同じ。何やらシンパシーを感じたようで、二人は意気投合していた。


「皆も私のことは、愛称のティオと呼んでいいぞ」

「私は三日の調教で堕ちましたが、ティオ様は?」

「レイナスと言ったか。日数は同じだな!」

「ふふっ」

「ははははっ!」

「わ、悪いが、詳しくは個別で頼む!」


 話の流れに居た堪れなくなったフォルトは、一目散に逃げ出した。

 何となくカーミラが追い打ちを掛けそうだったので、一緒に連れていく。続けてテラスの専用椅子――ラブシート――に座り、彼女を引き込んだ。

 あのような話は、寝室の中だけにしてもらいたい。

 以降は体の力を抜きながら、後ろを追いかけてきたアーシャと話す。


「ふぅ。疲れた疲れた」

「おっさんくさっ!」

「おっさんだからな。ところでアーシャよ」

「ティオさんの服っしょ? 明日でいいと思うわよ」

「だな。今日はゆっくりと……」


 アーシャと服のデザインを考えたいが、今日の行動は読まれていた。

 慣れない外出で、フォルトは――精神的に――疲れきっている。寝室のベッドで横になれば、すぐに寝息を立ててしまうだろう。

 留守番組を堪能したいが、今日のところは添い寝してもらうつもりだった。

 それにしても、自宅は落ち着く。

 軽度のホームシックに掛かっていたので、再び「ふぅ」と息を吐く。するとシェラがタイミングよく屋敷から出てきて、テーブルにお茶とオヤツを置いた。


「魔人様。カーミラさんもお疲れさまでした」

「ありがとうシェラ」

「えへへ。今回は面白かったですよぉ」

「あら。魔人様も楽しまれたようで良かったです」

「まぁ楽しんだと言えばそうなのだろうな」

「お話は、夕飯のときにお聞きしますわ」

「うむ。とりあえず俺は、頭が疲れた」

「ふふっ。疲れを和らげて差し上げますね」


 シェラが後ろに回り込んで、フォルトの後頭部を刺激する。

 服の上からでも分かる柔らかさで、このまま夢の中に誘われそうだ。とはいえ夕飯が近く、まだ寝るわけにはいかない。

 そこでアーシャに留守中の出来事を尋ねると、眠気がどこかに飛んでいった。


「シュンたちが来たよ」

「えっと……。済まん。もう一度言ってくれ」

「フォルトさんがいないときに、シュンたちが来たの!」

「なぜだ?」

「フロッグマンの回収だってさ」


 しかめっ面のアーシャが、プイッとそっぽを向いた。彼女はシュンのことを嫌っているので、その気持ちは分かる。

 同時に来訪の目的を聞いて、フォルトは思い出した。


「デルヴィ侯爵が言っていた担当者って……」

「なんでシュンたちなのよ!」

「い、いや。俺に言われても……」

「そうだけどさあ。フォルトさんはいなかったしぃ」

「アーシャは怒っているのか?」

「そうよ! 連絡もつかないし、色々と大変だったんだから!」

「あぁ確かに……」


 現状で屋敷を留守にすると、フォルトに連絡が取れない。

 シュン率いる勇者候補チームの来訪は予想外だったが、何か連絡の手段を考えておくべきだったようだ。

 アーシャが怒るのも当然なので、神妙な面持ちになる。

 しかし……。


「きゃはっ! 冗談だよぉ。怒ってないけど、連絡手段は欲しかったなあ」

「そうだな。本当に済まなかった。だが……」


 アーシャを怒らせたかと冷や冷やしたが、フォルトは安堵あんどした。

 これも、シュンが悪い。しかも不在中に訪れるなど、今までに無い出来事だ。徐々に大罪の嫉妬が顔を出し、良からぬことを考えてしまう。


「アーシャ! 詳しい話を聞きたい!」

「いいよぉ。なら、レイナス先輩もいたほうがいいね!」

「そうだな。呼んできてくれ」

「おっけ!」

「ティオとの話が終わってからでいいぞ」

「はあい!」


 ベルナティオは一番新しい身内なので、交流を邪魔したくない。

 アーシャが戻ってくるまでは、隣にいるカーミラの太ももを触る。


「ぁっ。気持ちがいいですよぉ」

「しかしシュン、か」

「嫉妬ですかぁ?」

「うむ。俺は独占欲が強いからな。それに……」

「他に何かあるんですかぁ?」


 留守番組の誰かが、シュンに寝取られていないか。

 あり得ないと思っていても、フォルトはそう考えてしまう。重い男で嫌になるがマイナス思考のおっさんなので、詳しく聞いて安心したい。

 そしてもう一つ、今まで考えないようにしていた話があった。


「シュンと関わることが多いと思ってな」


 フォルトとシュンは、日本から同時に召喚されたのだ。

 これがあるので、何となく運命を感じていた。だからこそ考えないようにしていたが、今回で三回目である。

 一回目はソフィアの護衛として、魔の森の自宅まで押しかけた。二回目は彼らの限界突破のために、双竜山の森の屋敷に訪れている。

 目的は様々だが、フォルトがいる場所に姿を現していた。

 運命だと感じるのは致し方ないだろう。


「御主人様は、運命を信じますかぁ?」

「信じていなかったがな。さすがに……。シェラはどう思う?」

「私が魔人様に出会えたのは運命だと思いますわ」

「なるほど。そういう運命なら歓迎だな」


 身内との出会いは幸運だったが、運命とも言えるか。

 それでも、シュンとの運命は勘弁してほしい。天界の神々が運命を操作しているとしたら、この手で絞め殺してやりたい。


「フォルトさん! 連れてきたよぉ」


 アーシャは、レイナス・ソフィア・ベルナティオを連れて戻ってきた。するとテラスが華やかになり、女性の甘い香りで包まれる。

 フォルトは大きく息を吸い込んで、運命の話など奇麗さっぱり忘れてしまう。しかしながら、不在時にシュンが訪れたことは別の話である。

 まずは四人を座らせて、そのときの話を尋ねるのだった。

Copyright©2021-特攻君

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