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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十三章 フェリアスの空
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フェリアスの空2

 ベッドの端に座ったフォルトは、「ふぅ」と息を吐く。

 マリアンデールやルリシオンと睦み合った後なので、体が上気している。その姉妹は、衣服の乱れを直している最中だ。

 ともあれ、眼下で正座しているリリエラに声を掛けた。


「欲情したか?」

「マスターは意地悪っす! あ、あんな破廉恥な行為を……」

「なぜガルド王にしゃべった?」

「ソフィア様たちに有益な情報を届けたいと思ったっす」

「なるほどな。まぁ今後は余計なことを喋るな」

「はいっす!」


 リリエラの行為は、フォルトの身内を思ってのことである。だからこそガミガミとしからずに、簡単なお仕置きで済ませた。

 彼女も頭は悪くないので、くぎを刺しておけば良いだろう。

 それよりも、だ。今回ブロキュスの迷宮に訪れたのは、マリアンデールとルリシオンの限界突破作業の一環である。

 そして姉妹が受けた神託は、二種類の魔物の討伐。


「ルリ。次はマンティコアだったな。どこに棲息せいそくしているのだ?」

「アルバハードの北よお。ライノスキングもいるわねえ」


 ライノスキングとは、ビッグホーンに比肩する巨大なサイだ。マンティコアと同様に、アルバハードの北に広がる平原地帯に棲息している。

 そこは、人間や獣人族が暮らせる場所ではない。中型から大型の魔物・魔獣が生存競争をしている危険な領域だった。

 つまり、フォルトにとっては好都合。


(人間とかいないなら、空を飛んで向かうか? カーミラと一緒なら、マリとルリを抱えて運べるし……。力を隠さなくて良いのは助かるな)


「レイナスちゃんたちの後でいいわよお」

「順番でやる話でもないけどな。幽鬼の森に帰ったら考える」

「でも貴方。暫くは森から出ないでしょ?」

「当然だな! 身内が増えたのだし、ゆっくりとしたい」

「身内が増えたのと、フォルトがゆっくりするのは関係ないと思うけどお?」

「あっはっはっ!」」


 フォルトは自堕落な生活が恋しいので、腰を軽くするには数日だと済まない。最低でも一週間以上――際限は無い――は、怠惰に過ごしたかった。

 以降は雑談に話を咲かせていると、夕食の準備が整ったようだ。ドワーフ族の使用人が迎えに来て、ガルド王が待つ宴会場に向かう。

 そして宴会場には、大量の酒樽さかだると料理が運び込まれている。

 自身は話下手なので、料理を食べるのに夢中だった。

 ガルド王の対応は、マリアンデールとルリシオンに任せている。時おり話を振られたが一言二言で終わらせ、料理と酒を楽しんだ。

 宴会が終わった後は、当然のように嬌声きょうせいの宴である。身内でないリリエラを遠ざけて、姉妹と熱い夜を過ごした。

 目が覚めたのは昼過ぎである。


「昼飯は集落で調達して、さっさと帰るか」

「ガルドがいないしねえ」


 ガルド王は用事があるらしく、すでに屋敷にはいない。

 帰るときは使用人に伝えれば良く、フォルトたちは出立の準備を始めた。と言っても手荷物になるのは、リリエラが調達したエルフ用の服だけだ。

 その彼女は隣の部屋で宿泊したが、頃合いを見て合流している。


「ほらリリエラ。行くぞ」

「はいっす!」


 フォルトは三人を伴って、一晩を過ごした部屋から出る。

 ベッドメイキングは大変だろうが、ドワーフたちなら何とかするだろう。

 とりあえず、部屋を出たところにいたドワーフ族の使用人に帰る旨を伝えた。見送りの件はガルド王から命令されており、外まで案内してくれる。

 使用人の後ろをついていくと、屋敷を出るときに揶揄からかわれてしまった。


「お主はお盛んじゃな。まぁ声を落とすと良かろう」

「ぶっ!」

「わっはっはっ! 片付けはやっておくわい!」

「す、済まんな」


 本当にドワーフ族は陽気だが、遠慮を知らないのが欠点かもしれない。とはいえフォルトが感じたドワーフのイメージは、面白い種族の一点に尽きた。

 屋敷を出たフォルトたちは食料を調達して、集落の出口に向かう。

 そこには、集落に訪れたときに出会った三人の門衛がいた。


「何じゃ。お前たちはもう帰るのか?」

「あぁ世話になったな。ガルド王の帰還を知らせてくれて助かった」

「なあに。いいってことよ。それよりも、ドワーフの酒はどうじゃった?」

「火酒だけは無理だったが、他の酒は旨かったぞ」

「そうだろ、そうだろ。ドワーフの酒は天下一品じゃ!」

「おい! 酒の話はするな! 飲みたくなるじゃろ!」

「まったくじゃ。早く交代の奴らが来ないかのう」


 宴会場で出されたワインは、三国会議でバグバットに贈ったものと同じらしい。またエール酒やウィスキーのような酒も出されており、酒の種類は豊富だった。

 フォルトが若い頃は女性にモテたいがために、ウイスキーを愛好した。今から思えば、馬鹿馬鹿しい話である。女性を前にウイスキーを飲んだところで、好意を持ってくれるはずはない。

