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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十三章 フェリアスの空
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フェリアスの空1

 ブロキュスの迷宮を出たフォルトは、精鋭部隊の隊長ヴァルターと一緒に、討伐隊総司令官セレスがいる天幕に向かった。

 今回もルリシオンを連れて、他の身内は外で待機である。

 天幕の中に他の隊長たちはおらず、部隊を率いて迷宮内で間引き中か。


「フォルト様。わなを作動させてしまったとか? ご無事で何よりです」

「おや? もう知っているのか」

「先行させた奴らが報告しているぞ」

「いやはや。恥ずかしいな」

「何を言ってんだ! ミノタウロスを二体も倒しているだろ!」

「マリとルリによって、な。俺が討伐したわけではない」

「あはっ! 何もしなくていいのよお。私たちがやってあげるわあ」


 自虐に入りそうなフォルトに対して、ルリシオンが腕を組んできた。

 彼女の体は、熱を帯びている。自身もそうだが、ベルナティオとの壮絶な戦いの余韻が残っているようだ。

 決して火属性に特化した〈爆炎の薔薇ばら姫〉だからではない。

 セレスとヴァルターの前だが、彼女の双丘を肘で楽しむ。


「はぐれたミノタウロスが二体も、ですか?」

「ローゼンクロイツ家に討伐してもらったが、少し気になることがあってな」

「気になることとは、何でしょうか?」

「地下六階層より先で……」

「んんっ!」


 会話が長引きそうなので、フォルトは咳払せきばらいをした。ヴァルターが報告する内容には興味が無いのだ。

 こちらの用事を済ませた後に議論してもらいたい。


「それよりも、だ。目的の魔物は討伐したから、俺たちは帰るぞ」

「え?」

「例の件をよろしく頼む」

「まだ手紙を出したばかりですが?」


 エルフの里に入るには許可が必要で、セレスが出した手紙は到着していない。どれほど急いだところで、返事が届くまで一週間以上は掛かる。

 もちろんフォルトは、ブロキュスの迷宮に長居するつもりはなかった。


「返事については、アルバハードの領主に届けてくれ」

「まさか、バグバット様ですか?」

「彼には幽鬼の森を融通してもらってな。俺に直接は届けられないのだ」

「なるほど。確かにアンデッドが巣くう森では……」

「そういうことだ。では、世話になった」


 フォルトはルリシオンの腰に手を回して、天幕から出ていこうとする。

 これ以上話すことはなく、エルフ族のセレスも目に毒だった。長々と彼女を見ていると、強欲と色欲に負けてしまう。

 エルフは欲しいが、里で品定めをしてからだ。


「待ってく……」

「駄目よお。私たちにはやることがあるからねえ」

「あ……」

「あはっ! 縁があったら、また会いましょうねえ」

「いくぞルリ!」


(危ない危ない。さっさと退散しないと、魔物の間引きに参加させられる。すでに手伝わされているからな。もう無理、帰る!)


 あまりにも一方的な話なので、セレスとヴァルターは唖然あぜんとしている。しかもルリシオンがシャットアウトしたおかげか、以降は引き留められなかった。

 この強引さがあるので、彼女と一緒に天幕に入ったのだ。

 フォルトだけだと性格的に、なし崩しで話を進められてしまう。


「あれで良かったのかしらあ?」

「うむ。さすがはルリだ」

「セレスも狙っているのでしょお?」

「他にいなければな。エルフの里に行くまでは我慢だ」

「身内を増やすのはいいけど、雑に選んでは駄目よお」

「うぐっ! とっ、当然だ」


(雑に選ぶな、か。そういえば……)


