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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十三章 フェリアスの空
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魔人と剣聖1

 精鋭部隊の前に現れたフォルトは、熊の耳が生えた男性に詰め寄られていた。

 そして、この場にいる者たちは混乱している。マリアンデールの時間停止魔法の効果時間が切れたので無理はない。

 突然の爆発が起こり、この場にいなかった者たちが突如として現れたのだ。

 逆の立場なら、自分でも混乱する。


「なっ、何だ! お前たちは何者だ!」

「ローゼンクロイツ家だ!」

「いきなり現れやがって……」

「と、言われてもな。ミノタウロスを討伐されては困るのだ」

「なんだと!」

「た、隊長! そこの女は魔族です!」

「うるさいわねえ。私のことよりも、床に転がっている人を助けたらあ?」

「「ぐうぅぅぅ」」


 ミノタウロスの下半身が直撃した戦士たちは、苦しさのあまりうめいていた。

 防御に徹していたからか、一応は生きてはいるが重症を負っているようだ。もしも上半身まで残っていたら、彼らは死んでいたかもしれない。

 その戦士たちに、ルリシオンは冷めた視線を送っている。

 力がすべての魔族からすると、精鋭部隊の力量に拍子抜けしたか。


「何が何だか分からん! とにかく説明しろ!」

「説明、説明ね。ル、ルリ!」

「しょうがないわねえ。そこの熊男。私が説明してあげるわあ」

「任せた!」

「はいはい」


 戸惑ったフォルトは、面倒な説明をルリシオンに丸投げした。

 そして、隣にいるカーミラの腰を引き寄せる。と同時に周囲を見渡すと、精鋭部隊の中に珍しい人物を発見した。


(あれは……。ウサミミだとお! なんと珍しい。珍しいよな? 他は犬やら猫やら熊だしな。地上にいた獣人族でも見てないぞ)


「あぁ……。ちょっといいかな?」

「ひっ!」

「あ……」


 ウサミミに釣られて話しかけようとしたが、フォルトを怖がっているようだ。

 ビクっと体を震わせて、直立不動の姿勢になった。

 遠くからだと分からなかったが、どうやら女性のようだ。少女のような顔立ちで、体の線は細い。片手に弓を持っており、狩人のような格好だ。

 その周囲では、他の獣人族が警戒している。

 ルリシオンと熊男が話しているので襲ってはこないが……。


「こ、来ないで……」

「きさま! フィロから離れろ!」

「な、何だ?」


 ウサミミの少女は、フィロと呼ばれていた。

 ともあれ彼女の後ろから、刀を持った女性が前に出てくる。フォルトに近づくとその刀を突き出して、鋭い視線を向けられた。

 ポニーテールが特徴的で、年齢は二十代の後半か。

 どうやら戦士ではなく剣士のようで、道着に近い服を着用している。またチェインメイルを着込んでいるのを、胸元から確認できた。

 普段なら、顔の筋肉を緩めてしまう美人さんである。しかしながら彼女は血にまみれており、迫力のほうが先にきた。


「ティオ!」

「ティオ?」

「ひっ!」

「きさま! それ以上フィロに近づくと斬るぞ!」

「え?」


(こ、これは……。俺が悪者になっているのか? しかし今更だが、刀を突き付けられても怖くないな。魔人として慣れてきたからか?)


 こちらの世界に召喚されてからのフォルトは、何人かの人間を簡単に殺害した。とはいえ、ここまで敵意を向けられたのは初めてだ。

 日本にいた頃は、他人と喧嘩けんかをしない性格だった。

 昔であれば、確実にひるんでいただろう。


「きさま! 聞いているのか!」

「あぁ済まない。少し考えごとを、な」


 やはり、人間から魔人に変わったことが影響している。

 人間を見限ってからのフォルトは、加速度的に慣れていた。

 自分は冷静なほうだと思っていたが、大罪の傲慢が影響しているようだ。今までの自分を振り返ると、納得をしてしまう。またゲームオタクの部分も大きく、何かにつけて状況を当てはめられる。

 そのあたりが恐怖を和らげて、現在の自分を作り出していた。


(まぁいいか。難しいことを考えるのも限界だ。しかしこの女、ティオと呼ばれていたな? ティオ……。ベルナティオ。まさか〈剣聖〉か!)


