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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十三章 フェリアスの空
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おっさん親衛隊と勇者候補3

 レイナスに連れられた勇者候補チーム一行は、野菜用の倉庫に移動した。

 ただの倉庫なので、寝所としての機能は無い。

 窓は設置されておらず、粗悪な木箱が何個も積み上がっている。また照明も無いが壁には隙間があり、外からの光が差し込んでいた。

 シュンは虫がいないかと彼女に尋ねたが、倉庫の中には一匹もいないそうだ。


「少し涼しいですが問題ありませんわね?」

「これぐらいなら平気だぜ」

「箱は移動して結構ですわ。私は食料や寝具を持ってきますわね」


 肉用の倉庫もそうだが、所々に氷塊が置いてあった。

 以降のシュンたちは、それぞれで横になれるスペースを確保する。勇者候補チームは野営に慣れているので、誰が何を言うでもなく行動を開始した。

 そして暫く経つと、レイナスが魔物と一緒に戻ってくる。


「うおっ!」

「どうかしましたか?」

「い、いや。そう言えば、魔物を使役してるんだったな」


 魔物とはトレントのことで、樹木がそのまま歩いているといった印象だ。

 よく見ると、枝の一部には肉塊がるされいる。また大きめの木箱も抱えており、ゆっくりとした動作で地面に下ろしていた。

 それが終わると、根っこを地面に潜らせて動かなくなる。ならばとシュンは警戒心を解いて、レイナスからシーツを受け取った。


「野菜は必要な分を、箱から取り出して良いですわよ」

「レイナスが料理を作ってくれるのか?」

「ちっ。食材を渡すだけですわ。調理は自分たちでどうぞ」

「つれねぇなあ。まさか料理が作れねぇのか?」

「もちろん作れますわよ。フォルト様の胃袋をつかんでいますわ」

「そうかい? まぁ何とかするさ」


(おっさんめ。レイナスの料理を食べてるだと? 本当にどうなってんだよ! 魔法学園の生徒会長だったと聞いたが、日本なら高校生だろ!)


