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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十三章 フェリアスの空
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魔人と剣聖3

 ブロキュスの迷宮の地下五階層を進むフォルトたち一行は、精鋭部隊と共に、地下六階層に下りる階段を発見した。

 かなり広い空間となっており、魔物の死骸の一部が散乱している。

 奥に続く通路は無いので、ここが行き止まりのようだ。また動いている魔物はおらず、六階層から上ってくる気配もない。

 安全確保も兼ねて全員で入ると、ヴァルターが声を上げた。


「到着したぞ! 出入口を固めて休憩に入れ!」

「「はいっ!」」


 精鋭部隊の目的は達成している。

 階段まで来る間に、大量のアンデッドを間引きしていた。

 その起点になったのが〈剣聖〉ベルナティオだ。途中で襲ってくる凶暴な魔獣も、彼女であれば一刀両断だった。

 流れるような洗練された動きに、フォルトは感嘆の息を漏らしたものだ。


「フォルト殿。助かりましたぞ」

「いや。俺たちは何も……」


 ヴァルターは感謝の意を示しているが、フォルトたちは何もしていない。

 ベルナティオに怒られてからは、一回も戦っていないのだ。ちょっとした嫌がらせで、彼女に身体強化系魔法を使ったぐらいである。

 戦闘が終わるとにらまれてしまった。にもかかわらず怒鳴られず、嫌がらせと思われていないようだ。

 戦闘の支援であれば、精鋭部隊からも受けるので当然か。


「本当に四人で行くのか?」

「うむ。ヴァルター殿たちとはお別れだ」

「五階層以降はよく分かっていないぞ」

「まぁ行けば分かるだろ」

「ローゼンクロイツ家なら平気だろうが……」

「それよりも、だ。休憩したら地上に戻るのだろ?」

「作戦ではそうなっている」

「なら、地図をいただけるか? 俺たちも目的を達成したら戻るからな」

「そ、そうだな。おい! 迷宮の地図を持ってこい!」


 五枚の羊皮紙を受け取ったフォルトは、無造作にカーミラに渡す。

 これは精鋭部隊の魔法使いが、念写の魔法で複製した地図だ。

 ついでに、食料と水も補充させてもらった。松明などの消耗品は要らないが、ここまで来る間に減っている。


(うーん。転移魔法でもあれば移動は楽なのだが……)


 こちらの世界に、転移系の魔法は存在しない。

 ソフィアからは、そのような魔法は存在しないと聞いている。また悪魔のカーミラや眷属けんぞくのニャンシー・ルーチェも、同様の答えだった。

 無いものは無いと諦めているが、迷宮も五階層まで潜ると欲しくなる。

 そんなことを考えていると、珍しくもベルナティオから声を掛けられた。


「おい、きさま」

「どうした? 俺たちと離れられてうれしいだろ」

「そのとおりだな」

「まぁ地上に戻るなら気をつけることだ」

「戻る? 誰がだ?」

「ティオが」

「だから、私を愛称で呼ぶな!」

「ベルナティオが」

「ちっ。私も一緒に六階層に行くぞ!」

「はい?」


(この〈剣聖〉様は、何を言っているのだろう。精鋭部隊の任務は終わりだろ? 皆と一緒に戻るのではないのか?)


