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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十三章 フェリアスの空
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おっさん親衛隊と勇者候補1

 シュン率いる勇者候補チームが、幽鬼の森を進んでいる。

 デルヴィ侯爵からの依頼を受けた後、自由都市アルバハードに訪れたのだ。依頼内容は、森で捕獲してある魔物の運搬である。

 一応は筋を通すために、領主バグバットに立入の許可を申し入れた。だがバルボ子爵からの紹介状を持参していても面会はかなわず、執事に対応されてしまう。

 自分たちは作業員的な担当者なので、文句を言える立場にない。

 ともあれ話を聞くと、アンデッドの出現する森らしい。

 それについては執事が同行することで、侯爵の顔を立てていた。

 現在は執事と一緒に馬車に乗り、魔物を捕獲してある場所に移動中だ。


「シュン。ちょっと怖いんだけど……」

「わ、私もです」

「けっ! ゾンビとかだろ? 俺が全部グチャグチャにしてやるぜ!」

「お化け屋敷とはわけが違うね」

「………………」


 女性陣のアルディスとエレーヌが怖がっている。

 ノックスが言ったとおり、リアルさが違う。草木は枯れ薄紫色の霧が立ち込めて、遠くにはゾンビの群れが見えた。

 ギッシュはいきり立つが、御者台に座っている執事のおかげで襲われない。とはいえ彼も吸血鬼であり、命の脈動を感じないアンデッドである。

 そういった状況にもかかわらず、シュンは別のことを考えていた。


(ちっ。抱き足りねぇよ。ラキシスがハンに到着してから抱いてるが、まったく飽きねえ! もうちょっと先延ばしすれば良かったな)


 神官ラキシスは、商業都市ハンの聖神イシュリル神殿に入った。

 バルボ子爵が「ヤリ部屋」を用意してくれたので、出発するまでは足繁く通っていたのだ。神殿内でどうかと思うが、恋人になったアルディスやエレーヌに配慮しないで良いのは助かっている。

