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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十三章 フェリアスの空
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フェリアスの空3

 原生林を進む二つの影。

 それは、スケルトン神輿みこしである。移動スピードは遅いが、寝転んでいても命令どおりに動くフォルトの愛車だ。

 この神輿は、丸太に板を乗せただけの代物である。

 スケルトンは前後に四体ずつおり、バランスを保ちながら神輿を担いでいる。他にも草を刈って、道を切り開くために二体。

 合計十体を召喚したが、コストパフォーマンスは最高だった。


「マスター」

「どうしたリリエラ?」

「あの……。なぜ私が、膝枕をやるんすか?」


 スケルトン神輿は二台。

 一台は、マリアンデールとルリシオンが乗っている。となると、もう一台に乗る者は決まっていた。


「カーミラがいないからだな」

「マリ様かルリ様じゃ駄目っすか?」

「あれを見ても同じことが言えるか?」


 フォルトは横になりながら、無造作に後方を指さす。

 後ろを追従する神輿の上では、マリアンデールがルリシオンに密着していた。妹成分の補充と称するスキンシップで、ありが入る隙間も無い。

 それを見たリリエラは、諦めたように溜息ためいきを吐いた。


「はぁ……」

「理解したようで何よりだ」

「もういいっす」

「俺に膝枕をするのは嫌か?」

「そっ、そんなことはないっす!」

「まぁ嫌でもやるがな」

「きゃ!」


 フォルトは反転して、リリエラの太ももに顔を埋めた。

 お約束の行動で、これをやるとカーミラは喜んでくれる。しかしながら、リリエラは嫌がった。

 頭をどけようとしているが、そうはさせじと抗う。


「ちょっとマスター!」

「うるさい! カーミラがいなくて寂しいのだ!」

「で、でも……」

「リリエラは、俺を楽しませるのだろう?」


 リリエラが救出される際、カーミラと結んだ悪魔の契約。

 それは、フォルトと遊んで楽しませることだ。契約を履行できなければ、彼女は死亡してしまう。

 ある意味で脅迫じみているが、彼女の力が抜けていった。とはいえ虐めるつもりもないので、元に体勢に戻る。


「こういうのは苦手っす」

「そうか? ガルドの屋敷では凝視していただろ」

「してないっす!」


 お仕置きを思い出したリリエラは、顔を真っ赤に染める。

 彼女にとってはトラウマをえぐるような内容だと思ったが、なぜか興味津々に眺めていた。身を乗り出すこともしばしばだ。

 きっと、フォルトが受け身だったことが要因か。

 多分……。

 そんなことを考えていると、自身の影からニャンシーが現れた。


「主よ。指令を遂行したのじゃ!」


 眷属けんぞくのニャンシーには、カーミラとベルナティオに伝言を頼んでいた。フォルトたちがドワーフの集落を出発するので、二人はブロキュスの迷宮から離れろと。

 別行動の理由については改善されたはずだ。


「カーミラは何か言っていたか?」

「それなんじゃがな。幽鬼の森に徒歩で帰るそうじゃ」

「なぜだ?」

「主はバードマンは知っておるか?」

「バードマン?」

「マスター。フェリアスの部族の一つっす」


 リリエラはカルメリー王国の元王女でもあったので、こういった他国の情報は保有していた。忘れっぽいフォルトは、心の内で感謝しておく。

 ともあれ、亜人の国フェリアスを形成するのは六つの部族。

 エルフ族・ドワーフ族・有翼人族・獣人族・人馬族・蜥蜴とかげ人族だ。人馬族が脱退したことは知らないが、自身の記憶だとこの六つである。

 その内の一つ有翼人族が、バードマンと呼ばれていた。


「それで?」

「ベルナティオじゃったか? 飛行訓練をしておってな」

「悪魔になったばかりだからな。カーミラが指導してるのか」

「うむ。じゃが、バードマンに見つかってしまったようでのう」

「ふむふむ」

「現在は、迷宮の空が警戒されておる」

「なるほど」


(つまり、空を飛んで帰るのは拙いと……。カーミラだけなら『透明化とうめいか』で消えればいいが、ティオは無理ってことだな)


 【インジビリティ/透明化】は光属性魔法である。また集団化の魔法と併用しないと、自分以外を消せない。

 そしてカーミラは悪魔なので、闇属性魔法に特化していた。修得してあるスキルなら可能だが、魔法では使えないのだ。


「やれやれ。運が悪かったようだな。だが、魔界は通れないのか?」

「あの人間が通れんのう」

「駄目なのか」

「物質界で悪魔になった者じゃからな」


 フォルトたちがいる物質界は、こちらの世界の中心となる小さな世界。

 同様に小さな世界である魔界は、劣悪な環境だった。物質界で悪魔化しても、肉体が耐えられないのだ。しかも移動には、様々な制約がある。行き来できるカーミラがいたとしても、ベルナティオは世界を渡れない。