 小首を傾げたフォルトは、再びベルナティオににらまれた。

 可愛い少女がやるなら絵になるが、おっさんだと気持ち悪かったか。嫌われているのは理解したので、それなら近寄らなければ良いと思う。


「地上に戻らないのか?」

「アンデッドばかりでは修行にならんのだ」

「なるほど。で、俺たちについてくると?」

「仕方なくな」

「ふーん」

「な、何だ?」

「まず、きさまと呼ぶのを止めろ」

「きさまなど、きさまで十分だ!」

「少人数での行動だ。その態度ではなあ」


 迷宮に一人で潜るのは自殺行為で、それは〈剣聖〉でも同じこと。

 六階層以降は外していないわなもあり、魔物の強さも分からない。だからこそ、フォルトたちと一緒に行きたいのだろう。

 別に構わないのだが、あまり横柄な態度だと、身内の三人が怒る。


「確か……。フォルト・ローゼンクロイツだったな」

「うむ」

「フォルトでいいか?」

「愛しいフォルト様だ!」

「なっ!」

「冗談だ。フォルトで構わん」

「くそっ!」

「俺たちについてくるのは、ティオだけか? フィロとやらは?」

「精鋭部隊の斥候だぞ。私の我儘わがままに付き合わせられん!」


 俺たちなら良いのかと思うが、それは置いておく。

 フィロも一緒ならウサミミを愛でられるが、確かに精鋭部隊が困るか。

 実に残念だが、目的を達成すれば地上に戻るのだ。フォルトを怖がっていると聞いており、迷宮の外なら誤解も解けるかもしれない。

 誤解と言っても、理由すら分からないが……。


「まぁいいだろう。だが、お前は名前が長い。面倒だからティオと呼ぶ」

「くっ! 仕方がない。言い争っていても先に進めん!」

「そういうことだ」

「迷宮の中だけだぞ!」

「分かった分かった」


 これで、ベルナティオがついてくる。

 道中で警戒心が減れば、もっとお近づきになれるだろう。

 ただしフォルトは引き籠りの中年男性で、ホストのシュンではないのだ。女性を口説くことなどできず、手に入れる算段はついていない。

 嫌われているよりはマシ、といったところだ。

 ともあれ彼女はその旨を伝えに、フィロのところに戻った。と同時に、カーミラ・マリアンデール・ルリシオンが傍にくる。


「フォルトぉ。あいつを連れていくつもりなのかしらあ?」

「一緒に行きたいらしいからな」

「身内にしたいのでしょ?」

「身内かどうかは……。だが、おっさん親衛隊には入れたい!」

「同じことよ。レイナスだって、玩具から身内になったのだしね」

「あ、はは……」


 マリアンデールとルリシオンは、身内が増えることを気にしない。

 フォルトの身内になった者は様々だが、自身で口説いた女性はいない。レイナスは拉致からの調教、他は彼女たちから望んで身内となった。

 はっきり言って、ベルナティオがそうなるとは思えない。


「御主人様。あの女が一緒だと、色々と知られてしまいませんかぁ?」

「そうか?」

「マッピングはしますけどぉ。召喚した魔物を先行させますよねぇ?」

「あ……。バレた?」

「えへへ。御主人様の考えてることは分かりまーす!」

「いやあ。行き止まりとか、もう勘弁してほしいからな」


 フォルトは手加減の練習を兼ねて、召喚魔法を使わずに進んできた。

 有用性は高いので召喚したかったが、魔力を温存している。

 迷宮では、魔力の回復手段がない。いや。普段からないのだが、自然回復に任せるしかないのだ。

 魔人として魔力は膨大にあるとはいえ、貧乏性が顔を出している。


「知られると言っても、弱い魔物なら構わないと思うわあ」

「そ、そうだな! そうするか」

「貴方は調子に乗ると、強い魔物を召喚するでしょ」

「そ、そんなことはないぞ!」

「あるのよ。まったく……。弱い魔物ね!」

「わ、分かった」


 アラクネでも召喚しようと思っていた矢先、姉妹にくぎを刺された。

 以降は雑談を交わしていると、精鋭部隊は撤収の準備を始めた。ならばとフォルトたちも、地下六層に下りるために動きだす。


「俺たちも行くとするか」

「はあい!」

「そうねえ。さっさと終わらせたいわあ」

「六階層にミノタウロスがいればいいけどね」


 そしてフォルトは、フィロと会話しているベルナティオに視線を送る。

 一緒に行くと言っていたので、無視して六階層に向かえば怒るだろう。


「ティオ。あの人は危険よ?」

「そうか? 危険なら斬り捨てるだけだ」

「一緒に行かないほうがいいよ」

「さすがに一人では行けん。まぁすぐに戻る」

「で、でも!」


 フォルトからは、二人の会話が聞き取れない。

 準備はとっくに終わっているので、彼女たちに近づいた。


「ティオ! 早くしろ!」

「だから、私を愛称で……」

「迷宮でなら呼んでもいいのだろ? いいから行くぞ!」

「ちっ。分かった」

「ティオ……」

「フィロはヴァルター殿たちと地上に戻れ」

「う、うん。本当に気をつけてね」

「心配性だな。」

「ティオ!」

「急かすな! いま行く!」


 フォルトが二人の会話を遮ったので、またまたベルナティオににらまれた。