 こういった旅に出てしまうと仲間の手前、なかなか女性は抱けない。


「シュン?」

「す、済まねぇ。ちょっと考えごとをしてた」

「ふーん。シュンは怖くないの?」

「アンデッドを怖がっていたら、勇者にはなれねぇよ」

「それもそうね。ところで、ボクの限界突破なんだけどさ」


 商業都市ハンを拠点にしてから、冒険者ギルドで討伐の依頼を受けていた。

 その過程でアルディスが、レベル三十に到達したのだ。

 限界突破の対象はファントム。いわゆる幽霊というやつだ。日本では眉唾物の魔物だが、こちらの世界には存在する。


「幽霊なんて倒せるの?」

「知らねぇけど、ラキシスのような神官なら倒せるんじゃないか?」

「確かにねぇ。でも、ファントムと戦うのはボクだよ?」

「討伐の方法は色々とありますな」


 シュンたちの会話に、バグバットの執事が割り込んできた。

 とても紳士的な人物で、道中はお世話になりっぱなしだ。吸血鬼とはいえ、それが気にならないほど理知的でもある。


「おじさん! どんな方法があるの?」

「おじさんって……。アルディス、執事さんに失礼じゃないか?」

「構いませんよ。私には名前がありませんからな」

「そ、そうなのか?」

「おじさんもこう言ってるんだし、いいの!」

「まぁ本人がいいなら……。で、方法とやらは?」

「シュン様が仰った神官に、神聖属性を付与してもらうのです」


 基本的にアンデッドは、神聖属性が致命的弱点である。

 これを拳に付与できれば、アルディスに有利な戦闘にできるだろう。


「他にもあるの?」

「こちらにいらっしゃるお二方の魔法付与も効果的ですな」

「エレーヌとノックスか」

「火属性で良ければ……」

「私は土属性かなぁ?」


 火属性も神聖属性に及ばないとはいえ、アンデッドの弱点である。

 土属性だとダメージが軽減され、あまり効果は期待できない。だが魔法付与自体はされているので、精神体のアンデッドを殴ることはできる。


「結構あるのね」

「アルディス様は、格闘家でいらっしゃいますな?」

「そうなるのかな? 武器は……。これね!」


 アルディスは拳を握り、軽く前に突き出す。

 その行動を見た執事は、優しい表情で笑みを浮かべた。


「気、というものはご存知ですかな?」

「気? 気合とか?」

「それを体にまとわせれば……」

「どうなるの?」

「実体のないファントムにも、攻撃が当たりますな」

「気かあ。アニメで見た記憶があるね」


 アニメや漫画などでは、体を流れるエネルギーとして表現されている。

 遠距離攻撃として放つ・体を頑丈にする、などが行えるのだ。

 ちなみに現代の東洋医学では、「人体を構成する基本物質」と考えられている。もちろん視認できず、科学では証明されていないものだ。

 「病は気から」とも言われている。


「私でも使えるようにできるのかな?」

「ラキシスを呼べるが?」

「ふふん! ボクは自力で何とかしたいのよ!」


(ちっ。ラキシスを仲間に入れるチャンスだったのに……。まぁいいか。ハンに戻ればいつでも抱けるし、アルディスとエレーヌも堪能したいからな)


 シュンを取り巻く女性陣は、浮気をしていることを知らない。

 このあたりは、ホストとして慣れている。日本にいたときも、浮気がバレたのは一度だけだった。


「そろそろ目的地に到着ですな」

「引き取る魔物について知っていることがあれば聞かせてくれ」

「はい。フロッグマンが一体と聞き及んでおります」

「俺たちが戦ったことがねぇ魔物だな」

「ハンからであれば棲息せいそく地は近いですな。今は大量発生中です」

「なら、魔物を届けたら行ってみるか」

「場所は亜人の国フェリアスですので、通行証が必要かと存じます」

「それは大丈夫だと思うぜ」


 亜人の国フェリアスは、エウィ王国と人的交流が始まっている。だが国法で、異世界人は他国に出られない縛りがある。

 それでもシュンたちがアルバハードまで来られたように、デルヴィ侯爵のコネがあれば国境を越えられる。

 法の抜け道として、誰が後見人をしているかが重要なのだろう。


「ちょっと! ボクの限界突破は?」

「そ、そうだったな! 執事さん、ファントムのいる場所に心当たりは?」

「ファントムであれば、この幽鬼の森の奥地にいますな」

「いるのか!」

「はい。しかしながら、森の主に許可をもらう必要があります」

「森の主、か。誰だ?」

「残念ながら、口外せぬように言われております」

「わ、分かった」


(そう言えば、バルボ子爵も名前を隠してたな。どうせ会うんだから教えてくれてもいいだろうに……。まぁもうすぐ会えるだろ)


