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異世界は小悪魔と共に  作者: 特攻君
第十二章 剣聖

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剣聖1

 振り返ったフォルトは、「ここで待っていろ」と三人に告げる。

 ルリシオンから指摘されたように、自身の戦闘経験は少ない。一緒に来ても危険は無いだろうが、手加減の練習をするのだ。

 最近では、ビッグホーンとコカトリスを討伐している。またそれ以前だと、魔の森でオーガを少々倒した程度だった。


(さてさて。コカトリスのときみたいに、派手に倒しては駄目だな。だが、迷宮(あり)は数が多いからなあ。何か使えそうな能力は……)


 フォルトは暇を見ては、カーミラの元主人のスキルや魔法をアカシックレコードから引き出している。

 それが、今まで使っていたものだ。しかしながら膨大過ぎて、全部を把握するには根気が必要だった。

 常に暇でも怠惰なので、その行動を忘れるときもあった。


「よし! 『帯雷たいらい』というスキルを使ってみよう」

「あら。どういったスキルなのお?」

「その名のとおり、体に雷をまとわせるスキルだな」

「へぇ。ビリビリするのかしらあ?」

「俺自身は何も感じないけどな。でも……」


 ルリシオンが興味津々のようで、フォルトは得意気にスキルの出力を上げた。と同時に、体じゅうに青白い稲妻が走る。

 大罪の悪魔サタンが魔王系美少女に変わったときも、こんな感じだった。


「御主人様! ピリッとしますねぇ」

「おっと悪い。調整、調整ね」


 放出された稲妻が、カーミラまで伸びてしまったか。

 これでも抑えていたが、まだ足りなかったようだ。戦闘で使う場合は出力を上げても良いだろうが、非戦闘時にはもっと抑えないといけない。

 いや。むしろ接敵したときに使えということだ。


「では行ってくる」

「ほどほどにねえ」

「ふん! 早く戻ってきなさいよ!」

「御主人様! いってらっしゃーい」


 身内の三人に見送られながら、フォルトは通路を奥に歩いていく。

 以降は警戒網に入ったのか、迷宮蟻の一匹が顎をガチガチと鳴らし始める。

 この行動の意味などは、誰が考えても分かる。自分たちの巣を守るために、仲間を呼び寄せているのだ。

 通路の奥から、大量の迷宮蟻が出現した。


(うげっ! デカい蟻の大群だ! 気持ち悪いなあ。でも……)


 昆虫は小さいからこそ、嫌悪感を覚える。

 大きくても気持ち悪いが、ここまでになるとあまり感じない。防衛本能が先に来るので、警戒感が勝る。

 ともあれ討伐隊の救援で一度は見ており、フォルトは冷静に対処する。


「さて、どれぐらいの威力になるか」


 スキル『帯雷たいらい』の出力を上げた。

 体じゅうに稲妻が張って、バチバチと音を立て始める。

 迷宮蟻は知能が無いので、稲妻に恐れもせず群がってきた。ガチガチと顎を鳴らしながら、フォルトの腕や足にみつく。

 それについては、「噛むならどうぞ」と避けようともしない。


「これは参ったな」


 体じゅうをっている稲妻が、フォルトに近寄った迷宮蟻を襲う。だが放電しまくりなので噛みつかれる前に、迷宮蟻が稲妻の直撃を受ける。

 周囲では風船が割れるかのように、迷宮蟻が破裂していた。

 ボンボンと、うるさいぐらいだ。


(耳を塞ごう)


 迷宮蟻が破裂するのは、体内の体液を一瞬で沸騰させたからだ。破裂しない迷宮蟻もいるが、その硬い外皮のおかげか。

 それでも体内はグツグツと煮えてるので、とっくに死んでいた。


「このスキルはすばらしいな!」


 まさに、無人の野を行くがごとくである。

 破裂しない迷宮蟻はぶつかってくるが、ただそれだけなので痛くない。

 ただし移動しないと、通路が塞がれてしまいそうだ。

 迷宮蟻が突進してくるだけでも、死体が積み上がっていく。ならばと死骸は蹴飛ばしながら、奥にある大部屋に向かう。

 部屋と言っても扉があるわけではなく、通路の先に広がっているだけだ。


「ほう。デカいな」


 迷宮女王蟻。

 大きさは、成人男性の二人分ぐらいか。見た目は、羽が付いた大きな蟻だ。

 現在は威嚇音を出して、フォルトのほうを向いている。また部屋の中には親衛隊とでもいうべき迷宮蟻が、数匹残っていた。

 迷宮蟻の習性は一般的な蟻と似ているとはいえ、繁殖力は高くない。

 一つの巣に、何万匹もいるわけではなかった。


(うん? 襲ってこないな。女王蟻って動けないのか)