「お前が〈剣聖〉のベルナティオだな?」

「そうだ。きさまは何者だ!」

「ル、ルリ?」

「熊の人と話してまーす!」

「そうだった」

「何をゴチャゴチャと……」

「この人からだよティオ! ピリピリと感じるのは!」


 怯えているフィロは、ベルナティオの後ろから顔を出して何かを言っている。

 残念ながらフォルトには、周囲が騒がしいこともあって、彼女たちの会話は聞こえなかった。

 とりあえずルリシオンを頼れないので、すでに限界だが対応する。


「先ほど言っただろ?」

「馬鹿なのか? 反対側にいた私に聞こえるわけがないだろう」

「そ、そうか。俺はフォルト・ローゼンクロイツだ」

「ローゼンクロイツだと? では、あの女どもは……」

「マリアンデールとルリシオンだな。同じ説明を熊男にしていると思うぞ」

「知らん! しかし奴らが、〈狂乱の女王〉と〈爆炎の薔薇ばら姫〉だと?」

「理解したか?」

「するか! まぁいい。一つだけ確認する。お前たちは敵か? 味方か?」

「今は味方だな。セレスには話を通してあるぞ」

「セレス殿、だと?」

「ま、待てベルナティオ殿! 援軍だ! 刀を収めろ!」


 熊男との話が終わったようだ。

 やはり面倒な説明は、ルリシオンに任せて正解である。もう一人彼女がいれば、ベルナティオも任せることができただろう。

 姉のマリアンデールでは、フォルト以上に不適格だ。


「この人間の女が〈剣聖〉ね」

「そうらしい。ってマリ?」

「ふふっ。時間対策をしていることは褒めてあげるわ」

「お前が〈狂乱の女王〉か」

「会ったのは初めてね。うわさだけは聞いているわ」

「こっちもな」


 マリアンデールが進み出て、ベルナティオと向かい合う。

 両者とも顔は笑っているとはいえ、目が笑っていない。緊張感が増しており、一触即発の雰囲気をビンビンに感じた。

 フォルトは「ほらな」と心の中で納得して、カーミラと共に成り行きを眺める。


「あらあ。返り血を浴びちゃったなんて無様ねえ」

「ル、ルリ……」

「ふん! 〈爆炎の薔薇姫〉のせいでな!」

「あはっ! 避けられないのが悪いのよお」

「ちっ」


 熊男から離れたルリシオンも、ベルナティオを挑発をする。

 そこでフォルトは、久々にスキル『状態測定じょうたいそくてい』を使って、三人を見比べた。


(ほう。人間の癖に強いな。さすがは〈剣聖〉ってところか。マリとルリのほうが上だが、大差は無いかもしれない。技術力が勝負を分けそうな感じだなあ)