 にも角にも、これで六階層に向かえる。最後はヴァルターに挨拶をしてから、五人で階段を降りていくのだった。



◇◇◇◇◇



 ブロキュスの迷宮、地下六階層。

 相も変わらず、人工の通路が続いている。だが上層よりも分岐点が多く、まさに迷宮である。扉も設置されており、今までの階層とは構造が違う。


「この迷宮も半分を越えたな」

「きさまは何者なのだ?」

「きさま、ではない! 愛しのフォルト様だ!」

「………………」

「ま、待て! 刀を抜くな! 冗談だ!」

「ちっ」


 ベルナティオに冗談は通じないようだ。

 フィロと何を話していたか分からないが、警戒心は更に上昇しているようだ。

 それにしても、魔物や魔獣の数が少ない。地下六階層に出現するのは、五階層にもいた黒虎や鎧鼠よろいねずみ。他には、迷宮(あり)棲息せいそくしていた。

 まだ遭遇していないが、迷宮女王蟻もいるだろう。


「気を張り詰め過ぎよ」

「何だと!」

「マリ……」

「楽なのだからいいじゃない」


 マリアンデールから言われたとおり、フォルトは弱い魔物を召喚した。

 その魔物を先行させて、通路に設置されていた罠にめさせていたのだ。とはいえ鬼畜と言われると困るので、知能が無い魔物を召喚していた。

 それがベルナティオのお気に召さないらしく、プリプリと怒っている。


「一家に一台スケルトン」

「何だそれは?」

「便利だろ? 消滅したところで気にしなくてもいいからな」


 弱い魔物とはスケルトンだ。

 地下六階層に下りてからは召喚しており、フォルトは斥候として使っていた。通路の先が行き止まりでも、文句を言わずに戻ってくる。また魔物や魔獣がいれば、こちらまで釣ってきてくれた。

 本当に使えるアンデッドだ。


「カーミラよ。六階層は魔獣の巣だな」

「さっきもブラックタイガーちゃんでしたぁ」

「………………」

「そう怖い顔をするな。ティオには戦わせているだろ?」

「そ、そうだが……。こんなものは戦いではないだろ!」

「もっと肩の力を抜かないと疲れるだけだぞ」

「ちっ。誰のせいで力が入っていると……」

「何か言ったか?」

「うるさい!」


 魔獣がスケルトンを襲っているところを、後ろから斬り捨てる。

 実に簡単なお仕事だ。スケルトンは確実に犠牲となるので、獣人族や人間にはできない方法だろう。

 これも、フォルトのゲーム脳で考えた戦術だった。


(弱いユニットで釣ってきてフルボッコ。シミュレーションゲームの基本だな。某MMORPGでもよくやっていた。うまく釣れない場合は死んでいたが……)


 フォルトが日本で遊んでいたゲームには、釣り師と呼ばれる名人がいた。

 大抵の場合はプレイヤーよりも、敵の移動速度が速く捕まってしまう。だが釣り師の名人は、味方の射程圏内まで釣ってくる。

 そういったプレイヤーはフレンド登録して、よくお世話になっていた。


「もういい。きさまと来たのが間違いだ」

「そう言うな。まぁでも……。いるな」

「何が?」

「ミノタウロスだ。五階層で確認できた魔力探知の反応と同じだな」

「ほう。どの辺だ?」

「ちょっと! ミノタウロスは私の獲物よ!」


 地下六階層も変わらず、ベルナティオからすると弱い魔物だ。

 それがストレスになっているようで、彼女は戦いたいようだ。と言ってもマリアンデールの限界突破に必要な魔物である。

 さすがに譲れるわけがない。


「ちっ。他にはいないのか?」

「うーん。同じ反応は一つだけだな」

「くそっ!」

「修業と言っていたが、なぜそこまで戦いたいのだ?」

「剣の道を極めるためだ」

「剣の道?」

「きさまには分からん!」

「そうか。愛しの……」

「ちっ」


 デジャブのようだが、ベルナティオは再び刀に手を掛けた。

 彼女とは戦いたくないので、これ以上の意地悪は止めようとフォルトは誓う。


「もう言わん。とにかく、ミノタウロスは俺たちの標的だから手を出すな」

「分かった。他にも探しておけ!」

「はいはい」


(まったく……。怒っていて取り付く島もないな。しかし剣の道、か。昔の剣豪のようだ。俺も何かの道を……)


 ベルナティオのような精神と哲学の道を探しても仕方ない。

 怠惰で三日坊主のフォルトには、何かの道があっても歩めない。などと思い直していると、ミノタウロスの反応が近くなった。

 もう遭遇間近となったので、マリアンデールに尋ねる。


「マリ。強化魔法は何が欲しい?」

「要らないし、すぐに済むわ」


 マリアンデールの視線は、ベルナティオに向いていた。

 魔族。いや、〈狂乱の女王〉のプライドか。妹のルリシオンも強化をしていない状態にもかかわらず、ミノタウロスを一撃で仕留めていた。

 ともあれフォルトは、彼女の雄姿を目に焼け付けようとする。一方的に終わるだろうが、それでも身内の戦闘を見ておきたいと思うのだった。

Copyright©2021-特攻君

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