 そんなことを考えていると、馬車が森を抜けた。

 シュンの視界には、幽霊屋敷の外観をした建物と畑や養鶏場など入る。倉庫も建てられており、人が暮らしていると思われた。

 何となくだが、どこかで見たような空間だ。などと思っている間にも、馬車は屋敷に近づいている。

 そして勇者候補チームの面々は、屋敷のテラスを見て驚愕きょうがくする。


「おっ! 聖女様じゃねぇか! あ、元か?」

「シュン。何であの人たちがいるの?」

「こ、国境を越えたんだね」

「双竜山の森以来かな」

「なぜ……」


 シュンは目を疑ったが、見間違うはずのない女性が三人がいるのだ。

 双竜山の森を出ないはずのレイナス・アーシャ・ソフィアに出迎えられた。まさかエウィ王国を出国して、幽鬼の森で暮らしているとは思いもよらない。

 馬車を下りた後は、足早に彼女たちの近くに向かった。


「ソ、ソフィアさん?」

「あら。お久しぶりですね」

「デルヴィ侯爵の言っていた担当者とは、貴方たちでしたか」

「ちょ! 何でシュンが来るのよ!」


 彼女たちも担当者を知らされていないようで、突然の再会となった。

 そして、アーシャの言葉にはとげが有る。

 どう考えても、シュンの来訪を快く思っていない。まだあの件を引きずっているらしく、復縁の話はできそうもない。

 それでもホストスマイルを浮かべて、元カノに話しかけた。


「アーシャ」

「なによ」

「化粧してんだな」


 シュンから別れを告げたが、アーシャはギャル姿に戻っている。

 こちらの世界に召喚された当時は、化粧品など入手できなかった。すっぴんでも可愛いので恋人にしたが、今の彼女こそ自分と付き合うべきだ。

 ホストとギャルのカップルはお似合いなのだから……。


「わ、悪い? フォルトさんが手に入れてくれたのよ」

「見覚えがある屋敷だと思ったら、やっぱりおっさんか」


 彼女たちがいるなら当然フォルトも、と思っていた。

 周囲を見渡すが、この場にはいない。ならばと視線をソフィアに向けて、どこにいるのかを問い質した。


「今は不在です。暫くは戻りません」

「引き籠りのクセに……。と、ところでソフィアさんは何でここに?」

御爺様おじいさまに言われて、フォルト様に匿われています」

「匿われて? 誰かに狙われてんのか?」

「察していただけると助かります」

「そうか。俺が口を挟める話じゃなさそうだな」

「はい」


(ふざけんな! レベル三のおっさんだぞ? 何でこんな状況を作れんだよ! 魔族の姉妹はいねぇようだが、誰が見てもハーレムじゃねえか!)


 シュンは暗い感情に支配され、七つの大罪の一つ嫉妬を芽生えさせた。

 ただし、魔人が持つ大罪とは別の概念である。人間が犯す大罪は、ただの罪に成り下がってしまう。

 もちろん、それは知る由もない。


「どうなってんだ?」


 そう。シュンは何も知らない。

 人間だと思っているフォルトが、暴食の魔人ポロのせい――おかげ――で、魔人という種族に変わったこと。膨大な量の魔法やスキルを保持して、人間の勇者など足元にも及ばない存在になっていること。

 そしてソフィアが、フォルトの身内になったことも……。

 知らないことは罪か、はたまた幸せか。

 何も知らないからこそ、対抗心に火が灯る。


「シュン。どうしたの?」

「何でもない。アルディスたちは、魔物の受け入れ準備を頼む」

「いいわよ」


 アルディスが会話に加わると、面倒なことになりそうだった。

 二股中のエレーヌ。元カノのアーシャ。本気で口説き落としたいソフィア。お近づきになりたいレイナスもいるのだ。

 いくらシュンでも、馬脚を現しそうだ。


「フロッグマンはあちらですわ」

「ギッシュも一緒に来て!」

「おう! 俺にもカエルを見せろや!」


 アルディスとギッシュが、レイナスの後を追った。

 エレーヌとノックスは、馬に飼葉を食べさせている。バグバットの執事は二人の近くに立ち、こちらの会話が終わるのを待っていた。

 そんな中、アーシャから辛辣な言葉を受ける。


「魔物を引き取ったら、さっさと帰ってよね!」

「なに?」

「アーシャさん!」

「だって、シュンの用事はそれだけっしょ?」

「ですが、一緒に召喚された同郷の方ですよ」

「そ、そうだけどさ」


(アーシャめ。確かに俺が悪いけどよ。あの醜くなった顔が元に戻るなんて、誰が予想した? 治すのに白金貨十枚。一億円だぞ? 捨てて当然だ!)