 魔界の住人も、物質界に召喚されなければ活動できないのだから当然か。


「何となく理解した。ご苦労だったなニャンシー」

「労いには及ばぬのじゃ。ところでわらわはどうすればよいのじゃ?」

「せっかくだし一緒に帰るか。耳をもふもふをさせてくれ」

「よいぞ。にゃ! ゴロゴロ」


 フォルトは上体を起こして、ニャンシーの耳にほほを近づけた。

 猫を擬人化した彼女は、容姿も幼女で可愛らしい。だが中年のおっさんが幼女をもふもふすると、色々と危ない絵面となる。

 こちらの世界だからこそできるスキンシップで、シュンが率いる勇者候補チームが見たら、絶対に犯罪だと騒ぎ立てるだろう。

 日本では実の親子でも、警察に通報された例もあった。


「マスター。カーミラ様は戻ってこないんすよね?」

「うむ。寂しいが仕方ないな」

「じゃあ……」

「諦めろ。それとも、マリとルリに交代を頼むか?」


 フォルトが後方に顔を向けると、リリエラも釣られて振り向いた。

 後ろを追従する神輿の上では、マリアンデールがルリシオンに密着していた。妹成分の補充と称するスキンシップで、蜂が入る隙間も無い。

 先程と、まったく変わっていない。


「はぁ……」

「まぁ気持ちよくしてやる」

「膝枕はいいっすけど、おさわりは厳禁っす!」

「うぐっ!」


 リリエラの言い回しは、きっとアーシャの入れ知恵だ。

 キャバクラで現実に戻されたような気分になり、フォルトは悪い手を引っ込めた。続けてニャンシーの耳を堪能した後は、膝枕だけで我慢する。

 同時に手持ち無沙汰になったので、空を見上げながら有翼人に思いをせた。


(有翼人か。日本のゲームでは、翼の生えたキャラは人気だったな)


 フォルトとしても、エルフ族の次に興味がある種族だ。

 リアルの有翼人だとどう感じるか不明だが、一度は見てみたい。とはいえ寄り道をするつもりはないので、想像するだけに留めて、移動の時間を潰すのだった。



◇◇◇◇◇



 ブロキュスの迷宮にある討伐隊の拠点では、カーミラが悔しそうにしている。また隣にいるベルナティオは、首を傾げていた。

 現在は太陽も沈んで、篝火かがりびの光が周囲を照らしている。


「うぅ。失敗したなぁ」

「何か問題があるのか?」

「空を見て……」

「空?」


 迷宮の上空には、数人の有翼人が飛んでいた。右に行っては左に戻ったりと、かなり忙しく動いている。

 夜目でも効くのか、鳥とは違うようだ。

 ともあれそれが、失敗の結果だった。

 

「有翼人がどうかしたのか?」

「私たちは悪魔なの! 空を飛んだら攻撃されるよぉ」

「あ……。そうだったな」


 カーミラは夜になったからと、ベルナティオに飛行訓練を施したのだ。しかしながら何度か続けているうちに、有翼人に発見されてしまった。

 悪魔は、人間だけでなく知能がある生物から忌み嫌われている。

 その属性は悪であり、相容れない存在として討伐対象にもなるのだ。飛行する場合は悪魔化をしないといけないので、有翼人に発見されれば戦闘になる。

 今回はすぐに身を隠せたが、これは非常に拙いことだった。

 カーミラほどの悪魔であれば、有翼人など簡単に殺害できる。だがそれをやると、フォルトを困らせる結果になるだろう。何でもかんでも殺害することは好まず、「面倒事が増えるだけ」と常日頃から言っている。

 自身としても殺害するなら、絶望を与えた後のほうが良い。

 そう考えるからこそ、悪魔は忌み嫌われるのだが……。


「透明化は使えないんだよねぇ?」

「私は剣士だからな。魔法など使わん!」

「むぅ。幽鬼の森に帰ったら、ニャンシーちゃんに習っておいてねぇ」

「私は剣の道を極めるのだ! 魔法なんぞ知らん!」

「御主人様から言われても?」

「くどい!」

「本当に? ご褒美が欲しいんじゃないのかなぁ?」

「う……。考えておこう」

「はあい!」


 カーミラは肉体的・精神的にも、ベルナティオの弱点が分かっている。

 調教は成功しているのだ。気丈に振る舞っていても、フォルトがいなければ生きていけない体にしてある。

 何にせよ剣の道一筋の〈剣聖〉は、魔法が使えない。帰りは徒歩が確定なので、夜のうちに出発したほうが良いだろう。

 もちろんその前に、彼女に対して精神的な仕上げをしておく。


「もう帰るのか?」

「出発したいけど、空のはえがねぇ」

「蠅、だと?」

「あんなにブンブンと飛んでたら、カーミラちゃんたちが飛べないよぉ」


 再び飛行している有翼人に言及したが、カーミラは「蠅」と呼称した。

 そして無表情になり、ベルナティオの回答を待つ。


「有翼人のことか。これだから悪魔は……」

「ティオも悪魔でーす!」

「ふん! 邪魔なら斬る! それだけだ」

「えへへ。斬れるのかなぁ?」

「当然だ! 空を飛ぶ蠅など簡単に斬れる!」

「蠅って?」

「空をブンブンと飛んでる奴らだろ?」


 堕落の種が芽吹いて悪魔になった者は、精神も悪魔に変わっていく。精神的な不安定さの理由だが、カーミラが導くことで早めている。

 ベルナティオも有翼人を「蠅」と認識して、殺害に迷いを感じていない。

 それを確認した後は、邪悪な笑みを浮かべた。


(えへへ。簡単だねぇ。後は放っておいても大丈夫かなぁ? できれば、あの女を殺させたいなぁ。でも御主人様が……)