 シュンからすると、フォルトという中年男性からは犯罪臭しか漂ってこない。

 殺意を芽生えさせたばかりなので、ホストスマイルが崩れそうになる。とはいえ後ろからアルディスに呼ばれて、何とか耐えた。


「シュン! 運ぶのを手伝ってよ!」

「あ、あぁ……」

「お風呂の件は許可しますわ。使う場合は、執事様に言いなさい」


 風呂についても執事のおかげで、女性陣は使わせてもらえる。

 男性陣は、聖なる泉で体を拭く。飲料水にもなるらしく、レイナスからは「泉を汚さないように」とくぎを刺された。

 一応は泉の底から出ている木の根のおかげで、常に浄化されているらしい。

 ともあれ彼女が離れていったので、シュンはアルディスの近くに移動した。


「アルディスなら余裕で運べるだろ?」

「へへ。一緒に運ぼうよ!」

「いいぜ。それよりも後でさ」

「さすがに無理よ。森に入ると、アンデッドに襲われるよ?」

「ムラムラとしちまってな」

「まさか、レイナスさんに欲情したの?」

「おいおい。アルディスに決まってるだろ」

「そうだよね。ボクもしたいけど、ちょっと無理だね」


 シュンは皆に聞こえないように、ヒソヒソと会話しながら木箱を移動する。

 実際はレイナスに欲情しているが、真実を言えるわけもなく。木箱を床に置くときは、彼女の手に触れることを忘れない。

 そしてエレーヌに視線を送ると、ノックスとコンビを組んでいる。また体格の良いギッシュは、三個の箱を重ねて運んでいた。


「ところでさ。レイナスさんって強いのかな?」

「強いんじゃないか? レベル帯は俺らと同じはずだぜ」

「先にワイバーンを倒したんだよね?」

「そう言ってたな」

「ああん? あの金髪女が強いかだと?」

「ギッシュは興味がありそうだな」


 強くなることに貪欲なギッシュが、アルディスとの会話に割り込む。

 強者の話には敏感なので、レイナスの強さに興味を持ったか。

 異世界人ではない彼女だが、レベル三十の限界突破をした日は、こちらより少し前という話だった。だが意外にも彼は、シュンの言葉を否定する。


「いや。ねぇな。俺は小せぇ魔族を殺すぜ」

「殺すって……」

「魔族は殺していいんだろ? この前のリベンジをすっからよ」

「確かにレイナスは、魔族よりも弱いだろうしな」

「分かってんじゃねぇか。金髪女と戦うなら、ホストに譲ってやんよ」

「………………」


 会話に興味を失ったギッシュは、スペースの確保を再開した。

 そしてシュンは、良からぬことを考える。

 レイナスに勝利すれば、自分の近くにいるほうが安全だと教えられるだろう。またフォルトを殺害して彼女を手に入れるにしても、好感度は上げておくべきだ。

 魔族のルリシオンには敗北したが、人間の女性であれば勝つ自信はある。


「ちょっとシュン。レイナスさんと戦うつもり?」

「模擬戦なら受けてくれんじゃねぇか?」

「そうかもだけど、彼女はヤバいと思うよ」

「ヤバい?」

「レイナスさんだけじゃないわ。ここの女性ひとたちはおかしいよ!」

「かもなあ。おっさんなんぞに……」

「まともなのはソフィアさんだけね」

「だな。もしかして、おっさんに洗脳されてんのか?」


 人間が魔族を手懐けるには、何らかの方法で洗脳でもしないと不可能だ。

 そういったスキルや魔法を、フォルトが保持しているのかもしれない。であれば、彼女たちが従順なのもうなずける。

 この考えに間違いがなければ、おっさんに魅力があるわけではない。ならば彼女たちを解放するのが、勇者候補たるシュンの役目である。

 ただし現状では情報が足りず、自身まで洗脳されかねない。


「洗脳スキル、か。存在するのか?」

「知らないわよ。でも、ノックスが詳しいんじゃない?」

「あ、そうだな。後で聞いてみっか」


 スキルや魔法については、ノックスの得意分野だった。

 とりあえずは一泊したら、商業都市ハンに戻る。再び幽鬼の森に訪れるまでに、情報収集をしたいところだ。


「あの二人は進展しないねぇ」

「ノックスの好みが年下だからなあ」

「エレーヌでいいと思うんだけどね」

「とりあえず無駄口をたたくよりも、さっさとスペースを確保しようぜ」

「そうね」


(悪いなアルディス。すでにエレーヌも俺の女だぜ。今度は三人で楽しみてぇが、さすがに無理な話か? もっと俺に依存させてからだな)