 スキル『状態測定じょうたいそくてい』は、観察対象の生命力を可視化する。

 ただし棒状の線が、相手の頭上に見えるだけだ。数値などは存在しないが、ゲーム脳のフォルトであれば、おおよその見当がつけられる。

 仕組みが分からないので過信はせず、こういったときにしか使わない。


「ティオは勇者よりも強いのではないか?」

「気安く愛称で呼ぶな!」

「あ……。ま、まぁいいではないか」

「よくない!」

「ベルナティオ殿。今は言い争いなどしている場合では……」

「そ、そうだな。とにかく、ティオと呼ぶな!」

「はいはい」


 熊男の仲裁が痛み入る。

 ベルナティオはフィロを連れて、精鋭部隊の輪に混じった。続けてミノタウロスから受けた返り血を、布でき取っている。

 暫くは話せそうもないので、フォルトは魔族の姉妹に声を掛けた。


「マリとルリは、〈剣聖〉と戦いたいのか?」

「別に……。でも泣き叫んで、命乞いをするところは見たいわね」

「あはっ! 私もお姉ちゃんと同じだわあ」

「ははっ。ところで……」

「それよりもお前たち。ミノタウロスを倒してもらって助かったぞ!」


 フォルトが姉妹と会話していると、熊男が言葉を遮った。

 少し偉そうな人物だが、それも当然か。

 彼は精鋭部隊の隊長で、熊人族のヴァルター。他の討伐隊よりも先行して、地下四階層から五階層の魔物を間引きをしていた。


「あ、あぁ気にするな」

「被害は最小限で済んでいると思う」

「そうねえ。どのみち、ミノタウロスの突進は止められないわあ」

「ふふっ。上半身が無いだけ威力が下がったでしょ」

「そ、そうだな!」


 ヴァルターは冷や汗をかいている。

 彼にしてみれば魔族は隣人なので、敵対しているつもりはない。しかしながら、魔族の思想や姉妹の噂は知っているようだ。

 二人には初めて会うので、少し緊張をしているのだろう。


「ところでヴァルター殿。あのウサミミ少女は?」

兎人うさぎびと族のフィロだ。何か言われたのか?」

「俺が怖がられているのだ」

「本人に聞かないと分からんが、魔族だからじゃないのか?」

「俺は魔族ではないが……」

「確かに角が生えていないな。フォルト殿は人間か?」

「そ、そうだ!」


 フォルトの見た目は、吸血鬼のコスプレをした人間のおっさんだ。

 魔人だと知られたくないので、ヴァルターが勘違いしてくれるなら助かる。


「間違いを正しておくが、俺たちは援軍ではないぞ」

「違うのか?」

「ミノタウロスだけに用がある。ルリから説明を受けただろ?」

「姉妹の限界突破と聞いたが……」

「うむ」


 ミノタウロスを討伐したはルリシオンであり、マリアンデールのカウントにならないのだ。もう一体必要なので、これから探さなければならない。

 討伐自体は一瞬だった。しかしながらブロキュスの迷宮は入り組んでおり、討伐対象を発見するまでが遠すぎる。

 これが限界突破作業の主旨なら、神々の「嫌がらせ」としか思えない。また限界突破とは、言葉どおりの意味ではないとフォルトは考えている。

 何にせよミノタウロスはいたので、あと少しで帰れるだろう。

 そう思っていると、ヴァルターが会話を続けた。


「もう一体か。だがミノタウロスは、もっと下層だと思うぞ」

「五階層が巣ではないのか?」

「はぐれた奴だろう。五階層はアンデッドしかいないはずだ」

「はぐれねぇ」

「セレス殿が許可したなら構わんが、俺たちと一緒に行かんか?」

「どういうことだ?」

「下層に下りる階段までだがな。魔物の間引きを手伝ってくれ」

「面倒だ!」

「階段を探すほうが面倒だと思うぞ? 一緒なら斥候を出せる」


 残念ながら魔力探知だと、通路の行き止まりは分からない。

 地下四階層からのマッピングも、カーミラが行っている。彼女に苦労を押し付けている自覚はあり、精鋭部隊の斥候が使えるなら有難い。

 そしてフォルトは、ベルナティオとフィロに視線を向けた。


「カーミラはどう思う?」

「いいと思いますよぉ。好きにやっちゃってくださーい!」

「やっちゃってって……」

「えへへ。おっさん親衛隊も、あと二人ですねぇ」


 満面の笑顔のカーミラは、本当に愛すべきシモベである。

 フォルトのすべてを肯定して楽しませてくれる。シュン率いる勇者候補たちは五人だったので、おっさん親衛隊も同数にしようと考えていた。

 そして、おっさん親衛隊に入れるなら……。


「いいだろう。一緒に向かうとするか」

「ローゼンクロイツ家の支援は本当に助かる」

「支援、ね」


 とりあえず魔物の間引きに関して、フォルトは手加減を修得したと思っている。精鋭部隊に戦闘を見られても、人間の範疇はんちゅうで収められるだろう。

 そしてまたここでも、家名がものを言っている。

 自身が作り上げた名声ではないので、さすがに気まずくなった。同時に気恥ずかしさもあるので、マリアンデールの肩に手を置いて引き寄せる。


「ふふっ。貴方はお人好しね」

「旅は道連れ世は情けって言うだろ?」

「何それ?」

「済まん。ジジくさかったな」


 日本のことわざは、こちらの世界の住人には通用しない。気恥ずかしさが増大したので、フォルトは口を真一文字に閉めた。

 余計なことを言わず、ただ黙って身内を触っていれば良い。


「応急手当が済んだら出発するぞ!」

「「はい!」」


 数十分後、ヴァルターの命令で討伐隊は出発した。

 フォルトたちは精鋭部隊の中央に位置して、後をついていくだけだ。

 最前線はヴァルターとベルナティオで、斥候はフィロが担当している。

 吹き飛んで怪我をした戦士たちは、応急手当を終えていた。とはいえ戦いは無理なので、以降の戦力にはならないだろう。


(いい尻……。じゃない! おっさん親衛隊に入れれば、シュンを止めることができるか。いや。止めるというか瞬殺しそうだ。人間だしズルではないよな?)


 フォルトの視線は、前方を歩くベルナティオの桃尻に向いていた。

 同時に脳内では、おっさん親衛隊と勇者候補チームの戦力を比較・分析する。たとえ手に入れる可能性が低くても、脳内で妄想するのは自由だ。

 もちろん、シュンたちと戦うつもりは微塵みじんもない。おっさん親衛隊を結成するきっかけに過ぎず、他に比較できる相手がいない。

 そして「はぐれたミノタウロスが出てくれないかな」と思いながら、魔力探知の範囲を広げるのだった。

Copyright©2021-特攻君

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