 女王蟻以外の迷宮蟻が、フォルトの周囲を取り囲む。にもかかわらず女王蟻は奥に鎮座して、まるで動こうとしていない。

 もちろん鎮座と言っても、椅子に座っているわけではない。

 そして親衛隊の蟻は、通路で襲ってきた迷宮蟻と違うようだ。前後左右に動きながら、こちらの様子をうかがっている。


「まぁ他はいいか。女王蟻を狙うとしよう」



【マジック・アロー/魔力の矢】



 「ギッ!」


 フォルトはまず、無属性魔法の光弾を放つ。

 これは初級の魔法だが、威力を調整するには適している。最初に放った光弾が直撃すると、女王蟻の足が吹き飛んだ。

 それを合図に、親衛隊の蟻が襲い掛かってくる。

 結果は当然のように、通路で襲ってきた迷宮蟻と同様だった。


(ふむふむ。まだ魔力を抑えないと駄目だな。誰かを連れてくれば良かった? 比較するものが無いと、威力の調整に時間が掛かりそうだ)


「「ガチガチガチガチ」」


 女王蟻は、戦闘能力が皆無なのだろう。

 親衛隊すらいなくなり、フォルトに向かって威嚇しかやれないようだ。

 その場から動かずに、迷宮蟻を産むだけの昆虫だと思われる。であればただの的に過ぎないので、二発三発と光弾を撃ち込む。

 魔法を使うたびに調整して、ようやく通常の光弾まで威力を下げられた。

 女王蟻の足は、一本を残して吹き飛んでいるが……。


「なるほど、なるほど。これぐらいの調整でいいのか」

「ガチガチ!」

「よし! もう死んでいいぞ」



【マジック・アロー/魔力の矢】



「ギョ!」


 フォルトは最後とばかりに、威力をあげた光弾を撃ち込む。

 その光弾は女王蟻の頭部に直撃をして、完全に吹き飛ばした。しかしながら、頭部を失っても動いている。

 これには顔をしかめて、「虫はしぶとい」と改めて思った。

 スタインからもらった鉄の剣は、女王蟻の胴体に刺しておく。結局は使用しなかったが、所持していても邪魔なだけである。


「ふぅ。しかし良く考えたら、『帯雷たいらい』はヤバいな。封印か?」


 初めて使うスキルだったが、はっきり言って危険極まりない。

 完全に敵対した相手でも、さすがに躊躇ちゅうちょするレベルだ。身を守るには最適だが、周囲に身内を置かないことが絶対条件である。

 とりあえず試したいことは終わったので、さっさと通路を逆走した。昆虫が焦げた香ばしい臭いが充満しているので、思わず眉をひそめてしまう。

 身内と合流した後は、苦笑いを浮かべながら頭をいた。


「御主人様! 終わりましたかぁ?」

「うむ。ある程度は強さは隠せると思うぞ」

「へぇ。なら、適当な魔法でも撃ってみなさいよ」

「分かった。マリも確認してくれ」


 マリアンデールに乗せられたフォルトは、片手を前に突き出した。

 女王蟻では手加減できたが、普段からやれないと意味が無い。



【マジック・アロー/魔力の矢】



 的となるものも無いので、フォルトは壁に向かって光弾を放つ。

 威力も見た目も、普通の光弾だ。女王蟻を討伐した甲斐かいがあった。再び威力を下げて放てたので、他の魔法でも大丈夫だろう。

 マリアンデールに続いて、ルリシオンもうなずいている。


「いいわねえ。それでいいのよお」

「後は、ローゼンクロイツ家としての強さに調整すればいいだろう」

「常識外じゃなければいいわよお」

「そ、そうか。その辺のアドバイスはよろしくな」

「はいはい」


 そして四人は、討伐隊がいる場所に向かう。

 もちろん、帰路に魔物はいない。とはいえ来るときも探知したが、他の通路の先には魔物がいるようだ。

 そちらについては、セレスに頼まれていないので放っておく。

 ともあれ目的地に戻ると、まだ魔物の素材回収をしていた。さすがに無視するのも悪いので、隊長のスタインには伝えておこうと近づく。


「ほら。やはり危険だっただろう? 戻ってきて正解だぜ」

「いや。討伐を終わらせてきたのだが……」

「ははははっ! 冗談を言うな。って、まさか女王蟻を倒したのか?」

「そうだと言っている。魔物の素材は要らないから、勝手に持っていけ」

「マジか?」

「マジだ」

「………………」


 回答を聞いたスタインは、口を開けてほうけている。

 確かに討伐隊が向かえば、女王蟻まで辿たどり着けないだろう。途中で遭遇した迷宮蟻の大群によって、撤退を選択することになるはずだ。

 フォルト自身は、スキルを発動させておくだけだったが……。


「マリとルリがいたからな」

「そ、そうか」

「それよりも、だ。お前たちはまだ掛かるのか?」

「解体する数が多くてな」

「分かった。セレスにはそう伝えておく」

「頼む」


(長く話しても、ボロが出るだけのような気がする。さっさと帰ろう。地上に戻って休憩して、ミノタウロスまで一気に行くか!)