 一夫多妻・一妻多夫が常識の世界とはいえ、それぞれに目的がある。

 日本でも戦国時代には側室が認められていたが、それは領国や家を守るための政略結婚に過ぎなかった。

 こちら世界でも事情は似ており、血統維持や家同士の結びつきを重視して制度が成り立っている。

 一方で中世欧州ではキリスト教的価値観のもと、一夫一妻が原則だった。

 それに比べてフォルトがしていることは、精神的・肉体的な癒しのためだ。目的は自己満足に過ぎず、だからこそ責任を持って大切に扱っている。

 雑に選んでは、身内にした彼女たちに悪い。


「御主人様! お帰りなさーい!」

「貴方。またルリちゃんを連れ回して……」

「おかげでさっさと用事を済ませられた。あれ? ティオはどこだ?」


 天幕を出たフォルトとルリシオンは、皆が待つ場所に戻った。

 ただし、新たに身内としたベルナティオの姿が無い。


「あの兎人うさぎびと族のところに行きましたぁ」

「ふむ」


 フォルトは考える。

 ベルナティオは〈剣聖〉で、世間的にも名声が高い。いくら簡単に除隊ができるとはいえ、討伐隊の主力である。ならば、後で合流するほうが得策か。

 それに幽鬼の森に帰還すると言っても、まずはドワーフ族の集落に戻るからだ。リリエラを引き取るついでに、ガルド王にも礼を述べるつもりだった。

 だが、一つだけ問題がある。


「カーミラ」

「はあい! 幽鬼の森に連れていけばいいですかぁ?」

「さすがはカーミラ。分かるか?」

「精神的に不安定ですし、悪魔の体に慣れていませんからねぇ」

「うむ。ティオはカーミラに任せる」


 カーミラと離れるのは寂しいが、他に適任者がいない。彼女はレベル百五十の悪魔として、ベルナティオを幽鬼の森まで案内できるだろう。

 次に会うのは、他の身内に紹介するときだ。


「あの兎人族はどうしますかぁ?」

「今は要らない」

「可愛いですよぉ?」

「ははっ。女なら誰でもいいわけではないからな」

「えへへ。御主人様らしいでーす!」


 確かにフィロは、フォルトの琴線に触れる女性だ。

 天然の兎耳の持ち主で、体つきも趣味に刺さる。ベルナティオの親友でもあり、幽鬼の森に連れて帰れば喜ぶだろう。しかしながらこの場で手に入れると、雑に選んだことになってしまうのだ。

 永遠を一緒に生きる身内としての魅力までは届いていない。

 それに彼女は、おっさん親衛隊に不要である。

 戦力としての増強は、前衛となる〈剣聖〉だけで良い。後は信仰系魔法が使える人間か亜人を加えると、シュンが率いる勇者候補チームと同じ五人となる。


「さてとマリ、ルリ。出発しようか」


 姉妹を連れたフォルトは、原生林の中に足を踏み入れて、ブロキュスの迷宮を後にする。目指すは、ガルド王が鎮座するドワーフ族の集落だ。

 道中では大罪の悪魔サタンを召喚して、お約束のスケルトン神輿みこしで移動する。歩みは遅いが、そんなことは気にしない。

 そして今までの苦労を思い出しながら、神輿の上で寝息を立てるのだった。



◇◇◇◇◇



 ドワーフ族の集落に戻ったフォルトは、ガルド王と面会中である。姉妹と一緒に彼が住まう屋敷の応接室にて、討伐隊の様子を伝えていた。

 それでもブロキュスの迷宮に出発したのは、つい先日だ。最初は「もう戻ってきたのか?」と言われてしまった。

 魔物の間引きは長期で行われるので、数週間は掛かると踏んでいたか。


「目的を達成したからな。まぁ結果的に、魔物の間引きは手伝った」

「もう少し参加しても良かろうに……」

「内容的には、十分に貢献したと思うぞ?」


 フォルトたちが討伐したのは、「ミノタウロスを二体」・「女王(あり)を含めた大量の迷宮蟻」・「地下六階層の途中までに出現した魔物」だ。

 特に迷宮蟻については、討伐隊の一部隊を救っている。

 そしてガルド王は、「なるべく多くの魔物を討伐する」で妥協していた。ローゼンクロイツ家の力を借りたいのは理解できるが、これで満足してほしい。


「無理強いもできんな。マリとルリに嫌われては堪らんわい」

「安心しなさい。不満は感じていないわ」

「そうよお。隣人として配慮はしてもらったわあ」

「間引きが順調なら、それでいいわい! ガハハハッ!」


 本当にガルド王は、姉妹の扱いに慣れている。

 ともあれドワーフの集落に戻ったのは、リリエラを引き取るためだ。だが彼女の姿が見られないので、フォルトは疑問を呈した。


「リリエラはいないようだが?」

「今は服飾師のところに行っておる。もうそろそろ戻るのではないか?」

「なるほど。クエストを進行中か」

「クエ? よく分からんが、連れて帰るのだろ?」

「うむ。一緒に戻ったほうが安全だからな」

「まぁ一泊していけ。それと、お主らと連絡を取り合えるようにしたい」

「俺たちとか?」

「嬢ちゃんに聞いたが、魔物を狩れる場所を探しておるとか?」


(リリエラめ。余計なことを……。だが、確かにフロッグマンだけでは物足りないからなあ。おっさん親衛隊には、もうちょっと強い魔物を狩らせたい)