 ふと視線を逸らしたカーミラは、遠くに兎人うさぎびと族を発見する。

 本来であればベルナティオに、親友のフィロを殺害させれば完璧だった。

 もちろん状況は作れるが、これもフォルトのことを考えると駄目か。将来を考えるとリリエラと同様に、玩具としてストックしておくほうが良い。


「ところで、猫の姿が見えないが?」

「ニャンシーちゃんは、御主人様のところに戻りましたよぉ」

「そうなのか?」

「徒歩で帰ると伝言を頼みましたぁ」

「なぜだ?」

「飛んで帰れないからねぇ」

「上空にいる蠅どもを斬り捨てればよくないか?」

「よくないの! 御主人様に嫌われちゃうよぉ」


 フォルトについては、おいおい教える必要があった。

 身内が何をしても怒らないとはいえ、性格的な忖度そんたくぐらいはしてほしい。我儘わがままで独善的な魔族の姉妹でさえ気を遣っている。

 悪魔になったベルナティオは未来永劫(えいごう)に渡って、主人の隣に侍るのだ。ならば毎日を楽しく過ごせるように、嫌な思いをさせてはならない。


「なら、徒歩で向かうか」

「えへへ。討伐隊のほうはどうなったのかなぁ?」

「すでに辞めてきたぞ。他の場所に修行に向かうと言ってな」

「もう出発できるよねぇ?」

「そうだな。フィロにだけ別れを伝えてくる」

「いいよぉ。待ってまーす!」


 柔らかい表情に変わったベルナティオが、フィロのところに向かった。

 そしてカーミラは、二人の様子を眺めながら考える。

 フォルトのおかげで、物質界に悪魔が生まれた。魔界の神である悪魔王も、さぞかし喜んでいるだろう。

 今後は彼の身内たちもそれを目指して、数多くの悪魔が誕生する予定だ。

 災厄級の魔人と悪魔の軍団。

 「ちょっと楽しいかも」と妄想にふけっていると、ベルナティオが戻った。


「何を楽しそうにしているのだ?」

「内緒でーす! 別れの挨拶は済みましたかぁ?」

「またいずれ会えるだろうし、簡単に済ませてきた」

「何か言われたかなぁ?」

「行くな、と言われたな。まぁそれは無理な相談なのだが……」

「えへへ。そうだねぇ。無理な相談だねぇ。他には?」

「他愛もない話だ。また迷宮に潜るそうだから、死ぬなと伝えた」

「精鋭部隊だしねぇ。五階層までなら平気だと思いまーす!」

「うむ。ヴァルター殿の指示に従っていれば生き残れるだろう」

「じゃあ、行きますよぉ」

「よし! 早く犯してもらわねば!」


 快楽の虜となった〈剣聖〉は、強引で力強い行為がお好みだ。

 男勝りな性格は身内におらず、フォルトとの生活に彩を添えられる。永劫の時間を飽きさせないために、ベルナティオは良いスパイスとなるだろう。

 以降の二人はゆっくりとした足取りで、原生林の中を進む。

 そしてカーミラは、今まで考えていたことを実行に移す。


「ここでティオに良いお知らせでーす!」

「唐突に何だ。良いお知らせだと?」

「えへへ。今から御主人様と合流しますよぉ」

「幽鬼の森にある屋敷で待つのではないのか?」


 広大なフェリアスの原生林で、フォルトたちと途中合流は不可能に近い。またすでにホームシックの主人は、どこかで待ち合わせもしたくないはず。

 ただひたすら真っ直ぐに、幽鬼の森を目指している。

 眷属のニャンシーを寄越したのがその証拠で、それぞれで幽鬼の森に帰還することにした理由だった。だがカーミラは、他の身内に無い能力がある。


「感動の再会ってやつでーす! 御主人様も喜びますよぉ?」

「むっ! カーミラは頭がいいな! だが、位置は分かるのか?」

「カーミラちゃんにお任せでーす!」

「そうか。喜んでくれるか。位置が分かるなら急ぐぞ! 走れ!」

「あっ! そっちじゃないよぉ!」


 それは、シモベとしての魔力的なつながりだ。

 主人の位置が何となく分かるので、途中合流ができる。

 先走るベルナティオを追い抜いたカーミラは、道案内として原生林の中を走る。二人とも持久力は驚異的で、一日や二日は走り通しても平気だ。

 そして空を見上げると木々の隙間から、有翼人が飛んでいるのを確認した。さすがに警戒し過ぎだろうと思うが、そこかしこで見られたので、飛行は諦める。

 以降の二人は別々の妄想を描きながら、フォルトのところに向かうのだった。

Copyright©2021-特攻君

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