 今後の予定を脳内で決めたフォルトは、急いでスタインと別れる。

 魔物の解体を手伝うつもりは、毛頭無いのだ。だからこそ頼まれる前に、この場から消えたほうが良い。


「ではサラバだ! 後は頑張ってくれ!」

「ちょ、ちょ……」

「三人とも行くぞ!」

「「はあい!」」

「………………」


 スタインは引き留めようとしているが、フォルトは振り返らない。

 そんなことをすれば、面倒事が増えるだけだ。マリアンデールとルリシオンが後ろを歩いて、無言の背中で彼を遠ざける。

 そして地上に出た後は、セレスに事の顛末てんまつを伝えるのだった。



◇◇◇◇◇



 セレスへの報告を済ませたフォルトは、軽い運動を終わらせて、今度こそ自分たちのために迷宮に潜った。

 もちろん、軽い運動の内容は内緒だ。

 ちなみに今回は長くなりそうなので、食料や水を持参している。


「カーミラ。こっちで合っているのか?」

「地図どおりなら合ってますよぉ」


 フォルトたちが動いている間に、地下四階層の途中まで地図ができていた。

 新たに受け取っており、現在はその四階層を目指している。一階層から四階層までの階段も書き込まれているので、最短距離で向かっていた。


「この迷宮って……」

「虫だらけですねぇ」

「気持ち悪いわあ。地下じゃないなら燃やしたいわよお」

「貴方! ルリちゃんのために、何とかしなさい!」

「何とかと言われても……」


 マリアンデールからの無茶振りは置いておく。

 地下二階層からは、甲虫・蟷螂かまきり・蜂の魔物が襲ってきた。順に、ジャイアントビートル・ビッグマンティス・キラービーと呼ばれている。


「御主人様! ビッグマンティスですよぉ」

「………………」



【マジック・アロー/魔力の矢】



 魔力探知を展開しているので、魔物の位置は分かっている。

 とりあえず目の前に出現したら、手加減を覚えたフォルトが攻撃だ。

 赤の他人から見られても良いように、魔法の威力を抑えてある。だが何発も撃つのは苦痛なので、一撃で倒せる威力までは上げていた。

 その微妙なさじ加減のために、今は自身が矢面に立っている。


「ギョ!」


 ビッグマンティスが向かってきたところで、顔面に光弾をぶち込む。

 女王蟻と同様だが、この魔物も死亡後に前脚の鎌が動いている。昆虫型の魔物は、完全に動きを止めるまで近づかないほうが良いだろう。

 討伐後は、またもやルリシオンが不満を述べた。


「気持ち悪いわあ」

「貴方……」

「だがなあ。俺も何とかしてほしい」

「まったく。先に進んだ奴らの尻拭いは御免だわ」

「それよねえ」

「まぁ討伐しながらでも進めているのだ。行くとしよう」

「はあい! こっちでーす!」


 先行している討伐隊は精鋭部隊だそうだ。

 本来なら、彼らに魔物を掃除しておいてもらいたい。と言っても、間引きをしていない通路から湧いてくるのだろう。

 このような状況でも、少しは良いところがある。

 二階層より先は、迷宮蟻のように群れていないのだ。

 単体で出現するか、多くても三匹から五匹か。といったわけで、光弾の数を増やす必要が無く節約できている。

 その程度かと思われるだろうが、地下に潜ると気分が乗らない。

 ともあれフォルトたちは、魔物を討伐しながら三階層の奥まで進んだ。


(さて。そろそろ四階層か。確か討伐中の階層だったな。ご苦労さんと言いたいところだが、そこから先は地図も無いのか)


 フォルトは、マリアンデールと目を合わせる。


「何よ」

「はぁ……」


 フォルトは、ルリシオンと目を合わせる。


「どうしたのお?」

「………………」


 フォルトは、カーミラと目を合わせる。


「えへへ。マッピングなら、カーミラちゃんにお任せでーす!」

「おお!」


 さすがはシモベのカーミラで、ツーと言えばカーである。

 ゲーム好きのフォルトでも、マッピングには自信が無いのだ。

 迷宮で迷わないのなら、速度は落ちるが四階層に向かえるだろう。ミノタウロスが何階層にいるかは不明だが、食料が尽きる前には終われるか。

 そして、四階層に向かう階段を下りるのだった。

Copyright©2021-特攻君

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