 相談も無しに、フォルトたちの内情を暴露するのはいただけない。しかしながらレイナス・アーシャ・ソフィアは、数多くの魔物と戦闘してレベルを上げなければならないのは事実。

 これは、フォルトが率先して考えなければいけない話だった。


「それで?」

「フェリアスではそこらじゅうで間引きをやっておる。参加せんか?」

「ふむふむ」


 亜人の国フェリアスは、広大な原生林である。

 地域によっては、普段は立ち入れない魔物の領域になっていた。また遺跡や迷宮も存在して魔物も巣くっているが、討伐の人員は足りていない。

 おっさん親衛隊が討伐隊に参加すれば、どちらにもメリットがある。


「人員が足りないと言っても、間引きはやれているのだろ?」

「こういうものはな。足りていないくても足りているものだぞ」

「まぁそうなのだが……」


(その考えはブラック企業だよ。まぁ文化レベルがお察しだしなあ)


 ガルド王の話は、ブラック企業勤めだったフォルトは理解していた。

 過酷さに耐えきれない社員が辞めて仕事に穴が空いても、それを負担する者のおかげで仕事が回るのだ。

 そして回ってしまうからこそ、会社は人員の補充をしない。仕事を負担した社員の仕事量が増えたままの状況が続く。

 もちろんこちらの世界で言っても、詮無いことではある。


「俺たちに連絡をしたいなら、アルバハードの領主を通してくれ」

「あの吸血鬼殿か?」

「セレスさんにも言ったが、今は世話になっている」

「世話にのう。まぁ詮索はせん。お主らを気に入っておるからな」

「でもガルド。私たちは安請け合いをしないわ」

「ただの数合わせなら無視するわよお」

「選択肢は多いほうが良いぞ? ガハハハッ!」


 マリアンデールとルリシオンの援護が頼もしい。

 ガルド王の態度から察すると、討伐隊への参加は提案だ。リリエラからの話を具体化したに過ぎない。

 今まで音沙汰の無かった旧知の姉妹に、連絡が付けば良いのだろう。


「身内を参加させた場合、報酬はもらえるのだろ?」

「そうだった。今回の報酬も渡さないといかんな」

「今回は要らん。だが、身内が討伐隊に参加となると話は別だな」

「だがお主らは、魔物と戦ったのだろ? 参加したのと変わりないぞ」

「無職こそ、我が人生。俺たちが勝手に戦っただけだ」

「うーむ。変なこだわりを持っている。お主は面白いな」


 報酬を受け取ってしまえば、仕事の成果となってしまう。

 フォルトは無職を決め込んでいるので、依頼の報酬は受け取らない。とはいえそれを、身内に強要するものではない。

 おっさん親衛隊が参加した場合は、彼女たちに報酬を支払ってもらいたい。


「ガハハハッ! 働きたくないか。ならば、今回は貸しにしておけ」

「ほう」

「お主らに何かあったら、我らドワーフ族が手を貸してやる」

「だが、大したことはやっていないぞ?」

「では、大したことではないことで手を貸してやる」

「ははっ。そのときは頼む」


 ガルド王の言い回しに、フォルトは笑みを浮かべる。

 マリアンデールとルリシオンが気に入るわけだ。自由奔放な姉妹であれば、貸し借りの関係のほうが望ましいだろう。

 これを冗談交じりに言えるところが、彼の人柄とも言える。


「そんなところか。では、一泊させてもらう」

「明日には出発するのだろ?」

「うむ。リリエラが戻ったら連れてきてくれ」

「嬢ちゃんもよく働いてもらった。礼を言っておく」

「働いたのか。あ……。内容は言わなくていい。リリエラから直接聞く」

「そうか? 部屋を用意させるから、少し待っておれ。後で迎えを寄越す」


 これで、ガルド王との面会は終わりだ。

 「今日は宴会じゃ!」と叫びながら、応接室から退室していった。

 本当に王様とは思えないが、フォルトからすると好感度は高い。緊張感がまったく無く、こちらの事情を詮索しないところも良い。

 エウィ王国のエインリッヒ九世と比べると、えらい違いだ。

 その後は与えられた部屋で、夕食のときを待つ。


「ふぅ。一段落ついたな」