 人間性や倫理観から言えば、シュンは人でなしの部類に入る。

 女性を外見で選び、外見で捨てた。しかしながら二人は同類なので、アーシャでも同じ選択をしたはず。

 少しは反論したいところだが、今は我慢するしかない。

 先ほどまでの会話で、一つひらめいたことがあるのだ。


「帰れと言われてもな」

「なによ」

「泊まらせろよ。俺らはずっと、馬車で移動してきたんだぜ?」

「うぅ……。ソフィアさん」

「これは……。フォルト様がいらっしゃいませんね」


 現在フォルトが不在で、魔族の姉妹もいない。しかも、暫く戻らない。

 この機会を逃す手はないのだ。ソフィアやレイナスとの距離を詰められるし、もしかしたらアーシャも懐柔できるかもしれない。

 そう閃いたシュンは、居座ろうと決め込むのだった。



◇◇◇◇◇



 ソフィアは考える。

 捕獲した魔物の引き取りに、担当者が訪れることは知っていた。勇者候補の彼らが選ばれるとは予想外だが、そもそも宿泊については考えてもいない。

 そして愛する人となったフォルトは、嫉妬の大罪を持つ魔人である。知らない間に男性を宿泊させると、最悪は殺害するだろう。

 女性には甘いので、アルディス・エレーヌだけならなだめる自信があった。しかしながら、シュン・ギッシュ・ノックスがいると厳しい。

 他にも人間嫌いのシェラは屋敷の中に隠れており、彼らとも面識がない。彼の性格から言っても、当分の間は隠し通すつもりだと理解している。

 アーシャが言ったように、お帰りを願うのが一番だが……。


(困りましたね。フォルト様のこともありますが、一番の懸念はデルヴィ侯爵です。なぜ勇者候補チームを担当者にしたのか)


 担当者を決めたのはデルヴィ侯爵で、何か狙いがあることは確実だった。

 捕獲した魔物の運搬など、勇者候補にやらせるほど難しくないからだ。運搬をやらせるぐらいなら、魔物討伐に従事させたほうがエウィ王国のためになる。

 ともあれフォルトがいれば、日本から同時に召喚された四人がそろう。だから何だと言われても困るが、トラブルの発生を狙っているか。

 もしくは人物を測りかねて、情報収集という線もあり得る。シュンたちを無下に扱うことで、グリム家への攻撃材料にする等々。

 多種多様な憶測はできるが、今のソフィアだと読み切れない。


「おっさんがいないと駄目なのか?」

「そ、そうですね。フォルト様の屋敷ですので……」

「倉庫でもいいぜ?」


 ソフィアは困り果てた。

 フォルトを魔神覚醒させないために、身内となることを決めたのだ。

 たかだが宿泊させるだけで、シュンたちを殺害させたくない。またデルヴィ侯爵の意図も読めないからこそ、トラブルだけは避けたい。

 レイナスの意見を聞きたいが、シュンが回答を待っている。

 このタイミングで、バグバットの執事が会話に入ってきた。


「ソフィア様。シュン様たちと共に、私もお願い致します」


 バグバットは、フォルトが魔人だと知っている人物だ。

 この場で執事が口を出すということは、何かを言い含めているのだろう。

 フォルトも世話になっているので、執事には好意的である。シュンたちと一緒に宿泊させれば溜飲りゅういんを下げるはず。ならばとソフィアは、彼らの滞在を認めた。


「そうですか。食料用の倉庫で良ければ構いませんよ」

「ありがてぇ。それとさ。おっさんと連絡は取れねぇのか?」

「フォルト様にですか?」

「アルディスの限界突破作業があるんだよ」

「レベル三十になられたのですね」

「この森にいるファントムが討伐対象でさ」

「ということは……」

「宿泊は一泊じゃねぇんだよ。構わねぇよな?」

「なるほど」


 ソフィアは元聖女として、勇者候補の限界突破は無視できない。

 これについては、フォルトも理解してくれるだろう。双竜山の森に宿泊させたときと同様に、一週間ぐらいを目安に考えれば良いか。

 ただし、すぐにフォルトと連絡を取ることは不可能だ。

 ハーモニーバードでも、数日は掛かる。しかも現在はブロキュスの迷宮に潜っているはずなので、外に出てくるまでは伝えられない。

 できれば一泊に留めて、再び来訪してほしい。などと考えながら助けを求めるように、バグバットの執事に視線を向けるのだった。

Copyright©2021-特攻君

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