 シュンは下衆な思考を悟らせないように、木箱の移動を急ぐ。

 そしてスペースを確保したところで、ギッシュがトレントに近づいた。


「よおホスト。この肉は食っていいんだろ?」

「ギッシュは本当に焼肉が好きだな」

「おう! 体力とスタミナが付くからよ。しかもこの肉はうめえ!」


 ギッシュは能天気なものだと、シュンは思う。

 ちなみにトレントが置いた大きめの木箱には、調理道具や食器類が入っていた。木製の粗悪なものだが、何も無いよりはマシである。

 執事も戻ってきたので、仲間と一緒に食事の準備に取り掛かった。

 まるでキャンプ場にいる感じだが、それは置いておく。

 そして焼いた肉の匂いが、幽鬼の森に漂うのだった。



◇◇◇◇◇



 勇者候補チームの対応を済ませたレイナスは、屋敷の調理場に向かった。

 フォルトの身内で料理が得意な者は、自身を入れた三人。

 そのうちのルリシオンとカーミラがいないのだ。留守番をしている身内の食事を作らなければならない。

 シュンから料理について尋ねられたが、実に腹立たしい。

 彼らの料理を作っている暇などなく、身内以外に振る舞うつもりもないのだ。などと考えていると、アーシャが調理場に入ってきた。


「レイナス先輩!」

「あらアーシャ。丁度、調理を始めるところですわ」

「手伝うよぉ。それよりもさ。シュンには気を付けてね!」


 木箱から野菜を取り出したアーシャが、そう言いながら洗いだした。

 あやふやな忠告なので、レイナスは首を傾げてしまう。


「何を気を付けるのかしら?」

「レイナス先輩を狙ってるのよ!」

「どういうことかしら?」

「レイナス先輩の体が目的だわ。きっとそうよ!」

「ふふっ。分かっていますわ」


 レイナスは聖剣ロゼを使って、ビッグホーンの肉をサイコロ状にする。

 これをやると文句を言われるが、切れ味が良いので気にしない。とはいえ、聖剣ロゼが手に馴染なじんでいるからこそできるのだ。

 ともあれアーシャの忠告は、シュンと初めて出会ったときに理解していた。


「あ、そうなん?」

「彼のような貴族の子息には、何度も言い寄られておりますわ」

「レイナス先輩は奇麗だもんねぇ」

「ですが、男性はフォルト様しか興味がないですわ」

「なら平気かあ。あいつはねぇ」


 アーシャの勘は鋭い。

 すでにシュンは、アルディスとエレーヌの両方を手籠めにしたらしい。しかも、レイナスやソフィアを見る目が違うそうだ。

 前者については分からなかったが、後者は貴族令嬢の経験から見抜いている。


「ふふっ。心配してくれてありがとう」

「でもあれね。貴族って凄いねぇ」

「他家に出し抜かれないよう、幼い頃から教育されていますわ」

「マジ? じゃあ忠告する必要がなかったね!」

「いいえ。アーシャの気持ちはうれしいですわ」


 レイナスは、幼少の頃から一人だった。

 当時は伯爵令嬢として、他人と距離を取る必要があったからだ。魔法学園で学友はいたが、本音で話せる者は存在しなかった。

 その学友も厳選しないと、家との関係性を勘繰られてしまう。会話も慎重にならざるを得ず、言質を取られないよう気を付けないといけない。

 ただし、フォルトに拉致されてからは変わった。玩具から身内になったことで、他の身内には真に打ち解けられたのだ。

 アーシャの心配は堪らなく嬉しい。

 そんなことを話していると、シェラも手伝いに来てくれた。


「あらレイナスさん。アーシャさんもいらしたのね」

「シェラさんが来たなら、ソフィアさんは?」

「談話室で、執事様とお話をしていましたわ」

「ならお茶を……」

「お出ししておきましたわ。それよりも、人間どもは?」

「一泊させて、明日には帰ってもらいますわ」

「そうですか」


 シェラは人間が嫌いだ。

 彼女はマリアンデールやルリシオンのように強者ではなく、人間の魔族狩りで酷い目に遭っている。捕縛はされなかったが、毎日のように追い回された。

 目の前で、友人を殺害されたこともあったのだ。


「思うところが大きいのですか?」

「はい。それに私では……」

「残念ながら、シェラさんでは勝てませんわね」

「やはり……」


 そう。魔族は人間よりも強いが、シェラはシュンたちに及ばない。

 いざ戦闘になると勝てないので、こうやって隠れているのだ。


「だからこそ、私がいますわ。安心してほしいですわね」

「必要以上に怖がり過ぎなのでしょうか?」

「シェラさんは、それでいいと思いますわ」

「そうですか?」

「フォルト様を楽しませるには、多種多様な女性が必要ですわ」

「うぇ。レイナス先輩は、身内が増えると思ってるん?」

「当然ですわね。英雄は色を好むと言いますわ」


 これからもフォルトは、身内を増やすとレイナスは考えていた。

 エルフ族を欲しがっていたので、最低でも一人は増えるだろう。だが同時にどれだけ増えようが、平等に愛してくれると確信していた。


「あのエロオヤジは……」

「あら。アーシャは嫉妬ですか?」

「ちょっとだけね!」

「カーミラがいるから、どう頑張っても二番手ですわよ?」

「分かってるって! でも、身内に一番も二番もないよーだ!」

「アーシャさんは良いことを言いますわね」

「きゃは! シェラさんに褒められるなんて、神様の祝福でもあるかな?」

「ありますよ」

「ふふっ。さぁ料理を作りますわよ」


 少し話し込んでしまったが、料理を作る手は止めていない。

 いや。むしろ急ぎだした。早く料理を完成させないと、少し困ったことになりそうだったからだ。

 レイナスはアーシャとシェラに、テキパキと指示を出す。

 本日のメインは、ビッグホーンのサイコロステーキである。野菜のサラダとスープも付けて、フォルト好みの体型を維持させる。

 そして、料理も完成に近づいた頃。


「執事殿との打ち合わせが終わりましたので、夕食の支度をお手伝いします」

「あらソフィアさん。ですが、テーブルに運ぶだけですわ」

「あたしが持っていくよ! ソフィアさんは席について待ってて!」

「アーシャさんにお任せしますわ。私は後片付けをやりますね」

「え? シェラさん? え? え?」


 シェラがソフィアの背中を押して、食堂に移動させた。

 料理の盛り付けを始めたレイナスは、アーシャと顔を見合わせて安堵あんどする。調理場は立入禁止にしたはずだが、隙を見ては入ろうとするのだ。

 強く言っていないせいとはいえ、料理の完成が遅ければ危なかったか。

 そう思いながらも口角を上げ、余った食材を隠すのだった。

Copyright©2021-特攻君

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