 もちろんビールも大好きで、焼酎や日本酒にも手を出している。

 それがたたって、三十歳を過ぎた頃からビール腹なのだが……。


「また来るといい。次は金を落としていけ」

「そっ、そうだな! そうしよう」

「わっはっはっ! 直接の受注もしておるからのう」


(本当に遠慮ってものを知らないな。素なのが分かるから面白いのだが……。。それに、俺を見る目が蔑んでいない。やはり、人間とは違うな)


 イケメンのシュンと違って、フォルトは容姿が良くない。

 それを理解しているだけに、どうしても他人の目を気にしてしまう。歳を取るにつれて、どのような目で見られているかを察するようになっていた。

 人を馬鹿にする目や汚物を見るような目は分かるのだ。


「帰りはどうするのかしら?」

「マリ。決まっているだろ」

「はぁ。別にいいけどねえ」

「ルリ様。何かあるっすか?」

「そう言えば、リリエラは見たことがなかったか」

「よく分からないっすけど、はいっす!」

「俺の愛車だ。まぁついてこい!」


 ドワーフの集落を出発したフォルトたちは、道を外れて原生林に入っていく。

 普段から森を出ない自身の愛車は、リリエラに見せていない。どういったものかを知った彼女はあきれるか驚くか、または逃げ出す可能性もある。

 それもまた面白いと考えながら、スケルトンを召喚するのだった。



◇◇◇◇◇



 有翼人。

 バードマンと呼ばれる彼らの集落は、亜人の国フェリアスの各地に点在する。

 その外見は、人間に翼が生えただけだ。

 ほとんどの有翼人は、わしの翼を大きくしたような茶色い翼を持つ。また翼には魔力が帯びておらず、鳥のように自力で飛行する。

 そして点在する集落の一つでは、木造の屋内で二人の男女が会話していた。


「シュレッド様。ソレイユ様の行方は、依然として不明です」


 シュレッドは有翼人の代表、大族長である。

 角刈りの壮年男性で、年齢は五十歳を迎えたばかりだ。有翼人の寿命は人間と同じなので、容姿も中身もおっさんである。

 点在している集落は隣接しておらず、族長と呼ばれる者が自治を行っている。大族長とは、各集落を任せている族長の取りまとめ役に過ぎない。

 人間でいうところの国王や皇帝とは違う。

 議長と考えると分かりやすいだろうか。


「ソレイユめ。フェリアスを脱退するとは、いったい何を考えているのか」

「我らを含めた他の種族と、大きな摩擦は無かったはずです」

「大族長会議の席でも、不満があるように見えなかったが……」

「東の平野に残っている人馬族は、いかがいたしましょうか?」

「そもそもあの土地は、人馬族の領域だ。敵対はしていないのだろ?」

「はい。立入も許可されました」


 シュレッドに報告をしている人物が、有翼人のホルン。

 茶髪を長く伸ばした女性で、歳は若く二十代の前半である。他の有翼人と違って、天使のような白い翼が特徴的だった。

 装備している武具は、ミスリル鉱石を加工したのやりよろい。残念ながら二つ名は付けられていないが、白銀の騎士と呼ばれても遜色そんしょくがない姿だ。

 その彼女は、大族長直属「神翼兵団」の団長を務めている。

 ともあれ人馬族は突如として、亜人の国フェリアスから脱退した。

 理由を問い質すために東の平野に向かったが、大族長のソレイユは行方不明だ。半数以上の人馬族を連れて、どこかに消えてしまった。また残っている人馬族は、「普段の生活をしていろ」と言われていた。