 部屋のベッドに腰かけたフォルトは、腕を伸ばして寛ぐ。長く留守にしたわけではないが、やっと幽鬼の森に帰れると思うと自然に笑顔がこぼれる。

 それは姉妹も同じなのか、両隣に座って体をほぐしていた。


「レイナスちゃんたちが待ってるわよお」

「そうだな。飛んで先に帰ってもいいか?」

「私たちを置いていくつもり? 死にたいのかしら?」

「冗談だ冗談。それにしても……」

「どうしたのお?」

「俺のこだわりは変なのか?」


 仕事と報酬について、だ。

 報酬は仕事の対価と思っており、逆説的に受け取らなかった。また過去には補助金を受け取らないことで、「エウィ王国民ではない」と言ったこともある。

 自分なりのこだわりだが、ガルド王には変だと言われた。


「普段は適当なのに、そこだけ切り分けようとするからよ」

「確かにな。考え過ぎているだけか」

「無理に変える必要はないわあ。決めるのはフォルトよお」

「カーミラにも遊びだと思えって言われたしな」


 人が動けば、対価が発生する。

 これは人が労働力を提供し、見返りとして賃金を受け取るという仕組みだ。常識と言えば常識なのだが、こちらの世界だと曖昧である。

 なぜかと言うと労働の価値が、明確に定義されていない。「労働」と「対価」の関係が存在しても、かなり不均衡な構図である。

 フォルトの価値観だと、労働環境が成熟し過ぎていた。だからこそ変だと言われたのだが、それが割り切れるまでは時間が掛かるだろう。


(やれやれ。日本的な価値観も改めないとなあ。面倒だし、ゆっくりでいいか。おっさんに、急激な変化を求めては駄目なのだ。特に俺には!)


「戻ったっす!」


 ここまで考えたところで、リリエラが帰ってきた。

 その手には何着かの服を持っており、テーブルの上に広げている。


「マスター! どうっすか?」

「こ、これは……」

「今度こそ、エロかわっすよね?」


 つまり、破廉恥な服ということだ。

 先に見せてもらったエルフ族用の服よりも露出過多である。だが可愛いかと問われれば違うと答えるしか無く、あと一押しが欲しかった。

 これは、デザインの問題だろう。


「残念だがエロだけだな。アーシャにデザイン画をあげさせよう」

「ごめんなさいっす! 私にはイマイチ分からなかったっす!」

「いやいや。作れることが分かっただけで十分だ」

「そうっすか? なら、報告はどうするっすか?」

「そうだなあ」


 いつものクエスト報告は、今回は無しで良いか。

 ドワーフ族の集落で再会したときに、ほとんど聞いてしまった。ガルド王も言っていたが、「何の仕事をしたのか」だけの報告のみで構わない。


「仕事と言っても、調理場で皿洗いとかっす!」

「他に面白そうなことはやったのか?」

「特にやってないっすね。マスターたちが出発して数日っすよ?」

「そ、そうだな!」


 こんなものだろう。

 早々面白いことに遭遇するものではない。ドワーフの集落に訪れたときまでの報告で、十分に面白かった。

 今後のクエストも楽しみだ。


「明朝には出発する。体を休めておけよ」

「はいっす!」

「ニャンシー!」

「何じゃ主?」


 リリエラの影から、ニャンシーを呼び出す。

 ブロキュスの迷宮に残してきたカーミラに、伝令を頼むためだ。出発の時間を伝えてもらって、あちらの状況も教えてもらう。

 電話の存在しない世界は、本当に不便である。


「よろしくな」

わらわに任せておくのじゃ!」

「リリエラはその場で正座!」

「なぜっすか?」

「いいから座れ!」

「はっ、はいっす!」


 ニャンシーを送り出した後は、リリエラにお仕置きをする。

 ガルド王に余計な話をした罰を受けてもらうのだ。フォルトたちの内情は秘密にしているのだから、ベラベラと話されては困る。

 今のうちに分からせておかないと、いずれ処分することになるだろう。

 そして彼女をベッドの前で正座させ、とあることを始めるのだった。

Copyright©2021-特攻君

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