 残念ながら、彼の居場所と脱退の理由は知らされていなかった。


「まぁいい。人馬族については、次の大族長会議で話し合う」

「はい。では次の報告ですが、グリフォンの間引きが終わりました」

「損害は?」

「若干名の怪我人が出たぐらいです。死亡者はいません」

「ならば良い。ところでホルンよ。あの話は聞いているか?」

「ブロキュスの迷宮近くで、正体不明の者を発見した件ですか?」

「うむ。すぐに姿を消したらしいが、以降の目撃情報は?」

「ありません。見間違いではないでしょうか?」


 フェリアスの空は、有翼人の領域である。

 空輸を担当していた者がブロキュスの迷宮の上空で、有翼人ではない人影を発見したらしい。だが遠目で見えただけで、すぐに消えたと報告を受けている。


「見間違い、か。フェリアスの空を飛ぶとなると……」

「グリフォン、ヒポグリフ、ワイバーン、ロック鳥ですか?」

「人影という報告だったぞ。ならば、ハーピーの可能性もあるか」

「チョンチョンとか?」

「それは首だけだろう」

「しっ、失礼しました!」


 ホルンは顔を赤らめる。

 ちょっとした間違いだが、さすがに恥ずかしい。しかしながら大族長と会話中なので、すぐに真面目な顔に戻した。

 ちなみにチョンチョンとは、人間の顔のような魔物だ。

 異様に発達した耳を使って、まるでちょうのように飛ぶ。攻撃方法はみつきで、推奨討伐レベルは十である。


「とにかく、だ。人影の正体が判明するまで、迷宮近辺の警戒を怠るな!」

「はい!」

「ではホルン。行っていいぞ」

「あ、あの……」

「どうした?」

「いえ。何でもありません! それでは失礼します!」

「ご苦労だったな」


 そろそろ太陽も沈む頃なので、ホルンは言葉は引っ込めた。

 シュレッドと雑談でも交わしたかったが、あまりお邪魔しては悪い。と慎みを忘れない女性として、溜息ためいきを吐きながらも大族長の家を出た。


「ふぅ」

「嫌なことでもあったのかホルン?」


 大族長の家を出たホルンは、考え事をしながら集落を歩いていた。だがそれも束の間、有翼人の男性が声を掛けてきた。

 その男性は緑色の短髪で、中肉中背の体格をしている。

 皮鎧を装備して、片手に鉄の槍を持っていた。


「ミリオンですか。私に何か用事でも?」

「用事ってほどでもねぇさ。難しい顔をしてたからよ」

「チョンチョン」

「は?」


 ホルンは再び顔を赤らめて、ミリオンから視線を逸らした。

 彼は神翼兵団の団員で、しかも幼馴染おさななじみでもある。気心が知れているからと、少し油断をしたようだ。


「何でもないです! ところでミリオン。訓練は終わったのですか?」

「とっくに終わってるぜ」

「居残りの訓練でもすればいいのに……」

「何か言ったか?」

「ミリオン! 幼馴染だからと、気安く話しかけないでください!」

「これは失礼しました団長殿!」


 ミリオンは姿勢を正して、槍の柄を地面に付けた。しかしながら彼はお調子者で有名であり、敬礼がわざとらしく見える。

 額に眉を寄せたホルンは、シュレッドへの報告について尋ねた。


「まぁ良いでしょう。ブロキュスの迷宮の件ですが……」

「無理やり話題を変えたな」

「何か問題が?」

「ねぇな。迷宮と言うと、空を飛ぶ正体不明の奴らか?」

「奴ら?」

「人影は二つって聞いたぜ」

「くっ! 報告はキチンと!」

「まぁまぁ。そう目くじらを立てるなよ。発見者は兵士じゃねぇぞ」

「むぅ」


 ホルンはほほを膨らませながら、プイっと顔を背けた。続けて視線だけ戻すと、ミリオンは苦笑いをしている。

 神翼兵団団長としての物言いが、背伸びをしているように見えたのだろう。


「明日にも確認しに行くか?」

「なぜミリオンが決定するのですか!」

「はははははっ! どうせそのつもりだろ?」

「そっ、そうですが……。もうっ!」

「んじゃホルン。せっかく会ったことだし、飯でも食いに行くか!」

「しょうがないですね。ミリオンのおごりですよ?」

「え?」


 ホルンを食事に誘ったのは、女性に縁のないミリオンである。

 同僚に人気はある彼だが、女性が相手だと恋愛まで進まない。お調子者の弊害で、本気と捉えてもらえないのだ。

 食事に付き合ってあげるのは、幼馴染としての慈悲である。


「ふふっ。私を誘ったのはミリオンです」

「部下に奢らせるつもりかよ!」

「幼馴染として付き合うのです」

「幼馴染だからと、気安く話しかけるなと言ってなかったか?」

「何をブツブツとつぶやいているのです。もう太陽が沈みましたよ」

「分かったよ! その代わり、安い店に行くぞ?」


 ミリオンの言葉を受けて、ホルンは満面の笑みを浮かべる。

 そして足早に、料金の高い店に向かって歩き出した。すると、情けない顔をした幼馴染が慌てて追いかけてくる。

 少しは、男としての気概を見せて欲しいものだ。

 以降は腕をつかまれて、料金の安い店に連れていかれるのだった。

Copyright©2021-特攻君

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